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みなさんこんにちは。トランペットとピアノの曽根麻央です。
まず最初にお知らせがあります。

先日7/13(水)より シングル「Days of Wine and Roses(酒とバラの日々)」が配信されました。
是非聴いてください!

これは私、曽根麻央が数々の名曲をピアノソロ中心に録音した"Plays Standards"シリーズの一環で、このシリーズは今月から12月までの間、毎月2曲ずつ配信していきます。注目しておいてください。


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【Days of Wine and Roses / 曽根麻央】(各配信サイト)
https://ultravybe.lnk.to/thedaysofwineandroses


まだ一曲のみですが計12曲にも及ぶのでこちらのSpotifyプレイリストに随時まとめていく予定です。




そして東京の丸の内コットンクラブではこれに先駆けて配信を記念したライヴを開催します。
会場でお会いしましょう!



【MAO SONÉ "Plays Standards" with DAVID BRYANT & TAKANA MIYAMOTO】





"ジャズ二刀流"と称される若き才能と2人のピアニスト
スタンダード曲の数々を贅沢な内容で届ける一夜


【SCHEDULE】
2022 9.2 fri.
[1st.show] open 5:00pm / start 6:00pm
[2nd.show] open 7:45pm / start 8:30pm


【MEMBER】
曽根麻央 (p,tp)
【Guest】
デヴィッド・ブライアント (p,key)、 宮本貴奈 (p,key)


【詳細】
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/mao-sone/

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Title : 『Oscar Peterson Trio + One』
Artist : Oscar Peterson Trio Clark Terry


【オスカー・ピーターソン&クラーク・テリーによる巨匠の名演】

さて今回はピアノの名手オスカー・ピーターソンと、ジャズ・トランペットの神様、クラーク・テリーの共演した名盤『Oscar Peterson Trio + One』を聴いていきましょう。

このアルバムは1964年のもので、ピーターソンが39歳、クラーク・テリーが44歳と、丁度中堅に差し掛かり心地よいジャズを演奏するのにちょうど良い年齢に達した二人の巨匠の名演集ともいえる作品です。

クラーク・テリーという名前に馴染みがない方はすぐにでも覚えてほしい。この人ほどトランペットという楽器をここまで高度に操れた人は過去にはいないのです。
技術だけなのかというとそうではなく、この人ほどトランペットを自身の声として扱うことに長けていた人はいないでしょう。プレイヤーとしてでなく94歳で亡くなる2015年まで教育者としても尊敬されていた人です。

1920年に生まれ、カウント・ベイシーとデューク・エリントン・オーケストラというジャズ界の歴代2大ビッグバンドのソリストとして活躍し、ソロ活動も精力的に行なっていました。またマイルス・デイヴィスのメンター(ただの楽器の先生としての意味合いではなく生き様を見せることで後進の指導をするような人の意)として有名です。ウィントン・マルサリスやクインシー・ジョーンズといった一流のアーティストも彼のことをメンターとして挙げています。ジャズのシーンだけでなくNBCなどのTVミュージシャンとしても活躍したマルチ・タレントです。

そんな彼のトランペットの音は、立ち上がりがよく、艶やかでリズミカル。まるで彼自身の声を聴いているかのようです。このアルバムでも収録されている「Mumbles」でクラーク・テリー自身のスキャットも聴けます。ぜひ彼のトランペットと歌の共通点を見つけてみてください。






Clark Terry - trumpet, flugelhorn, vocal
Oscar Peterson - piano
Ray Brown - double bass
Ed Thigpen - drums



オスカー・ピーターソンの最も有名なトリオにクラーク・テリーが乗っかったアルバムです。このコラボはツアーなどで以後も続いていきます


01. Brotherhood of Man

早速、心地よい快速なスウィングの曲で始まります。クラーク・テリーはプランジャー・ミュートという、いわゆるトイレのスッポンのゴム部分を使用しており、これをトランペットのベルのところで開けたり閉めたりすることで、まるで喋るような、歌詞を歌っているかのような演奏を聴かせてくれます。エリントン・ビッグバンドのアレンジによく登場する奏法です。このプランジャーを使った演奏は彼の得意技で、他の追随を許しません。ぜひ楽しんで聴いてください。


02. Jim

少しゆったりとしたスウィングの曲。ピーターソントリオで1コーラステーマを演奏し、テリーに引き継がれます。テリーに引き継がれると、トランペットの音を変化させ彼がまるで二人に分身したかのように掛け合いで演奏を始めます。実は右手にフリューゲルホルン、左手にハーマン・ミュートをつけたトランペットを持っていて、それをパートによって吹き分けています。これもテリーの芸の一つで、トランペットを左手でも持てるように取り外し式のピンキーフックを楽器に装着し使っています。2人のジャズの巨匠が掛け合いをしてるようでとても楽しいトラックです。ちなみにクラーク・テリーのハーマン・ミュートの音が後にマイルス・デイヴィスに影響を与えたと言われています。


03. Blues For Smedley

Abのシンプルなブルース。一曲目と同じくプランジャー・ミュートを駆使しています。テリーの音は全てのレンジで立ち上がりが素晴らしく、ハリのある音色でジューシーです。そして何よりスウィングしますね!特にこのトラックではピーターソンだけでなくレイ・ブラウンのソロも聴くことができます。


04. Roundalay

ようやくテリーのオープンなトランペットサウンドが聴けます。今までと少し毛色の違う寂しげな曲。オープンなトランペットサウンドでとても真のある音にも関わらず、柔らかく人々の耳を決して痛めることのない優しさのある音だと思います。彼の速いフレーズを吹くときに注目すれば、彼のトランペットが恐ろしくクリーンでクリアであることに気づかされます。なぜ他のジャズ・トランペッターが憧れたかがわかるでしょう。


05. Mumbles

テリーの「芸」はプランジャーやフリューゲルとの持ち替えだけではありません。ここでは巧みなスキャットを披露します。" Mumbles"と人々が呼ぶそれはまるで南部訛りの男性が話しているかのように展開されます。しかし言葉に意味はありません。そこにはただソウルとリズムがあり、その全てがテリーのトランペット演奏に反映されています。


06. Mack The Knife

有名なジャズスタンダード。ここでテリーはバケットミュートという棉の詰まったミュートを使用しています。このアルバムには様々なミュートが登場します。この時代はエフェクターがないのでミュートを変えたりフリューゲルに持ち変えることで曲調に合う音色を探していたことがわかりますね。正直この曲のテリーのソロは神業です。歯切れ良い丁寧な3連音符。それと対となるようなスピード感ある16分音符。世界最高のトランペッターの軽い本気が聴けます。


07. They Didn't Believe Me

ピーターソンのソロから始まるバラードの曲。この曲ではテリーはフリューゲルを使用しています。実はテリーは稀に見るフリューゲルの名手としても有名で、ハイノートや激しい演奏など、通常フリューゲルでは難しいとされていることも何気なくこなしてしまいます。そのテイクではテクニカルな一面は封印して、歌心あるメロディープレイに集中しています。


08. Squeaky's Blues

速いテンポのブルースの曲。こちらもバケットミュートを使用しています。テリーのアーティキュレーションの綺麗さが際立つ一曲です。このタイプの演奏スタイルは現在ではウィントン・マルサリスが継承していて、彼の演奏を聴きに行けば今でも体感することができます。このテンポはピーターソンも得意とするところで輝くようなタッチで軽やかに演奏しています。


09. I Want A Little Girl

プランジャーを使ったバラード曲。通常プランジャーを使う場合左手はプランジャー操作で忙しくなるので楽器自体は右手のみで持つことになります。このためとても楽器の演奏自体が困難になるのですが、テリーはダイナミックスまでも見事につけてトランペットを完璧に操っています。4:37以降のエンディングは圧巻です!


10. Incoherent Blues

再びテリーの"mumbles"をスローブルースで聴くことができます。よりしゃべっている感覚が伝わってくると思います。これが実にジャズという音楽でアートなのです。

それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title : 『Oscar Peterson Trio + One』
Artist : Oscar Peterson Trio Clark Terry
LABEL : Mercury
発売年 : 1964年

アマゾン詳細ページへ

【SONG LIST】

01.Brotherhood Of Man
02.Jim 
03.Blues For Smedley
04.Roundalay
05.Mumbles
06.Mack The Knife
07.They Didn't Believe Me
08.Squeaky's Blues
09.I Want A Little Girl
10.Incoherent Blues 




【曽根麻央LIVE INFO】

7/20 (Wed) @ Body & Soul, Shibuya
Takana Miyamoto & Mao Sone
​​
7/22 (Fri) @ Cotton Club, Tokyo
Saku Yanagawa "Time To Standup at COTTON CLUB Tokyo"
​​
7/23 (Sat) @ Kanze Nohgakudo, Ginza
Edo Jazz
​​
7/24 (Sun) @ Cabin, Honatsugi
Mao Sone SOLO

7/25 (Mon) @ Apple, Yokohama
Yuya Wakai & Mao Sone
​​
7/26 (Tue) @ 104.5, Ochanomizu
Good Jam Session
​​
7/27 (Wed) @ TBA
Secret Event
​​
7/28 (Thu) @ Alfie, Roppongi
SkyFloor (feat. Hiro Suzuki, Shota Watanabe, Shunya Wakai & Mao Sone)

8/6(Sat) @ Naru, Yoyogi
Ayana, Mao Sone, Nori Shiota
​​
8/11(Thu) @ Nardis, Kashiwa
Mao Sone Trio (feat. Yuji Ito & Hiro Kimura)
​​
8/12 (Fri) @ Body & Soul, Shibuya
Mao Sone, Taka Nawashiro, Shin Sakaino, Kazu Odagiri

​​8/14 (Sun) @ No Room For Squares, Shimokitazawa
Ryo Miyachi
​​
8/20 (Sat) @ Nagareyama-city Shogai Gakushu Center
Mizuki Shikimachi & Mao Sone

​​8/21 (Sun) @ Cabin, Hon-atsugi
Mao Sone, Yoshiki Takahashi, Hayato Yamazaki


曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ

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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』

Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2022.6_Nu Deco Ensemble + Aaron Parks: Live from Miami:Monthly Disc Review

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Title : 『Nu Deco Ensemble+Aaron Parks: Live from Miami』
Artist : Nu Deco Ensemble & Aaron Parks

【21世紀の室内楽団と注目のピアニストAaron Parksの2021年コラボレーション作品】

みなさんこんにちは、トランペットとピアノの曽根麻央です。今日は2021年にリリースされたNu Deco Ensembleというマイアミで活動するオーケストラがピアニストAaron Parksをゲストに迎えたアルバムを紹介したいと思います。

実は先月までこのアルバムの存在を知らなかったのですが、私のバンド"Brightness of the Lives"のアルバムリリースツアーで 、車で移動中に、ギターの井上銘くんがかけてくれて、あまりの凄さにメンバー全員耳が釘付けになり、3回通しで聴きました。

Nu Daco EnsembleはアレンジャーのSam Hykenと、指揮者のJacomo Bairosによって創設されたオーケストラです。2015年頃からマイアミのエレクトロニック・シーンで注目を集め、ジャンルにとらわれず様々なアーティストとのコラボを行なっています。ニューヨークタイムスには「21世紀の室内楽団」と称されています。

Aaron Parksは2008年に『Invisible Cinema』をブルーノートからデビューして以来、現在もジャズ・シーンの最先端を切り抜けているピアニストで、美しいピアノのタッチ、絶対的なリズム感、独特のハーモニーセンスの持ち主です。

今回紹介する『Nu Deco Ensemble + Aaron Parks: Live from Miami』には『Invisible Cinema』の曲も収録されているので、Aaron Parksの出現とともに学生時代を過ごした私の世代には胸熱の作品になっています。

またこの作品は全編YouTubeでも収録の様子(ライブ)が公開されており、見ることができます。おすすめは耳だけでオーディオを聴いてから、どんな状況で録音されたのか確認すると楽しいかなと思います。

『Nu Deco Ensemble + Aaron Parks: Live from Miami¬』のリリースは2021年ですが、収録は2019年マイアミThe Light Boxのようです。


Aaron Parks (ピアノ、シンセサイザー、作曲)
Sam Hyken (編曲)
Jacomo Bairos (指揮)
Nu Deco Ensemble(演奏)



01. Siren

Aaron Parksの『Little Big』というアルバムから「Siren」という美くしい曲で幕を開けます。Bマイナーのサウンドが静かに響きメロディーが出現するとコードが徐々に形を変えて次から次にハーモニーを展開します。

パークスのスタイルでもありますが、 共通の音をもたせながら前の和音から次の和音に移動することで、まるで水が流れるかのように自然に曲を展開して行きます。Aセクションの最後2小節の副旋律がストリングスで奏でられBセクションよりオーボエが主旋律をとります。
オリジナルの『Little Big』ではエレクトリック・ギターでしたが、オーボエという、ジャズでは滅多に耳にしないサウンドで演奏されることで、曲本来が持つドラマがより大きく展開されている気がします。そしてまたAセクションに戻るときにはフル・ストリングスがメロディーをとり、展開が一旦クライマックスを迎えます。パークスのスタイルで同じ音を何度も連打してサウンドを作ることがありますが(のちの曲でも出て来ます)、この曲の終わりでもBの音を連打していますが、ここでは木琴がその役割を担っていてとてもインパクトがありました。

メロディーの後のパークスのソロもとても美しく、テンポにとらわれることなく自由に展開しています。このレコーディングでは、耳だけで聞いた時は電子キーボードなのかなと勘違いするぐらいブライトなタッチでピアノを奏でていて印象深いです。
その後またBの連打するセクションが登場し、曲が一旦落ち着きながらゆっくりと展開します。Bを連打しつつベースの音を移動することで世界がガラッと変わる瞬間がとても素晴らしいです。

その後もインタルード的なセクションが曲をクレッシェンドし、新たなセクションでエレキ・ギターとベースがユニゾンを始めます。それによって世界が一気にロックな世界へと様変わりし、最終的なクライマックスを迎えます。このパートのオーケストレーションは非常に素晴らしいです。そして登場するパークスのシンセが一瞬フレンチホルンのような雄叫びをあげつつ旋律を展開し、曲が徐々にディミュニエンドし終わります。

02. Chronos ~ 03. Interlude

ここからM4までは続けて演奏されます。「Chronos」はオリジナルはJoshua Redman, Aaron Parks, Matt Penman, Eric Harlandの頭文字をとって命名されたバンド"James Farm"のアルバム『James Farm』の楽曲。

イントロで出てくる6音の連打の上にメロディーが書かれていて、それらがゆっくりと展開していく曲。Aのメロディーが2回繰り返された後にC#の連打の上で新たなメロディー(Bセクション)が出て来てイントロの部分に戻るというシンプルな構成。その後新たな伴奏パターン(Ostinato)がピアノで提示され、それが持続している上でオーケストラが曲を展開し行きます。

徐々に最高潮に達したところでベースが動き出し、元々のAセクションとBセクションの上でシンセソロが聴けます。このシンセは映像で見る限りパークスではなくNu Decoのメンバーによるものです。その後同じパートの上でパークス自身もシンセソロをとります。左手はピアノで伴奏パターンを常にキープしていますね。

その後、曲は一旦ディミュニエンドし、新しいハーモニーが聴こえて来ます。ただこの間、C#は常に連打されています。C#をキープしつつハーモニーを展開しているのです。その上でドラムソロが奏でられ、徐々にグルーヴへ戻り、シンセソロになってクライマックスへと向かいます。そこから自然とピアノソロになりInterludeへと繋がります。このInterludeは次の曲、「Nemesis」へと導かれます。「Nemesis」はデビュー作『Invisible Cinema』からパークスが演奏し続けて来た代表作です。

04. Nemesis
Nemesisは「報復の女神」のことです。Bの連打とともに激しいロックフィールが奏でられ、ギターで主旋律が演奏されます。一部G#に移りますが、ほぼほぼ終始このB連打をキープしている曲で、パークスの演奏・作曲スタイルを代表する曲でもあると改めて思います。ソロはパークスのシンセサイザーで演奏されたのち、ギタリストに渡されます。グルーヴも曲調もテンションも一曲通して変わらないのもこの曲の特徴です。メロディーも非常にかっこよく何度も演奏されるので是非覚えてください。

このアルバムは映画音楽的でもあり、コンテンポラリー・ジャズでもあり、ピアノ音楽でもあり、ロックでもあります。多くの人に聞いてほしい2021年の傑作だと思います。

それではまた次回。

文:曽根麻央 Mao Soné

Recommend Disc

Title : 『Nu Deco Ensemble + Aaron Parks: Live from Miami』
Artist : Nu Deco Ensemble & Aaron Parks
LABEL : Nu Deco Ensemble
発売年 : 2021年

Amazonで聴く

【SONG LIST】

01.Siren (Live)
02.Chronos (Live) 
03.Interlude (Live)
04.Nemesis (Live)

【曽根麻央LIVE INFO】

6/18 (SAT)
Open 19:00 | Start 20:00
MAO SONÉ SOLO @ Nardis 柏
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 04-7164-9469 email : knardis@mac.com

6/21 (Tue)
Open 19:00 | Start 19:30
MAO SONÉ TRIO @ Velera 赤坂
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
伊藤勇司- bass
木村紘 - drums

6/22 (Wed)
Open 19:00 | Start 19:30
MAO SONÉ & YUJI ITO @ Apple, YOKOHAMA
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
伊藤勇司- bass ​

6/26 (Sun)
Open 18:00 | Start 19:00
MAO SONÉ Solo @ Cabin 本厚木
<出演>
​​曽根麻央 - piano & trumpet
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 046-221-0785

6/27 (Mon)
Start TBA
Good "Jam Session" Parlor @ TBA
<出演>
TBA​

7/20 (Wed)
Open 18:30 | Start 19:30
TAKANA MIYAMOTO & MAO SONÉ @ 渋谷Body & Soul
<出演>
宮本貴奈(pf,vo)
曽根麻央(tp,pf,vo)

曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ

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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

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Title : 『Ella And Louis』
Artist : Ella Fitzgerald And Louis Armstrong



【ジャズ界のキングとクイーンによるコラボ作品】


エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングという偉大な2人が自然体でミディアム〜バラードのテンポで演奏しています。さらにその伴奏をオスカー・ピーターソンを中心としたリズムセクションが務めるという豪華なアルバム。私自身もこのアルバムを小学生の頃から聴いていて、このアームストロングのソロに合わせて楽器を練習した記憶があります。歌心が最高で、抑揚のつけ方、ビブラート、音と音の間のとりかた、どれも最高です。





ジャズはある種の自然発生した音楽なので創始者を特定するのは難しいですが、ルイ・アームストロングは間違いなく最初にジャズを芸術の域まで到達させた人物であると言われています。
1901年に生まれたアームストロングは1971年に亡くなるまで、アメリカを代表するアーティストとして様々な名演奏を残しました。トランペッターでもありシンガーでもあるアームストロングはその両方において大変大きな影響を後世に与えました。


アームストロング以前のジャズトランペットは主にメロディーを吹くのが精一杯でしたが、そこにアームストロングはクラリネットのテクニックを持ってきました。当時のクラリネットはトランペットの主旋律に寄り添うように、和音をアルペジオで演奏して合いの手を入れる役割が主でした。管楽器は単音楽器なのでピアノのように和音を一度に鳴らすことができません。そこで和音を分散させて演奏するアルペジオを使った即興的な伴奏パートをクラリネットは担当していました。アルペジオは音が跳躍するためトランペットで演奏することは非常に困難ですが、アームストロングはこれをトランペットに取り入れ、主旋律としても使用することで、ジャズの即興演奏のレベルを大きく飛躍させました。


またアームストロングの持つ独特の声が、アメリカのポピュラー音楽の歌唱を変えました。語りかけるような独特な間の取り方、フレーズの終わりに向けてかかるビブラート、シャウトする表現などあります。特にジャズのボーカルとしてはスキャットを初めてレコーディングで取り上げ、ボーカルでの即興演奏の可能性を最初に見出しました。


エラ・フィッツジェラルドもスキャットを得意とするボーカリストで、メロディーも自由自在に楽器のように操り、ボーカルの新しい表現を見出した人です。1917年生まれということでアームストロングよりもディジー・ガレスピーやセロニアス・モンクなどのモダンジャズを生み出した新しい世代のミュージシャンになります。当然フィッツジェラルドの若い頃には、アームストロングは多くのレコーディングをこなしヒットも出していますので、音楽的な影響はかなりあったでしょう。ただフィッツジェラルドはbebop世代で、チャーリー・パーカーやガレスピーより早く、正確な演奏を聴く機会も多かったので、それを歌でも表現可能なことを見事に証明した人の一人です。


Ella Fitzgerald (Vocals)
Louis Armstrong (Trumpet, Vocals)
Oscar Peterson (Piano)
Herb Ellis (Guitar)
Buddy Rich (Drums)
Ray Brown (Bass)




さてこのアルバムは有名なジャズのプロデューサー、ノーマン・グランツが11曲を選曲し、1956年に録音した作品です。アームストロングは持ち味の歌心と独特の間で聴く人を捉えますし、フィッツジェラルドも最高の声と圧倒的な歌唱で感動させます。圧倒的な歌唱と書いてしまうとまるで熱唱しているように捉えられてしまいますが、圧倒的すぎて力が抜けているので、こちらもリラックスして聴ける最高の歌が聴けます。リズムセクションにはオスカー・ピーターソン、ハーブ・エリス、レイ・ブラウン、バディー・リッチというジャズを代表するミュージシャンが参加しており、とても一体感のある豪華なトラックになっています。





どの曲も最高の出来になっていてゆっくりと聴いていただきたいのですが、特に「Cheek To Cheek」は二人のキャラクターが聴こえてきて、この最強のリズムセクションも一体感が特にあります。「Tenderly」はアームストロングのトランペットが心から歌っていて、エンディングでトランペットに絡んでくるフィッツジェラルドも最高です。ぜひ聴いてみてください!

