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Title : 『Money Jungle: Provocative In Blue』
Artist : Terri Lyne Carrington

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【リファレンス音源】


みなさんこんにちは、曽根麻央です。いかがお過ごしでしょうか?


 ジャズのアルバムの中には、不思議なことに多くの人に愛されるにも関わらず、必ずしも良い音質やミックスである、というわけでは決してありません。これは、ジャズを聴く際、演奏者の魅力というのが音楽の良し悪しを判断する上でもっとも重要な要因となるからだと思うのです。

時代的にレコーディング技術が追いついていなかったり、そんな中でのライブ録音だったりと、皆さんが愛してやまない名盤の中にもどこか「もう少しレコーディングクオリティーがよかったらなあ...」と思われることもしばしあるかもしれません。それでもその音源に魅力があるのは、その一瞬一瞬に魂を込めた当時の名手たちの魅力を感じ取れるからではないでしょうか?また、様々なレコーディングの技術が、録音されたその時期にリアルタイムで発明されているわけですから、おそらくエンジニアも試行錯誤をしていた(もちろん現在でもしている)、そんな事情もあると予測ができます。

 しかし昔から「良い録音」をされたジャズの名盤もたくさんあります。ブルー・ノートやインパルスやその他の名盤と言われるシリーズには、現在においても尚「ジャズ・サウンド」のリファレンス(参考)となりうるものです。また、「何でこの時代の機材でこんなに良い音で録れているの?」だとか、「何でモノラル録音なのにこんなに空間が感じられるの?」だとか、色々と考えさせられるすごい音というのが歴史上沢山存在します。それらを聴いて体感して見るのもジャズの楽しみ方の一つです。

 このように「良い音」で録られた音源は、次の世代のアーティストが制作活動をする上でリファレンスとして、サウンドの基準として用いられる場合が多いです。例えば僕がスタジオに入ると、リスニング・ブースに自分が良いと思うリファレンスの音源を持っていって再生してもらいます。これによって、そのスタジオのモニターや部屋の鳴りかたなど「音の癖」を把握して、エンジニアに注文を出したりして理想の音に自分の作品を近づけていきます。リファレンス音源を持っていないで、特によく知らないスタジオでその日録音した音源のみを聴き良い音だと思っていても、家に持ち帰った時にがっかりする音質だった、なんて悲しい事件が起こったりもします。レコーディングの怖いところです。

 そこで今日は僕が思う現在のジャズのレコーディングのリファレンスとして最適な音源とアルバム、Terri Lyne Carringtonの『Money Jungle: Provocative in Blue』をご紹介しようと思います。


 僕は6曲目の「Grass Roots」をリファレンスにすることが多いです。ジャズの基本でもあるピアノトリオとしてのミックスが綺麗で、バンドとしてもバランスがとてもよくとれています。ドラムが全体を包み込むように空間を支配していてとても気持ちいです。ベースもリズムとピッチがよく聞こえるのに、ベース的な太さを残しています。ピアノも高音から低音までバランスよく綺麗に収録されているのでこれを聴きながら自分の録音の音を調整してもらうと理想に近くなります。もちろんそれはテリやクリスチャン・マクブライド、ジェラルド・クレイトンなどのモンスター級のプレイヤーが揃っているのも大前提としてあるのですが...




 ちなみにトランペットの音は理想の音が常に頭にあるので、あまりリファレンスは持っておらず、その時の直感に頼ることが多いです。


 テリ・リン・キャリントンは女性として初めてジャズ・インストゥルメント部門でグラミーを受賞したこともあり、女性ドラマーとして注目を浴びることが多いのですが、アメリカで様々な一流ドラマーを見てきた僕からすると、彼女こそダントツで現在のトップドラマーだと信じています。スウィングからファンク、フュージョン、ロック、ラテンまでありとあらゆるグルーブを自在に、そしてどんなダイナミックスでも表現できるマスターです。

 Money Jungleという言葉はそもそも、デューク・エリントン、チャールズ・ミンガス、マックス・ローチの1962年のアルバムですが、今回はテリがそこに独自の解釈を加えたアレンジと、オリジナルで構成されています。

メンバーを見てみましょう。


Terri Lyne Carrington - drums
Gerald Clayton - piano
Christian McBride - bass

[ゲスト]
Clark Terry - trumpet, vocals (track 2)
Robin Eubanks - trombone (tracks 2, 9)
Antonio Hart - flute (tracks 2, 9)
Tia Fuller - flute (track 2), alto saxophone (track 9)
Nir Felder - guitar (track 3)
Arturo Stabile - percussion (track 8)
Lizz Wright - vocals (track 3)
Shea Rose - vocals (track 11)
Herbie Hancock - vocals (track 11)




1. Money Jungle
 「現在の規範では命を救うことや地球のバランスをとること、正義や平和を語ることに何の利益もありません。利益を産むためには問題を起こさねばならない。

(There is no profit under the current paradigm in saving lives, putting balance on this planet, having justice and peace or anything else. You have to create problems to create profit.)」

という朗読に合わせてテリがドラムソロを演奏しています。

 ちなみにテリはこのような朗読と音楽をコラボさせるのが得意で、僕自身も彼女のTed Talkでのパフォーマンスで参加させてもらっています。是非見てください。3:41ぐらいからです。




2. Fleurette Africain
 クラーク・テリーがボーカルとトランペットで参加しています。クラークはトレードマークでもあるスキャットを聴かせてくれます。彼のスキャットは歌詞自体には全く意味がないのに、言葉や意味が聴こえてくる感じがして本当に圧巻ですね。


3. Backward Country Boy Blues
 古いブルース調の雰囲気から始まり、徐々にコンテンポラリーの要素が増しています。ギターの名手、ニア・フェルダーが参加。ゴスペルシンガーのリズ・ライトも参加しています。


4. Very Special
 元祖Money Jungleでも重要なレパートリーでもあるブルース曲。テリ、マクブライド、クレイトンのトリオでもスウィングの直球演奏を聴くことができます。テリの美しいライドシンバルのグルーブはドラマー必聴かと思います。マクブライドとのコンビネーションも最高のグルーブを出しています。かなりリズミックなソロのクレイトンに、完璧にベースをコントロールするマクブライドを聴くことができます。


5. Wig Wise
こちらも元祖Money Jungleより。原曲は4拍子のスウィングですが、6拍子のイーブン・フィールで演奏されているため、かなり原曲とはかけ離れています。単純にトリオだけの演奏になっていて、こちらもかなり聴き応えのあるテイクだと思います。


6.Grass Roots
 先に書いたように僕がアコースティックのジャズのレコーディングの際リファレンス音源として持っていくテイクです。テリのオリジナルなようです。先ほども言ったように、ドラムの全体を包み込むような空気感が好きなのですが、もちろんこれはレコーディング・エンジニアだけで成し遂げられることではなく、ドラムのチューニング、タッチなど色々なことが合わさってこの音が録れています。特にこのアルバムはジャズのアコースティックのアルバムにしてはベースドラムのチューニングが高すぎず、ドシッと中身の詰まった音色なのがとても気持ちいです。ドラマーにとって自分のチューニング、そのバンドに最適のチューニングを見つけることは全体のサウンドに関わってくるので、是非チューニングの勉強をしてみてください。これだけでドラムの演奏レベルと一緒に演奏しやすさがかなり上がります。


7. No Boxes (Nor Words)
 こちらもテリのオリジナル。ピアノの左手とベースでユニゾンラインが演奏される上で、右手が自由に動き回るイントロを経て、スウィングのテーマ部分に入って行きます。3:01ぐらいのテーマからソロに入ったタイミングのドライブ感(グルーブが前に躍進していく感じ)が凄まじいです。やはりこのレベルのプレイヤーはグルーブに対する瞬時の集中力(もはや集中を超えてナチュラルに演奏してるのでしょうが...)が他と一線を画していますね。




8. A Little Max
 5拍子のイーブンの曲。以前の記事でもお話しした5拍子のクラーベ(変拍子クラーベ)が随所で聴き取れます。こういったクラーベを用いた演奏では、クラーベを体に取り込んでそこに肉付けをしているので、ぱっと聴いた際にクラーベが無いように聴こえてしまいますが、よく聴くと中心にはどこかいるものです。3:50からはまさに5拍子クラーベのテリ流のパターンを叩いているのでドラマーの方は是非練習してみてください。




9. Switch Blade
 マクブライドのベースソロから入る、スローブルースの曲。ビヨンセのバンドのサックスも務めるティア・フラーがサックスを、前回取り上げたSFJazz Collectiveにも参加しているロビン・ユーバンクスがトロンボーンを演奏しています。


10. Cut Off
 エリントンのソリチュードのような導入のジェラルド・クレイトンのオリジナルバラード。


11. Rem Blues/Music
 何とハービー・ハンコックも朗読に参加しているこのトラック。クレイトンのフェンダー・ローズが静かに雰囲気を作り、徐々にグルーブが聴こえてきて、シーア・ローズという方がエリントンの詩を朗読しています。「人気を得ることはお金を得ること、だけどそれは音楽ではない」というハンコックの言葉で締めくくられます。




いかがでしたでしたか? 
また次のDisc Reviewでお会いするのを楽しみにしております。

文:曽根麻央 Mao Soné






【曽根麻央ライブ情報】
11/17 (火) @ 六本木サテンドール
Brightness Of The Lives [曽根麻央 (tp&keys)、井上銘(gt)、山本連(eb)、木村紘(ds)]
https://www.satin-doll.jp/

11/20 (金) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/

12/13 (日) @ 六本木サテンドール
曽根麻央 (tp) & David Bryant (p)
https://www.satin-doll.jp/

12/25 (金) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/



Recommend Disc

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Title : 『Money Jungle: Provocative In Blue』
Artist : Terri Lyne Carrington
LABEL : Concord Jazz ‎
NO : CJA-34026-02
発売年 : 2013年



アマゾン詳細ページへ


【SONG LIST】

01. Money Jungle
02. Fleurette Africain
03. Backward Country Boy Blues
04. Very Special
05. Wig Wise
06. Grass Roots
07. No Boxes (Nor Words)
08. A Little Max (Parfait)
09. Switch Blade
10. Cut Off
11. Rem Blues/Music




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Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2020.10_現代・中規模編成ジャズの名盤:Monthly Disc Review

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Title : 『SFJAZZ Collective 2』
Artist : SFJAZZ Collective

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【現代・中規模編成ジャズの名盤】


みなさんこんにちは、トランペット&ピアノの曽根麻央です。気温もだいぶ低くなり、都内では秋物のコートが手放せなくなりました。COVID-19の影響で未だ活動は小規模ではありますが、温かいお客様に囲まれ、音楽的にも充実した日常が戻ってきつつあります。みなさんはいかがお過ごしでしょうか?


