JJazz.Net Blog Title

My First Jazz Vol.32-伊藤志宏:My First Jazz

Title : 『The Woman Next Door』
Artist : Rita Marcotulli

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「セロニアス・モンクが僕のジャズの入り口ではあるし、色んなミュージシャンの影響はあるけれど、アメリカのジャズがどうしても上手くならなくて(笑)、そんな行き詰っている時にaudaceの北田学に教えてもらったのがこの作品。これを聴いて、こういうのもジャズで良いんだって衝撃を受けたアルバムです。

ピアニストの作品なのにピアニストが前面に出ない。僕のアルバム『タペストリア』もまさしくそう。またこのアルバムは楽曲によって編成が違って、デュオもあればトリオもあれば多編成もあり。曲によって編成が変わるといえば、以前僕が出した『LADIES & PIANOMAN』のヒントはまさしくここから。これを聴いてなかったらああいう形にはなってなかったと思います。」

伊藤志宏

伊藤志宏 Official






My First Jazz

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Title : 『The Woman Next Door』
Artist : Rita Marcotulli
LABEL : Label Bleu
発売年 : 1998年



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【SONG LIST】
01.Le cinma est le cinma
02.Les 400 coups
03.Songs of Innocence
04.Songs of Experience
05.Escape
06.Masse di Memoria
07.Musique en jeu
08.Les enfants s'ennuient le dimanche
09.Antoine Doinel
10.Arpeggio E Fuga
11.The Japanese Mistress
12.Que reste-t-il
13.Fragment (Of the Third Kind)

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Title : 『Money Jungle: Provocative In Blue』
Artist : Terri Lyne Carrington

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【リファレンス音源】


みなさんこんにちは、曽根麻央です。いかがお過ごしでしょうか?


 ジャズのアルバムの中には、不思議なことに多くの人に愛されるにも関わらず、必ずしも良い音質やミックスである、というわけでは決してありません。これは、ジャズを聴く際、演奏者の魅力というのが音楽の良し悪しを判断する上でもっとも重要な要因となるからだと思うのです。

時代的にレコーディング技術が追いついていなかったり、そんな中でのライブ録音だったりと、皆さんが愛してやまない名盤の中にもどこか「もう少しレコーディングクオリティーがよかったらなあ...」と思われることもしばしあるかもしれません。それでもその音源に魅力があるのは、その一瞬一瞬に魂を込めた当時の名手たちの魅力を感じ取れるからではないでしょうか?また、様々なレコーディングの技術が、録音されたその時期にリアルタイムで発明されているわけですから、おそらくエンジニアも試行錯誤をしていた(もちろん現在でもしている)、そんな事情もあると予測ができます。

 しかし昔から「良い録音」をされたジャズの名盤もたくさんあります。ブルー・ノートやインパルスやその他の名盤と言われるシリーズには、現在においても尚「ジャズ・サウンド」のリファレンス(参考)となりうるものです。また、「何でこの時代の機材でこんなに良い音で録れているの?」だとか、「何でモノラル録音なのにこんなに空間が感じられるの?」だとか、色々と考えさせられるすごい音というのが歴史上沢山存在します。それらを聴いて体感して見るのもジャズの楽しみ方の一つです。

 このように「良い音」で録られた音源は、次の世代のアーティストが制作活動をする上でリファレンスとして、サウンドの基準として用いられる場合が多いです。例えば僕がスタジオに入ると、リスニング・ブースに自分が良いと思うリファレンスの音源を持っていって再生してもらいます。これによって、そのスタジオのモニターや部屋の鳴りかたなど「音の癖」を把握して、エンジニアに注文を出したりして理想の音に自分の作品を近づけていきます。リファレンス音源を持っていないで、特によく知らないスタジオでその日録音した音源のみを聴き良い音だと思っていても、家に持ち帰った時にがっかりする音質だった、なんて悲しい事件が起こったりもします。レコーディングの怖いところです。

 そこで今日は僕が思う現在のジャズのレコーディングのリファレンスとして最適な音源とアルバム、Terri Lyne Carringtonの『Money Jungle: Provocative in Blue』をご紹介しようと思います。


 僕は6曲目の「Grass Roots」をリファレンスにすることが多いです。ジャズの基本でもあるピアノトリオとしてのミックスが綺麗で、バンドとしてもバランスがとてもよくとれています。ドラムが全体を包み込むように空間を支配していてとても気持ちいです。ベースもリズムとピッチがよく聞こえるのに、ベース的な太さを残しています。ピアノも高音から低音までバランスよく綺麗に収録されているのでこれを聴きながら自分の録音の音を調整してもらうと理想に近くなります。もちろんそれはテリやクリスチャン・マクブライド、ジェラルド・クレイトンなどのモンスター級のプレイヤーが揃っているのも大前提としてあるのですが...




