Title : 『Into The Blue』
Artist : Nicholas Payton
【リラックスした無理のないトランペットプレイを楽しめる現代では珍しい1枚】
あけましておめでとうございます。トランペッター・ピアニストの曽根麻央です。新年から演奏やコンサートの延期の連絡が相次いでいますが、今年も頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。なんと僕のDISC REVIEWもこれで10回目!早いものです!
先月の記事でお伝えした1/21の僕のブルーノート東京での公演ですが、緊急事態宣言を受け、4/23(金)に延期することになりました。詳しくは以下よりお確かめください。
【公演名】
MAO SONÉ - Brightness of the Lives - at Blue Note Tokyo
【日時】
2021 4.23 fri.
[1st]Open5:30pm Start6:30pm [2nd]Open8:30pm Start9:15pm
※2ndショウのみインターネット配信(有料)実施予定
※アーカイブ配信視聴期間:4.26 mon. 11:59pmまで
※アーカイブ配信の内容はライヴ配信と異なる場合がございます。
予めご了承ください。
※当初の開催日程(2021 1.21 thu.)から変更となっております。
【メンバー】
曽根麻央(トランペット、ピアノ、キーボード)
井上銘(ギター)
山本連(ベース)
木村紘(ドラムス)
★公演内容に関するお問い合わせ
ブルーノート東京 TEL:03-5485-0088
▼URL
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/mao-sone
今回は僕が高校生の時に聞いて影響を受けたアルバムをご紹介します。
現代のジャズトランペッターの作品、特にウィントン・マルサリス以降の創造的なトランペッターの作品は音楽的にも素晴らしいのだが、非常に技巧的でリラックスして聴くことの対象にあるものが多いと感じます。しかし技術的にも音楽的にも成熟したNicholas Paytonが、一切テクニックをひけらかさずに非常にリラックスした雰囲気で録音した『Into The Blue』ほど純粋に「音楽」を楽しめるトランペッターのアルバムはなかなかないと思います。
まるで漂流する様に自然に存在するトランペットソロは、Paytonの技術や経験、音楽力があってこそのなせる技。録音の音質も部屋の音が感じられ、ライブ感があり、リアルな音が聴けます。全体的にNicholas Paytonのソロが多めで、多少のKevin Haysのソロはあるものの、Paytonのカリスマ感もあるアルバムに仕上がっています。
Nicholas Payton - Trumpet, Vocals, Synthesizer
Kevin Hays - Piano, Fender Rhodes
Vicente Archer - bass
Marcus Gilmore - drums
Daniel Sadownick - percussion
Released in 2008
1. Drucilla (Walter Payton)
このアルバムの冒頭は「Drucilla」というNicholas Paytonのお父さんでベーシスト/スーザホンニストであるWalter Paytonの作品から始まります。最初は3拍子のバラードで1コーラスメロディーが演奏されます。おそらく原曲に沿っているのかと思います。その後スィングになりKevin Hays→Nicholas Paytonのソロへと流れていきます。
このアルバムを通して注目したいのが当時まだ22歳のドラマーMarcus Gilmoreです。3拍子のバラードでのマレットでの空気感の作り方はもちろんのこと、その後のスウィングに突入した時の演奏方法が実にユニークです。
通常ドラマーは一定の店舗でグルーブに突入すると一定のパターンを叩き音楽を推進させます。ジャズであったらライドシンバルのパターンが通常一定で保たれています。しかし、このMarcus Gilmoreの場合、シンバルパターンがまるで音楽の一部であるかのように自在に現れては消えて、強弱をつけていく、しかしそれでいてグルーブ感は失われない独特の奏法をしています。まるでソリストの間を縫うようにグルーブさせていくのがとても印象的。
ベースのVicente Archerもそんなドラマーとの駆け引きを楽しむかのようにいわゆるウォーキングベース(4拍きちんと演奏するジャズの基本的スタイル)を演奏せずに音楽に緊張感を持たせています。
4:10にようやくベースとドラムが安定的なグルーブを演奏し、今までの緊張からとき離れてリリースされるのがとてもカッコ良いですね。
2. Let It Ride
Evenのストレートフィールの曲だが、その上でMarcus Gilmoreは早いスウィングの様なフィールを叩いている1曲。Kevin Haysはピアノからローズに変わり独特な雰囲気を与えています。
3. Triptych
特徴的なVamp(繰り返し奏でられるベースパターンとそのコード進行)が繰り返される一曲です。今でもPaytonのライブでは重要なレパートリーの一曲になっています。D, G, B, Eのベース音とは全く別にDb, D, Eb, Dの3和音が行ったり来たりする独特のサウンドです。そのVampの上で見事なソロをPaytonは繰り広げています。トランペッターは必聴の演奏だと思います。グルーブもニューオリンズ・ジャズを基盤としているファンクグルーブでとても聞いていて楽しい曲の一つです。
4. Chinatown
Jerry Goldsmith作曲の、ピアノの弦のサウンドから始まる特徴的なバラード曲。もともと映画音楽で原曲もトランペットで吹かれている曲の様ですが、ここではNicholas Paytonが彼なりのメロディーの吹き方でストーリーを語ってくれます。
5. The Crimson Touch
Paytonのトランペットとピアノのユニゾンが特徴的な、いかにも現代のブラックミュージックテイストの曲です。このPaytonのトランペットソロも圧巻なので聴いていただきたいです。おそらくバンドでの録音後にPayton自らシンセサイザーで重ねている様子です。トランペットソロ後のトランペットとピアノのユニゾン(シャウトコーラス)も見事に作曲されていて、美しい作品です。
6. The Backward Step
トランペットがメロディーを奏でて始まりますが、この曲は現在でもPaytonの重要なライブ・レパートリーで、ライブによっては歌詞がついて歌われているバージョンもあります。ちなみに今のライブではPayton自らがピアノ(ローズ)を弾き、同時にトランペットを吹いている場合が多いです。僕もこの曲をなんども生で聞きましたが、毎回驚愕のプレイを目の当たりにしました。
7. Nida
またもやPaytonのお父さん、Walter Paytonの曲から。特徴的なMarcus Gilmoreのニューオリンズスタイルに影響を受けた独自のドラムパターンが印象的です。メロディーもシンプルでとっても覚えやすく、ユニークな作品です。
8. Blue
Paytonのハーマンミュートでの演奏と、ボーカルを聞けるバラード曲です。
9. Fleur De Lis
ニューオリンズ・テイストのグルーブから始まる曲。やはりPaytonは自身のルーツを非常に大事にしていますね。メロディーもトランペットとローズ・ピアノのハーモニーがとっても美しく響きます。Kevin Haysはローズのビブラートを非常に心地よく設定していて、魅力的なサウンドを引き立てています。
10. The Charleston Hop (The Blue Steps)
このアルバム唯一のラテン調の曲。テーマが終わった後のKevin Haysのソロの入り方がしびれます。注目してみてください。そしてここにきてPaytonも熱量のあるトランペット・ソロをようやく聞かせてくれるという構成。このソロは相変わらず圧巻の技術とスタミナを惜しみなく店、それでなおかつ音楽としての魅力を損なわない素晴らしいソロを展開してくれています。
いかがでしたでしたか?
また次のDisc Reviewでお会いするのを楽しみにしております。
文:曽根麻央 Mao Soné
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・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil / タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』
Reviewer information |
曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |