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坪口昌恭(東京ザヴィヌルバッハ) インタビュー

東京ザヴィヌルバッハの新作が届いた。
『AFRODITA』と名付けられたその作品は、主宰の坪口昌恭が一人で作り上げたという。
そして、今回のメイン楽器として取り上げられたのは、シンセサイザーではなくエレクトリック・ピアノだ。

2年前に発表したアルバム『Abyssinian』が、ソロ・アコースティック・ピアノ作品なので、『AFRODITA』はある意味、その延長線上に存在すると考えていいのだろう。

とは言え、坪口昌恭ではなく東京ザヴィヌルバッハ名義なので、サウンドの違いは大きい。
東京ザヴィヌルバッハの代名詞、自動変奏シーケンスソフト「M」が繰り出すアフロポリリズムとエレクトロニック・サウンドが満載だ。

アフリカ的なリズムのホットさとエレクトリック・ピアノのクールさが融合して、東京というアーバン・イメージを思い起こさせる不思議な一枚。
さらには、表現が悪いかもしれないが、デパートやエレベーターで流れていても違和感がないほど聴きざわりが爽やかなのだ。
ここに坪口昌恭のちょっとした悪意というか、シニカルなユーモアも感じたのは僕だけではないだろう。


坪口昌恭(東京ザヴィヌルバッハ) インタビュー

■今回発表した『AFRODITA』は坪口さんのソロですね。前作『Sweet Metallic』はバンドでの作品でした。また、今作ではローズ(エレクトリック・ピアノ)をメインに演奏していますが、少し前に出たソロアルバム『Abyssinian』ではアコースティック・ピアノをメインに演奏していました。これら、相反するイメージが連なった経緯を教えて下さい。

[坪口昌恭] これまでを遡ってみると、自宅で作りこんだタイプの作品の次はスタジオでの作品、バンドの次はソロ、という風に交互になっていますね。だから、大雑把に言うと「反動」というものはあると思うんですよ。あとは、『Abyssinian』で共演者がいない状態、ただ一人でピアノに取り組んだのですが、東京ザヴィヌルバッハも一人でやってみるとどうなのかなと、同時期に思ったんですよ。それで、実際にライブをやってみたら感触がすごく良くて。レーベル担当者もすごく気に入ってくれたので『AFRODITA』が実現しました。


■シンセではなくローズ(エレクトリック・ピアノ)がメインになったのは?

[坪口昌恭] 『Abyssinian』でピアノに向き合った結果、正しく良い姿勢で集中して演奏するパワーがいいなと思いました。シンセだとこっちも弾いてあっちも弾いてという風に、パワーが拡散してしまいます。それと、ローズをメインにして、シンセなどオケ(バックの演奏)をコンピュータに仕込んでおくと、ライブツアーがやりやすいということもありますね。現地でローズだけを用意すればいいですから。

Rhodes(ローズ)@坪口スタジオ
ローズ


自動変奏シーケンスソフト「M」
自動変奏シーケンスソフト「M」


■東京ザヴィヌルバッハの形態が、バンドだったりソロだったりと色々と変わっているということもあって、今一度「東京ザヴィヌルバッハ」というプロジェクト名について振り返ってみたいと思います。「東京」+「ザヴィヌル」+「バッハ」=「東京ザヴィヌルバッハ」でいいですか?

[坪口昌恭] そのとおりです。このプロジェクトの立ち上げの時に、菊地(成孔)さんもDCPRGの立ち上げの時で、一緒にミーティングすることが多くて、バンド名をどうするかということも話していたんです。僕は坪口だから、「tzboguchi」ってちょっとふざけて表記しているんですけど、そこから「TZ-1」のような記号みたいな名前がいいんじゃないかと菊地さんからのアイデアがあったんですよ。僕はもうちょっと色彩的な名前が欲しくて「tzboguchi」の宛字を考えていたら、「t」は「東京」、「z」は「ザヴィヌル」だよねって大笑いになって。要するに当て字で考えていったんです。「東京」は「東京で発信している」という意味がもちろんあります。「ザヴィヌル」は「ジョー・ザヴィヌル」です。その頃は、エレクトリック・マイルス再評価をやりたいよねというムードだったので、エレクトリック・マイルスの影の立役者はジョー・ザヴィヌルでしょ、みんな忘れてるけど彼がいたから「ビッチェズ・ブリュー」もできたんだという話になって。彼もキーボーディストだしね。「バッハ」は、ヨハン・セバスチャン・バッハではなくて、「スイッチト・オン・バッハ(Switched-On Bach)」というバッハをムーグ(シンセ)で演奏したアルバムの語呂だったりその音楽から来ています。「東京/ザヴィヌル/バッハ」、「スイッチト/オン/バッハ」ね。伝統と電子というイメージもね。

Switched-On Bach(スイッチト・オン・バッハ)
Switched-On Bach


■あー!そういうことだったんですか!「バッハ」だけ音楽からはわからないなと思っていました。

[坪口昌恭] たしかにそうだね。


■坪口さんにとって、ジョー・ザヴィヌルというのはどういう存在ですか?

