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JAZZ in NEW YORK#6 - What I got in New York

ニューヨークを拠点に活動しているピアニスト、中原美野(なかはらよしの)さん。
5月23日にファーストアルバム『A Ray of Light』をリリース。
そしてその新作を引っさげての凱旋ライブが、6月5日(金)渋谷JZ Bratで行われます。


JJazz.Netでは、"JAZZ in New YORK"シリーズとして中原美野さんのコラムを連載。
ライブまでの(本日ですね)約1ヵ月間、毎週金曜日に更新してきました。

今週は遂に最終回。
「どんなにつらい思いをしても、それでもここにいたいと思えるNYという街。」
と中原さんは綴っているように、わたしたちも彼女のストーリーを追いながら、
ジャズの街、NYの空気感を知ることができました。

このコラムを読んでいても中原さんがどんどんタフになっていくのを感じられましたよね。

アメリカへ来てから6年と5ヶ月。
そして遂に完成したアルバム『A Ray of Light』。
アルバムに収録されているオリジナルは、勇敢に闘っている様子や、
迷いながらも進んでいく様子を表現したものだそうです。

その音を是非生で体感して下さい。
本日、6/5(金)渋谷JZ Bratにて、中原さんの凱旋ライブが行われます。


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■What I got in New York


2012年、1年間のOPT期間の終了が近づくまで悩み続けたものの、NYでの活動を続けるために、アーティストビザを申請することを決意。締切まであまり時間の残されていなかった2013年1月半ばから本格的に準備を始め、弁護士の指示を仰ぎながら2ヶ月強で提出書類を完成させた。5月に出演したかったショーがあったため急いだ。そしてちょうど間に合うタイミングで無事ビザを取得できた。その3年間のビザももう既に残り1年となってしまった。


2013年は自分のバンドでのライブもできるだけ多くやった。あるギタリストをゲストに迎えてのライブは、 イタリアからのフライトが天候不順で欠航になったとのことで、彼がリハに来られないままの本番だった。(余談ですが、そのライブには、日本から漫画家の方が聴きにいらしていた。ジャズをテーマにした漫画を書こうと調査に来られたとのこと。その後、本当にジャズ漫画を描かれているようですね。) 時間をかけてスケジュール調整や準備をしても、アクシデントがよくある。ライブ当日メンバーが来られなくなって、代わりの人にほぼ初見で弾いてもらったり。2時間のリハに2時間遅刻してくる人がいたり。


そうしているうちに、音楽活動の幅も広がり始め、ポップミュージックのバンドのライブにも出演したり、別のバンドでは70年代のR&Bを演奏したりした。


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2014年には、教会でも毎週日曜日に賛美歌やゴスペルの曲を演奏し始めた。そこでは初見が基本。何の打ち合わせもなく演奏することもある。コーラスの人たちがいきなり歌い出すので、初めて聴く歌でも、キーとコード進行を瞬時に判断してそれに合わせて伴奏していく。オルガンとドラムだけなので、責任重大。心の優しいコーラスの方、本番で歌いながら号泣されることも。いかに歌をサポートし、気持ちを盛り上げてもらえるかということを考えながら弾いている 。そういえば大好きだった映画「天使にラブ・ソングを」の世界だ。
毎週オルガンを弾くという機会をいただいたおかげで、オルガントリオでのライブに挑戦することもできた。


そして貴重な出会いもあった。ジャズクラブKitanoのジャムセッションで共演したシンガーMs. Blu。ブルージーでパワフルな彼女の歌、楽しく歌う姿、ブルーの衣装がとても印象的だった。私のライブにたまたまいらっしゃって、一曲バンドと一緒に歌っていただいた。その後まもなく、彼女のバンドのメンバーとして演奏を始めた。彼女はあたたかくピュアな心を持っていて、音楽をとても愛している。ライブ中のMCで、涙を流しながら話すMs. Bluを観ていると、このショーをいいものにしようという気持ちになる。信頼できる方で、"I'm here for you."と言ってくれるお友達。
つらいときに、

"I really want you to know that whatever is going on that upset you and keeps you sad from time to time you can confide in me. I am a good friend and I don't repeat anything that someone tells me in confidence I'm here for you."
"I feel like I've always known you. You have a beautiful heart!"

