Piano Lover
YAMAHA AvantGrand YAMAHA AvantGrand
大石学大石学
-ジャズピアノ・キーボードプレイヤー、編曲
2002年より大石学トリオ(米木康志(b)、原大力(ds)名義で6作品をリリース。寺島靖国氏を筆頭にジャズ通を唸らせ、国内屈指のピアノトリオとして評価が高まっている。近年は土岐麻子作品の編曲・演奏、三谷幸喜監督作品での音楽提供など活動の幅を広げている。

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Vol.2 - ピアニスト大石学
-AvantGrandを実際に弾いてみた感想はどうでしたか?
家のピアノは半年に1回か1年に1回くらいの調律なので、弦が伸びていることもあるけど、AvantGrandは自分でチューニングできるから、いつ弾いても綺麗な音で弾けるというのはいい。後、ヘッドフォンをして弾いてみたらどうなるだろうって思いましたね。多分ヘッドフォンで聞いてみたらハマるでしょう。僕は作曲する場合、MDやDATに録音してビール飲みながら聴くんですが、昼間弾くよりも夜中に(ヘッドフォンを使って)録音した方がいけるんじゃないかな。曲を作ったりアレンジするのはだいたい夜中だから、ヘッドフォンで聴けるのは嬉しいし、シンセの軽い鍵盤より、本当の鍵盤アクションが入ったAvantGrandを使った方がピアノに近い分だけアイデアも出やすいかもしれないね。

-実際に弾かれてみて、音粒の存在感はいかがでしたか?
バラードの曲は一度弾いた感じでつかんだけど、他のジャズの曲だとどうなるのか、興味がありますね。
4ビートのジャズやファンクっぽいものも楽しみ。ソウルバンドが入って、このAvantGrandで弾いたらもっといいんじゃないかな。バンドの中に入ると普通のピアノはドラムの音で聞こえにくいけど、AvantGrandは音に関してはデジタルだから、汗をかかなくても抜けがいい音が出せると思う。アコースティックではないバンドが入った時に、より音が抜けてくるかな。

クラシックやジャズに限らず、ポップスでも充分可能性は広がると思う。ラインでエフェクターをかけるとエコーやリバーブで宇宙のような音が出せる可能性がアコースティック・ピアノよりあるし。それに、シンセより見た目も良いと思うので「何だろうアレ」って思ってもらえるかも。「何かアレいいな」と事務所で1台注文するという可能性もあるかもしれませんね。(笑)

-AvantGrandの鍵盤のタッチはいかがでしたか?
シンセで練習すると、どんなに強く叩いても、出てくる音はいつも同じで、その感覚でアコースティックを弾くと、音がつぶれてしまったりする。このアコースティックの感覚は実際に引いてみないと判らない部分なのだけれども、 AvantGrandのように、本物の鍵盤アクションが入っているもので練習が出来れば、自分がアコースティックを弾いているときの感覚を持ちながらタッチの練習が出来るので、練習の質があがると思う。

-AvantGrandのように自分でチューニングもできて自分の音が作りやすいピアノが各地にあればやりやすいですか?
AvantGrand
もちろん。自分の音がわかっていれば湿気も温度も関係なく調整できるからね。ピアノは夏場と冬場でも全然違うし。冬場は良かったのに夏場は湿気で弦がやわらかくなって鍵盤があがってこなかったり、なんてことも。他にも冬場はセーターで高音が吸われたり、夏場はTシャツで音がのびたり。狭い会場ほど影響を受けやすかったり、とかあるからね。それと毎日向き合うのは大変だけど面白かったりする。そういうのを楽しんだほうがいいと思うよ。

もっとAvantGrandの世界を聴いてみたいあなたに
-全国色々な場所で演奏をされていますが、会場によって良い音、悪い音をはっきりと感じることありますか?
ピアノの前に座って一音弾いたら分かりますね。楽器の良し悪しと調律師の腕や趣味、感性があるんだと思います。ジャズというだけでカチンカチンの音(硬い音)に調律されることが多い。例えば「このピアノでショパンは弾けない」というと「ショパンを弾くんですか?」と逆に言われたりもするけど、僕はバラードやクラシックっぽいもの、ブルースも弾くので。一概にジャズの硬い調律をされてしまうと、その日は限られた表現しかできないようになってしまうので困るね。

でもどこのホールにいいピアノがあるとか、どこのスタジオにどういうピアノがあるということはイメージしています。ただオーバーホールで弦を全部張り替えていたりすると大変。特に弦を張り替えた最初だったりすると、めまいがする程疲れますね。

-一定のクオリティがない場面で演奏する際、やはり葛藤はありますか?
よくあるよ。新しい楽器が最近良くなくなって来ている気がするんだ。木がよくないのかもしれないけど、詰まってなくて、カスカスだから、音が軽くなって深みがなくなっているのは事実。でもお客さんには分からないことで、演奏でもCDでも自分の責任ではないと思いつつ、それでもそこで良い音を出さなければいけないのはピアニストとしての宿命だと思ってるから、少し弱く弾いてみたり、低音を強くしたり、高音を柔らかくしてみたり、レガードやスタッカートで弾いたり、と調整はしてます。慣れてはいるけど、その場で工夫してやらないといけなくて、自分の持っている技術でどこまで持っていけるか。調子が悪いと思われるのも嫌なので、そこは毎回うまく調整してますね。

