ARTIST : 熊坂義人 (福 / bass)
TITLE : 西に富士、屋上は晴れている
JJazz.Net"SOMEBODY"では毎回、色々な方に「大切な人」について語って頂きます。今回は、3月20日にアルバム『逆さまの国』をリリースしたユニット「福」から、ベーシスト熊坂義人(くまさか よしと)さんにお話を伺いました。ノルウェーで昨年7月にリリースされた作品の、待望の日本版であるこのアルバム。ぜひお楽しみください。
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屋上はたいした広さではないが、冬のよく晴れた日なんかは
遠く西に富士が見えたりするので、僕の気に入っている場所だった。
思春期はよくそこで、一人で物思いにふけったりしたものだった。
その日は良く晴れていて、暖かかくて眺めも良かった。
「散歩」と称して親父と二人、屋上にあがった。
親父一人では危ないので、僕が付き添いというわけだ。
親父は浴衣でもって、ゆっくりゆっくりと
何かを確かめるように丁寧に歩いた。
僕はそれをただ見つめているのも、何か悪い気がして、
しばらく西の空を眺めていたのだ。
二人ともシャイであまり話をしないできてしまったが、
結局この「散歩」でも一言も口をきかなかった。
小さい頃は親父の車にのせてもらうのが好きだった。
親父は新しい物好きで、何かあると「ロジャース」なんていう
ローカルなディスカウントショップに行くのだ。
親父の仕事が終わってから出発するから、あたりはもう真っ暗で、
車の助手席から見える国道沿いの大きな店のイルミネーションやら、
街頭やらが少年の僕を興奮させた。
思えばこんなときも、何を話すというわけではなかったように思う。
話をあまりしなかったからなのか、今更ながら親父のことが気になる。
生きていれば65歳。
僕もいずれ親父になる。
福/熊坂義人
[[[ 熊坂義人 PROFILE ]]]
熊坂義人(コントラバス)
23才でコントラバスを手にして以来独学で自己表現としてのコントラバスを探究。ASA‐CHANG、鈴木惣一郎、三宅伸治、おおはた雄一、ビーザボイスなど共演多数。現在、ヤング☆ナッツ、福、出世魚ズ、ケチャップなどユニークなバンド(...や、ユニットなど)の正式メンバーとして活動するかたわら、小説も執筆中。
→熊坂義人 HP
[[[ 福-fuku- PROFILE ]]]
熊坂義人(コントラバス)、スパン子(アコーディオン)、HONZI(バイオリン)によるユニット。2006年7月、ノルウェーのフェスティバル参加を機に結成。
mtgレーベルよりファーストアルバム『逆さまの国』がリリースされる。ノルウェーで各方面のメディアに取沙汰され、大成功をおさめる。帰国後、日本や東欧、世界各国の民謡、民族音楽のエッセンスを取り入れた新しいポップスを作り出すユニットとして活動を始める。2006年12月にセカンドミニアルバム『コレラの国』を制作し、東名阪をツアー。2007年3月20日に待望の「福-fuku-アルフ・プロイセンをうたう『逆さまの国』」が日本で全国発売となる。
→福 HP
[[[ WORKS ]]]