 さて今回は現代の中規模編成のジャズの名盤ということで、SFJAZZ Collectiveの『2』というアルバムを取り上げます。このアルバムのアレンジや演奏を聴いていきましょう。また中規模編成の歴史的なアルバム『Birth Of Cool』については以前書きましたので、そういった過去の類似作品と現代の作品の違いも感じ取っていただけると嬉しいです。


SFJAZZ Collectiveは2004年から現在も活動する続く8人編成のジャズアンサンブルで、非営利団体のSF Jazzや毎年開催されるサンフランシスコ・ジャズ・フェスティバルによって運営されています。毎年、ジャズの代表的なレジェンド・アーティストのレパートリーのカヴァーと、メンバーの新作とを50:50にして演目を構成しています。


例えば2004年はオーネット・コールマン、2005年はコルトレーン、2006年はハービー・ハンコックといった感じです。 メンバーは入れ替わったりしていますが、ブライアン・ブレイドやジョー・ロヴァーノといった今のジャズシーンを代表するメンバーが常に参加しています。2004年からの活動ということで、僕ら30歳手前の世代のミュージシャンにとっては、当時、ヒーローの集まりのような夢のアンサンブルでした。


2000年代のジャズの流れとして印象深いのは、2001年のウエイン・ショーター・カルテットの結成や、2008年のアンブロース・アキンムシーレのモンク・コンペティション優勝からのデビューなどですが、それと並んで、SFJAZZ Collectiveの活動も話題となりました。


 では早速この『2』のメンバーを見ていきましょう。トランペッターの皆さんは、ニコラス・ペイトンの圧倒的なトランペット・プレイを聴くことができるので、このアルバムは必聴です!


MIGUEL ZENON(as,fl)
JOSHUA REDMAN(ts,ss)
NICHOLAS PAYTON(tp)
ISAAC SMITH(tb)
BOBBY HUTCHERSON(vib,marimba)
RENEE ROSNES(p)
MATT PENMAN(b)
ERIC HARLAND(ds)

GIL GOLDSTEIN (arranger on Coltrane's Songs)




1. Moment's Notice




 ジョン・コルトレーンの代表曲をギル・ゴールドスタインのアレンジで聴くことができます。インパクトのあるホーンの呼びかけにエリック・ハーランドのドラムが応えるイントロ。やっぱりイントロやアルバムの出だしというのは人の心を掴む重要な部分なので、インパクトはどの時代でも大事ですね! 
その後、あの有名なメロディーが聴こえてきます。それに続きニコラス・ペイトンの圧倒的なソロを聴くことができます。このアルバムではペイトンは4曲ソロを取っていますが、どれも圧巻です。


2. Naima
 コルトレーンの美しいバラード曲。こちらもゴールドスタインのアレンジ。原曲は4拍子のバラードだが、こちらでは3拍子に編曲されています。ベースとピアノの低音オスティナート(ある種の音楽的なパターンを続けて何度も繰り返す部分)の上で、名手ボビー・ハッチャーソンがヴァイブラフォンでメロディーを奏でます。終始ハッチャーソンがフィーチャリングされていて、彼は自身の持つ美しい歌い方とテクニックで、クライマックスに向けてゆっくりと音楽を発展させていきます。ホーンは基本的にバックグラウンドでハーモニーを奏でるにとどまっていますが、各楽器のバランスの取り方がさすがですね。


3. Scrambled Eggs
 ニコラス・ペイトン作曲。その名前の通り卵をかき混ぜるように、徐々に早くなるように聴こえる不思議な曲。ですがリズムの柱が全音符2分音符3連、4分音符、2拍3連、8分音符、3連符とどんどん短くなっているだけで、実は全体は一定の4拍子でずっと進んでいます。そんな変わったリズムの柱の上で自由自在にソロを吹くペイトンのソロに続き、ピアニスト、リニー・ロスネスもアヴァンギャルドのようにピアノをグリッサンドさせるソロから徐々に美しいフレーズが聴こえてきてスウィングさせます。


4. Half Full

 ジョシュア・レッドマン作曲。このアルバム一番の大曲かもしれません。イントロとしてベースの伴奏の上にヴァイブラフォンのメロディーが聴こえてきます。その後フルートが入り、その後トロンボーンにトランペット、サックスと少しずつ盛り上げて、ルバート(テンポのない)セクションに一瞬入ります。ルバート部分には少しだけコルトレーンの要素がある気がしますね。メインのメロディーがルバートでトランペット、アルト、テナー、トロンボーンと受け継がれながら聴こえてきて、ようやく心地よい早めのスウィングでメインテーマに入ります。メインテーマは最初ピアノだけで演奏されていますが、その後ホーンセクションが入ってきて徐々に盛り上げていきます。

メロディーは色々な楽器を受け継がれていきます。例えばトランペットがメロディーを一瞬吹いたかと思えば、次のフレーズではハーモニーパートに転じ、テナーがメロディーを取っています。リード(メインのライン)の受け継ぎがうまいのはアンサンブル能力の高さです。メロディーを殺すことなくちょうど良いバランスで自分のパートを吹き分けるのは流石の技術です。

そして、今まで触れてこなかったのですが、これはライブ盤ですので、完全一発録りという意味でも、技量の高さを感じることができます。その後、リニー・ロスネスのソロになり、一旦彼女のソロで曲はクライマックスを迎えます。一旦曲が終わったかと思えば違う雰囲気で、よりリズミックなモチーフで曲が再構築されていきます。その後、作曲者のジョシュア・レッドマンがソロを吹きます。このソロも本当に素晴らしいので是非聴いてほしいです。その後コーダにむけてホーンが入り、本当のクライマックスを迎えます。ニコラス・ペイトンの全体のリード力も、音色が輝いていて聞き応えがあります。


5. 2 And 2
 ミゲル・セノン作曲。不思議な感じのするヴァイブラフォンとピアノのイントロから、エリック・ハーランドによってグルーブが提示されます。オリジナルの譜面がどう書いてあるのかわからないのですが、おそらく6/4+9/8拍子の繰り返しです。ミゲル・セノンのソロもこの拍子の上で成り立っています。ミゲル・セノンは僕が最も好きなアーティストの1人なのです。この人は楽器のテクニックやサックスの音色はもちろんですが、リズムに関するアイディアは他の追随を許さない才能の持ち主です。

 話が逸れますが、ミゲル・セノン・ビッグバンドの2014年の作品『Identities Are Changeable』では、リズムのアイディアをさらに発展させて、ポリリズムを使って、非常に複雑な関係性のある違う拍子やテンポを行ったり来たりすることで、独自の世界を突き進んでいます。
 続くジョシュアのソロは(変拍子は何通りも書き方や捉え方があるため、実際の記譜はわかりませんが)4/4+3/4+4/4 ×3回 4/4+6/4 の拍子で進行していきます。その後のエリックのドラムソロは元の6/4+9/8。


6. Crescent
 ジョン・コルトレーン作曲、ギル・ゴールドスタイン編曲。ニコラス・ペイトンがフィーチャーされていて、これでも恐ろしいほどに完璧なソロを取っています。トランペッター、トランペットファンは必聴です。


7. Africa
 ジョン・コルトレーン作曲、ギル・ゴールドスタイン編曲。こちらはジョシュア・レッドマンのフィーチャー曲。ボビー・ハッチャーソンのいかにもアフリカらしいマリンバの演奏から入ります。マリンバの演奏が最高潮に達して「Africa」のグルーブが聴こえてきます。ジョシュアのソロも聴いていてワクワクします 。いわゆるモード曲ですが、その中でジョシュアがフレーズを発展させている様がとても素晴らしいです。
それに続くエリック・ハーランドのドラムソロも、エリックの独特の歯切れ良い心地の良い音色が体に入ってきてとても気持ち良いです。エンディングはまたボビー・ハッチャーソンがイントロと似た雰囲気を作って終わります。ボビーのアフリカのようなマリンバから始まって終わるこのスタイルは、実は「SFJAZZ Collective」の1枚目の「Lingala」という曲でも聴けます。全然違う雰囲気になっているので、面白いので聴き比べてみてください。


8. Development
 エリック・ハーランド作曲。このアルバムで僕が個人的に一番好きなのはこの曲かもしれないです。リリカルなメロディーで歌いやすく、とてもポップです。Aセクションは4拍子なのですが、Bセクションは7拍子となっています。Bセクションはあくまで個人的な感想ですが、Geri Allenの「Drummer's Song」に似た雰囲気がありますね。



最初のミゲル・セノンのソロはフォーム通りになっています。ミゲル・セノンらしい美しいアルトのサウンドとリズム感のあるラインが聞けるソロになっています。
 次のニコラスのソロは全く違うフォームで11小節のコード進行になっています。一小節ごとにBb7sus, A7sus, Ab7sus...半音ずつ降りる...Db7sus, C7susというコード進行の上でニコラス・ペイトンが縦横無尽に駆け回ります。まさに縦横無尽という言葉通りだと思うので、どういうことだと思った方は是非聴いてみてください!