[坪口昌恭] エレクトリック・ピアノに関して影響を受けたのは、ハービー・ハンコックのほうが強いんですよ。ザヴィヌルに関しては、シンセの方ですね。多くのキーボーディストがシンセというと、ピアノの代わり、ストリングスの代わり、ブラスの代わりとか、何かの代わりという風にイメージがあるものとして演奏するんですけど、ジョー・ザヴィヌルはシンセの良さを使って演奏しているんですね。シンセの出音をうまく使って演奏している。鍵盤から指を離すとすぐに音が消えたりだとか、そういった問題とも言える部分、表現力が乏しい部分をうまく使って演奏しているんですよ。そういうところにすごく共感しますね。「スイッチト・オン・バッハ」の音楽のイメージもすごく似ているんですよ。バッハってチェンバロとかオルガンとかしかない頃の音楽ですよね。ピアノがなくて音の強弱がない頃の音楽。強弱とかそういう表現を付けずに演奏して感動させる音楽。余計なExpressionがなくて感動させる音楽に共感しちゃいますね。


■他に共感できるものはありますか?

[坪口昌恭] 音楽で言うと、ビバップもそのひとつかもしれないですね。ビバップも感情表現ではなくて、定めたルールの中でいかに自由自在に演奏できるかっていう、違った意味でのゲームミュージック的なところというか、ロゴスっぽい、言語っぽいところがありますよね。


■音楽以外にも何かあるんですか?

[坪口昌恭] 影響という意味では絵画もありますね。東京ザヴィヌルバッハの前作『Sweet Metallic』のライナーノーツにも書いたんですけど、ウェザー・リポートの音楽性とセザンヌの絵には共通点があるんですよ。ウェザー・リポートには誰もソロをしていないけど全員がソロをしているというコンセプトがあった。誰かがソロをしていて他がバックということではなくて、シンセがソロを弾いているんだけども同時に(ウェイン)ショーターが印象的なリフを吹いていて、ドラムが大暴れしているとか。皆んなが「同列」に演奏しているんですね。で、セザンヌは何をしたかって言うと、例えば前にリンゴ、後ろに布とかが置いてある絵では、リンゴも布も同列に描かれているんですよ。リンゴを目立たせるために布を目立たせないということではないんですよ。どっちも目立っていたり、ラフだったり。それで、バランスを取るためにリンゴが置いてある机が歪んでたりとか。ウェザー・リポートと同じなんですよ。僕の解釈ですけどね。『AFRODITA』もローズが主役だけども、ドラムやベースもこだわって作っているわけですよ。同列にあるんですよ。


■最近、音楽で気になるものはありますか?

[坪口昌恭] やっぱりフライング・ロータスはすごいなと思いますね。サウンドはもちろんですけど、音符にしてみても裏コードに行っていたり、おいしい音を使っているんですよ。何というかな、ジョン・コルトレーンの甥っていうのもあるのかもしれないけど、天性のものがあるんでしょうね。考えて作っているんじゃないと思うんだけど、おいしい所に閃いちゃっているんですよね。レディオヘッドやビョークもそうですけど、微妙にタブーを犯しているんだけど、それがセンスがいいというかね。多少ぶつかりがあるもので、全体的にはポップに聞こえるものが好きですね。


■アルバムタイトルの『AFRODITA』はどこから来たんですか?

[坪口昌恭] 見るからにあると言えるし、潜在的にあるとも言える、アフリカの土着音楽の要素をタイトルに入れられないかなと考えていました。そんな時にギリシャ語で美の女神を意味する「aphrodita」って言葉に出会って、これはアフロって読めるねということで造語にしようと。

『AFRODITA』トラックリスト
『AFRODITA』トラックリスト


[レーベル担当者A氏] ちなみにですね、最初に候補としてあったのが『エレクトリック・マサイ』だったんですよ。

[一同] 爆笑

[坪口昌恭] 俺は「昌恭(まさやす)」なんでね。

[一同] 爆笑

[レーベル担当者A氏] 即却下ですよ(笑)

[坪口昌恭] マサが一人でやってるみたいな。マサ・ワンみたいな。

[レーベル担当者A氏] ああっ!!『エレクトリック・マサイチ』だった!

[一同] 爆笑


■ふざけ過ぎてる(爆笑)

[坪口昌恭] いや、マジメだったんだけどなぁ(笑)

[レーベル担当者A氏] ずっとそれを押してるんですよ。

[坪口昌恭] もうこれしかないって(笑)

[レーベル担当者A氏] 即却下(笑)あんまりだ。

[坪口昌恭] それを言ったら、東京ザヴィヌルバッハの名前を決める時、最初に菊地さんに提案したのが「ウニウニイヌイヌ」だったんだよ。

[一同] 爆笑

[坪口昌恭] 「ウニウニ」って録音して逆回転再生すると「イヌイヌ」って聞こえるんですよ。「uniuni」、「inuinu」ね。これが面白くて、バンドのコンセプトを表してるよって言ったら、「ぜっったいダメだ!」って。


■菊地さんに言われて(笑)

[一同] 爆笑


■東京ザヴィヌルバッハの音楽を表すキーワードの一つと言える「ポリリズム」ですが、わかりやすく説明していただけますか?