 ちなみにトランペットの音は理想の音が常に頭にあるので、あまりリファレンスは持っておらず、その時の直感に頼ることが多いです。


 テリ・リン・キャリントンは女性として初めてジャズ・インストゥルメント部門でグラミーを受賞したこともあり、女性ドラマーとして注目を浴びることが多いのですが、アメリカで様々な一流ドラマーを見てきた僕からすると、彼女こそダントツで現在のトップドラマーだと信じています。スウィングからファンク、フュージョン、ロック、ラテンまでありとあらゆるグルーブを自在に、そしてどんなダイナミックスでも表現できるマスターです。

 Money Jungleという言葉はそもそも、デューク・エリントン、チャールズ・ミンガス、マックス・ローチの1962年のアルバムですが、今回はテリがそこに独自の解釈を加えたアレンジと、オリジナルで構成されています。

メンバーを見てみましょう。


Terri Lyne Carrington - drums
Gerald Clayton - piano
Christian McBride - bass

[ゲスト]
Clark Terry - trumpet, vocals (track 2)
Robin Eubanks - trombone (tracks 2, 9)
Antonio Hart - flute (tracks 2, 9)
Tia Fuller - flute (track 2), alto saxophone (track 9)
Nir Felder - guitar (track 3)
Arturo Stabile - percussion (track 8)
Lizz Wright - vocals (track 3)
Shea Rose - vocals (track 11)
Herbie Hancock - vocals (track 11)




1. Money Jungle
 「現在の規範では命を救うことや地球のバランスをとること、正義や平和を語ることに何の利益もありません。利益を産むためには問題を起こさねばならない。

(There is no profit under the current paradigm in saving lives, putting balance on this planet, having justice and peace or anything else. You have to create problems to create profit.)」

という朗読に合わせてテリがドラムソロを演奏しています。

 ちなみにテリはこのような朗読と音楽をコラボさせるのが得意で、僕自身も彼女のTed Talkでのパフォーマンスで参加させてもらっています。是非見てください。3:41ぐらいからです。




2. Fleurette Africain
 クラーク・テリーがボーカルとトランペットで参加しています。クラークはトレードマークでもあるスキャットを聴かせてくれます。彼のスキャットは歌詞自体には全く意味がないのに、言葉や意味が聴こえてくる感じがして本当に圧巻ですね。


3. Backward Country Boy Blues
 古いブルース調の雰囲気から始まり、徐々にコンテンポラリーの要素が増しています。ギターの名手、ニア・フェルダーが参加。ゴスペルシンガーのリズ・ライトも参加しています。


4. Very Special
 元祖Money Jungleでも重要なレパートリーでもあるブルース曲。テリ、マクブライド、クレイトンのトリオでもスウィングの直球演奏を聴くことができます。テリの美しいライドシンバルのグルーブはドラマー必聴かと思います。マクブライドとのコンビネーションも最高のグルーブを出しています。かなりリズミックなソロのクレイトンに、完璧にベースをコントロールするマクブライドを聴くことができます。


5. Wig Wise
こちらも元祖Money Jungleより。原曲は4拍子のスウィングですが、6拍子のイーブン・フィールで演奏されているため、かなり原曲とはかけ離れています。単純にトリオだけの演奏になっていて、こちらもかなり聴き応えのあるテイクだと思います。


6.Grass Roots
 先に書いたように僕がアコースティックのジャズのレコーディングの際リファレンス音源として持っていくテイクです。テリのオリジナルなようです。先ほども言ったように、ドラムの全体を包み込むような空気感が好きなのですが、もちろんこれはレコーディング・エンジニアだけで成し遂げられることではなく、ドラムのチューニング、タッチなど色々なことが合わさってこの音が録れています。特にこのアルバムはジャズのアコースティックのアルバムにしてはベースドラムのチューニングが高すぎず、ドシッと中身の詰まった音色なのがとても気持ちいです。ドラマーにとって自分のチューニング、そのバンドに最適のチューニングを見つけることは全体のサウンドに関わってくるので、是非チューニングの勉強をしてみてください。これだけでドラムの演奏レベルと一緒に演奏しやすさがかなり上がります。