 通常のアルバムだったら1アルバム、1リーダーだと思うのですが、このバンドではみんなが曲を持ち寄っているため、ミュージシャンたちの普段とは違うとても楽しげで活き活きとした様子が伝わってきますね。全員がソロを回しているだけのセッションとは違い、あくまでバンドとしてまとまりのある中規模編成のバンドとしては超一流です。是非アルバムを聴いてみてください。


いかがでしたでしたか? 
また次のDisc Reviewでお会いするのを楽しみにしております。

文:曽根麻央 Mao Soné






【曽根麻央ライブ情報】
10/21 (水) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/

10/30 (金) @ 柏Nardis
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
http://knardis.com/knardis.com/Welcome.html

11/17 (火) @ 六本木サテンドール
Brightness Of The Lives [曽根麻央 (tp&keys)、井上銘(gt)、山本連(eb)、木村紘(ds)]
https://www.satin-doll.jp/

11/20 (金) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/

12/13 (日) @ 六本木サテンドール
曽根麻央 (tp) & David Bryant (p)
https://www.satin-doll.jp/

12/25 (金) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/



Recommend Disc

SFJAZZ COLLECTIVE 2_200.jpg
Title : 『SFJAZZ Collective 2』
Artist : SFJAZZ Collective
LABEL : Nonesuch
NO : 7559-79930-2
発売年 : 2006年



アマゾン詳細ページへ


【SONG LIST】

01. Moment's Notice
02. Naima
03. Scrambled Eggs
04. Half Full
05. 2 And 2
06. Crescent
07. Africa
08. Development




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Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2020.9:Monthly Disc Review

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Title : 『Chet Baker Sings』
Artist : Chet Baker

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 みなさんこんにちは、曽根麻央です。僕が影響を受けたアルバムを、ミュージシャンの視点で紹介して解説していくこの連載も、早いもので第6回目となりました。半年が過ぎようとしているのですね。


 今回はChet Bakerの『Sings』というアルバムを解説・紹介していきます。RCAの44のマイクに向かって歌うChetの姿が特徴的なカッコいいジャケットですね。このアルバムは管楽器奏者ならば一度はトランスクライブ(耳コピ)して練習するべきだと考えています。僕は生徒によくこのアルバムのトランスクライブをするか、『The Last Great Concert』の「Look For The Silver Lining」という曲をトランスクライブするように宿題を出します。その理由として、これらの演奏からは完璧な美しいライン、揺るがない8分音符、安定したトランペットのサウンドを聴くことができ、そこからジャズ演奏に必要な技術をたくさん学べるからです。





 また、『Chet Baker Sings』はインストのミュージシャン(楽器を演奏する人)が歌詞を覚えるのに最適なアレンジと選曲となっています。歌い方もシンプルなのでとても聴きやすい。なので、これらのスタンダード曲の真意に迫ることができます。多くのインスト奏者は、曲をリード・シートや楽譜から学んでしまうため、曲の持つ本来の雰囲気や意味合いを理解していないことがあります。曲本来のストーリーから解離した演奏になりがちです。曲の本来の意味を知り、心から曲を好きになることで、より深い演奏ができるようになります。このアルバムは、そこに到達する手助けになるでしょう。


 また、全体を通して曲のアレンジも素晴らしいので注目していただきたいです。イントロ、アウトロが演奏曲本編に勝るほど美しく完璧です。コード進行もとても考えられていて、美しい。単にスタンダード演奏を聴かされるのではなく、Chet Bakerとこのアルバムメンバーの世界観を魅せてくれています。


 ピアニストの伴奏もチェットの歌やトランペットを決して邪魔することなく堅実なサポートに徹しています。その上でピアニストは自分のスペースを見つけ、美しいカウンターポイントやソロを展開しているで、そちらも注目です。

ではクレジットを見ていきましょう。


Chet Baker Sings
録音・1954&56年
Chet Baker - vocals, trumpet
Russ Freeman - piano, celesta
Carson Smith - double bass
Joe Mondragon - double bass
Bob Neel - drums
Jimmy Bond - double bass
Larance Marable - drums
Peter Littman - drums





 先ほど少し述べたようにRuss Freemanのピアノは、トランペットと歌を一切邪魔することなく完璧なサポートを聴かせてくれています。しかし存在感がない訳では一切なく、それどころか耳はピアノに持っていかれるという不思議な演奏です。


Russ Freemanのアレンジが多いこのアルアムは、ある意味彼の世界観の上にChet Bakerが乗っかっていると言っても過言ではないかもしれません。「チェット・ベイカー その生涯と音楽」の第4章「天才の響き チェットとラス・フリーマン」では、Russ Freemanが当時を振り返るインタビュー形式で書かれていて読む事ができます。それによるとRuss Freemanは当時のChetカルテットの音楽監修兼ツアーマネージャーだったそうで、移動の手配、ホテルの手配、経理も任されていたそうです。またこの本には、このアルバムの最初のレコーディングが、Chetが初めて歌った瞬間だった事や、歌うことになった理由が歯の問題によりトランペットの演奏が困難だったため、など興味深い事が書かれています。Chetは薬物関連のトラブルで歯を折られるという、トランペッターとして本来は再起不能の事件に巻き込まれています。









1. That Old Feeling

 このアルバムを代表する構成の曲。美しいイントロ、シンプルな歌い回し、完璧なピアノとトランペット・ソロ、そして、短いショート・エンディング。

 トランペット・カルテットで演奏される16小節の美しいイントロは完全にこのアルバムの為にアレンジされたもの。しかしあまり突飛ではなく、あくまで曲の一部として存在できるようにうまく書かれています。それに続くChet Bakerの歌によるテーマ部分。何度も言っていますが、このアルバムは一緒に歌えるようになるととてもとても楽しいので是非トライしてみてください。それに続くRuss FreemanとChet Bakerのソロは曲のストーリーを壊すことなく、まるで書かれたメロディーのように美しい。このアルバムをさらに楽しむならChetのソロを覚えてスキャットでユニゾンしてみるのも面白い。トランペットも歌のようにソロを吹いているので、実際一緒にスキャットをしやすい。なので、楽器を演奏する人は歌えることがどう演奏に影響を与えるのか体験でき、とても勉強になります。


2. It's Always You
 Chet の歌い方が本当に美しい一曲。Russ Freemanによる美しいイントロと、歌とトランペット・ソロの間の緊張感ある短い間奏が肝のアレンジ。ハーモニーの流れもよく編曲されています。注目しながら聴いてください。


3. Like Someone In Love
 テーマへの導入の仕方がお洒落ですね。Russ Freemanのイントロの特徴は、あまりにも自然に流れているので、気づいたらテーマに入っているという事が起こります。シンプルに、トランペット・ソロなしで歌だけのテイク。


4. My Ideal
 チェレスタとアルコ(弓)でのベースの伴奏で歌われるバース部分があります。バースとはテーマではないのですがイントロでもないセクションです。バースはきちんと歌詞があり、メイン・テーマの世界観を前もって説明して、聴き手により深い理解をさせてくれる大事なパートです。バースは楽器だけのジャズで演奏されることは稀ですが、こうして歌とともに聴けるのはとても嬉しいですね。


5. I've Never Been In Love Before
 Chetが最初1人で歌い出し、ベースとピアノのユニゾンのカウンターポイントが聴こえてきます。ピアノは徐々にハーモニーへと移行して曲にさらにカラーを足していきます。見事なアレンジです。カウンターポイントについては以前の「Birth Of Cool」の紹介記事でも書きましたが、主旋律に対して演奏される副旋律の事です。この曲はChetを描いた映画「Born To Be Blue」でも重要な場面で演奏されていましたね!あの映画はあくまでフィクションですが、個人的にはChetの人となりが見る事ができて良い映画だと思っています。


6. My Buddy
 Chetのハーマン・ミュートの演奏が聴けます。ハーマンといえば、マイルス・デイヴィスやクラーク・テリー、ディジー・ガレスピーといった人たちの音色が有名ですが、Chetの音色も独特で良いですね。1コーラス目のミュート演奏と歌の間に8小節の間奏がアレンジされていて、転調しているのも雰囲気がガラッと変わってよいですね。


7. But Not For Me
 24小節の見事なイントロがトランペットによって奏でられた後に、有名なメロディーが歌われます。マイルス・デイヴィスの演奏が有名でそちらのコード進行で演奏されることが多いですが、こちらの方がガーシュウィンのオリジナルに近い進行になっています。歌に続くChetのソロもまるで書いたかのような綺麗なソロです。このソロは名演なので覚えておくと良いでしょう!


8. Time After Time
こちらもシンプルに2コーラスだけの構成。1コーラス歌からの半分だけのトランペット・そして、その後の歌で終わります。

9. I Get Along Without You Very Well
 名曲ですね!是非覚えておいていただきたい曲です。Russ Freemanのチェレスタが再び登場して、Chetが歌います。こちらの曲も映画「Born To Be Blue」で重要な役を果たしましたね。この曲はChetの「The Last Great Concert」でも「Live In Tokyo」ではChetの晩年の歌も聴く事ができます。Chetにとって重要なレパートリーだった事がわかります。こちらもシンプルに歌1コーラスだけという構成です。


10. My Funny Valentine
 歌で1コーラスだけシンプルな構成。是非Chetの歌い回しでこの曲は覚えていただきたい。


11. There Will Never Be Another You
 いきなりトランペットだけのイントロから、バンドが入り1コーラスソロをとります。その後8小節の間奏で歌のキーに転調するこちらも見事なアレンジ!歌の後のソロはChetとRuss Freemanが同時にするというサプライズがあります。Chetのキャリアの初期はジェリー・マリガンとの、ピアノなしの2菅編成カルテットでした。トランペットとバリトン・サックスのソロを同時にとり、ピアノがいなくてもハーモニーを感じさせるサウンドを作り上げ、ウエスト・コースト・ジャズのブランディングに成功しました。この曲のソロはChetのバックグラウンドを思い出させてくれますね。


12. The Thrill Is Gone
 なんとも寂しい曲。Chetの歌とトランペットの多重録音が聴けます。Chetが自分の歌に伴奏をしている様子は、トランペットの歌の伴奏はこうするべきだ!というお手本のようでとても参考になります。


13. I Fall In Love To Easily
 イントロは無いが、エンディングはちゃんとアレンジされていますね。やはりこのアルバムを通してジャズ・ミュージシャンが学ぶべきが、シンプルでいいので、スタンダードを演奏するときはきちんと自分のアレンジを持つべきという事。聴き手へ与えるインパクトが違います。そして良いエンディングがあれば途中何があっても全体がまとまって聴こえます。僕は自分のアレンジを持つ事で、曲に対して、まるで自分の曲のような愛情をもって接する事ができています。


14. Look For A Silver Lining
 こちらもChetの十八番ですね。曲の最後に一瞬だけ多重録音しているのがお洒落ですね。この曲に関しては、関にも述べましたが是非「The Last Great Concert」のバージョンも合わせて聴いてみてください!Chetというアーティストがいかに音楽への、美しいものへの情熱にあふれていたか感じる事ができるでしょう。トランペッターは「The Last Great Concert」のLook For A Silver Liningのソロは要トランスクライブです!