それではまた次回。

文:曽根麻央 Mao Soné





【曽根麻央LIVE INFO】

5/29 (Sun)
Open 15:00 | Start 16:00
MAO SONÉ Solo @ Cabin 本厚木
<出演>
​​曽根麻央 - piano & trumpet


曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ



Recommend Disc

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Title : 『Ella And Louis』
Artist : Ella Fitzgerald And Louis Armstrong
LABEL : Verve Records
発売年 : 1956年


アマゾン詳細ページへ


【SONG LIST】

01.Can't We Be Friends
02.Isn't This A Lovely Day 
03.Moonlight In Vermont
04.They Can't Take That Away From Me
05.Under A Blanket Of Blue
06.Tenderly
07.A Foggy Day 
08.Stars Fell On Alabama
09.Cheek To Cheek
10.The Nearness Of You
11April In Paris




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央

2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』




Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2022.4_Old And New Dreams_Old And New Dreams:Monthly Disc Review

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Title : 『Old And New Dreams』
Artist : Old And New Dreams






みなさんこんにちは、曽根麻央です。今日はオーネット・コールマンのサイドメン達が集まり結成したバンド「Old and New Dreams」の2枚目のアルバムを紹介したいと思います。


【オーネット・コールマンの音楽を受け継ぐバンド】

「Old and New Dreams」は1976-87年まで活動したバンドで、Dewey Redman、Don Cherry、Charlie Haden、Ed Blackwellといった名手達の演奏を聴くことができます。またメンバー全員が偉大なOrnette Colemanの音楽を受け継いでいて、60年代のfree jazzから、70年代のNYロフトシーンへの繋がりも感じ取れます。

ロフトシーンとはNYマンハッタン、特にSohoなどの今では最高級エリアに、ジャズミュージシャンが多く広いロフトを持っていた時代のことで、そこで夜な夜な集まり実験的なセッションを重ね、音楽的高まりを見ることができました。ロフトを持つミュージシャンはリハーサルやセッションなどに多く利用され、ロフトに集まる仲間はバンドメンバーとして音楽的、人間的繋がりが強固なものになりました。

この『Old and New Dreams』もそんなアツい時代を感じられる一枚です。



Charlie Haden (bass)
Ed Blackwell (drums)
Dewey Redman (Tenor Saxophone, Musette)
Don Cherry (Trumpet, Piano)




01. Lonely Woman
ヘイデンのベースソロが重音を奏で不思議な和音を奏でます。そこからブラックウェルの最高に綺麗なシンバルワークが聞こえてきたと思えば、チェリーとレッドマンのユニゾンで有名な「Lonely Woman」のメロディーが聴こえてきます。「Lonely Woman」はコールマンの59年の代表曲で、『Shape of Jazz to Come』の中に収録されています。ヘイデンとチェリーがオリジナルのレコーディングにも参加しているので聞き比べると面白いでしょう。






オリジナルよりもゆったりと、自由に演奏されて、リズムやハーモニーに関する解釈が20年かけて拡大されていますね。また録音状態も良いのでそういった意味でも楽しめる音源と思います。

ソロに入るとブラックウェルは早いスウィングのパターンを分解し、大きく捉え音楽に隙間を与えてソリストに間を与えています。ヘイデンもそのスペースを利用しベースでハーモニーを作り出しています。チェリーのソロ途中でブラックウェルがマレットに持ち替えてテンポやフィールをガラッと変えているのもとても素晴らしいです。

 Lead and Followというコンセプトがロフトジャズ以降のフリージャズでは大事になっています。もちろんそれ以前のジャズでも大事なのですが。誰かが音楽をリードする時もあれば、サポートに回ることもあるということです。Lead and Followの役回りをうまく立ち回れるかがアンサンブル能力に直結します。


02. Togo
ドラマーのブラックウェルの曲。インディアンやアフリカのリズムに影響を受けて書いたのがわかる一曲です。ブラックウェルのカウベルを導入したドラムがフィーチャーされます。


03. Guinea
ドン・チェリーの曲。ギニアは西アフリカの国の名前です。この時代よりチェリーは多くの民俗音楽に影響を受けた作品を多く残していますのでこれもそんな曲なのかもしれません。特徴的な5音階で書かれたベースラインがとてもかっこいいですね。この5音階はアフリカの音楽でよく歌われるものです。レッドマンのソロで急にピアノが演奏されていますが、おそらくチェリーが衝動的に弾いている音と思われます。


04. Open Or Close
オーネット・コールマンの曲。やはり彼の曲はスタイルがあり聴くだけでわかりますね!早いスウィングの上に2管編成で演奏される独特のメロディーライン。まるで興味深いおしゃべりや雑談を聞かされているかのような雰囲気があります。このオーネットスタイルを作り上げた人たちが、このスタイルをオーネット抜きで再構築している様はとても興味深いですね。


05. Orbit of La-Ba
レッドマンの曲。いわゆる中国の楽器、チャルメラをレッドマンが吹いています。チャルメラというと我々日本人にはラーメンフレーズしか出てきませんが、こんなにも沢山のクリエイティブなフレーズが出てくるものなのかと楽器の価値を再認識させてくれるトラックになっています。曲の途中、トランペットとチャルメラのみのパートもあり、かなり意外なサウンドになっていると思います。またベースも特殊なチューニングでノイズの乗るようなサウンドにしていて、それが楽曲全体の大きなカラーとなっています。


06. Song For The Whales
ヘイデンの曲。かなりアンビエント色の強いトラックです。ヘイデンは終始アルコ(弓)でイルカの鳴き声のようにベースを演奏しています。そこに呼応するようにチェリーも参加してきます。5分ぐらい経過してようやくテーマが演奏されます。早いスウィングのフレーズをブラックウェルが奏で、その後ろでヘイデンは強烈な弓のサウンドを終始連打しています。メロディーは「Lonely Woman」のようにリズムとは関係なくルバートで展開されています。

バンドでの一体感のある音楽を、各々の興味のある題材を取り入れながら自由に作っていてとても良いですね。私曽根も来月は自分のバンドで全国のみなさんの元に行きます!各地でお会いできると嬉しいです!


それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné


【曽根麻央LIVE INFO】

【Brightness of the Lives Release Tour】
5/17(火) 蔭凉寺 岡山
5/18(水)ビルボード・ライブ大阪
5/19(木) ミスター・ケニーズ 名古屋
5/20(金) ライフタイム 静岡

【Member】
曽根麻央 - trumpet, piano & keybord
井上銘 - guitar
山本連 - bass
木村紘 - drums
全国各地の皆様にお目にかかれるのをメンバー一同心より楽しみにしております。是非お近くの会場まで足をお運びください。待ってます!


曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ



Recommend Disc

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Title : 『Old And New Dreams』
Artist : Old And New Dreams
LABEL : ECM Records
発売年 : 1979年



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【SONG LIST】

01.Lonely Woman
02.Togo 
03.Guinea
04.Open Or Close
05.Orbit Of La-Ba
06.Song For The Whales




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央

2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.2『Take Five / Dave Brubeck』




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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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曽根麻央 Monthly Disc Review2022.3_Dave Brubeck_Take Five:Monthly Disc Review

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Title : 『Take Five』
Artist : Dave Brubeck



みなさんこんにちは、曽根麻央です。先日はブルーノート東京「Brightness of the Lives Release Live」に足をお運びいただきありがとうございました。本当にびっくりするぐらい沢山の方にご来場いただき感謝いたします。このバンドでは5月に中国、関西、東海道ツアーをしますので是非観に来てください!

【Brightness of the Lives : Album Release Tour】 曽根麻央(tp/fgh/p/keys) 井上銘(gt) 山本連(eb) 木村紘(ds) 5/17(火) 蔭凉寺 岡山 5/18(水) ビルボード・ライブ大阪 5/19(木) ミスター・ケニーズ 名古屋 5/20(金) ライフタイム 静岡


【デイヴ・ブルーベック、おすすめライブ盤】

1982年のモントルー・ジャズ・フェスティバルでのデイヴ・ブルーベック・カルテットの演奏は有名盤ではないが人の心を熱く燃え上がらせる不思議な力があると僕は思います。僕自身、小学生の頃にこのアルバムをスウィングジャーナルの元編集長で地元が一緒で大変お世話になった、故・児山紀芳先生から譲り受けていらい、ずっと憧れて来たアルバムです。ピアノとエレクトリック・ベースとドラムが一体となって作り出す、アコースティックにはない熱量は小学生の僕には大変新鮮なものでした。もちろん「Time Out」などのオリジナルの音源は当時から聴いていましたが、こちらのライヴ盤の方がよりグルーヴ感がより好みだったのを覚えています。このライヴ盤のバンド・サウンドを聴いていなければ僕の現在のバンド「Brightness of the Lives」の構想には至らなかったかもしれません。



Dave Brubeck (piano)
Bill Smith (clarinet)
Chris Brubeck (electric bass)
Randy Jones (drums)




正直あまり名前を見ないミュージシャンも多くいますので、短く紹介します。

Bill Smithはクラリネット奏者でジャズとクラシックの両方の音楽性をマスターしている人物。のちにアメリカを代表する作曲家ガンター・シュラーに「The Third Stream」と名付けられたクラシックとジャズの融合を50年代に試みた取り組みを行った人物の一人です。ブルーベックとは長いキャリアを通してコラボをしています。
Chris BrubeckはDave Brubeckの息子でベーシストだけでなくベース・トローンボーン奏者。このアルバムでもBig Bad Basieで素晴らしいソロを披露しています。
Randy Jonesはメナード・ファーガソンやトニー・ベネットとも演奏しているドラマーです。


01. Tritonis
独特のベースラインの上で展開される5拍子の曲です。1980年の『Dave Brubeck Quartet』というアルバムに入っている曲です。Daveの力強いタッチがピアニストとしての力量を感じさせます。クラリネットのソロの伴奏でもジャズでは珍しいぐらいとてもシンプルではっきりとしたハーモニーを使い、リズムもわかりやすく提示しています。ブルーベックのソロはどこか中東の雰囲気を残しつつ、ブルースのスタイル、ラテンのモントゥーノのスタイル、クラシカルなスタイルを行き来する自由なもの。これは国外の音楽に自己の音楽のヒントを得たブルーベック独特の表現と言えるでしょう。


02. Koto Song
日本の音階に影響を受けて書いた一曲。小泉文夫氏の著書『日本の音』よりスケールの分類を拝借するとしたら都節音階を用いたブルース形式の曲。ブルーベックのピアノが日本の独特な間と空気感を独自の解釈で表現していてとても面白い一曲です。それに続くBill Smithはディレイのエフェクターを使いスケールできることを極限まで展開しているのが魅力です。それにしてもBill Smithのクラリネットの技量と歌心に驚かされます。ダイナミックの豊かなことですね!


