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曽根麻央 Monthly Disc Review2021.07_ Ray Bryant Trio_Play The Blues

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 みなさんこんにちは、曽根麻央です。今日は、小学生の僕が一番影響を受け、今でも尊敬しているピアニスト、レイ・ブライアントの作品『プレイ・ザ・ブルース』を紹介したいと思います。ブルースピアノといえば、なんだか土臭くガチャガチャしているジャズ初期の音楽な印象もありますが、レイ・ブライアントのピアノはこのジャンルのイメージを完全に覆し、上品で洗練されたものへと昇華していますので是非一緒に聴いていきましょう。

本題の前にお知らせです。昨日情報公開されました!


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9/23(木・祝) @ 丸の内コットンクラブ
曽根麻央トリオ with ストリングス

詳細▶︎http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/mao-sone/

僕とメンバーの3人で長年かけて育ててきたこのサウンドがついに憧れの舞台、COTTON CLUBのステージへ! ストリングスを迎えた新たなアンサンブルを初披露します! 是非、お誘い合わせの上お立ち寄りください。お待ちしております。
[予約受付開始日] 2021/7/24(土)


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Title : 『Play The Blues』
Artist : Ray Bryant Trio



【洗練されたブルースピアノの真髄を聴く】


レイ・ブライアントを僕が初めて聴いたのは小学3年生の頃。当時、僕の地元の柏にお住まいだった元スウィングジャーナル編集長、児山紀芳先生の主催により、柏のジャズクラブでレイを間近に見る機会があり、初めてその演奏を目にしました。

力強いタッチと安定したグルーヴでピアノが横に揺れるのです。こんな揺れは通常ありえないのですが、レイが弾くとそれが現実に起きました。その演奏に衝撃を受けた僕は次の日からこの『Play The Blues』を聴いてトランスクライブ(耳コピ)を始めました。その甲斐あって、児山先生のお力添えもあり、5年生の時に再び柏にやってきたレイの前座で彼のレパートリーを数曲弾き、アンコールではトランペットで共演させていただきました。その時にレイから言われた言葉は「Keep Swing! Always, Keep Swing!」。さらに2年後にも当時秋葉原にあったTokyo TUCというジャズクラブで、アンコールに参加させていただいたのも貴重な思い出です。

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(柏クレストホテルのディナーショー)


そんな個人的にとても思い入れのあるピアニスト、レイ・ブライアントですが、まずは彼のキャリアをみていきましょう。

1931年にフィラデルフィアで生まれたレイは、14歳で地元・フィラデルフィアのプロ・ミュージシャンとして早くから活動を開始していました。その後、フィラデルフィアのブルー・ノートのハウスピアニストとして、チャーリー・パーカーやマイルス・デイヴィス、ソニー・スティットなどと共演しています。このキャリアは彼が20代後半でニューヨークへ拠点を移した時に、現地のミュージシャンの信頼をいち早く獲得するきっかけとなりました。

このころからビバップやそれ以前のジャズのスタイルでサイドマンを勤めると同時に、エラ・フィッツジェラルドやアレサ・フランクリンなどの一流シンガーのピアニストも務めました。1960年には最初のヒットシングル「リトル・スージー」をリリースしてビルボードチャートのR&B部門で12位を獲得するなど作曲家としてのセンスも発揮します。1972年には準備不足を理由にソロでの出演を突然キャンセルしたオスカー・ピーターソンの代役として、レイがモントルー・ジャズ・フェスティバルに出演、大成功へと導きます。
この様子は有名な「Alone at Montreux」に収録されています。こうしてソロ・ピアニストとしての地位をも確かなものにしました。その後も活動を継続し、2011年に亡くなっています。

次に彼のピアノスタイルを見ていきましょう。


■ピアノの88鍵、全部の音域を使う豊かなサウンド
レイ・ブライアントはソロ、トリオに限らず、低音から高音までをしっかりと使い曲を演奏します。そのため、どっしりとした重厚な和音、ヘヴィーなグルーヴが生み出されます。


■ブギウギ
ブルースピアノの基本テクニックの一つブギウギ。左手で8分音符を曲中ずっと連打しグルーヴを作り出します。そのため通常は荒々しく、土着的な雰囲気をまとうのですが、レイはそこにジャズ・ピアノの洗練された雰囲気を融合させることに成功しています。レイの持つダイナミックな深いタッチと、ジャズのハーモニーがそうさせるのでしょう。
初期のいわゆるブギウギスタイルの曲をこちらに載せておきます。聴き比べてみてください。