と支えてくれた。
私の名前「美野」ですが、「野」は"心"という意味も持つということで、美しい心を持ってほしいと両親がつけてくれた。本当にそうなりたい。


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[Ms Blu @ SOMEHIN' Jazz Club]


遡ってNY1年目。お世話になっていた方(Tさん)が、ご親戚の男性を連れてライブを聴きに来てくださった。そのご親戚の男性が演奏をとても気に入ってくださって、Tさんに直筆のお礼状を送られたとのこと。「彼女の演奏はDiana Krallを想起させる。アレンジも素晴らしい。とても特別な夜になった。誘ってくれてありがとう。」と、身に余るお言葉を頂戴した。Diana Krallファンの皆様から苦情が来るでしょう。でも、演奏している音楽は大分ちがうけど、Diana Krallは私の憧れ中の憧れ。(この間 Beacon Theaterで初めて彼女のライブを観られて、静かに大興奮だった。) 感激で、思わずバンドメンバーに手紙のことを報告してしまった。

その後、その男性はライブのご案内をすると必ずお返事をくださり、たびたび応援にいらしてくださった。あるライブでは、「ごめんね、あなたのピアノを聴きに来たんだけど他の楽器が僕にはうるさすぎるから」と1st setで帰られてしまったけど、また聴きに来たいと言ってくださった。

2014年の5月、Tさんから突然お電話があり、その方がお亡くなりになったとの知らせを受けた。びっくりした。その年の1月に新年のメッセージをお送りしたら、「次のライブに必ず行くから」とお返事をくださっていた。しばらく涙が止まらなかった。そのとき、こんなに悠長に過ごしていてはいけない、と強く思った。アルバムを作らなければ。早く活動の場を広げなければ。応援してくださっている方々の期待に応えたい、と。すぐにRiro MuzikのRozhanにメールをした。一緒にレコーディングをしたいメンバーに出会えていて、Sureと言ってもらえて、ラッキーだ。日程調整に時間がかかったものの、7月にレコーディングを実施することに決めた。


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メンバー全員の予定が空いていたのは一日だけ。真夏日、朝10時集合で夜9時まで、11曲を数テイクずつ録った。録音中はエアコンを止めなければならず、スタジオ内は暑く、ピアノを弾く手もすぐ汗ばんだ。唯一ブースに入っているサックスのChadが、なだれこむようにこちら側へ出て来て床で転がったりしていた。


その後、経済的事情で、録った音源がそのままになってしまった。本当にこれを世に出していいのか、という不安もあった。

そして同年の12月。ある出来事がやむなくまた私を動かした。「やばい。自分を支えられるのは自分しかいない。」と。その出来事を受け、父が、アルバムを完成させてほしい、と制作費のサポートをオファーしてくれた。以前にレコーディング音源を聴いていただくことをご相談していた、NY でプロデューサーとして長年ご活躍されているある方にやっと音源を送った。「今立て込んでいるから少しお時間をください」とのお返事。ところがその後すぐ、「聴きました」とのご連絡をいただいた。「なんで今までほっといたんですか、早く完成させて、世に出して下さい」と、叱咤激励のお言葉。

1ヶ月間廃人のようになっていた私はやる気を取り戻した。
そうしてアルバムを完成させる決意をした後も、色々なことがまた起こった。ようやく動き出せた3月から、息をつく暇もないようなスケジュールで制作を進め、3週間ほど前に出来上がりました。お電話をいただいた時からちょうど1年。


アメリカへ来てからの6年と5ヶ月。本当に色々あった。特にニューヨークでは、一難去らないうちにまた一難以上来た。NYで培ったことは、たぶん、強く生きること。ここでの生活は、常に戦っている感じ。約束が守られないことは日常茶飯事。What???と言いたくなるような信じられない出来事がいっぱい起こる。理不尽なことに対していかに負けずに闘えるか。特にジャズミュージシャンとして生活するのは苦労が絶えない。