03. Out Of The Way Of The People
C一発のスピード感のある楽曲。短いテーマの後にBill SmithとDave Brubeckの同時インプロヴィゼーションが凄まじいエネルギーとともに展開されます。その後はRandy Jonesのドラムソロをフィーチャーしています。


04. Big Bad Basie
Dave Brubeckはよく別アーティストの特徴を捉えて自己の楽曲を制作することがありました。これもそんな一曲かと予想します。ど直球のベイシー風のスウィング曲。Dave Brubeckのストライド・ピアノまで聴けるある意味珍しいテイクです。Chris Brubeckは途中ベースからベース・トロンボーンに持ち替え素晴らしいソロを展開しています。


05. What Did I Do To Be So Black And Blue
Chris Brubeckのベース・トロンボーンをフィーチャーした一曲。ルイ・アームストロングが歌った名曲で、人種差別の悲しさを歌った一曲です。


06. Take Five
言わずと知れた名曲ですね。Paul Desmondが作曲してDave Brubeckのバンドで演奏し、アメリカの歴史に残る名曲となりました。おそらくジャズ史上一番有名になった変拍子(5拍子)の曲でもあります。メロディーはAABBAAですが、ソロは有名なVampの上で展開され、モードジャズの影響も感じることができる作品です。このテイクではソロをさらにストレッチして、Brubeckの大胆なソロも聞くことができます。
というのもオリジナル・バージョンである『Time Out』の中のテイクではメンバー全員が5拍子に慣れておらず、20テイク以上録音したという説があります。当時のジャズは1-2テイクが主流でしたからこれは異常な事態です。そのためDave Brubeckは基本パターンに忠実に終始キープに務めたと考えられます。この82年の時期には5拍子は普通の表現となったので、より自由にピアノをフルに活用したソロを聞くことができます。


07. Benjamin
Dave Brubeckの子供の名前からとったというこのタイトル。ラテン分のグルーヴの上で構成されるシンプルな明るいメロディーが特徴。


08. Blue Rondo A La Turk
Dave Brubeckの代表作品。トルコのリズム2+2+2+3のまとまりの9拍子にヒントを得て、それを基盤に展開される非常によくできた楽曲。ソロ部分はシンプルなFブルースになっており、そこが聴衆の興奮を最高潮に高めます


それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné


【曽根麻央LIVE INFO】

---3月---

・3/31 (木) @ 柏Nardis
 曽根麻央(tp/p) 高橋佳輝(b) 山崎隼(ds)
 今回は初の組み合わせのトリオ!素晴らしい高橋佳輝のベースに20歳のドラマー山崎隼と作り上げるサウンドはどうなるのか、今から楽しみです。

---4月---

・4/2 (土) @ 本厚木キャビン
 丈青(p) 曽根麻央(tp/fgh)
 恒例となった、ソイル&ピンプセッションズの丈青さんとのこのデュオは、美しいメロディーとその世界観を大事に、二人にしか出せない響きをお届けします。

・4/5(火) @ 赤坂Velera
 MAO SONÉ Trio
 曽根麻央のレギュラートリオ!in 赤坂!

・4/11(月) @ 柏Nardis
 MAO SONÉ Trio
 曽根麻央のレギュラートリオ!in 柏!

・4/14 (木) @ TBA
 ?????
 (情報解禁をお待ちください)

・4/15 (金) @ 古河アップス
 宮本貴奈 ソロピアノ&弾き語り
 Special Guest: 曽根麻央 (Tp/Pf)

・4/17 (日) @ 小岩コチ
 曽根麻央(p/tp) 伊藤勇司(b)
 私と長年コンビを組む伊藤とのデュオ!トリオとはまた違った呼吸の相方を楽しみに聞きに来てください!

・4/18 (月) @ TBA
 ?????
 (情報解禁をお待ちください)

・4/19 (火) @ 横浜Apple
 若井優也(b)& 曽根麻央

・4/24(日)@ 本厚木キャビン
 MAO SONÉ Solo
 同じく本厚木のキャビンで恒例の曽根麻央のソロ!JAZZスタンダードを中心に心地よくグルーヴします!

・4/26 (火) @ 渋谷クラシックス
 曽根麻央クインテット
 片倉真由子(p) 松丸契(sax) 伊藤勇司(b) 木村紘(ds)
 アーツカウンシル東京の助成を受け、映像と音源をライブ収録いたします。ピアノも調律師を当日ずっと入れて万全の音環境で望みます。この機会をお見逃しなく。

・4/27 (水) @ 渋谷Body & Soul
 曽根麻央(pf,tp) 苗代尚寛(g) シン・サカイノ(b) 小田桐和寛(ds)
 ボストン=ニューヨーク・コネクション!久々のこのメンバーでボストンのホーム、ウォーリーズに帰ったかのような気持ちで演奏します。

・4/30 (土) @ 水戸 Girl Talk
 二台のピアノによる DUO
 若井優也 & 曽根麻央
 ベヒシュタインとヤマハのグランドピアノを2台並べて行うライブです。お相手は尊敬するピアニストの若井優也さん。調律は大信頼の井手雄一氏。

---5月---

【Album Release Tour】
曽根麻央、井上銘、山本連、木村紘
5/17(火) 蔭凉寺 岡山
5/18(水)ビルボード・ライブ大阪
5/19(木) ミスター・ケニーズ 名古屋
5/20(金) ライフタイム 静岡
9/23(金・祝) TBA


【そのほかのリーダーライブ】
5/14 (土) 曽根麻央トリオ@ 渋谷Body&Soul
5/15 (日) @ 本厚木キャビン
5/23 (月) 石川紅奈&曽根麻央 @ Apple 横浜
5/29(土) @ 本厚木キャビン


---その他のサポートライブ---
3/19 ユッコ・ミラー @甲府ジャズフェス
4/7 鈴木宏紀 @ Alfie
4/10 Kalta Otsuki @ Satin Doll
4/25 Kensuke Miyaki Big Band @ Bb Akasaka
5/1~5/6 Support Tour @ TBA
5/8 Masahiko Osaka @ Satin Doll


曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ



Recommend Disc

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Title : 『Take Five』
Artist : Dave Brubeck
LABEL : Prism Leisure
発売年 : 2000年



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【SONG LIST】

01.Tritonis
02.Koto Song 
03.Out Of The Way People
04.Big Bad Basie
05.(What Did I Do To Be So) Black And Blue
06.Take Five
07.Benjamin
08.Blue Rondo A La Turk




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央

2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』




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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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曽根麻央 Monthly Disc Review2022.2_ Kenny Dorham_ Quiet Kenny:Monthly Disc Review

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Title : 『Quiet Kenny』
Artist : Kenny Dorham



みなさんこんにちは、トランペットとピアノの曽根麻央です。さて今回はジャズトランペットの代表的存在、ケニー・ドーハムの『Quiet Kenny』についてお話しします。もうすでにたくさんの方がご存知のこのアルバムですが、改めてケニー・ドーハムのトランペッター、そして曲としての素晴らしさを再認識できたら良いなと考えております。


本題に入る前に曽根麻央の最新アルバム発売についてお知らせします。2/9に発売しました最新作『Brightness of the Lives』はアマゾン等で販売開始しております。是非お手にとって聴いていただけると嬉しいです。
 私が学生時代より一緒に活動している、井上銘、山本連、木村紘といったメンバーと作り上げたバンドサウンドが凝縮されています。またゲストに世界的なパーカッショニスト二階堂貴文を迎えてサウンドに新たな風を呼び込みました。




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Title : 『Brightness of the Lives』
Artist : 曽根麻央
LABEL : リボーンウッド
NUMBER : RBW-0022
RELEASE : 2022.2.9



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【SONG LIST】


01. Prelude
02. Luminous
03. Drum Hero
04. Home
05. Quiet Cinema
06. Air
07. Lives
08. You Are Not Alone
09. Gathering At Park Drive
10. Always And Forever





【リリースツアー】
3/12(土) ブルーノート東京
5/18(水) ビルボードライブ大阪
5/19(木) Mr. Kenny's 名古屋
5/20(金) Life Time 静岡




【名盤『Quiet Kenny』再検証】

ケニー・ドーハムの『Quiet Kenny』はジャズトランペットのアルバムの代表格です。1曲目の「Lotus Blossom」はトランペッターなら必ずコピーして練習する曲の一つです。

ドーハムの特徴は、美しいソロのラインを訥々としたスクエアなアーティキュレーションで演奏することです。録り音はとても柔らかい印象ですが当時のバップトランペッターの中では最も音量が大きかったという噂を聴いたことがあります。が、今となって真偽は確かめられませんね。また少しフレーズの最初の音をしゃくりあげるようなベンディングで雰囲気を作るのも特徴です。スクエアなアーティキュレーションなのでドラムのスネアのようなリズミックな演奏が可能です。ダイナミックスと音域はそこまで広くないですが、それを必要としないメロディーセンスが素晴らしいです。それではメンバーを見てみましょう。



Kenny Dorham - trumpet
Tommy Flanagan - piano
Paul Chambers - bass
Art Taylor - drums