7. No Boxes (Nor Words)
 こちらもテリのオリジナル。ピアノの左手とベースでユニゾンラインが演奏される上で、右手が自由に動き回るイントロを経て、スウィングのテーマ部分に入って行きます。3:01ぐらいのテーマからソロに入ったタイミングのドライブ感(グルーブが前に躍進していく感じ)が凄まじいです。やはりこのレベルのプレイヤーはグルーブに対する瞬時の集中力(もはや集中を超えてナチュラルに演奏してるのでしょうが...)が他と一線を画していますね。




8. A Little Max
 5拍子のイーブンの曲。以前の記事でもお話しした5拍子のクラーベ(変拍子クラーベ)が随所で聴き取れます。こういったクラーベを用いた演奏では、クラーベを体に取り込んでそこに肉付けをしているので、ぱっと聴いた際にクラーベが無いように聴こえてしまいますが、よく聴くと中心にはどこかいるものです。3:50からはまさに5拍子クラーベのテリ流のパターンを叩いているのでドラマーの方は是非練習してみてください。




9. Switch Blade
 マクブライドのベースソロから入る、スローブルースの曲。ビヨンセのバンドのサックスも務めるティア・フラーがサックスを、前回取り上げたSFJazz Collectiveにも参加しているロビン・ユーバンクスがトロンボーンを演奏しています。


10. Cut Off
 エリントンのソリチュードのような導入のジェラルド・クレイトンのオリジナルバラード。


11. Rem Blues/Music
 何とハービー・ハンコックも朗読に参加しているこのトラック。クレイトンのフェンダー・ローズが静かに雰囲気を作り、徐々にグルーブが聴こえてきて、シーア・ローズという方がエリントンの詩を朗読しています。「人気を得ることはお金を得ること、だけどそれは音楽ではない」というハンコックの言葉で締めくくられます。




いかがでしたでしたか? 
また次のDisc Reviewでお会いするのを楽しみにしております。

文:曽根麻央 Mao Soné






【曽根麻央ライブ情報】
11/17 (火) @ 六本木サテンドール
Brightness Of The Lives [曽根麻央 (tp&keys)、井上銘(gt)、山本連(eb)、木村紘(ds)]
https://www.satin-doll.jp/

11/20 (金) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/

12/13 (日) @ 六本木サテンドール
曽根麻央 (tp) & David Bryant (p)
https://www.satin-doll.jp/

12/25 (金) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/



Recommend Disc

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Title : 『Money Jungle: Provocative In Blue』
Artist : Terri Lyne Carrington
LABEL : Concord Jazz ‎
NO : CJA-34026-02
発売年 : 2013年



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【SONG LIST】

01. Money Jungle
02. Fleurette Africain
03. Backward Country Boy Blues
04. Very Special
05. Wig Wise
06. Grass Roots
07. No Boxes (Nor Words)
08. A Little Max (Parfait)
09. Switch Blade
10. Cut Off
11. Rem Blues/Music




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Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

My First Jazz Vol.31-宮本貴奈:My First Jazz

Title : 『The Köln Concert』
Artist : Keith Jarrett

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「キースの名盤中の名盤。高校の時に知人に聴かせてもらって衝撃を受けて以来、私のバイブル的アルバムです。劇場の透き通った空気感と、みずみずしいサウンド感。ソロピアノで全曲即興。ピアノ一台でこんなに表現できるなんて。「Less is more」とはまさにこのアルバムのことです。当時はコンセプトが新しすぎて、「ケルン(リクエスト)お断り」の張り紙があるジャズ喫茶もあったとか。」


Title : 『Gershwin Connection』
Artist : Dave Grusin

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「そしてもう1枚はDave Grusinの『The Gershwin Connection』。こちらも高校の時に毎日聴いていた、とってもゴキゲンなガーシュインの名曲集。最高のピアノプレイとアレンジ、選曲、音質、そしてピアノ鍵盤がお茶目なパッケージまでも、全てが素敵な作品。いつかこんなアルバムを作りたい、と思いました。映画音楽も手がけるGrusin氏だからこそのセンスとサウンドです。彼に憧れて、ジャズピアニスト/作曲家という道を目指すきっかけとなった一枚です。」 宮本貴奈


宮本貴奈

宮本貴奈 Official









My First Jazz

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Title : 『The Köln Concert』
Artist : Keith Jarrett
LABEL : ECM Records
発売年 : 1975年