いかがでしたでしたか? 
また次のDisc Reviewでお会いするのを楽しみにしております。

文:曽根麻央 Mao Soné




Recommend Disc

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Title : 『Chet Baker Sings』
Artist : Chet Baker
LABEL : Pacific Jazz
NO : PJ-1222
発売年 : 1956年



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【SONG LIST】

01.That Old Feeling
02.It's Always You
03.Like Someone In Love
04.My Ideal
05.I've Never Been In Love Before
06.My Buddy
07.But Not For Me
08.Time After Time
09.I Get Along Without You Very Well
10.My Funny Valentine
11.There Wil Never Be Another You
12.The Thrill Is Gone
13.I Fall In Love Too Easily
14.Look For The Silver Lining




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Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2020.8:Monthly Disc Review

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Title : 『Birth Of The Cool』
Artist : Miles Davis

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みなさんこんにちは、曽根麻央です。暑い日が続きます。みなさん熱中症対策など大丈夫でしょうか? 僕は先日食あたりを起こして3日間寝込みました...笑。 皆様もくれぐれもお気をつけください。

そんな中、僕が主演と音楽を担当した映画『トランペット』がオスカー公認の映画祭、ロード・アイランド国際フィルム・フェスティバルで、「ベスト・コメディー・ショート・フィルム・アワード」と「アンバサダー・アワード(文化への理解を深め、コミュニケーションの力を与える映画に贈られる賞)」の2部門で受賞ししました! 
このニュースを受け、ベッドの上で腹痛に苦しみながら喜びました(笑)。


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さて今月はマイルス・デイヴィスの『Birth Of Cool = クールの誕生』についてお話ししたいと思います。おそらく6管編成(トランペット、アルト・サックス、バリトン・サックス、フレンチホルン、トロンボーン、チューバ)のジャズ・アルバムの最高峰で、ジャズの作曲・アレンジを勉強する人は絶対に聞かないといけないアルバムです。


Alto Saxophone - Lee Konitz
Baritone Saxophone - Gerry Mulligan
Bass - Al McKibbon (tracks: A3, A6, B3), Joe Schulman* (tracks: A1, A2, A5, B1), Nelson Boyd (tracks: A4, B2, B4, B5)
Drums - Kenny Clarke (tracks: A4, B2, B4, B5), Max Roach (tracks: A1 to A3, A5 to B3)
French Horn - Junior Collins* (tracks: A1, A2, A5, B1), Gunther Schuller (tracks: A3, A6, B3), Sandy Siegelstein (tracks: A4, B2, B4, B5)
Piano - Al Haig (tracks: A1, A2, A5, B1), John Lewis (2) (tracks: A4, B2, B4, B5)
Trombone - J.J. Johnson (tracks: A3, A4, A6, B2, B5), Kai Winding (tracks: A1, A2, A5, B1)
Trumpet - Miles Davis
Tuba - John Barber




アレンジは基本、バリトン・サックスのジェリー・マリガン、ピアニストのジョン・ルイス、そして、世界最高のアレンジャー、ギル・エヴァンスの3人によってなされています。楽器の構成も、中低音の楽器が多いことに注目したいですね。

このようなバランスにすることで温かみのあるサウンドを得ることができます。これ以前の音楽のスタイルでもあるBebop的な、マッチョでハイノートの世界観から抜け出したいマイルス・デイヴィスの強い意志をここに感じます。こういった優れたアレンジを聞く際、実際に聞こえる音の重なりやハーモニーも大事なのですが、主旋律の裏で聞こえてくる裏の旋律=「カウンターポイント」=対位法が存在することを覚えておくと情報が整理しやすくなります。





1. Move
 ピアニストジョン・ルイスのアレンジで、リズム・チェンジの曲です。リズム・チェンジとはジョージ・ガーシュウィンの「I Got Rhythm」のコード進行の上で書かれた 曲のことを言います。





リズム・チェンジの代表曲にはS. ロリンズの「Oleo」、T. モンクの「Rhythm A Ning」、C. パーカーの「Anthropology」などがあります。





 「Move」は印象的なイントロから始まります。トランペットやトロンボーンなどの金管楽器が音を伸ばしている上で、アルト&バリトン・サックスの木管楽器が激しく動きます。そしてメロディーに入ると最初、主旋律はトランペットとアルトで、ロングトーン的なカウンターポイントがホルンとトロンボーンの中音金管楽器で、短めのフレーズのカウンターポイントがバリトンとチューバの低音楽器で奏でられる3カウンターポイントで成り立っています。2つのカウンターポイントは5小節目から合流して同じリズムを奏でています。一つのメロディーだけでなく裏のメロディーが存在することで音楽は立体的な厚みを得ることができます。





カウンターポイントはクラシックではバッハをはじめ様々な作曲家が習得しなければならない技術です。ジャズではスタン・ケントン・ビッグバンドの「Contemporary Concepts」のBill Holmanのアレンジを聞くとより明確に理解できると思います。

ソロはマイルスと、残念ながら今年の4月に亡くなったリー・コニッツを聞くことができます。ちなみに1:30ぐらいからのセクションはアレンジャー・コーラス、またはシャウト・コーラスと呼ばれて、アレンジャーが独自のメロディーを曲の上で書き、自由にアレンジして良いジャズ・ビッグバンドなどで用いられる独自のセクションです。


2. Jeru
 ジェリー・マリガン作曲・アレンジの曲。こちらの曲はあまりカウンターポイントの技法は出てこないで、純粋にSoli(同じリズムパターンで違う音を演奏することでハーモニーを表現する手法)での管楽器のハーモナイズのセンスの良さが光るアレンジ。

ソロの後ろで聞こえてくるバックグラウンドのサウンドにも注目したい。2:12ごろからのシャウト・コーラス、そこからのコーダへの流れがとても美しいので注目です。


3. Moon Dream
  巨匠ギル・エヴァンスの名アレンジ。これを聞けばギル・アヴァンスがいかに他のアレンジャーの追随を許さなかったか分かるでしょう。常にカウンターポイントが予想外のところから出現し、Soliのセクションもメロディーが上行していたらハーモニーは下降するなど、非常に細やかなアレンジ・テクニックが使用されています。特にチューバの使い方が特徴的ですね。

ぜひ上の音(トランペット)と下の音(チューバ)の流れを同時に追ってみてください。1:32から1:40にかけてウニャウニャしているパートが徐々に下の音域に移動していくのなどとても面白いですね! 2:03でトランペットがリーチする最高音F#を吹き伸ばしている間に、バリトンとアルトが駆け上がっていくように追いついて、そこからの壮大なハーモニーの繰り広げ方はギル・エヴァンスにしか書けない発想だと思います。


4. Venus De Milo
 ジェリー・マリガン作曲・アレンジの曲。6小節のイントロの後に、メロディーがトランペット、またはトランペットとアルトのユニゾンによって吹かれます。このユニゾンと他の管楽器のカウンターポイントの関係にも注目していただきたい。とても綺麗なアレンジです。2:17からはイントロのモチーフを元にした、シャウト・コーラスがあります。


5.Budo
 ジョン・ルイスのアレンジで軽快なこちらもインパクトのあるイントロから始まり、イントロで終わるストーリーのある曲。ホーン隊のホルン奏者以外の全員のソロを聞くことができるトラック。1:43ほどからがシャウト・コーラスです。


6.Deception
 ジェリー・マリガンのアレンジ。基本的にはトランペットとアルトがメロディーをユニゾンして、残りの管楽器がヒットに合わせてハーモニーを奏でるアレンジのスタイル。


7.Godchild
 ジェリー・マリガンのアレンジ。特徴的なチューバとバリトンのユニゾンから徐々に他の楽器が混ざり合い、ハーモニーを作るテーマ部分があります。1:26からのホーンセクションからのバリトンソロへの繋ぎ方がとてもユニーク。2:11からがアレンジャー・コーラス。


8.Boplicity
 ギル・エヴァンスのアレンジ。曲自体が大変美しいのでぜひ覚えていただきたいのはもちろんですが、チューバとトランペットの流れを意識しながら聞いていただきたい。

エヴァンスのアレンジは管楽器のライン一つ一つが流れるように動き、それでいてよどみがないのが本当に素晴らしい。先ほども言いましたが、トランペットが上行すればチューバは下降したり、トランペットが同じ音を演奏していたらチューバは動き続けたり、変化に富んでいます。これは徹底したカウンターポイントの練習がなければできない技です。


9.Rocker
 ジェリー・マリガン作曲・アレンジの曲。ジェリー・マリガンのアレンジのスタイルをここまで4曲聴いてきたが、この頃はやはりメロディーがあって(基本的にはトランペットもしくはトランペット+アルトのメロディー)、それに呼応するヒットを残りの管楽器がハーモニーとともに演奏するスタイルが多いようですね。でもただ単純ではなく、一つ一つの楽器の組み合わせが美しいので単調に聞こえないのがすごいところです。1:44からはアレンジャー・コーラスになっています。


10.Israel
 Johnny Carisiの作曲・アレンジ。のちのちピアニスト、ビル・エヴァンスもカバーするブルースの曲。タイトル通り中東を意識した作品でしょう。この人について、僕は正直Israelの作曲家としてしか知らなかったのですが、グレン・ミラーの軍隊時代のビッグバンドでトランペットを吹いていた人らしいです。後々にギル・エヴァンスとマイルスのアルバム『Miles Ahead』でもトランペットを吹いて、曲も提供しているようです。


11.Rouge
 ジョン・ルイスの作曲・アレンジ。ジョン・ルイス自身のピアノソロも聞けます。行進曲のような雰囲気のイントロから始まります。このアルバムを通して言えることだが、トランペットとアルトはかなりユニゾンパートが多い。これはやはりビバップからの音楽の流れとしては妥当だと思う。チャーリー・パーカーとディジー・ガレスピーのコンビを代表するようにこの当時の音楽はトランペットとアルトの2管で吹かれることが多いのです。ビバップからの逸脱という意味で、今までにないより複雑に書かれたハーモニーやカウンターラインが他の管楽器を使ってプラスされているイメージでよいと思います。

 ただ、ビバップのトランペットと違い、マイルスはリードを担当しているにも関わらず終始脱力しています。これは今までのジャズがとてもマッチョで、ハイノート至上主義でホットなトランペット奏者が求められていたことへの反発でしょう。マイルスはここでは徹底してクールに、そして理性を一回も失うことなく、淡々と、ソフトに脱力して吹いています。これは、当時のソロトランペット、または、ラージアンサンブルのあり方として、革命的だったに違いありません。

トランペットの相棒にあると奏者、リー・コニッツを起用したのも、ソフトに歌心のある人物だからでしょう。どんなにトランペットがソフトに吹いていようが、それはリード(主旋律を担当する声部のこと)なので、トランペットを超える音量でサックスが吹くとアンサンブルは崩壊します。じつはサックスがトランペットを飛び越えて吹いちゃっている人、結構多いです。バランスに気をつけましょう。そういう意味でもリー・コニッツは適役だったと思います。







 いかがでしたでしたか? 
ぜひマイルスの『Birth Of Cool』今一度聞き直してみてはいかがでしょうか?