■ストライド
左手を低音・中音和音・低音・中音和音のように幅広く移動させることでベースとギターの役割を担う弾き方で、カバーする音域の広さからオーケストラ・ピアノとも呼ばれています。レイもオスカー・ピーターソン同様このスタイルの名手でもあります。


■完成された構成
レイのソロは即興ではなく決められた部分が多く、完璧なソロ・ピアノを日々求められたレイならではのスタイルではないかと思います。

さて肝心なアルバムを見ていきましょう。



Ray Bryant (p)
Ray Drummond (b)
Kenny Washington (ds)
Special Guest: Hugh McCracken (harmonica)




アルバムの特徴としては、レイはソロ・ピアノを弾いているかのようなピアノ・プレイを貫き、ベースとドラムは終始それに寄り添う形で成り立っています。ピアノの録音も美しく、レイのタッチを十二分に浴びることができます。





01. Gotta Travel On
「Alone at Montreux」でも一曲目に演奏されたレイの代表曲。フィニアス・ニューボーンJr.の「ハーレム・ブルース」と同じメロディーですが調が違います。左手のパターンが電車に乗って旅に出るかのように曲のテンポ感とグルーヴを前進させます。ハーモニカとの掛け合いソロを聴くことができます。


02. I'm A Just Lucky So & So
最初のコーラスはレイのソロ・ピアノで始まり、彼のピアノの音色の美しさと地鳴りのような響きを聴くことができます。バンドが入ってきてゆったりとしたスウィングを演奏。このようにベースがウォーキング・ベース(ジャズの典型的なベースパターン)で演奏する時、通常ピアニストはベース音域を弾かないでベーシストに任せるのですが、レイの場合はがっつりベース音域でハーモニーを弾き、ベーシストもピアノとぶつからないようにしていて、このトリオのチームワークが見受けられます。


03. Slow Freight
ミディアム・テンポのブルース。レイの左手は終始ブギウギスタイルをキープしています。ドラム、ベース共にそれに寄り添うように最低限の音数でグルーヴをキープします。トリオにブルース・ハーモニカが入りより、一層ブルースの魅力を感じることができます。


04. C Jam Blues
軽快なスウィングで演奏される、デューク・エリントンのシンプルなブルース曲。ソロ中にデューク・エリントンの「Very Special」のソロのフレーズがオマージュされアレンジに組み込まれています。探してみてください。これも聴いている雰囲気からすると即興演奏はほとんどなくアレンジされた内容だと思います。


05. Stick With It
Even Feel (8ビート)の洗練されたマイナーブルース。レイの優しいタッチの一面を聴くことができる曲です。


06. St. Louis Blues
レイの重要なレパートリーで、「ブルースの父」W. C. ハンディーの書いたアメリカの歴史的名曲です。ルバートで始まるヴァース部分、そしてブルースのパートはストライドとブギウギをミックスしてどっしりスウィングさせます。曲はエンディングに向けて力強いルバートパートに再び入り、高速ブギウギで終わるという大胆なアレンジ。聞き応えある一曲です。


07. C. C. Rider
レイの巨大な左手で奏でられる独特なブギウギスタイルで演奏されるブルース曲。左手をめいいっぱい広げることで、豊かなサウンドのブギウギを披露しています。


08. Please Send Someone To Love
ソロで弾くジャズ・ピアノのお手本のような演奏から始まるこの曲。綺麗なヴォイス・リーディング、重厚なサウンド、ちょうど良いペダルの使い方、名ソロ・ピアニストとしての技量も聴くことができる落ち着いた雰囲気のバラードです。


09. After Hours
有名なブルース・ソング。こちらも ブギウギでグルーヴをキープして、右手は自由自在にリズムの枠にとらわれることなく縦横無尽に駆け回ります。素晴らしい演奏内容になっています。必聴曲です。


10. Things Ain't What They Used To Be
マーサー・エリントンが書いた有名なブルース曲。レイはよくこれをコンサートのアンコールで演奏していました。アルバムの最後にふさわしい曲だと思います。


それではまた次回。

文:曽根麻央 Mao Soné









Recommend Disc

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Title : 『Play The Blues』
Artist : Ray Bryant Trio
LABEL : M & I
NO : MYCJ-30628
発売年 : 2013年



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【SONG LIST】

01. Gotta Travel On
02. I'm A Just Lucky So&So
03. Slow Freight
04. C Jam Blues
05. Stick With It
06. St.Louis Blues
07. C.C. Rider
08. Please Send Me Someone To Love
09. After Hours
10. Things Ain't What They Used To Be



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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央

2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil / タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The Miles Davis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』




Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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