言わずとしれたジャズの名手ぞろいです。

録音に関してはトランペットがかなりマイクに近い印象で、ドラムのスネアに独特のリバーブが効いていてそれがどこか心地よいサウンド作りになっています。



01. Lotus Blossom
「蓮の花」と日本語のタイトルも付いている曲。ドーハムの代表曲でフレディー・ハバードやその他のジャズレジェンドにも多くカバーされている名曲。ドーハムの作曲家としての素晴らしい一面を捉えた楽曲でしょう。

イントロではインパクトのあるライドシンバルで始まり、次の瞬間にはベースが細かいラインを奏で、どこかアジアを連想させるような完全4度と5度で作られたハーモニーがピアノで奏でられます。
そのモチーフから作られたメロディーがドーハムによって演奏され曲が聞こえてきます。曲自体はAABAフォームというジャズの一般的な形式ですが、拍子が複雑に入り組んでいてこの曲を唯一無二の存在としています。AABAフォームとは8小節の基本となるメロディー(Aセクション)が二回繰り返されたのち、それに続くように違うメロディーが8小節演奏され、最後に最初と同じAのメロディーに戻る形式です。真ん中の一回しか出てこないメロディーがAと最後のAを架け橋のようにつなぐことから「ブリッジ(B)」と呼ばれます。

Lotus BlossomではAセクション最初の4小節は3/4(もしくは6/8)で書かれています。そしてその3のまとまり感をキープしつつ、後半の4小節では4拍子になり、3のまとまりがアクセントやシンコペーションとして機能する素晴らしい作りになっています。シンコペーションとはリズム的に面白さを出すために予想外の拍に強拍を置くことです。
このように展開が細かいとグルーヴは停滞しているように聞こえるのですが、そこでBセクションは思いっきりスウィングして曲を前へ進める対の役割を担っています。

ソロセクションは普通に4拍子でとても綺麗なソロをドーハムがとっています。スクエアなタンギングとニュアンスがとても特徴的なドーハムなのソロ。しかし作られるメロディーが綺麗なので、カクカクしている感じには聞こえず歯切れ良いといった感じに聞こえると思います。

このスクエアなニュアンスは是非ジャズを勉強する人はみにつけてみてください。跳ねない、スキップしないスウィング。とても大事です。


02. My Ideal
チェット・ベーカーの歌でもおなじみのスタンダード曲。トミー・フラナガンの美しいイントロに続いて現れるドーハムの音色は、バケット・ミュートというバケツのような形をした裏に綿を詰めトランペットのベルに被せるように使うミュートを使っているので、音がすごく柔らかくなっています。最初の音を少しベンディングさせて雰囲気を作るのはドーハムのバラードを吹く時の特徴かもしれません。バラードでもソロではほぼ全部の8分音符にタンギングをつけてかなり訥々としてスクエアな演奏ではありますが、それが美しいメロディーラインを際立たせています。


03. Blue Friday
ドーハム作曲のマイナー・ブルース曲。シンプルなメロディーで覚えやすい曲です。この曲を聞くと思うのですが、当時のミュージシャンは必ずと言っていいほどブルースの曲を1曲は収録しています。そしてそんな歴代の演奏にポール・チェンバースは一体どれだけ参加したのでしょう?おそらく数えきれないブルースに参加していることと思います。このテイクでも完璧なベースラインを見せてくれています。ポール・チェンバースのすごさに関しては『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』の回でも解説しているので読んでみてください。


2020.7.15『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』


04. Alone Together
様々なミュージシャンがカバーしているジャズスタンダード。通常楽器ではDマイナーで 早めのテンポで演奏することが多いです。しかし、ドーハムはFマイナーでバラードとして演奏しているのでなんだか違う曲を聴いているような不思議な気分になりました。こちらのバラードでもフレーズの最初の音を少ししゃくりあげてベンディングすることでニュアンスを作る場面が多いので、やはりドーハムのバラードの歌い方の特徴が聞き取れます。


05. Blue Spring Shuffle
こちらもマイナー・ブルースの曲。本当にこの時代のジャズメンはマイナー・ブルースが好きですね!なかなか今の時代にミディアムのブルース2曲を1アルバムに入れる構成はしないですが、遊びのある時代のジャズを象徴しているとも言えます。


06. I Had The Craziest Dream
ストレートに演奏されていますが、ドーハムの良さが詰まった演奏です。先ほどから繰り返している淡々と訥々とした演奏、そしてしゃくり上げるような独特なニュアンスはもちろん、それに加え素晴らしいタイム感、絶妙なフレーズの始まりと終わり方など、素晴らしいソロを聞くことができます。決して広い音域を使っている訳でも、ダイナミックスが豊かな訳でもないですが、音楽的で美しいラインを歌い上げています。


07. Old Folks
ゆったりとしたスウィングで演奏されるスタンダード曲。こちらは3連音符を基調にしたソロの作り方になっていて統一感のある内容になっています。


08. Mack The Knife
アート・テイラーとトランペットの呼応がとても気持ちよくサウンドしているトラック。ドーハムのリズムのモチーフに反応してテイラーがそれに続いているのが、音楽的にこのオーソドックスなスタイルの演奏の中でも面白さを提供しています。


それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné





【曽根麻央LIVE INFO】

2/17 (Thu)
20:00 ~ 21:00
映画「トランペット」上映, トーク & トランペット演奏
@ キネマ旬報シアター (柏高島屋ステーションモール S館隣り)
劇場公式サイト
<「ブライトネス・オブ・ザ・ライヴス」発売記念 曽根麻央トーク&演奏付き短編映画上映>
場所 : スクリーン③
料金 : 一般 1500円 / シニア 1100円 / 大学 1000円 / 高校生以下 500円
20 : 00 ~ 20 : 17 頃 映画『トランペット』上映
20 : 17 ~ 21 : 00 頃 曽根麻央の舞台挨拶・トランペット演奏
終了後、CD 購入者にサイン会予定


2/18 (Fri)
20:00 ~ 21:00
映画「トランペット」上映, トーク & トランペット演奏
@ キネマ旬報シアター (柏高島屋ステーションモール S館隣り)
劇場公式サイト
<「ブライトネス・オブ・ザ・ライヴス」発売記念 曽根麻央トーク&演奏付き短編映画上映>
場所 : スクリーン③
料金 : 一般 1500円 / シニア 1100円 / 大学 1000円 / 高校生以下 500円
20 : 00 ~ 20 : 17 頃 映画『トランペット』上映
20 : 17 ~ 21 : 00 頃 曽根麻央の舞台挨拶・トランペット演奏
終了後、CD 購入者にサイン会予定


2/19 (SAT)
Open 16:00 | Start 16:30
MAO SONÉ Trio @ Velera 赤坂
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
伊藤勇司 - bass
木村紘 - drums
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 03-6277-8772


2/24 (Thu)
Open 18:00 | Start 19:00
MAO SONÉ Solo @ Cabin 本厚木
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 046-221-0785


2/25 (FRI)
Open 19:00 | Start 20:30
MAO SONÉ Trio @ Nardis 柏
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
伊藤勇司 - bass
木村紘 - drums
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 04-7164-9469 email : knardis@mac.com


3/12 (SAT)
[1st]Open3:30pm | Start4:15pm
[2nd]Open6:30pm | Start7:30pm
MAO SONÉ "Brightness of the Lives"
Release Live @ Blue Note Tokyo
<出演>​
曽根麻央(トランペット、ピアノ、キーボード)
井上銘(ギター)
山本連(ベース)
木村紘(ドラムス)
Guest:
二階堂貴文(パーカッション)


曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ



Recommend Disc

quietkenny200.jpg


Title : 『Quiet Kenny』
Artist : Kenny Dorham
LABEL : Prestige/New Jazz
発売年 : 1960年



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【SONG LIST】

01.Lotus Blossom
02.My Ideal 
03.Blue Friday
04.Alone Together
05.Blue Spring Shuffle
06.I Had The Craziest Dream
07.Old Folks
08.Mack The Knife




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央

2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil / タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2021.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』




Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

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Title : 『The Tony Bennett Bill Evans Album』
Artist : Tony Bennett / Bill Evans



みなさんこんにちは、トランペットとピアノの曽根麻央です。本日はデュオアルバムの最高峰とも言える『The Tony Bennett Bill Evans Album』をご紹介します。デュオはアンサンブルの形態としては最小なので、個の及ぼす影響力が大きいです。そのため集中力と高い音楽性、そして技術力が表現者に求められます。ジャズを志す人がアンサンブルを習得するのに最も適した形態であるとも言えます。数ある名作の中からこのアルバムをピックアップしたのは、アンサンブルの完璧とも言えるクオリティーの高さと、個々が持つ影響力が大きさゆえです。


本題に入る前に宣伝です。来月9日発売、曽根麻央のセカンドアルバム『Brightness of the Lives』がAmazon等で予約開始となりました。バークリー音楽時代からの仲間、井上銘 (guitar)、山本連 (bass)、木村紘 (drums)と作り上げて来たバンドサウンドが見事に収録されています。またキューバのパーカッションコンペでも優勝を果たしたNYで活動するパーカッショニスト二階堂貴文もゲスト参加しています。是非お手にとって聴いていただけると嬉しいです。


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Title : 『Brightness of the Lives』
Artist : 曽根麻央
LABEL : リボーンウッド
NUMBER : RBW-0022
RELEASE : 2022.2.9

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【SONG LIST】

01. Prelude
02. Luminous
03. Drum Hero
04. Home
05. Quiet Cinema
06. Air
07. Lives
08. You Are Not Alone
09. Gathering At Park Drive
10. Always And Forever





【デュオアルバムの最高峰】


さて、スタンダード曲9曲を収録した『The Tony Bennett/Bill Evans Album』は1975年の2人の偉大なアーティストのコラボ・アルバムです。アメリカの音楽史で最も偉大な歌手の一人であるTony Bennettと、ジャズピアノの常識を根底から変えたアーティストBill Evansの共演を楽しむことができます。この作品の2年後に発売された『Together Again』でこの二人は再度共にアルバムを制作しています。

Tony Bennettは特徴的な声質と豊かな声量を持ち、表現力も豊かなシンガーです。ささやくような声から、オペラのような響きを自由自在に使い分けられる達人です。音程ももちろん正確で各曲の持つメロディーや歌詞の美しさを最大限に表現しています。各テイクのダイナミックスを明確に示し、聴く人の耳と心を自然とキャッチします。

一方、Bill Evansは各曲へ自身のハーモニーの解釈を取り入れ、スタンダード曲をより洗練されたものへと進化させています。ピアノのタッチも美しいだけでなく、ピアノの鍵盤の端から端までを使いこなし、サステイン・ペダル(踏むことによって弦を解放し全ての音が伸びるようにするペダル)やソフト・ペダル(音を柔らかく、小さくするペダル)も効果的に使用することで、ピアノという楽器をまさに完璧に操っています。リズムも正確です。伴奏でありながら音楽全体の雰囲気や方向性を支配しています。