 また次のDisc Reviewでお会いするのを楽しみにしております。

文:曽根麻央 Mao Soné




Recommend Disc

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Title : 『Birth Of The Cool』
Artist : Miles Davis
LABEL : Capitol Records ‎
NO : T-762
発売年 : 1957年



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【SONG LIST】
01.Move
02.Jeru
03.Moon Dreams
04.Venus De Milo
05.Budo
06.Deception
07.Godchild
08.Boplicity
09.Rocker
10.Israel
11.Rouge



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Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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曽根麻央 Monthly Disc Review2020.7:Monthly Disc Review

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Title : 『Inventions And Dimensions』
Artist : Herbie Hancock

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みなさんこんにちは、曽根麻央です。毎月更新しているディスク・レビューも今月で4回目になり、みなさんの中で定着してきていると嬉しいです。僕がセレクトするアルバムを、音楽家として分析し、しかもそれを一般のリスナーの方々に伝えられるように書く作業は、筆者自身とても勉強になりますし、新たな発見へとつながっています。


 今回は少しセレクトするアルバムの方向性を変え、いわゆる"ジャズの名盤"に焦点を当てたいと思い、Herbie Hancockの1964年リリースのアルバム、「Inventions And Dimensions」をセレクトしました。このアルバムを通して、スウィングというジャズの基本的リズムとアフリカのビートの関わりについても、改めて考察していきたいと思います。


まずアルバムを手にすると、ハンコックがマンハッタンのビルの間に仁王立ちするカッコいいジャケットが印象に残ります。メンバーを見ていきましょう。


Tom Harrell - trumpet & flugelhorn
Herbie Hancock - piano
Paul Chambers - bass
Willie Bobo - drums, timbales
Osvaldo "Chihuahua" Martinez - percussion (not on track 5)




「Inventions And Dimensions」は1963年の録音です。伝え聞いた話によると、このアルバムの制作に至ったハンコックの初期の構想は、ラテン・ジャズのアルバムを作ることだったそうです。1960年代初期といえば、ニューヨークで、アフロ・キューバン音楽(son, guaracha, cha cha chá, mambo)やプエルトリコ音楽(plena, bomba)が元になり、サルサ音楽が誕生しました。恐らくその影響も大きいでしょう。


 ハンコックのアルバム制作過程で難航したのがベーシスト探しだったようです。複雑なハーモニーと、ラテン独特のリズムを弾きこなせるベーシストが思いあたりませんでした。そこでハンコックはマイルス・デイビスに誰か心当たりはいないかと相談しました。するとマイルスは即答で「ポール・チェンバース!」と答えたそうです。ポール・チェンバースといえば、前マイルス・クインテットのベーシストで、スウィングの演奏で有名なので、そのイメージを持つハンコックは「?」の顔を浮かべました。するとマイルスは、「ポール・チェンバース!奴はなんでも弾ける」と答えたそうです。




1. Succotash
スウィングはアフリカのリズムが基になっている、というのは誰しも聞いたことがあることだと思います。「Succotash」ではスウィングとアフロ・キューバンのリズムが具体的にどのような関係性なのか、そして、なぜラテン音楽とジャズがこんなにも相性が良いのか答えてくれています。


 「タタタッタタタッタタタッ」。スネアをブラシで叩いた特徴的なビートから始まり、ポール・チェンバースの音が聞こえてきます。6拍子なのか4拍子なのか、またまた3拍子なのか分からない、けどグルーブしている摩訶不思議な感覚を味わえます。しかしこれこそが、アフロビートとスウィングの見事なコラボ、兼、原点回帰なのです 。どういうことか見ていきましょう。


 最初は「タタタッタタタッタタタッ」というリズムをウィリー・ボボがスネアで演奏していますが、彼は徐々にパターンを変えて、最終的に以下の譜面のようなリズムパターンを演奏します。

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 このパターンは一般的に今では「Afro-Cuban12/8」とか呼ばれたりしますが、キューバの古来の音楽、「Abakua」や「Afra」といったリズムのベル・パターンだし、アフリカ音楽では「Bembe」とも呼ばれるベル・パターンです。このリズムパターンがアフリカから中米へ伝わりラテン音楽へ、北米に伝わりニューオリンズで独自の発展を遂げてジャズになったと言えるでしょう。要するにラテンとかジャズの元になったリズムなのです。

 このパターンの最大の特徴は、リズムの柱でもある「pulse」が2にも3にも4にも6にもなれるところです。「Pulse」とは直訳で「拍」という意味ですが、同時に鼓動や波動、動向など、よりリアルで生き生きとした意味合いも持つので、今回のレビューでは拍子という言葉の代わりにpulseを使いたいと思います。

 同じベル・パターンを演奏しているのに、Pulseが4から3に変化するとどうなるのか、様子を以下の映像で見て見ましょう。





上二段の「記譜上は4拍子」と「記譜上は6拍子」をつなげて聞けば、2つのパターンが同一であるとわかると思います。便宜上12/8と6/4で書いてあります。ところがpulseをわかりやすくするため、バスドラムとハイハットで加えて、4から3に変化させると、ベル・パターンが全く同じでも、リズムの性格がガラッと変わることがわかります。Pulseが4だとよりスウィングに近くなりますね。Pulseが3だといわゆるラテンのような、サンバっぽいような雰囲気の、少し落ち着いたフィールになります。この時の3拍子を"Big 3"と呼ぶ人たちもいます。じゃあpulseが4で演奏している時に3は存在しないのか、というとそうでもなくて、メインのpulseが4の場合でも、実際に演奏すると3はどこかに存在し続けます。

このようにジャズやラテンは常に複合リズム、3:4:6:8みたいなポリ・リズムが常に同時に演奏されています。ミュージシャンを目指す人は、どの楽器の人も上の動画にあるバスドラム部分のパートを足踏みで、ベル・パターンを手で叩けるように練習してください。大事なリズムの基礎練習です。


 話を戻してSuccotashではポール・チェンバースは最初、6拍子、またはBig 3に近いベース・ラインをで弾くため、全体のpulseが3に聞こえます。しかし、1:07に到着した瞬間に、いわゆるウォーキング・ベースに近い弾き方変えて、音楽を一気にスウィングとアフロのミクスチャーの世界へと導きます。ドラムとパーカッションのパターンは変わらないのに、一気にスウィングさせてしまいます。Pulseを4にした弾き方に変えたのです。これは「なんでも弾ける」ベーシスト、ポール・チェンバースだからなせた技でしょう。


2. Triangle
 こちらは心地よいスウィングから始まります。ポール・チェンバースとウィリー・ボボのグルーブ感がとても良い感じです。4:31ごろからパーカッションも加わり、今までスィングのパターンをライドシンバルで叩いていたウィリー・ボボも、1曲目でも使われたbembeのパターンをライドシンバルで叩きはじめます。これもスウィングとアフリカのビートが深く関わリアっていることを証明してくれる音源ですね。

 この曲は加えて、ハンコックのハーモニーの展開のさせ方が非常に自由で、道の和音へ挑戦している姿が見えます。そんな挑戦的な姿勢を見せつつも、タッチは軽やかで、リズムは正確なのは、彼のすでに成熟されたメンタルをも感じることができます。


3. Jack Rabbit
 Jack Rabbitは早い、いわゆるラテン調のビートの曲。正確にはルンバのリズムと言った方が良いでしょう。ウィリー・ボボはドラムセットらティンパレスへ移り、ソロも聞くことができます。ポール・チェンバースも終始一定のベース・ラインを弾いているので、この一定のビートの上で、Cのトーナルの上でいかにハンコックがソロを、メロディーを、ハーモニーを、展開しているかが聴きどころになっています。


4. Mimosa
 このアルバムのバラード的立ち位置。ボレロのリズムに乗せられて、ハンコックのメロディアスな演奏を聞くことができる。サルサを演奏する人々が、セットリスト中ボレロを演奏するというのは、ジャズミュージシャンがバラードを演奏するのに匹敵します。


5.A Jump Ahead
 C minorを16小節、インタルード4小節、F7susを16小節、インタルード4小節、E7(#9) を16小節、インタルード4小節というフォームを永遠に繰り返すファスト・スウィングの曲です。パーカッションはなしです。しかし結局のところ、マイナーかドミナント・コードかなどというコードの性格は、毎コーラスハンコックによって徐々に変えられていきます。これは、このアルバムに全曲に共通して言えることで、おそらくこれが元のコード進行だろうというのはわかるのだが、毎コーラス、ハンコックはコードを少しずつ変化させています。ハンコックのピアノは水が流れるようにコードが変わっていくので、それを楽しむというのもこのアルバムの聞き方かもしれません。










また来月をお楽しみに!!

文:曽根麻央 Mao Soné




Recommend Disc

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Title : 『Inventions & Dimensions』
Artist : Herbie Hancock
LABEL : Blue Note ‎
NO : BLP 4147
発売年 : 1964年



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【SONG LIST】
01.Succotash
02.Triangle
03.Jack Rabbit
04.Mimosa
05.A Jump Ahead



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Reviewer information

maosone500.jpg

曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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曽根麻央 Monthly Disc Review2020.6:Monthly Disc Review

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Title : 『Passages』
Artist : Tom Harrell

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みなさんいかがお過ごしでしょうか? 曽根麻央です。
世の中の自粛ムードが少しずつ解除され、ジャズクラブも「通常」を取り戻せそうな雰囲気が少し見えてきましたが、それでも夏以降のホールやフェスはキャンセル続きで、音楽活動が本格的にできるようになるまではまだまだ時間がかかりそうですね。そんな中でも自分の好きな音楽や影響を受けたアーティストを聴くとパワーとモチベーションをもらえます。今日も僕にとってのそんなアルバム、トム・ハレルの『Passages』を紹介したいと思います。


『Passages』はトランペットの名手、トム・ハレルの全曲オリジナルのアルバムです。トム・ハレルの徹底した過去のプレイヤーたちの研究から得たであろう美しいメロディーラインはもちろん、作曲家としての実力も聞くことができる名盤です。ゲストフルートを加えた3菅編成の曲では、各声部が美しく響き、見事なアレンジを聞くことができます。1991年の録音アルバムということは、時代背景としても、アコースティック・ジャズが再び注目を集め始めていました。なおかつその中で新しいサウンドを求めようとするトム・ハレルのアプローチが、Bebopやそれ以前のアコースティック・ジャズとは全然違ったものとなっています。


また70年代後半からのNYジャズの流派である「ロフトシーン」の拠点の一つともなったポール・モチアンのNYにあったロフトもこの時代は健在であったと記憶しています。T.ハレルの前作『Form』ではレコーディングの前にモチアンのロフトに夜中集まりリハーサルをしたと、メンバーのダニーロ・ペレスとジョー・ロバーノから以前話を聞きました。このアルバムではジャズの最も自由な時代だった「ロフトシーン」のエネルギーをどこか感じることもできます。