[坪口昌恭] ポリリズムは、「ポリ=複数」のリズム、ビートですね。ポリリズムは、プログレッシブ・ロックやショパン、ドビュッシーの音楽などにも存在するように、色々と種類があるんですが、僕がメインに置いているのは、アフリカのポリリズムなんですよ。グルーヴ・ミュージックとしての(1)だまし絵的なポリリズムに興味があるんですね。1拍の長さが一定で、4拍子→5拍子→7拍子→2拍子などという様に進んでいく変拍子タイプではないんですよ。アフリカタイプのポリリズムは、基本的には4拍子というか2拍子になっていて、その中身が5になっていたりというか。一番象徴的なのは、「キリマンジャロ」という言葉。日本語での発音がリズムになるとしたら「キリマンジャロ」は「キリ・マン・ジャロ」で3拍子ですよね。ところが、アフリカの発音では「キリマ・ンジャロ」で2拍子なんですよ。これがポリリズムなんですよ。根本的な要素としては、一つのフレーズがどっちにも取れるということなんです。なので、僕が興味のあるポリリズムは演奏が難しくてすごいというよりも、絡みが面白いという方向ですね。

(1)参考イメージ → M.C.Escher「Encounter 1944」


■他に面白い絡みの例はありますか?

[坪口昌恭] 大儀見(元)さんに教わったんですけど、「豆腐屋と相撲取り、銭湯のストライキ」というフレーズがあって、これは「とうふやと・すもうとり・せんとうの・すとらいき」っていう、それぞれが5文字(5連符)で構成されている4拍子、4分の4拍子なんですよ。それで今度は、「と」という文字に注目すると、「と」は4文字おきに5回出てくるんですよ。これは、4分の5拍子なんですね。この2つを行ったり来たりするアイデアを取り入れているのは、『AFRODITA』の5曲目「Tribal Junction」です。

ポリリズム


■それでスピード感が変わって聞こえるんですね。

[坪口昌恭] そうそう。そうやって遊んでるんですよ(笑)『AFRODITA』は「5」のアイデアが多いですね。


■面白いけど、テキストで説明するのは難しいですね。

[坪口昌恭] そうですね。わかんないままがいいんです。(笑)


[Interview:樋口亨]


東京ザヴィヌルバッハ『AFRODITA』発売記念ライブ

10月17日にアルバム『AFRODITA』をリリースした東京ザヴィヌルバッハの発売記念ライブ!
アルバムは坪口昌恭の完全ソロで作られましたが、この日は期待の若手ジャズマンたちとタッグを組んで、一夜限りのスペシャルなライブをお届けします。
ゲストには、9月にミックスアルバムを二枚同時にリリースした人気DJの大塚広子が登場!

<日時>
11月28日(水)
開場19:30 開演20:00

<会場>
新宿ピットイン

<料金>
3,000円(1ドリンク付き)

<出演>
東京ザヴィヌルバッハ
坪口昌恭 (key, effect, laptop)
類家心平 (tp, effect)
宮嶋洋輔 (gt)
織原良次 (b)
石若駿 (dr)

ゲスト 大塚広子 (DJ)


坪口昌恭
坪口昌恭

1964年福井県生まれ、大阪育ち。福井大学工学部卒業後1987年に上京。
ジャズとエレクトロニクスを共存させ、伝統と先鋭の境界線で独自のキャラクターを放つ。
主宰するエレクトロ・ジャズユニット『東京ザヴィヌルバッハ』(2012年8月にNY公演)、 キューバ勢ジャズメンとのNY録音作、ピアノトリオRemix、 ソロピアノ「Abyssinian...Solo Piano」等自己名義のアルバムを13枚発表。
2008年上妻宏光(三味線)のアルバムをプロデュース。2011年ハリウッド映画「Lily」の音楽担当。
近年はソロピアノや小編成でのセッションも活発化。
『菊地成孔Dub Septet』『DCPRG』『HOT HOUSE』の鍵盤奏者としても、 フジロックフェスティバルやBlueNote各店に出演するなど活躍中。音楽誌での連載や執筆多数。
尚美学園大学/同大学院ジャズ&コンテンポラリー分野准教授。


『AFRODITA』東京ザヴィヌルバッハ
AFRODITA

■タイトル:『AFRODITA』
■アーティスト:東京ザヴィヌルバッハ
■発売日:2012年10月17日
■レーベル:Airplane label
■カタログ番号:AP1048
■価格:2,300円(税込)

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