アンサンブル、特にデュオにおいてフォロー&リードの能力が大切です。リードするとは音楽やアンサンブルの主導権を握ることで、それに対してフォローはそのサポートや追随に回ることを指します。デュオではフォロー&リードの役割が結構な頻度で入れ替わり立ち替わってゆきます。どちらかがリードに徹すると、もう一人がフォローに回ります。またこの逆もしかりです。一見、歌とピアノでは歌が主導権を握りピアノが伴奏に徹すると思われがちですが、このEvansとBennettのデュオはそんなことありません。



Tony Bennett - vocal
Bill Evans - piano






01. Young and Foolish
僕らが今も若くて愚かだったらどんなに良かったことかという寂しげな曲。曲の出だしからピアノと歌のサウンドが素晴らしく、一瞬にして耳を鷲掴みにされてしまいます。Bennettの歌う完璧なメロディーラインとそれに対応するかのように変化を繰り返すEvansのヴォイシング。伴奏というよりかはもう一つのメロディーのようです。Evansの前半のソロは静かに何か秘めているような演奏ですが、徐々に後半に向けて情熱的になり曲をクライマックスへと導きます。


02. Touch Of Your Lips
今度はなんとも甘いタイトルのスタンダード曲。Chet Bakerの演奏でも有名ですね。この曲では少しアップテンポで演奏され、歌やハーモニーの間を縫うようにEvansの左手が低く小刻みにビートを心地よく奏でます。彼のソロピアニストとしての並外れたすごさがわかる音源でもあります。


03. Some Other Time
レナード・バーンスタインが音楽を作曲したミュージカル『On The Town(踊る大紐育)』の挿入歌。時間の過ぎ去るのはとても早く、やりたいことの半分もできていない、伝えたい言葉が多すぎる、だからまたいつかね、というラブソング。Evansは自身の楽曲「Peace Peace」やMiles Davisの「Flamenco Sketches」に使用したのと全く同じリフ(パターン)をイントロや伴奏に使用していて、基本このパターンの上でまるで時が流れるように曲が展開していきます。


04. When In Rome
Peggy Leeによるバージョンがオリジナルの曲。楽器の人が今となってはあまり取り扱わない楽曲なので、このアルバム以外で私は知りませんでした。少しブルージーなイントロから始まるこのバージョン。軽快な中庸なスウィングで演奏されています。


05. We'll Be Together Again
別れはサヨナラじゃない、いつかまた、一緒になれる、という悲しいラブソング。曲と歌詞がとても美しく、僕自身演奏するのも聴くのも大好きな曲です。ハーモニーの構成も見事で途中で暗い短調に転調するところなど見事です。  
 Bennettの枯れた声と、Evansの悲しいサウンドが曲をより一層、その悲しい物語の世界へと近づけています。イントロもEvansの訥々としたアルペジオがこの曲のストーリーを語ってくれています。


06. My Foolish Heart
Evansといえばこの曲を思い浮かべる方も多いでしょう。一番有名なのはScott LaFaroとPaul Motianとライブレコーディングしたアルバム『Waltz For Debby』の中に収録されているバージョンでしょう。
このバージョンではバース(メインメロディーの前に歌われる部分。ジャズでは省略されることが多いが、曲のストーリーを語る上で重要なパート。ミュージカルの曲に多くあります)も歌われ、我々がよく知るバージョンとはかなり異なります。この曲は他の曲に比べると淡々と歌われ弾かれている気がします。それが夜に騙されて踊らされてしまう「愚かな心」を表しているのかもしれませんね。









07. Waltz For Debby
Evans が姪に贈ったジャズ史を代表する名曲。今は幼くおとぎ話やぬいぐるみと共に暮らしている可愛らしい彼女が、いつかは大きくなって愛する人を見つけて家を出て行ってしまうことを私が一番悲しむだろう、という歌。原曲より全音低く演奏されていますが、まるでBennettの為に書かれたかのように彼の声にぴったりはまっていますね。Evansのソロやトリオバージョンより、さらにストーリーが見えてくると思います。曲が進むにつれてより段々とハーモニーが複雑になるのも彼女の成長を表しているのでしょうか?


08. But Beautiful
愛は悲しくも楽しく、また良しも悪しもあるが、それでも美しい、という名曲。ルバートで最初のテーマは演奏されますがお互いのリードとフォローが見事で、フレーズとフレーズの間が完璧ですね。またダイナミクスのつけ方も素晴らしく、愛というテーマに対してぴったりな壮大なバージョンに仕上がっています。


09. The Days Of Wine And Roses
誰もが知る名曲「酒とバラの日々」。Evansの通常の演奏ではスウィングで演奏されることが多いですが、このデュオでは1コーラスピアノソロ、次のコーラスでデュオのトータル2コーラスをルバートでメロディーを美しく演奏しています。よく知っている曲だからこそ、Evansの流れるようなハーモニーの構築力、タッチなどをよく聴き他のプレイヤーとの違いに気づくことができますし、Bennettの圧倒的歌唱力と豊かな表現にも驚かされます。是非聴いてみてください。


それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné





【曽根麻央LIVE INFO】

1/23 (Sun)
Open 15:00 | Start 16:00
MAO SONÉ Solo @ Cabin 本厚木
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
​<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 046-221-0785


1/30 (SUN)
Start 16:30
MAO SONÉ Trio @ Velera 赤坂
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
伊藤勇司 - bass
木村紘 - drums
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 03-6277-8772


2/4 (Fri)
Open 18:30 | Start 19:30
MAO SONÉ & DAVID BRYANT @ Body & Soul 渋谷
<出演>
​曽根麻央 - trumpet
David Bryant - piano
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 03-6455-0088


2/12 (Sat)
20:00 ~ 21:00
映画「トランペット」上映, トーク & トランペット演奏
@ キネマ旬報シアター (柏高島屋ステーションモール S館隣り)
劇場公式サイト
<「ブライトネス・オブ・ザ・ライヴス」発売記念 曽根麻央トーク&演奏付き短編映画上映>
場所 : スクリーン③
料金 : 一般 1500円 / シニア 1100円 / 大学 1000円 / 高校生以下 500円
20 : 00 ~ 20 : 17 頃 映画『トランペット』上映
20 : 17 ~ 21 : 00 頃 曽根麻央の舞台挨拶・トランペット演奏
終了後、CD 購入者にサイン会予定


2/13 (Sun)
20:00 ~ 21:00
映画「トランペット」上映, トーク & トランペット演奏
@ キネマ旬報シアター (柏高島屋ステーションモール S館隣り)
劇場公式サイト
<「ブライトネス・オブ・ザ・ライヴス」発売記念 曽根麻央トーク&演奏付き短編映画上映>
場所 : スクリーン③
料金 : 一般 1500円 / シニア 1100円 / 大学 1000円 / 高校生以下 500円
20 : 00 ~ 20 : 17 頃 映画『トランペット』上映
20 : 17 ~ 21 : 00 頃 曽根麻央の舞台挨拶・トランペット演奏
終了後、CD 購入者にサイン会予定


2/15 (Tue)
20:00 ~ 21:00
映画「トランペット」上映, トーク & トランペット演奏
@ キネマ旬報シアター (柏高島屋ステーションモール S館隣り)
劇場公式サイト
<「ブライトネス・オブ・ザ・ライヴス」発売記念 曽根麻央トーク&演奏付き短編映画上映>
場所 : スクリーン③
料金 : 一般 1500円 / シニア 1100円 / 大学 1000円 / 高校生以下 500円
20 : 00 ~ 20 : 17 頃 映画『トランペット』上映
20 : 17 ~ 21 : 00 頃 曽根麻央の舞台挨拶・トランペット演奏
終了後、CD 購入者にサイン会予定


曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ



Recommend Disc

tony_bill200.jpg


Title : 『The Tony Bennett Bill Evans Album』
Artist : Tony Bennett / Bill Evans
LABEL : Fantasy
発売年 : 1975年



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【SONG LIST】

01. Young And Foolish
02. The Touch Of Your Lips
03. Some Other Time
04. When In Rome
05. We'll Be Together Again
06. My Foolish Heart
07. Waltz For Debby
08. But Beautiful
09. Days Of Wine And Roses




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央

2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil / タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』




Reviewer information

maosona_A.png

曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2021.12_ 日野皓正_D・N・A Live In Tokyo:Monthly Disc Review

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Title : 『D・N・A Live In Tokyo』
Artist : 日野皓正



【トランペットとの一体感あるグルーヴィーなリズムセクション】


皆さんこんにちは。トランペッター&ピアニストの曽根麻央です。今日は日本を代表するミュージシャン、日野皓正さんのライブ音源『D・N・A Live In Tokyo』をご紹介します。本当に素晴らしいトランペットの演奏と、一体感あるグルーヴィーなリズムセクションがマッチして素晴らしいアルバムになっています。 


その前に一つ宣伝です。本日情報公開されました!
私、曽根麻央のセカンド・アルバム『Brightness of the Lives』が来年2月9日に発売決定いたしました!





アルバム・タイトルでもる『Brightness of the Lives』とは、僕のバンド名でもあります。参加しているアーティスト、井上銘(ギター)、山本連(ベース)、木村紘(ドラムス)と共に育てて来たバンドサウンドが見事に凝縮された作品と なっています。

ゲストには世界的に活躍するパーカッショニスト二階堂貴文を迎えてワールドミュージック的な幅の広い音楽性になっております。また、トランペットの音色に合う様に選曲や曲作りにこだわりました。カヴァー・ソングにはマイケル・ジャクソンの「You Are Not Alone」や、パッと・メセニーの「Always And Forever」といった美しい曲をピックアップして、トランペットやフリューゲルホルンを駆使して収録しています。是非聴いていただきたい一枚です。宜しくお願いいたします。




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1. Prelude / 2. Luminous / 3. Drum Hero / 4. Home / 5. Quiet Cinema / 6. Air / 7. Lives / 8. You Are Not Alone (R. Kelly) / 9. Gathering At Park Drive / 10. Always And Forever (Pat Metheny)
All songs written by MAO SONÉ except where indicated


【リリース・スケジュール】
1/2 6 /2022 アルバム先行配信 「Luminous」 配信
2/9/ 2022 『Brightness of the Lives』発売 サブスク 配信 /CD 流通 開始

さて本日ご紹介する日野皓正さんのアルバム『D・N・A Live In Tokyo』は2001年10月9日にBunkamura オーチャードホールでライブ録音されたものです。
さてメンバーを見ましょう