 メンバーは以下の通りです。トム・ハレルとジョー・ロバーノの鉄壁の2菅編成。この2人のサウンドは本当にブレンドしていて、ほとんど一つの楽器のようにも聞こえます。そこにシェリル・パイルのフルートを入れた3菅編成の曲も2曲ほど聞けます。3菅になっても各声部のダイナミックスがよく表現されているので、非常にゴージャズです。テナーがメインのジョー・ロバーノが、素晴らしいアルトのサウンドでのプレイが聞けるトラックもあるので、サックス奏者も要チェックなアルバム!ブラジリアン・パーカッショニストのカフェとポール・モチアンのリズムセクションのやりとりも聞きどころです。


Tom Harrell - trumpet & flugelhorn
Joe Lovano - tenor, alto & soprano sax
Cheryl Pyle - flute
Danilo Perez - pinao
Peter Washington - bass
Paul Motian - drums
Café - percussions




この時代のジャズの特徴としては、ビバップの様にフォーム形式でソロを回しますが、フォームを構成するパーツとしてVampも登場します。


 どういうことかというと、ジャズの古くからあるソロ回し(インプロ部分)スタイルでは、ソロの尺は、そのテーマ部分によります。代表的な「A列車で行こう」や「コンファメーション」、「サテンドール」といった曲は最初の8小節がAだとしたら、A部分が二回繰り返されたあと、違うメロディーBが8小節つづき、そしてまたAに戻る、AABAフォームを採用しています。そしてこのAABAの一つのまとまった単位を1コーラスと呼び、ソロもコーラスのフォームを守りながら、何コーラスも続けて発展させます。



 一方、モードジャズやファンク/フュージョンなどではVamp呼ばれるものが出てきます。短い小節数(最低1〜4、長くて8小節ぐらい)のベースラインやコード進行を繰り返して、その上でソロを発展させることがあります。例えばHedhuntersの「Chameleon」では最初の2小節のベースラインを繰り返してその上でソロも曲も発展していきます。またVampのセクションは古くはサルサの曲や、ボサノバのエンディングなどでも使われます。



 
この時代トム・ハレルの作曲スタイルは、イントロにその曲のVampを提示して、曲はBebopやモードジャズの影響が感じ取れる美しいメロディーを軸にしながら、曲の終わりではVampを使い、従来のフォーム形式のジャズとVamp形式のフュージョン&ラテンからの流れを、形式的にも融合するものでした。このアルバムにはそんなトム・ハレルらしい手法で書かれた曲が多く収録されています。





1. Touch The Sky
いきなりVampらしきリズムパターンとともに始まります。ホーンの2菅は完全4度や5度を中心にサックスが綺麗な内声で動いています。曲自体はモードジャズやウッディー・ショーの様な4度の動きの影響がありますが、それを見事にトム・ハレル・サウンドで表現しています。


2. Suite Dreams
これもイントロ兼Vampのリズムパターンから発展している曲です。この曲は3菅ですがフルートはトランペットのオクターブ上を吹いているだけなので、実質2菅編成のアレンジだが、サウンドはとても良いです。トム・ハレルの柔らかい音色で展開するソロが素晴らしいトラックです。おそらくフリューゲルホルンかと思います。

ソロの後にシャウト・コーラス(コンポーザー・コーラスとも言う。テーマと同じ尺で違うメロディーが書かれている部分を指す。ビッグバンドなどで多くみられる)がきちんと書かれているのがいかにもトム・ハレルらしいです。


3. Papaya Holiday
ジョー・ロバーノのアルトが聞けるトラック。最高に良いアルトの音色です!
ビバップ風だがトム・ハレル・サウンド全開の曲。そしてこちらも毎コーラスの終わりにラテン風のVamp(この様な場合Tagともいう)が付いています。ポール・モチアンのドラムソロも聞けます。


4. Bell
 こちらもイントロ兼Vampから始まります。とてもリリカルで美しいメロディーがロバーノのソプラノサックスで聞くことができます。トム・ハレルのホーン・ライティングの特徴として、トランペット(フリューゲル)がサックスより下の声部を演奏することが多々ある。これもトム・ハレルの音楽を美しくするアレンジの特徴の一つです。


5. Passages
 アルバムのタイトルソング。ダニーロ・ペレスとトム・ハレルの即興デュオです。


6. Lakeside Drive
 これも4度のハーモニーを基盤としたホーン・アレンジがされている楽曲です。Peter Washingtonのソロを聞くことができます。このトム・ハレルのソロも実に見事です。そしてポール・モチアンとカフェのトレイド・ソロを聞くことができます。モチアンのソロ中よく聞くとドラムのフレーズを歌っているのがわかりますね。


7. A Good Bye Wave
 3菅でフルートをリードにフリューゲルとテナーサックスが美しいバランスでハーモニーを吹きます。トム・ハレルの見事なアレンジ力を聞くことができます。この時ダニーロのピアノがきちんと内声とメロディーをピアノでもユニゾンしているのがホーンのサウンドをさらに一層はっきりとクリアなものにしていますね。ピアニストが伴奏をする時、メロディーを弾いてくれない方が多いのですが、ホーン奏者的には弾いてユニゾンして欲しい場合が結構多いです(笑)。


8. Expresso Bongo
 このアルバムでトム・ハレルのベストソロを選ぶとしたらこの曲!素晴らしいソロで僕自身耳コピして練習もした曲です。全部聞く時間がない方にはこの曲をお勧めします。


9. Madrigal
 ここで注目したいのはポール・モチアンのオリジナルソングに対するユニークなアプローチとそのセンスの良さです。まずダウンビートは絶対はっきりと出しながらの、メロディーとメロディーの間を紡ぐ様なフレーズは本当に素晴らしい。決してヒットが書かれていない場所にクラッシュを入れたり、あえてヒットを他のパートと揃えていなかったり、でもそれがカウンターポイント(対位法)となって完成された音楽を形作っています。突拍子もないことを叩くのにグルーブとリズムは自然に流れ、ダウンビートもはっきりしているから重みのある安定したグルーブもあります。ワンアンドオンリーのドラマーであることを再確認できるトラック。


10. Madrigal
 少し今までの曲とは雰囲気が違うが、前作「Form」のタイトルソングな様な雰囲気も少しありますね。このアルバムは「passages」以外は全部、スウィングの曲にもボンゴが入っています。ドラムとパーカッションのスウィングの楽曲での共存は長い間、ジャズマンの課題なのですが、このアルバムでは非常によくブレンドしています。ぜひ参考にしていただきたいなと思います。










さて、話題がこのアルバム『Passages』から反れるのですが、最初のレビュー『Motherland』のダニーロ・ペレスと、2回目のレビュー『Color Of Soil』のTiger Okoshiと少し電話&Zoom越しで話す機会がありました。


『Motherland』の記事で、このアルバムではブライアン・ブレイド、ジョン・パティトゥッチ、ダニーロ・ペレスのウェイン・ショーター・カルテット結成当初の3人の演奏が聴けると書きましたが、実際は3人の共演はこの録音が最初だそうです。時系列が逆でした。「Motherland」のレコーディングから翌年のウェインの『Alegria』レコーディング、からのカルテット結成だそうです。
 そして、Tiger Okoshiの『Color Of Soil』は直接2Mixで録音したそうです。つまり、一発勝負の録り直しなしの録音!すごいとしか言いようがない...


以前の記事の追記も含めて今回は書かせていただきました。
また来月をお楽しみに!!

文:曽根麻央 Mao Soné

Recommend Disc

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Title : 『Passages』
Artist : Tom Harrell
LABEL : Chesky Records
NO : Chesky JD64
発売年 : 1992年



アマゾン詳細ページへ


【SONG LIST】
01.Touch The Sky
02.Suite Dreams
03.Papaya Holiday
04.Bell
05.Passages
06.Lakeside Drive
07.A Good Bye Wave
08.Expresso Bongo
09.Madrigal
10.It's Up To Us




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央

2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil / タイガー大越』




Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2020.5:Monthly Disc Review

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Title : 『Color Of Soil』
Artist : タイガー大越

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みなさんこんにちは、曽根麻央です。自粛生活も二ヶ月目に突入し、生活スタイルもガラッと変わったでしょう。大変お疲れ様です。

僕はこの生活によって自分の今までの生活に不必要な部分を見直したり、また新たな価値観も得たりして、しかし、その中でも変わらずに素晴らしいと信じ、自分に多大な影響を与え続けている思想や音楽もあることに気づきます。その一つに、考え方や人生の歩み方までも大尊敬する僕の先生・Tiger Okoshiの「Color Of Soil」(1998 JVC)があります。


このアルバムと僕の出会いは、タイガー先生と僕の出会いに遡ります。2008年の3月、まだ高校1年生だった僕は、当時のクラシック・トランペットの先生、杉木峯夫先生の勧めで、来日していたTiger Okoshiの日本トランペット協会主催のマスタークラスを受講することになりました。

タイガー先生のマスタークラスでは今まで体験したことがないユニークなアプローチで、目から鱗でした。すぐさまファンになったのを覚えています。その会場でこのCDを買い、何回もリピートして聴きました。そして、自分のトランペット・プレイやアレンジ、アルバムの構成などで最も大きな影響を与えた一枚となりました。
しかも、トランペットのテクニックは圧倒的で、金管奏者は必聴のアルバムだと確信しています。



Tiger Okoshi - trumpet & flugelhorn
Kenny Barron - piano
Hank Roberts - cello
Jay Anderson - bass
Mino Cinelu - percussion

ドラムがおらず、Mino Cineluのパーカッションが全体のカラーを司っているのが特徴のグループです。




1. Color Of Soil

 Kenny Barronを除いた4人のコードレスの演奏。28小節の3拍子のスウィングの曲、とてもリリカルなメロディーが特徴です。Tiger Okoshiの特徴的な輝かしい音色と立体的な歌い方、圧倒的なトランペット・テクニックで、あっという間に彼の世界観に引き込まれます。Tiger Okoshiの特徴にテンポを縦横無尽に行ったり来たりする吹き方をするのですが、この曲ではまさにそんなソロを聞くことができます。


2. Wings, We All Have
ここでKenny Barronが登場します。この曲でもTiger Okoshiのトランペット・アプローチは他の奏者とは一線を置くものとなっています。Tiger OkoshiとチェリストHank Robertsとのトレードのインプロを聞くことができる上、このアップテンポの上で聴けるKenny BarronとMino Cineluのデュオも緊張感があり最高に盛り上がります。



3. Kagome, Kagome
Tiger Okoshiが今もレパートリーとして演奏する曲の一つで、僕自身、ワシントンDCのブルースアレーで共演した時や、去年7月の中国ツアーで一緒に演奏する機会を得た曲です。日本の民謡「かごめかごめ」をアレンジしたもので、日本のスケールとスパニッシュな雰囲気が入り混じる独特なカラーをアルバムに添えています。