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【SONG LIST】
01.Köln, January 24, 1975, Pt. I(LIVE)
02.Köln, January 24, 1975, Pt. II A(LIVE)
03.Köln, January 24, 1975, Pt. II B(LIVE)
04.Köln, January 24, 1975, Pt. II C(LIVE)





My First Jazz

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Title : 『The Gershwin Connection』
Artist : Dave Grusin
LABEL : GRP
発売年 : 1991年



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【SONG LIST】
01.That Certain Feeling
02.Soon
03.Fascinating Rhythm
04.Prelude II
05.How Long Has This Been Going On?
06.There's A Boat Dat's Leavin' Soon For New York
07.My Man's Gone Now
08.Maybe
09.Our Love Is Here To Stay
10.'S Wonderful
11.I've Got Plenty O' Nuthin'
12.Nice Work If You Can Get It
13.Medley: Bess You Is My Woman/I Loves You Porgy

曽根麻央 Monthly Disc Review2020.10_現代・中規模編成ジャズの名盤:Monthly Disc Review

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Title : 『SFJAZZ Collective 2』
Artist : SFJAZZ Collective

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【現代・中規模編成ジャズの名盤】


みなさんこんにちは、トランペット&ピアノの曽根麻央です。気温もだいぶ低くなり、都内では秋物のコートが手放せなくなりました。COVID-19の影響で未だ活動は小規模ではありますが、温かいお客様に囲まれ、音楽的にも充実した日常が戻ってきつつあります。みなさんはいかがお過ごしでしょうか?


 さて今回は現代の中規模編成のジャズの名盤ということで、SFJAZZ Collectiveの『2』というアルバムを取り上げます。このアルバムのアレンジや演奏を聴いていきましょう。また中規模編成の歴史的なアルバム『Birth Of Cool』については以前書きましたので、そういった過去の類似作品と現代の作品の違いも感じ取っていただけると嬉しいです。


SFJAZZ Collectiveは2004年から現在も活動する続く8人編成のジャズアンサンブルで、非営利団体のSF Jazzや毎年開催されるサンフランシスコ・ジャズ・フェスティバルによって運営されています。毎年、ジャズの代表的なレジェンド・アーティストのレパートリーのカヴァーと、メンバーの新作とを50:50にして演目を構成しています。


例えば2004年はオーネット・コールマン、2005年はコルトレーン、2006年はハービー・ハンコックといった感じです。 メンバーは入れ替わったりしていますが、ブライアン・ブレイドやジョー・ロヴァーノといった今のジャズシーンを代表するメンバーが常に参加しています。2004年からの活動ということで、僕ら30歳手前の世代のミュージシャンにとっては、当時、ヒーローの集まりのような夢のアンサンブルでした。


2000年代のジャズの流れとして印象深いのは、2001年のウエイン・ショーター・カルテットの結成や、2008年のアンブロース・アキンムシーレのモンク・コンペティション優勝からのデビューなどですが、それと並んで、SFJAZZ Collectiveの活動も話題となりました。


 では早速この『2』のメンバーを見ていきましょう。トランペッターの皆さんは、ニコラス・ペイトンの圧倒的なトランペット・プレイを聴くことができるので、このアルバムは必聴です!


MIGUEL ZENON(as,fl)
JOSHUA REDMAN(ts,ss)
NICHOLAS PAYTON(tp)
ISAAC SMITH(tb)
BOBBY HUTCHERSON(vib,marimba)
RENEE ROSNES(p)
MATT PENMAN(b)
ERIC HARLAND(ds)

GIL GOLDSTEIN (arranger on Coltrane's Songs)




1. Moment's Notice




 ジョン・コルトレーンの代表曲をギル・ゴールドスタインのアレンジで聴くことができます。インパクトのあるホーンの呼びかけにエリック・ハーランドのドラムが応えるイントロ。やっぱりイントロやアルバムの出だしというのは人の心を掴む重要な部分なので、インパクトはどの時代でも大事ですね! 
その後、あの有名なメロディーが聴こえてきます。それに続きニコラス・ペイトンの圧倒的なソロを聴くことができます。このアルバムではペイトンは4曲ソロを取っていますが、どれも圧巻です。


2. Naima
 コルトレーンの美しいバラード曲。こちらもゴールドスタインのアレンジ。原曲は4拍子のバラードだが、こちらでは3拍子に編曲されています。ベースとピアノの低音オスティナート(ある種の音楽的なパターンを続けて何度も繰り返す部分)の上で、名手ボビー・ハッチャーソンがヴァイブラフォンでメロディーを奏でます。終始ハッチャーソンがフィーチャリングされていて、彼は自身の持つ美しい歌い方とテクニックで、クライマックスに向けてゆっくりと音楽を発展させていきます。ホーンは基本的にバックグラウンドでハーモニーを奏でるにとどまっていますが、各楽器のバランスの取り方がさすがですね。