でも、ここでは、小さい頃の夢だったことが知らない間にかなっていた。シンガーのバックで演奏したい。ピアノの先生になりたい。レストランでBGMを演奏したい。ウェディングでピアノを弾きたい...。色々な苦難やトラブルが絶えずあり、それに阻まれて、思うようにつき進んでいけないことがとてももどかしく、自分の目指しているところにはまだまだ達していない。けど、サポートしてくれる方々のおかげで問題を解決してこられて、今ここでミュージシャンとして少しずつ前に進んでいけていることをとても感謝しています。


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どんなにつらい思いをしても、それでもここにいたいと思えるNYという街。これまでの記事でも一部ご紹介させていただいたように、数えきれないほどたくさんの尊敬する憧れのミュージシャンの演奏を聴くことができた。本当に幸せなこと。ライブで、聴いている方がよい演奏にすぐに反応し、Yeahと言って盛り上がる雰囲気も好き。そして、もはや憧れというレベルの方でもないHerbie Hancockは、ライブ鑑賞だけでなく、書店Barnes & Nobleで行われた彼の書籍"Possibilities"の発売イベントにも参加できた。ご本人からMiles Davisとのエピソードや、"Watermelon Man"のリズム、フレーズができた過程などを聞けて、感動だった。そして、この冬にその本を読んでいたら、初期のNYでの生活など彼のストーリーにわくわくし、ミュージシャンとして生きる機会を得られていることを大事に思い、そうありつづけられるようにがんばろうという気持ちになれた。


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病気が見つかり、NYで手術を受けた2月のある日。気温マイナス13度の朝5時に電車で病院に向かうとき、なんとなく自分の曲を聴こうと思い、まだMix/Mastering前の"Take Five"と"Jay Street"を聴いた。不思議と元気が出てきた。バンドメンバーの演奏に励まされた。


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もしアルバムを聴いてくださる方がいらっしゃって、私の音楽で元気を出してもらえることがあったら、本当に嬉しいです。

タイトルの"A Ray of Light"は、直訳すると「一条の光」という意味ですが、自分の中で一本筋が通っている状態、目標に向かって一本光がまっすぐに伸びているイメージを表したいと思って付けました。収録されているオリジナル曲は、タイトル曲ほか、勇敢に闘っている様子や、迷いながらも進んでいく様子を表現したものなど。皆様にはどのように感じていただけるのか、感想をお聞きするのが楽しみです。ジャズのスタンダード曲も、オリジナルバージョンとはだいぶ違った雰囲気にアレンジしているので、ぜひ一度チェックしていただきたいです。アルバムを聴いたMs. Bluは、"The arrangements are Rocking! I have not heard any new jazz material that I could fall in love with until NOW!" とメッセージをくれて、すごく嬉しい。


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リリース日の5月23日は、私の誕生日ですが、自分へのプレゼントではなく、アメリカへ来てから応援しつづけてくれた両親への感謝の気持ちとしてアルバムを送りたかった、という思いがあります。
本日6月5日のリリースライブ。フライヤーを作成していただいたのですが、それを置いてもらうために、両親が何日間もかけて、電車に乗って都内の34ヶ所の音楽教室を訪問してくれました。


昨年11月の東京での初ライブでは、約10年前、ライブで衝撃を与えてくださり、私がジャズミュージシャンを目指すきっかけともなったお一人、ドラムの大槻"KALTA"英宣さん、そして土井孝幸さん、西口明宏さんという素晴らしいミュージシャンの方々との演奏の夢が叶いました。


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本日渋谷JZ Bratでのライブでは、その10年前のライブのバンドリーダーであったサックスの太田剣さんとついに一緒に演奏させていただくことができます! 矢沢永吉さんのZ's Tourの最終公演を終えて駆けつけてくださいます。

会場の皆様に楽しんでいただける、またご協力くださった皆様にそうしてよかったと思っていただけるライブになりますように :)


今年の5月のNYは、爽やかな日が多かった印象です。深夜4時になってもまだ近隣から大音量でラテンミュージックが聴こえるWest Harlemのアパートで、Broadway沿いの小さなカフェで、Bryant Park横のNew York Public Libraryで、日本に向かう飛行機の中で、6回に渡るこのコラムを書きました。