 恐らくここまでの3曲でTiger Okoshiがトランペットを使って空気に色を塗ることの出来る、類を見ないアーティストだということがお分かりいただけると思います。バークリー音楽大学でのタイガー先生のレッスンやアンサンブルでは、彼の練習方法や音楽の組み立て方などを間近に見ることができて、本当に勉強になりました。バンドに参加させていただいた時にも、リハーサル後には何回も何回もスコアの書き直しが送られてきて、練り上げていくスタイルは、見て勉強させていただきました。


4. Tone Of Your Voice
 この曲は僕の記憶が正しければ、Tiger Okoshiが阪神淡路大震災を経験したために書いた曲だとリハーサルの時に聞いたことがあります。アルバムではKenny Barronとのデュオ演奏です。


5. Grandma's Eyes
 このアルバムではDominant 7 (b9)のコードが多用された曲やアレンジが見受けられるが、これもそんな一曲です。このコードは Tiger Okoshiのサウンドには欠かせないコードの一つで、このアルバム全体のカラーの一つでもあります。


6. Tales Of 5 Peasants
 ベーシストJay Andersonのメロディーから始まるラテン調の曲。この曲ではHank Robertsはお休み、Tiger Okoshiのワンホーンとなっています。ドラムがいないこの作品では、アルバムを通してMino Cineluのパーカッションが色彩を統一していますが、ここではその彼のソロも聞くことができます。


7. Bootsman's Little House
 数あるタイガー先生の曲の中でも僕の大好きな曲の一つです。去年の中国ツアーではオープニング曲として演奏しました。今のライブで演奏されるバージョンではアレンジが拡張され、長尺のコンポジションへと変貌を遂げましたが、このアルバムのバージョンはとてもシンプル。しかも歌いやすいメロディーが頭の中でなり続けると思います。


8. World To Me
 Tiger Okoshiの美しいトランペットの音が活きるバラード調の曲。Tiger Okoshiはシンプルにメロディーを吹き、ソロで他のメンバーをフューチャーしています。


9. A Night In Tunisia
 アルバム唯一のジャズ・スタンダード曲で、1曲目同様にKenny Barron以外のメンバーで、コードレスで演奏されています。


 アルバムを通して、トランペットの音色が活き活きとしていて、トランペットという楽器の良さを聞くことができます。トランペット奏者の多くが、ヘビー・ウェイトのダークなトランペットを求め、ジャズではそちらが主流になっていく中で、明るい音色がいかにトランペットらしい音楽を奏でることができるか証明しています。

演奏されるフレーズ一つ一つが立体的で、他に類を見ません。まるで筆の先に絵の具をつけて、根元からドバッと描いた様な勢いのある音や、ブラシの先で描いた細い線、薄めた絵の具で塗られた淡い色のように、様々なトランペットの表現を聞くことができる一枚です。Tiger Okoshiが トランペットで空間というキャンバスに描く世界観をぜひ一度体感してください!

最後になりますが今月のJJazz.Netの「PICK UP」で僕の新譜も紹介されているので、ぜひ聞いてください。
「PICK UP - MAY」
【放送期間2020.5/6-2020.6/3】

ではまた来月!

文:曽根麻央 Mao Soné


Recommend Disc

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Title : 『Color Of Soil』
Artist : タイガー大越
LABEL : JVC
NO : JVC-2071-2
発売年 : 1998年



アマゾン詳細ページへ


【SONG LIST】
01.Color Of Soil
02.Wings, We All Have
03.Kagome, Kagome
04.Tone Of Your Voice
05.Grandma's Eyes
06.Tales Of 5 Peasants
07.Bootsman's Little House
08.World To Me
09.A Night In Tunisia




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央

2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil / タイガー大越』




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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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曽根麻央 Monthly Disc Review2020.4:Monthly Disc Review

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Title : 『Motherland』
Artist : Danilo Perez

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みなさんこんにちは。今月から始まりました、私・曽根麻央がJJazz.Netで毎月、様々な年代からアルバムをセレクトし、ミュージシャン目線から音楽を解説していくこのコーナー! 楽しんでいただけるようにこれから頑張りたいと思います!


 さて記念すべき第一回目のレビューは...僕の師匠の1人でもあるDanilo PerezのVerveからのアルバム「Motherland」(2000年)を紹介します。このアルバムではDaniloのピアニストとしての実力を十分に味わえるだけではなく、リーダーとして、作曲家として、アーティストとしての顔を見れるおすすめのアルバムです。


 まずDanilo Perezはどういった人なのでしょう? 最近では2年前のChildren Of The Night (D. Perez, John Patitucci, Brian Blade)の東京ブルーノートでの公演が最後の来日だったかなと思います。その時の楽屋での一枚です。

sone_danilo.png

Daniloはミュージシャンとして尊敬されているだけではなく、教育の分野やPanamaでの慈善活動でも有名です。貧困層が集まるPanamaのOld CityにDanilo Perez Foundation という音楽教育施設を作り、街の安全化に貢献しました。また、その生徒たちとパナマ市民、そして国際的に一流の音楽家の交流・発表の場としてPanama Jazz Festivalやpanama International Percussion Festivalなどを設立しました。


 またBeklee College Of Musicの資本で、Berklee Global Jazz Instituteを設立し、「アーティストの創造力の拡張」「音楽の社会的貢献」「自然と音楽の関係性」の三つの柱を軸に後進の指導にあたっています。筆者やサックスの松丸契、ニューヨークで活躍するピアニスト、大林武などが出身者です。


 国境を超える活動を続けるDaniloから生まれてくるスケールの大きな音楽 - "Globnal Jazz"。出身地でもあるパナマの音楽とジャズ音楽の融合から生まれる世界観はもちろん有名ですが、その他のあらゆる民族音楽のエッセンスが混じり合ったDaniloの音楽を表現するために様々な奏者がこのアルバムに参加しています。まずはミュージシャンを見ていきましょう。



Danilo Pérez - piano, compose, arrange
Carlos Henríquez - acoustic bass
Antonio Sanchez - drums
Luisito Quintero Caja - percussions (cajon, chimes, congas, drums, maracas, tamborim)

John Patitucci - acoustic bass (guest artist)
Brian Blade - drums (guest artist)

Richard Bona - electric bass & vocal (guest artist)
Claudia Acuña - vocal
Luciana Souza - chant, vocal

Diego Urcola - trumpet
Chris Potter - alto & soprano sax
Regina Carter - violin
Kurt Rosenwinkel -electric guitar
Aquiles Baez - cuatro & acoustic guitar

Greg Askew - chant
Louis Bauzo - bata drums, chant
Richard Byrd - chant, okonkolo




1. Intro

 これは短いピアノソロで、アルバム全体のイントロダクションですが、2曲目の"Suite For Americas"のモチーフが聞こえてきます。左手の伴奏のパターンはパナマの伝統音楽Tambor norteが元になっています。

Tambor norteのリズムパターンはこんな感じです。

 このリズムパターンはDaniloの音楽を研究すると絶対に出てくるパターンで、ドラムパターンをピアノに置き換えるのがいかにもDaniloらしいです。


2. Suite For Americas - Part 1
 おそらくこのアルバムのメインの楽曲です。曲全体がスルーコンポジション(一般的なジャズの楽曲のように繰り返しや曲のフォームがなく、曲の初めから最後までがすべて作曲されている楽曲のこと)で書かれています。

 この曲は、Daniloの偉大な音楽的発明の一つと言われている変拍子のクラーベが使われています。クラーベとはラテンのリズムの基礎となり、アンサンブル全体を統一させる鍵のようなものです(クラーベにつての詳しい説明は僕のYouTubeを見てみてください 。クラーベは歴史的には4拍子なのですが、このクラーベの持つアンサンブル全体を統一させる力をDaniloは変拍子に応用して、自由を得ることに成功しています。




 例えばほかのDaniloの作品、『Panamonk』の「Think Of One」や『Live At The Jazz Showcase』の「We See~Epilogo」、『Central Avenue』の「Impressions」では5拍子のクラーベを使うことに成功しました。(10拍子ともいえる)

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この「Suite For America」の前半部分はさらに発展して、7拍子のクラーベが使われています。このリズムを鍵として曲が成りたっています。(14拍子ともいえる)

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アルバムの構成も面白くPart 1では曲をインプロなしでさらっと終わらせているのですが、7曲目のPart 2では早めのテンポで各セクションを引き延ばし、ソロを加えてロングバージョンになっています。クラーベを使ったインタープレイの魅力を十分に味わえるでしょう。


3. Elegant Dance
 この曲ではCuatroというラテンの伝統的なギターが使われています。Venezuelaの民族音楽Joropoをゆったりとさせたようなリズムを基にとてもリリカルなメロディーが奏でられます。Danilのソロもとてもユニークで際立っています。Danilo独特の拍子を行ったり来たりするプレイが本当に美しいです。


4. Panafrica
 Richard Bonaのベースと歌をフューチャーしています。ピアノは終始バックグラウンドのはずなのですが、ここで気づくのがDanilo自身がアコースティックピアノと共にオーバーダブ(多重録音)しているFender Rhodesがとても良く、耳が傾いてしまいます! 両者がうまいこと混ざり合い、会話しているかのような演奏になっています。ちなみにDaniloは全体的にFender Rhodesをオーバーダブしているので、聞きどころの一つです。


5. Baile
 Daniloのピアノソロによるインタルード的存在。これもどことなく「Suite For Americas」や「Elegant Dance」のモチーフが使われているようです。アルバム全体を通して、鍵となるものが存在することが伺えます。


6. Song To The Land
 静かなチャントから始まるこの曲。Mejoranera(パナマのフォークミュージク)とジャズを混ぜたことで98年の『Central Avenue』の「Panama Blues」でグラミーとラテン・グラミーのノミネートを受けているDaniloだが、この曲はそのアイディアの発展系だと感じます。
 後半のバタドラムが出てくるところはLalubancheというキューバの伝統的なバタ音楽のリズムです。


7. Suite For Americas - Part 2
 すでに2曲目で説明済みです。


8. Prayer
 これは再びRichard Bonaをフューチャーしての美しいバラード演奏。Bonaはメロディーを歌い、ベースでそれユニゾン、アコースティック・ベースとドラムはサウンドからして恐らく、John PatitucciとBrian Bladeだと思います。Daniloは本当に人の声を使ったアレンジが素晴らしいことを再認識できる一曲です。