3. Scrambled Eggs
 ニコラス・ペイトン作曲。その名前の通り卵をかき混ぜるように、徐々に早くなるように聴こえる不思議な曲。ですがリズムの柱が全音符2分音符3連、4分音符、2拍3連、8分音符、3連符とどんどん短くなっているだけで、実は全体は一定の4拍子でずっと進んでいます。そんな変わったリズムの柱の上で自由自在にソロを吹くペイトンのソロに続き、ピアニスト、リニー・ロスネスもアヴァンギャルドのようにピアノをグリッサンドさせるソロから徐々に美しいフレーズが聴こえてきてスウィングさせます。


4. Half Full

 ジョシュア・レッドマン作曲。このアルバム一番の大曲かもしれません。イントロとしてベースの伴奏の上にヴァイブラフォンのメロディーが聴こえてきます。その後フルートが入り、その後トロンボーンにトランペット、サックスと少しずつ盛り上げて、ルバート(テンポのない)セクションに一瞬入ります。ルバート部分には少しだけコルトレーンの要素がある気がしますね。メインのメロディーがルバートでトランペット、アルト、テナー、トロンボーンと受け継がれながら聴こえてきて、ようやく心地よい早めのスウィングでメインテーマに入ります。メインテーマは最初ピアノだけで演奏されていますが、その後ホーンセクションが入ってきて徐々に盛り上げていきます。

メロディーは色々な楽器を受け継がれていきます。例えばトランペットがメロディーを一瞬吹いたかと思えば、次のフレーズではハーモニーパートに転じ、テナーがメロディーを取っています。リード(メインのライン)の受け継ぎがうまいのはアンサンブル能力の高さです。メロディーを殺すことなくちょうど良いバランスで自分のパートを吹き分けるのは流石の技術です。

そして、今まで触れてこなかったのですが、これはライブ盤ですので、完全一発録りという意味でも、技量の高さを感じることができます。その後、リニー・ロスネスのソロになり、一旦彼女のソロで曲はクライマックスを迎えます。一旦曲が終わったかと思えば違う雰囲気で、よりリズミックなモチーフで曲が再構築されていきます。その後、作曲者のジョシュア・レッドマンがソロを吹きます。このソロも本当に素晴らしいので是非聴いてほしいです。その後コーダにむけてホーンが入り、本当のクライマックスを迎えます。ニコラス・ペイトンの全体のリード力も、音色が輝いていて聞き応えがあります。


5. 2 And 2
 ミゲル・セノン作曲。不思議な感じのするヴァイブラフォンとピアノのイントロから、エリック・ハーランドによってグルーブが提示されます。オリジナルの譜面がどう書いてあるのかわからないのですが、おそらく6/4+9/8拍子の繰り返しです。ミゲル・セノンのソロもこの拍子の上で成り立っています。ミゲル・セノンは僕が最も好きなアーティストの1人なのです。この人は楽器のテクニックやサックスの音色はもちろんですが、リズムに関するアイディアは他の追随を許さない才能の持ち主です。

 話が逸れますが、ミゲル・セノン・ビッグバンドの2014年の作品『Identities Are Changeable』では、リズムのアイディアをさらに発展させて、ポリリズムを使って、非常に複雑な関係性のある違う拍子やテンポを行ったり来たりすることで、独自の世界を突き進んでいます。
 続くジョシュアのソロは(変拍子は何通りも書き方や捉え方があるため、実際の記譜はわかりませんが)4/4+3/4+4/4 ×3回 4/4+6/4 の拍子で進行していきます。その後のエリックのドラムソロは元の6/4+9/8。


6. Crescent
 ジョン・コルトレーン作曲、ギル・ゴールドスタイン編曲。ニコラス・ペイトンがフィーチャーされていて、これでも恐ろしいほどに完璧なソロを取っています。トランペッター、トランペットファンは必聴です。


7. Africa
 ジョン・コルトレーン作曲、ギル・ゴールドスタイン編曲。こちらはジョシュア・レッドマンのフィーチャー曲。ボビー・ハッチャーソンのいかにもアフリカらしいマリンバの演奏から入ります。マリンバの演奏が最高潮に達して「Africa」のグルーブが聴こえてきます。ジョシュアのソロも聴いていてワクワクします 。いわゆるモード曲ですが、その中でジョシュアがフレーズを発展させている様がとても素晴らしいです。
それに続くエリック・ハーランドのドラムソロも、エリックの独特の歯切れ良い心地の良い音色が体に入ってきてとても気持ち良いです。エンディングはまたボビー・ハッチャーソンがイントロと似た雰囲気を作って終わります。ボビーのアフリカのようなマリンバから始まって終わるこのスタイルは、実は「SFJAZZ Collective」の1枚目の「Lingala」という曲でも聴けます。全然違う雰囲気になっているので、面白いので聴き比べてみてください。