日野皓正 - trumpet
Sir ローランド・ハナ - piano
ロン・カーター -bass
ジャック・ディジョネット - drums




最高に豪華な組み合わせです。
実際にリズムセクションはグルーヴのキープ力と、音楽的爆発力を併せ持っていて、聴いていてあまりのスリルに自然と耳が奪われて体が揺れていきます。ローランド・ハナのベースラインの音域まで侵入してまで低音を使う独特なヴォイシングの隙間を華麗に縫いつつ音楽を前進させるロン・カーター。ジャック・ディジョネットの持つ破壊力をピアノのはじからはじまで使ってより大きな世界観へと聴き手を誘うローランド・ハナ。ロン・カーターのベースと最高のコンビネーションを発揮するジャック・ディジョネットのグルーヴ感。

3人がお互いに支えあうことにより、他に類を見ないリズムセクションとなっています。またその上に乗っかる日野皓正さんのトランペットも明るくて迫力のある音色と高度なテクニック、そして歌心で圧倒してきます。日野さんの音色は全体を通して、全てを貫く光線の様に、他の楽器の音の壁を貫いてこちらの耳に届きます。まるでマイルスのミュートプレイの様な鋭さが、トランペットそのままの状態でもある感じとでも言えます。


01. It's There
日野皓正さんの弟、日野元彦さんの楽曲。原曲はファンキーな曲ですがここではスウィング・ヴァージョンでの演奏です。
イントロから出現するロン・カーターのベースラインとそれに呼応するローランド・ハナのフレーズが曲全体を支配しています。ロンのベースラインは毎回ちょっとずつ変化があり、半音と半音の間の音などもあり実際になんの音を弾いているのかわからない箇所が結構あるのですが、それがまた音楽全体で聴くと緊張感だったり無重力感だったりと言ったものを感じさせてくれます。まさにマエストロのなせる技でしょう。

日野さんの特徴のあるエネルギッシュな音色がメロディーと共に出現します。ソロセクションはBb7とDb7を交互に演奏するスタイルで、この繰り返しの中を日野さんはトランペットの上から下までの音域を自由自在に行き来してソロを撮ります。これはトランペッターから見て凄まじいテクニッックで、しかも通常こんなにこのエネルギー感を持続させて吹き続けることは困難ですがそれを楽々とやってのけてしまいます。続くローランド・ハナのソロもダイナミックなソロになっていてジャック・ディジョネットとの駆け引きが素晴らしいです。まるでピアノ・コンチェルトを聴いているかの様な迫力のある箇所も沢山ありピアノファンの必聴ソロです。


02. Lori
ゆったりしたスウィングの日野さんオリジナル曲。ロン・カーターのベースラインが全体を通してクリエイティブで素晴らしいものになっています。まるでブギウギピアノの左手の様なベースラインが奥出現します。ハーモニックス(元の倍音列を使用した奏法)で通常のベースの音域にはない高音もベースラインの一部として使用していてベースの特殊奏法の可能性を聴く事ができます。ベースソロも圧巻です。とてもインタラクティブなロンのベースラインとも相性が抜群なジャックのドラムがグルーヴをゆったりと支えます。


03. For Toddlers Only
ロン・カーターの軽快なスウィングのポスト・ビバップのスタイルの曲。日野さんの音を張った時のテンションと、それがリリースされた時の柔らかな音色の対比を聴くのが非常に楽しい曲です。


04. Black Jack
日野さんのオリジナル曲。3拍子の曲で、とても特徴的なトランペットのメロディー・ラインで始まります。私の小学生の頃は日野さんの演奏を聴きに行くと必ずこの曲を演奏していたのを覚えています。一度聴いたら忘れないインパクトがある曲だなと思います。この曲のソロでも日野さんの圧倒的な馬力とテクニックを聴く事ができ必聴テイクになっています。


05. Up Jumped Spring
トランペットとドラムだけの曲。日野さんとジャック・ディジョネットのフリー・インプロヴィゼーションから始まります。ジャックはアフリカのトーキング・ドラムの様なフレーズから始まり、日野さんもまるで民族楽器の様な音を出しています。二人ともダイナミックスのレンジが広いので聴いていてびっくりさせられると思います。その後フレディー・ハバードの「Up Jumped Spring」のメロディーが聴こえて来ますがここでは激しい高速スウィングのバージョン。フレディーのオリジナルは3拍子の少し可愛らしいスウィングの曲です。この演奏は9分を超えていますが日野さんは本当にずっと吹き続けて音楽をリードしていきます。ジャックも美しいドラムの音色と、独特なプレイで音楽に変化をつけさせデュオなのに人々を飽きさせません。


06. Candy
リー・モーガンの演奏でも有名なスタンダード曲。ここではゆったりとしたブルースっぽいフィーリングで演奏されています。


07. Autumn Leaves
言わずと知れたシャンソンの名曲「枯葉」。ある意味各演奏者の個性を一番出しているトラックかもしれません。日野さんの全てを貫く様な音色はもちろん、ローランド・ハナの独特なパーカッシブなピアノ・プレイ、その合間を縫う様に存在感を出すロン・カーター、そして全体を大きなビートで包みゆったり感を与えつつ「ここぞ」というタイミングで起爆剤に着火してゆくジャック・ディジョネット。この4人のライブにふさわしいエンディングですね。


さて2021年のDISC REVIEWもお楽しみいただけましたか?おかげさまでDISC REVIEのコーナーも21回目をこうして迎える事ができました。今後ともみなさんと共に音楽を楽しみ成長して参りますので、応援のほどよろしくお願いいたします。
それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné



【曽根麻央LIVE INFO】

12/22 (Wed)
Open 18:30 | Start 19:00
MAO SONÉ Trio @ Velera 赤坂
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
伊藤勇司 - bass
木村紘 - drums
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 03-6277-8772


12/29 (Wed)
Open 19:30 | Start 20:30
MAO SONÉ Trio @ Nardis 柏
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
伊藤勇司 - bass
木村紘 - drums
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 04-7164-9469


12/31 (Fri)
Open 14:00 | Start 15:00
MAO SONÉ Solo @ Cabin 本厚木
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 046-221-0785


1/10 (Mon)
Open 19:30 | Start 20:30
MAO SONÉ Trio @ Nardis 柏
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
伊藤勇司 - bass
木村紘 - drums
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 04-7164-9469


1/11 (Tue)
Open 18:30 | Start 19:30
MAO SONÉ TRIO @ Body & Soul 渋谷
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
伊藤勇司 - bass
木村紘 - drums
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 03-6455-0088


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Recommend Disc

DNA LIVE IN TOKYO200.jpg


Title : 『D・N・A Live In Tokyo』
Artist : 日野皓正
LABEL : ソニー・ミュージックレーベルズ
発売年 : 2002年



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【SONG LIST】

01. It's There
02. Lorl
03. For Toddlers Only
04. Black Jack
05. Up Jumped Spring
06. Candy
07. Autumn Leaves




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央

2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil / タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The Miles Davis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』




Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2021.11_ Erroll Garner_Concert By The Sea:Monthly Disc Review

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concertbythesea500.jpg


Title : 『Concert By The Sea』
Artist : Erroll Garner



【圧倒的なカリスマ性を発揮するライブアルバム】


皆さんこんにちは、トランペットとピアノの曽根麻央です。
世の中には数え切れないほど素晴らしいライブ盤がありますが、1人のピアニストが圧倒的なカリスマ性を発揮し、一枚を通して聴き手を魅力し続ける音源は希少です。

エロール・ガーナーが1958年にライブ録音した音源『コンサート・バイ・ザ・シー』はそんな貴重な一枚で、決して優れた音質で記録されたわけではないが、彼のエンターテイナー的なキャラクターが目に浮かぶリズミカルでユーモラス、そしてリリカルなピアノを40分もの間、集中して楽しむことができます。

このライブ会場、現在のSunset Center(当時はSunset School)には私も訪れたことがありますが、カリフォルニア・モントレージャズフェスティバルの会場から車で30分ほど、少し南下すれば国立自然公園という美しい場所でした。


さてメンバーを見ましょう



Erroll Garner - piano
Eddie Calhoun - bass
Denzil Best - drums




正直、リーダーのガーナー以外のメンバーは、私も勉強不足で聞いたことがないのですが、調べてみると、ベーシストのエディ・カーホウンはアーマッド・ジャマルやビリー・ホリデイと演奏していて、その後キャリアの大半をガーナーのベーシストとしてツアーなど世界中旅をしていたようです。

ドラマーのダンジル・ベストも50-60年代のビバップシーンを支えたドラマーで、サイドマンとして多くの共演歴がありました。またこのDISC REVIEWでも取り上げたマイルス・デイビスの『バース・オブ・クール』の「Move」という曲の作曲者の1人として名前を連ねています。

ガーナーのピアノスタイルで最も特徴的なのは、左手を四分音符で常に和音とリズムを刻んでいることでしょう。これにより独特の躍動感とグルーヴを音楽に与えて、踊りたくなるような楽しさを聴き手に与えます。また四分音符の羅列の間に挟むシンコペーションのアクセントがまた効果的です。

また右手はメロディーのフレーズとフレーズの間に、まるでビッグバンドのトランペット隊のような激しい和音で合いの手を入れます。また右手のオクターブ奏法も得意で、早い曲でも八分音符をオクターブで弾き、ピアノを響かせ独特のリズム感を与えてくれます。実際には右手の親指と小指でオクターブを奏で、余った指で和音も抑えているので、これを高速の曲でも行うので、こちらもビッグバンドを聴いているかのような聞き応えがあります。

アルバム全体を通してガーナー以外のソロパートなどは無く、メンバーはサイドメンとしての役割に徹底して留まっています。この様な状態で40分間聴き手を魅了するのは圧倒的なカリスマ性がなければ成り立ちません。





01. I'll Remember April

力強いソロピアノのイントロから始まり、自然にテーマに入っていきます。これもガーナーの特徴で、ライブでは恐らく即興演奏のイントロから自然にテーマ部分へと導入されていきます。

このテーマもオクターブで弾かれていて、ものすごいエネルギッシュな演奏となっています。この間も左手は四分音符を奏でているのでリズムが大きくはっきりと前へ進んでいく感じを出しています。アドリブの部分に入りようやく右手が単音の八分音符を奏でますが、これも揺るぎない正確で力強いものとなっています。


02. Teach Me Tonight
ソリッドで揺るぎない八分音符を右手で奏でるガーナーの早いスウィング曲と対照的に、バラードではスクエアな感じには全くならず、割り切れないぐらい大きくリズムをとり、まるで歌っているかのようにリリカルな演奏を聴かせてくれます。しかしその間も左手は正確に四分音符で拍を刻んでいるので、変に間延びしたり詰まったりする感じでは全くないのが素晴らしいところです。