-演奏する上で大石さんがこだわっていることは?
一番に、自分の精神状態があるけど、個人的にこだわっているのは”どれだけ小さい音が出るか”と”どれだけ大きな音が出るか”。大きい音は叩けば簡単に出るからいいけど、ピアニッシモで、『すごく強いピアニッシモ』を出すのが難しい。そこが武道館でもどこでも『人に届く、すごく強いピアニッシモ』がなかったら、ピアノではないからね。 ピアノは猫が上に乗ってもなるくらいで、叩けば鳴るんです。管楽器は吹かないといけないし、指と呼吸もいるんですけどピアノは叩けば音が出てしまう。なので、『弱いタッチでピアニッシモを弾く』というのは、色々な場所、ホールやスタジオ、ライブハウスなどで経験していないと分からない事だし、最初にピアノの前に座った時にどれくらいのタッチでどれくらいの音が出るのかを試してみるまで怖いですね。あまり強く叩き過ぎると、その音がその日の底辺になってしまって音が大きくなりすぎる。だから、いかに弱いタッチでピアニッシモを出せるかが分かれば、後はどんどん大きな音を出せばいいわけ。だから、そこ(ピアニッシモのタッチ)にはこだわってます。
-音楽以外でこだわっていること何かありますか?
携帯電話を持たない(笑)何故嫌いかは理由があって、例えば電車に乗っている時でさえ電話に出ている姿などを見ると、縛られているように見えるんですよね。もちろん家にはPCもあって、ホームページも作っているけど、それはファックスで原稿を送って管理人の方に作ってもらっているんです。メールや電話が鳴ることが気になると生活にも支障をきたすと思うし、余裕がなくなって曲が書けなくなってしまうことが怖いんです。それと、放っておいて欲しいと思ってしまう性格もあるので(笑)例えば人と話しているときに電話がなると話に気がいかなくなってしまうんですよね。緊急の用事かもしれないけど、親の死に目に立ち会えないこともこの仕事をしているからには宿命だと思っていて・・・。
困ることもあるんですが、こうなったら地球上の最後の一人になっても僕は持たないという方がかっこいいかな(笑)
今はメールで一斉にスケジュールを送れるけど、僕にはいちいち電話をしないといけない。でも昔はそうだったし、いまさらそのために生活を変えたくない。だから今でも10円玉とテレホンカードを持ち歩いているけど、今は公衆電話が少ないんだよね(笑)でも面白いもので、公衆電話で電話をかけてくるのは僕くらいだから、公衆電話からの電話があると、知り合いはすぐに分わかってくれるような生活が出来ています。こだわっていると言うか半分は面白がってるね。それに今さら携帯を持ったら変に思われてしまうかも(笑)
AvantGrand

-最後にジャズへの想いをお聞かせ下さい。
だいたいジャズって、もうやりつくされたというか、マイルス・デイヴィスがやってきたことを真似してたり影響を受けていると思う。でもマイルスはもう亡くなっている訳で、そこから先はフリージャズもあってフュージョンもあって、ロックもソウルもブラジル音楽もクラシックも全部混ざったものであって、この先はもうないと言われるけど、でもその先はもう自分の個性なんですよね。その人がやりたいことがその人しか出来ないことであれば、人の真似をする必要はない。例えばビル・エヴァンスのように弾くことは出来るけれども、それはやっちゃいけないし、その先を僕らの世代がやらないと次のジャズはない訳で。でもそれをやっている人がそんなにはいなくて、最近ではブラッド・メルドーが出てきて、まだ可能性はある!と思ってたんですが、彼ももう年を取ってきてパット・メセニーとやってたりしたのを聴いたんですけど、まぁこんなもんだよなって・・・。その先は?ってなったときに、新しさを感じさせてくれたのは、10月に来日したイスラエル出身のピアニスト、ヤロン・ヘルマン。今28歳か29歳で(現在28歳)、錦糸町の(すみだトリフォニーホール)に来てました。その彼のソロピアノのCDが1000円で売っていたので知ったんだけど、キース・ジャレットとブラッド・メルドーの流れだという触れ込みで、僕もそういう流れは好きで、僕自身もその流れはあるので、1000円だったら騙されても良いと思って買って聴いてみたら、「サマ-タイム」という名曲をすごいハーモニーとアレンジでやってるんです。ソロピアノで。これはすごいなと。その後、トリオの作品も聴いてみたら、ブラッド・メルドーとも確かに似ているけど、もうちょっと年が若いから何かアイデアがあって音が過激なんですよね。で、この人面白いと思って3枚聴きました。
彼のように『ジャズにはまだ可能性はある』、『まだジャズは廃れていない』と思ってやってる若者がいるんだから、
僕らオヤジも、ちょっと頑張らなきゃって(笑)
キース・ジャレットも60歳を過ぎて来日してたり、東京JAZZにはマッコイ・タイナーが来てたり、ハンク・ジョーンズが日本に来たり、ハービー(ハンコック)もチック(コリア)も皆、まだまだエネルギーを持って進んでいるんだから、
日本の人たちにも古いことばかりやっていないで、先を求めて何かをプラスしないと今の時代には合ってない、
“昔は良かったねというジャズ”になってしまう(って言いたいよね)。クラシックはある程度作曲者の意図があると思うからいいけど、どんどん変えていかないといけないよね。例えばジャズは「A Train(A列車で行こう)」や、「枯葉(Autumn Leaves)」だからジャズだというのではなく、もっと先を見ないと廃れていくというか、ジャズがクラシックのようになっていく気がして、携帯電話を持たないのと一緒で、そこにこだわってやり続けていますね。


-どうもありがとうございました。
佐山雅弘セレクトアルバム
Oscar Peterson / Night TrainKeith Jarrett / Facing You
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