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機内でたまたま観た映画、「Song One」。ニューヨークを舞台に、Anne Hathaway演じる主人公が、ミュージシャンの弟や彼の大好きなミュージシャンと関わっていくお話。自分がここで観ているものや、自分自身のことと重なった。

圧倒的に多いミュージシャンの数。ジャズだけではない。毎日数々のライブハウス、レストラン、地下鉄の駅、電車の中で演奏している。無名のミュージシャンが葛藤したり、逆に一気にジャズシーンに入り込んでいったりする様子を私も他人事ではなく傍で観ている。映画を観て改めて、数えきれない選択肢の中で、その人の演奏を聴きに行っている、というのはすごいことだと思った。 ライブに来てくださるお客様、お友達にはいつも心から「ありがとう」と思う。


コラムを読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!
お会いできる日を楽しみにしています。


中原美野




【中原美野 "A Ray of Light" Release Tour 2015】

NYを拠点に活躍している新人ピアニスト/コンポーザー中原美野がJZ Brat初登場!1stアルバム『A Ray of Light』のリリースを記念して豪華メンバーが集結。ドラマ、映画、CMの音楽のアドバイザーを務めるなど、日本の音楽シーンへも活動の幅を広げている彼女から目が離せない。


<日時>
2015.6.5.Friday
1st:Open 17:30 Start 19:30
2nd:Open 21:00 Start 21:30
※時間が通常と異なります。

<出演>
中原美野(p)西口明宏(ts)土井孝幸(b)大槻"KALTA"英宣(ds)
Guest: 太田 剣(sax)

<場所>
JZ Brat(渋谷)
〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町26-1 セルリアンタワー東急ホテル2階

<料金>
入替制¥4,000 2ステージ¥6,000

<予約・お問い合わせ>
JZ Brat
03-5728-0168(平日15:00~21:00)
予約はこちら

<詳細>
http://www.jzbrat.com/liveinfo/2015/06/#20150605(JZ Brat)


CD情報はこちら
※ライブ会場限定販売




【Pianist Yoshino Nakahara Album"A Ray of Light" EPK】




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Profile

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中原美野(Yoshino Nakahara)(ピアニスト/作曲家/編曲家/講師)

4歳でピアノを始め、ヤマハ音楽教室でクラシック演奏や作曲、アンサンブルを学び、幼少時代より作曲で多くの賞を獲得。大学を卒業後、趣味でアルトサックスを手にしたことをきっかけに、ジャズと出会う。
ジャズ・ライブに足繁く通う中、「ピアノでジャズ演奏を学びたい」と、ジャズ・ピアニスト今泉正明に師事する。バークリー音楽大学より奨学金を獲得後、2009年に渡米。2011年、「Professional Music Major Achievement Award」を受賞。ボストンで演奏活動を開始し、地元ラジオ局等に出演。多数の著名プレイヤーと共演する。ジャズだけでなく、クラシックのコンサートやミュージカルでも演奏。2011年卒業後、拠点をニューヨークに移し、北川潔、E.J. Strickland、Gilad Hekselmant等トップクラスのミュージシャンをバンドメンバーに迎え、ライブ活動を行う。2012年9月にはTomi Jazzの「Artist of the Month」に選ばれ、2013年1月には週刊NY生活に特集記事が掲載される。様々なジャンルのバンドでサイドマンとしても活躍。2014年4月には、所属するGregory McDowellバンドでの演奏の様子がNew York Timesに掲載される。その他、音楽学校でピアノやフルートの講師として、また教会でオルガン奏者としても活躍している。2013年、TBSドラマ「潜入探偵トカゲ」のサウンドトラックに、自身でアレンジしたソロピアノ演奏が収録される。日本テレビ音楽のミュージック・ライブラリーの楽曲、スマートフォンアプリのBGM等の演奏、またドラマ、映画、CMの音楽のアドバイザーを務めるなど、日本の音楽シーンへも活動の幅を広げる。2014年、初の帰国ライブを行い、大好評を博した。2015年、ニューヨークにて自己のバンドでレコーディングした1stアルバム「A Ray of Light」をリリースする。


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