03. Mambo Carmel
エロールの左手は四分音符でなく、この様なリズムの曲では付点四分音符を多めに使ったリズムを刻み、エロール風のラテンの感覚を表現しています。変則的なリズムを左手で刻んでいても、右手は自由にソリッドに演奏していて、両手の独立がしっかりとなされています。彼が左利きだったのも、このスタイルを確立する上で大きかったのかもしれませんね。


04. Autumn Leaves
ルバートの曲。先程の「Teach Me Tonight」では左手の正確なリズムに上を自由に歌い上げるスタイルでしたが、ルバートでは両手を自在に操り、見事なラインを形成しながらクラシカルな演奏に仕上げています。インテンポになってからは左手は四分音符に戻り、右手は自由自在というガーナーが特有のスタイルに戻ります。このアルバム随一の名演です。




05. It's All Right With Me
早いスウィングの曲。いわゆるガーナーの演奏スタイルを全面に押し出した演奏になっています。

ヴァイナルではここまでA面。


06. Red Top
ビブラフォン奏者、ライオネル・ハンプトンのユーモラスなブルースの作品。このぐらいのテンポだとガーナーのスタイル(左手の四分音符、右手のビッグバンド的要素)が聴き取りやすいかもしれません。またガーナーの人間味あふれる様子がこのトラックでは伝わってきますので是非聴いていただきたいです。


07. April In Paris
ルバートの演奏の曲。前半の「Autumn Leaves」の様にクラシカルな響きを奏でています。


08. They Can't Take That Away From Me
ガーシュウィンの有名な曲です。まるでビッグバンドのセクションで演奏されてるかのようなテーマが聴こえてきます。そして、倍のテンポのフィーリングで演奏されるソロも圧巻です。


09. How Could You Do The Thing Like ThatTo Me?
こちらのテーマも合いの手で入れてくるアクセントと和音がいかにもガーナーのスタイルですね。先程「Red Top」でもそうでしたが、ガーナーのスタイルはこれぐらいのテンポが一番聴いて分かりやすいかもしれませんね。


10.Where Or When
ガーナーの早いスウィングのスタイルと「Mambo Carmel」のスタイルが合わさったようなアレンジになっています。左手は付点四分音符で進んでいるときも右手がその自由を制限されない独立力は圧倒的です。


11.Eroll's Theme
ガーナーのエンディング・テーマの様なもの。

それにしてもガーナーのレパートリーの多さにはいつも驚かされます。演奏するキーも通常楽器では演奏しないものが多く、キーの選択もこの独特な演奏スタイルに影響しているのかとも思います。是非聴いてみてください。


それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné






【曽根麻央LIVE INFO】

11/18 (Thu)
Open 18:30 | Start 19:00
MAO SONÉ Trio @ Velera 赤坂
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
伊藤勇司 - bass
木村紘 - drums
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 03-6277-8772


11/27 (Sat)
Start 19:30
MAO SONÉ SOLO x 水墨画 (笠原 正嗣) @ Attic 銀座
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
笠原 正嗣 - 水墨画​​


11/28 (Sun)
Open 18:30 | Start 19:30
MAO SONÉ & DAVID BRYANT @ Body & Soul 渋谷
<出演>
​曽根麻央 - trumpet
David Bryant - piano
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 03-6455-0088


11/30 (Tue)
Open 19:30 | Start 20:30
MAO SONÉ Trio @ Nardis 柏
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
伊藤勇司 - bass
木村紘 - drums
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 04-7164-9469


12/10 (Fri)
Open 18:00 | Start 19:00
MAO SONÉ & 丈青 @ Cabin 本厚木
<出演>
​曽根麻央 - trumpet
丈青(from SOIL&"PIMP"SESSIONS) - piano
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 046-221-0785


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Recommend Disc

concertbythesea200.jpg


Title : 『Concert By The Sea』
Artist : Erroll Garner
LABEL : Columbia
発売年 : 1955年



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【SONG LIST】

01. I'll Remember April
02. Teach Me Tonight
03. Mambo Carmel-by-the-sea
04. Autumn Leaves
05. It's All Right With Me
06. Red Top
07. April In Paris
08. They Can't Take That Away From Me
09.How Could You Do A Thing Like That To Me
10. Where Or When
11. Erroll's Theme




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央

2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil / タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The Miles Davis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』




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Mao Sone600.jpg

曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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曽根麻央 Monthly Disc Review2021.10_ Freddie Hubbard_Hub-Tones:Monthly Disc Review

mdr1.jpg


みなさんこんにちは。トランペッットとピアノの曽根麻央です。
今日はトランペットの名手フレディー・ハバードの名演奏が集約されたアルバム『Hub-Tones』をご紹介します。アルバムのタイトルでもあるハブ(ハバードのハブ)の音という言葉の通り、フレディー・ハバードの美しい音色、キレの良いタッチ、そしてユニークなアイディアが収録されていますので、ジャズファンだけでなく金管楽器全般に関わっている方々に聴いてほしい一枚でもあります。


hubtones500.jpg


Title : 『Hub-Tones』
Artist : Freddie Hubbard



【ジャズ・トランペットを勉強するなら絶対に聴いておくべきアルバム】


僕とこのアルバムの出会いは小学5年生の頃。当時トランペットを習っていた原朋直さんに、ジャズ・トランペットを勉強するなら絶対に聴いておくべきアルバムとして教えてもらったのがきっかけでした。大学に入ってからはこのアルバムの中から「You Are My Everything」と「Hub-Tones」のフレディーのソロをしっかりと完コピしました。美しく構成されているソロなので、今でもよく覚えています。

さてメンバーを見ましょう



Freddie Hubbard - trumpet
James Spaulding - alto saxophone, flute
Herbie Hancock - piano
Reggie Workman - bass
Clifford Jarvis - drums




長きに渡ってフレディーと2管編成でアルトを担当したジェームス・スポルディングや、フレディーの1st albumからのドラマー、クリフォード・ジャーヴィスが参加しています。また、まだマイルス・バンドに加入前のハービー・ハンコックの演奏は、伴奏では正確なリズムとハーモニーを繰り出し、ソロでは若々しくも美しいタッチでユニークなソロを聴くことができます。名手レジー・ワークマンの鉄壁のサポートとグルーヴ力もこのアルバムの大事な肝になっています。


01. You're My Everything




フレディーの迫力ある音が開始早々に響き渡り圧倒されます。そしてすぐにその音は「You Are My Everything」のメロディー だと気づきます。このバージョンのコード進行はリハモナイズ(メロディーは変えずにコードだけを変えて、雰囲気を原曲と変えるアレンジの手法)されていますが、今のジャズではこのコード進行の方が耳馴染みがあるかもしれません。ジャムセッションなどでもこの曲を演奏するときはこのアルバムのコード進行を使います。

フレディーのメロディーの吹き方は歌心がありとても心地よいです。ハービーは伴奏の名人ですから、こちらのテーマも美しいハーモニーとキレのあるリズムでサポートしています。たまに出てくるクリフォード・ジャーヴィスのアクセントも他のメンバーと会話しているようで、ベストのスポットにはまっていてとてもグルーヴィーです。フレディーのソロに入ってからはレジー・ワークマンが小刻みなベースラインやポルタメント(左手をスライドさせて音程と音程の間を滑らかに演奏すること)を駆使して音楽を根底から支えています。

フレディーの特徴は濁らないアーティキュレーション、完璧なピッチ、明確なアイディア、キレの良いリズム、低音から高音まで駆使する超絶技巧、そして何より唯一無二の迫力の音色。この曲ではフレディーのそんな魅力を余すことなく聴くことができます。


02. Prophet Jennings
フレディーのトランペットはカップ・ミュート、スポルディングはフルートという独特な2管編成の曲。独特といってもよくあるアレンジの手法ではあるのですが、一味変わった寂しげなサウンドになります。フレディーもテーマ中は優しく、マイク近くで吹くことによって木管楽器のようなまろやかな中音色を聴かせてくれています。

ソロに入った瞬間、ミュート・プレイではありますが、いつものフレディーのエネルギッシュなギアを全開に入れ替えます。このシフトチェンジがたまりません。マイルスミュートプレイとはまた違ったトランペットの魅力があります。

ちなみにフレディーが全編ハーマン・ミュート(マイルスがよく使う)でアルバム全編を構成している、『Topsy - Standard Book』も聴きごたえがありますので、興味のある方はぜひ聴いてみてください。




03. Hub-Tones




フレディーの書いた高速ブルースの曲。テーマの切れ味の良さは絶品ですが、完璧なソロを披露しています。チャーリー・パーカーのフレーズも垣間見ることができます。またソニー・ロリンズのように、何回も同じフレーズを繰り返し高速で演奏することで凄まじいエネルギーを作り出しているような感じもします。フレディー・ハバードのトランペットはテクニック的には木管楽器のフレーズを金管楽器に置き換えている様子もありますので、この曲はまさにその感じが伝わるかと思います。
続くハービーのソロも名演奏と言えるものですのでぜひ注目してください。


04. Lament For Booker
フレディーの書いた美しいバラード曲。作曲家フレディー・ハバードとしての代表曲といって良いでしょう。フレディーと同い年でありながら、このアルバムの前年に亡くなったトランペッター、ブッカー・リトルに捧げた作品です。ブッカー・リトルの作品については以前の記事で書いたので是非読んでみてください。


Monthly Disc Review2021.05_ Booker Little_Booker Little



フルートとトランペットの組み合わせが美しい曲です。フレディーも前の3曲とは打って変わって柔らかいトランペットの音色で歌っています。フレディーのバラードプレイは、徹底して芯があるのに柔らかい音色で演奏されることが多いです。アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズとの「Skylark」もその例です。Bセクションは独特なディミニッシュのハーモニーが物悲しいサウンドを作り上げます。





05. For Spee's Sake
ブルージーなテイストのイントロで始まり、軽快なスウィングへとシフトしていきます。Gbのブルースの曲。Gbは誰にとっても演奏しにくい調なのですが、それを一切感じさせない鉄壁のプレイをフレディーは聞かせてくれます。調性は実は曲の雰囲気を決めるとても大事な要因であるのです。フレディーのGbの 名演は実はもう一曲あり、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズとレコーディングした「Pensativa」でも素晴らしい演奏をしています。




それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné






【曽根麻央LIVE INFO】

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Recommend Disc

hubtones200.jpg


Title : 『Hub-Tones』
Artist : Freddie Hubbard
LABEL : Blue Note
発売年 : 1962年



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【SONG LIST】

01. You're My Everything
02. Prophet Jennings
03. Hub-Tones
04. Lament For Booker
05. For Spee's Sake




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央

2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil / タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The Miles Davis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』




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Mao Sone600.jpg

曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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