9. Overture
 サックスとトランペットが加わり、コーラスと混じり合い、今までとは雰囲気の違う一曲。Afro 12/8やペルーやキューバなどのラテン地域の3拍子系のグルーブが一体となり進んでいく独特の楽曲。


10. Rio To Panama
 ここでミドルイースタン系のグルーブに乗っかって楽しげな曲が一曲加わります。


11. Panama Libre
 Daniloの93年のデビューアルバムにも収録されているdaniloのオリジナル曲です。93年のバジョーデンではDavid Sanchezなどと、ゴリゴリのラテン調の曲だが、今回はとてもボーカライズされたリリカルな曲調に変貌しています。Kurt Rosenwinkelがゲストに参加しています。KurtとDaniloのインタープレイが聞き逃せない。


12. Panama 2000
 これも94年の2作目のアルバム『Journey』に収録されているので再レコーディングとなります。これもパナマの伝統的なリズムTambor Norteが基盤となっています。エスニックだがブルージーな唯一無二の雰囲気を持つ曲。ホーンセクションの美しいカウンターポイントとDaniloのハーモニーセンスが素晴らしいです。


13. And Then...
 Daniloのピアノソロによるエンディングです。


 このアルバムはDaniloのとてもリリカルでメロディアスな、ソングライターに近い一面と、各楽器の緻密なオーケストレーションから作曲的技量も聞くことができます。


 というのもDaniloの音楽も転換期で、2000年はWayne Shorter Quartet (Danilo Perez, John Patitucci, Brian Blade)の結成の年でした。 アルバムはこの時点では未だ出てはいませんが、アルバム『Alegria』のレコーディングや、ツアーなどが開始され始めていたでしょう。Wayne Shorterの音楽的影響は計り知れません。


 彼自身のトリオも転換期でした。ドラマーがJeff Tain WattsからAntonio Sanchez、ベースもAvishi CohenからJohn Patitucciへ代わりはじめ軌道に乗り始めたが、AntonioのPat Metheny Groupへの加入でその後のTrio脱退。そんなDaniloの怒涛の日々が生み出した、アメリカ大陸を舞台に繰り広げる壮大な作品がMother Landです。


 その後の作品はDanilo Perez - Ben Street - Adam Cruzのレギュラートリオ、またはChildren Of The Light Trio (Danilo Perez - John Patitucci - Brian Blade) などのトリオ音楽を中心に展開されています。Mother Landはそんな数あるDaniloの作品の中でも異色の存在と言えるでしょう。


文:曽根麻央 Mao Soné


【Danilo Pérez - Song to the Land (feat. Claudia Acuña)】




Recommend Disc

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Title : 『Motherland』
Artist : Danilo Perez
LABEL : Verve Records
NO : 314 543 904-2
発売年 : 2000年



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【SONG LIST】
01.Intro
02.Suite For The Americas - Part 1 
03.Elegant Dance
04.Panafrica
05.Baile
06.Song Of The Land
07.Suite For The Americas - Part 2
08.Prayer
09.Overture
10.Rio To Panama
11.Panama Libre
12.Panama 2000
13.And Then...




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央

2020.04




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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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Monthly Disc Review2018.8.15:Monthly Disc Review

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Title : 『A JAZZY PROFILE OF JOJO』
Artist : 高柳昌行



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今月は2018.9.17(月・祝)Jz Bratにて開催されるJJazz.Netの番組「温故知新」初のリアルイベントにちなみ、「ウェストコースト・ジャズ」をテーマにディスクレビューしていただきました。
【纐纈歩美 plays Standards -JJazz.Net温故知新スペシャル-】

イベント詳細

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今月は「ウェストコースト・ジャズ」がテーマ。


「ウェストコースト・ジャズ」の説明は難しく、一般的には「1950年代にアメリカ西海岸のロサンゼルスやサンフランシスコで発展したジャズ」とくくられている。プレイヤーとしてはデイヴ・ブルーベックやジェリー・マリガン、チェット・ベイカーなどの白人系ジャズを指すことが多いが、音楽的にはクール・ジャズからビバップなど様々な音楽が混ざりあっており、ある種のキメラ的な音楽性だと言っていいだろう。「テイク・ファイブ」のようなアレンジメントの秀逸さも特徴にあげられるが、これはロサンゼルスという都市にハリウッドという映画産業の中心地があることとも不可分ではないだろう。

そんな事を考えていると、この「ウェストコースト・ジャズ」は2010年代の今、大旋風を巻き起こしているカマシ・ワシントンや彼のバンドメンバーで結成された「ウェスト・コースト・ゲットダウン」というクルーとも系譜的な繋がりが見え隠れしてくる。


前置きが長くなったが、今回のレビューは今年再発となった高柳昌行『A Jazzy Profile of Jojo』。今回のテーマを聞いてパッと頭に浮かんだのがこのアルバムだった。現在ロサンゼルスで活動するギタリストのジェフ・パーカーが、昨年来日した際に影響を受けたギタリストとして高柳昌行の名前をあげていたことも付しておこう。


高柳昌行というとどうしてもフリージャズ、そしてインプロのイメージが強い。しかしこの作品は、その高柳がスタンダード曲を中心にプレイし、渋谷毅によるアレンジが施されたホーン隊が鳴り響く作品であり、クールジャズとアレンジメント、そして背中合わせのフリージャズが内包された作品だ。


スタンダードなギターカルテットの編成の中で、高柳はストイックに選びぬかれたパッセージを紡いでいく。レニー・トリスターノやリー・コニッツのクール・ジャズに心酔した高柳らしい這うようなフレージングは、今聴いても新鮮だ。名前を挙げていたジェフ・パーカーはもちろん、メアリー・ハルバーソンなど現代のギタリストのフレージングと通じるところがあるように聞こえてくるから面白い。


このアルバムが録音される前年の1969年には、吉沢元治(b)、豊住芳三郎(ds)との<ニューディレクション>を結成し、三ヶ月後には阿部薫との『解体的交感』を録音している。そんな隙間で録音されたことも、この作品をなんだか意味深くしているように思う。

文:花木洸 HANAKI hikaru



Recommend Disc

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Title : 『A JAZZY PROFILE OF JOJO』
Artist : 高柳昌行
LABEL : JINYA DISC
NO : BIR07
RELEASE : 2018.3.23



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【SONG LIST】
01.The Things We Did Last Summer
02.Who Can I Turn To
03.That Old Feeling
04.Prelude In Chords
05.Rock-A-Bye Your Baby With A Dixie Melody
06.There'll Never Be Another You
07.Say It (Over And Over Again)
08.My Foolish Heart
09.Moritat
10.Prelude No.4, Op.16
11.Embraceable You




音楽ライター柳樂光隆氏による人気のムック『Jazz The New Chapter 』の第5弾が2018年6月19日に発売。今回も花木洸が参加しています。

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■タイトル:『Jazz The New Chapter 5』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2018年6月19日
■出版社: シンコーミュージック

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現在進行形のジャズを読み解くムック、第5弾が登場! !
カマシ・ワシントンの「Heaven & Earth」から始まる現代ジャズの手引き。本書では彼を出発点にLAヒップホップとジャズの関係、サックス奏者たちの進化、そして、ジャズの歴史やクラシッ ク音楽とジャズの関係をもとに「ジャズとは何か?」を考察する。

ロバート・グラスパー、テラス・マーティン、マリア・シュナイダー、クリスチャン・スコット、ジュリアン・ラージ など重要人物の言葉と共に現代のジャズを解き明かす、大ヒットシリーズ第5弾! !


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「Monthly Disc Review」アーカイブ花木 洸

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Reviewer information

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花木 洸 HANAKI hikaru

東京都出身。音楽愛好家。
幼少期にフリージャズと即興音楽を聴いて育ち、暗中模索の思春期を経てジャズへ。
2014年より柳樂光隆監修『Jazz the New Chapter』シリーズ(シンコーミュージック)
及び関西ジャズ情報誌『WAY OUT WEST』に微力ながら協力。
音楽性迷子による迷子の為の音楽ブログ"maigo-music"管理人です。

花木 洸 Twitter
maigo-music

Monthly Disc Review2018.7.15:Monthly Disc Review

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Title : 『Double Rift』
Artist : CRCK/LCKS



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小西遼、小田朋美、井上銘、越智俊介、石若駿からなるバンド、CRCK/LCKS(読み:クラックラックス)の3枚目となるミニアルバム。


不均等な日本語を心地よく聴かせるセンスは今作でも抜群で、楽曲の構成がさっぱりとシンプルになったことがその点をより浮かび上がらせている。1stアルバムでは園子温の「スカル」に曲をつけたものが収録されていたが、今作でも「O.K.」、「たとえ・ばさ」では俳人の佐藤文香が、「病室でハミング」では詩人の文月悠光が作詞を担当し、一見音楽のために書かれたのかわからない詞を巧妙にリズムに載せていくさまには感嘆する。
その一方で楽曲の中の色彩感覚はより豊かになり、1作目のインタビューのときには彼らが「2日で録った」ということに驚いたが、今作ではそこからグッと深くまでより細やかな音の配置がなされたように感じた。小西遼が作曲を担当した「Skit」、「zero」ではプレイヤーとしての彼らをまた新しい切り口で見せつけているのも印象的だ・


各々が誰かの曲を演奏している感覚はどんどん希薄になり、何かと何かが混ざって面白くなった音楽というよりも、一つの新しい音楽としての完成度はさらに高まっているCRCK/LCKSに「各方面で活躍する気鋭のプレイヤーが集ったバンド」という肩書きはもう不要だな、と思った。


文:花木洸 HANAKI hikaru


CRCK/LCKS(クラックラックス)「No Goodbye」 MV



CRCK/LCKS



Recommend Disc

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Title : 『Double Rift』
Artist : CRCK/LCKS
LABEL : APOLLO SOUNDS
NO : POCS-1710
RELEASE : 2018.7.11



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【SONG LIST】
01.Introduction
02.O.K. 
03.No Goodbye
04.Skit
05.窓
06.たとえ・ばさ
07.zero
08.病室でハミング
09.Shower




音楽ライター柳樂光隆氏による人気のムック『Jazz The New Chapter 』の第5弾が2018年6月19日に発売。今回も花木洸が参加しています。

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■タイトル:『Jazz The New Chapter 5』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2018年6月19日
■出版社: シンコーミュージック

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花木 洸 HANAKI hikaru

東京都出身。音楽愛好家。
幼少期にフリージャズと即興音楽を聴いて育ち、暗中模索の思春期を経てジャズへ。
2014年より柳樂光隆監修『Jazz the New Chapter』シリーズ(シンコーミュージック)
及び関西ジャズ情報誌『WAY OUT WEST』に微力ながら協力。
音楽性迷子による迷子の為の音楽ブログ"maigo-music"管理人です。

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