8. Development
 エリック・ハーランド作曲。このアルバムで僕が個人的に一番好きなのはこの曲かもしれないです。リリカルなメロディーで歌いやすく、とてもポップです。Aセクションは4拍子なのですが、Bセクションは7拍子となっています。Bセクションはあくまで個人的な感想ですが、Geri Allenの「Drummer's Song」に似た雰囲気がありますね。



最初のミゲル・セノンのソロはフォーム通りになっています。ミゲル・セノンらしい美しいアルトのサウンドとリズム感のあるラインが聞けるソロになっています。
 次のニコラスのソロは全く違うフォームで11小節のコード進行になっています。一小節ごとにBb7sus, A7sus, Ab7sus...半音ずつ降りる...Db7sus, C7susというコード進行の上でニコラス・ペイトンが縦横無尽に駆け回ります。まさに縦横無尽という言葉通りだと思うので、どういうことだと思った方は是非聴いてみてください!

 通常のアルバムだったら1アルバム、1リーダーだと思うのですが、このバンドではみんなが曲を持ち寄っているため、ミュージシャンたちの普段とは違うとても楽しげで活き活きとした様子が伝わってきますね。全員がソロを回しているだけのセッションとは違い、あくまでバンドとしてまとまりのある中規模編成のバンドとしては超一流です。是非アルバムを聴いてみてください。


いかがでしたでしたか? 
また次のDisc Reviewでお会いするのを楽しみにしております。

文:曽根麻央 Mao Soné






【曽根麻央ライブ情報】
10/21 (水) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/

10/30 (金) @ 柏Nardis
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
http://knardis.com/knardis.com/Welcome.html

11/17 (火) @ 六本木サテンドール
Brightness Of The Lives [曽根麻央 (tp&keys)、井上銘(gt)、山本連(eb)、木村紘(ds)]
https://www.satin-doll.jp/

11/20 (金) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/

12/13 (日) @ 六本木サテンドール
曽根麻央 (tp) & David Bryant (p)
https://www.satin-doll.jp/

12/25 (金) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/



Recommend Disc

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Title : 『SFJAZZ Collective 2』
Artist : SFJAZZ Collective
LABEL : Nonesuch
NO : 7559-79930-2
発売年 : 2006年



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【SONG LIST】

01. Moment's Notice
02. Naima
03. Scrambled Eggs
04. Half Full
05. 2 And 2
06. Crescent
07. Africa
08. Development




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Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

My First Jazz Vol.30-maiko:My First Jazz

Title : 『Thinking of You』
Artist : 寺井尚子

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「ジャズに触れた作品はやっぱり寺井尚子さんのファーストアルバムかな。ジャズには大人っぽいサウンドの匂いがあるでしょう?私はそれまでジャズに触れたことがなかったから全体のサウンドの響きがとても大人っぽく感じて。しかもヴァイオリンでこう表現できるんだ!と衝撃を受けました。


ちなみに寺井さんとの出会いは偶然なんです。ちょうど大阪に遊びに行ってた時にHMVさんを覗いたら、たまたま寺井さんのインストアライブがあって。それまではジャズ・ヴァイオリンのことはよく知らなかったし正直そんなに良いイメージもなかった(笑)。でも実際聴いてみたらすごく良かったんです。」

maiko

maiko Official






My First Jazz

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Title : 『Thinking of You』
Artist : 寺井尚子
LABEL : 日本コロムビア
発売年 : 1998年



1998年発売のファーストアルバム。メンバーは野力奏一、坂井紅介、日野元彦。


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【SONG LIST】
01. ストールン・モーメンツ
02. 出会い
03. ドナ・リー
04. アイ・ラヴズ・ユー、ポーギー
05. パキラ
06. パハロ(鳥)
07. ダダ
08. ハイウェイ・アット・ミッドナイト
09. サマー・ナイト
10. ストレイト・ノー・チェイサー
11. シンキング・オブ・ユー

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