Title : 『SFJAZZ Collective 2』
Artist : SFJAZZ Collective
【現代・中規模編成ジャズの名盤】
みなさんこんにちは、トランペット&ピアノの曽根麻央です。気温もだいぶ低くなり、都内では秋物のコートが手放せなくなりました。COVID-19の影響で未だ活動は小規模ではありますが、温かいお客様に囲まれ、音楽的にも充実した日常が戻ってきつつあります。みなさんはいかがお過ごしでしょうか?
さて今回は現代の中規模編成のジャズの名盤ということで、SFJAZZ Collectiveの『2』というアルバムを取り上げます。このアルバムのアレンジや演奏を聴いていきましょう。また中規模編成の歴史的なアルバム『Birth Of Cool』については以前書きましたので、そういった過去の類似作品と現代の作品の違いも感じ取っていただけると嬉しいです。
SFJAZZ Collectiveは2004年から現在も活動する続く8人編成のジャズアンサンブルで、非営利団体のSF Jazzや毎年開催されるサンフランシスコ・ジャズ・フェスティバルによって運営されています。毎年、ジャズの代表的なレジェンド・アーティストのレパートリーのカヴァーと、メンバーの新作とを50:50にして演目を構成しています。
例えば2004年はオーネット・コールマン、2005年はコルトレーン、2006年はハービー・ハンコックといった感じです。 メンバーは入れ替わったりしていますが、ブライアン・ブレイドやジョー・ロヴァーノといった今のジャズシーンを代表するメンバーが常に参加しています。2004年からの活動ということで、僕ら30歳手前の世代のミュージシャンにとっては、当時、ヒーローの集まりのような夢のアンサンブルでした。
2000年代のジャズの流れとして印象深いのは、2001年のウエイン・ショーター・カルテットの結成や、2008年のアンブロース・アキンムシーレのモンク・コンペティション優勝からのデビューなどですが、それと並んで、SFJAZZ Collectiveの活動も話題となりました。
では早速この『2』のメンバーを見ていきましょう。トランペッターの皆さんは、ニコラス・ペイトンの圧倒的なトランペット・プレイを聴くことができるので、このアルバムは必聴です!
MIGUEL ZENON(as,fl)
JOSHUA REDMAN(ts,ss)
NICHOLAS PAYTON(tp)
ISAAC SMITH(tb)
BOBBY HUTCHERSON(vib,marimba)
RENEE ROSNES(p)
MATT PENMAN(b)
ERIC HARLAND(ds)
GIL GOLDSTEIN (arranger on Coltrane's Songs)
1. Moment's Notice
ジョン・コルトレーンの代表曲をギル・ゴールドスタインのアレンジで聴くことができます。インパクトのあるホーンの呼びかけにエリック・ハーランドのドラムが応えるイントロ。やっぱりイントロやアルバムの出だしというのは人の心を掴む重要な部分なので、インパクトはどの時代でも大事ですね!
その後、あの有名なメロディーが聴こえてきます。それに続きニコラス・ペイトンの圧倒的なソロを聴くことができます。このアルバムではペイトンは4曲ソロを取っていますが、どれも圧巻です。
2. Naima
コルトレーンの美しいバラード曲。こちらもゴールドスタインのアレンジ。原曲は4拍子のバラードだが、こちらでは3拍子に編曲されています。ベースとピアノの低音オスティナート(ある種の音楽的なパターンを続けて何度も繰り返す部分)の上で、名手ボビー・ハッチャーソンがヴァイブラフォンでメロディーを奏でます。終始ハッチャーソンがフィーチャリングされていて、彼は自身の持つ美しい歌い方とテクニックで、クライマックスに向けてゆっくりと音楽を発展させていきます。ホーンは基本的にバックグラウンドでハーモニーを奏でるにとどまっていますが、各楽器のバランスの取り方がさすがですね。
3. Scrambled Eggs
ニコラス・ペイトン作曲。その名前の通り卵をかき混ぜるように、徐々に早くなるように聴こえる不思議な曲。ですがリズムの柱が全音符2分音符3連、4分音符、2拍3連、8分音符、3連符とどんどん短くなっているだけで、実は全体は一定の4拍子でずっと進んでいます。そんな変わったリズムの柱の上で自由自在にソロを吹くペイトンのソロに続き、ピアニスト、リニー・ロスネスもアヴァンギャルドのようにピアノをグリッサンドさせるソロから徐々に美しいフレーズが聴こえてきてスウィングさせます。
4. Half Full
ジョシュア・レッドマン作曲。このアルバム一番の大曲かもしれません。イントロとしてベースの伴奏の上にヴァイブラフォンのメロディーが聴こえてきます。その後フルートが入り、その後トロンボーンにトランペット、サックスと少しずつ盛り上げて、ルバート(テンポのない)セクションに一瞬入ります。ルバート部分には少しだけコルトレーンの要素がある気がしますね。メインのメロディーがルバートでトランペット、アルト、テナー、トロンボーンと受け継がれながら聴こえてきて、ようやく心地よい早めのスウィングでメインテーマに入ります。メインテーマは最初ピアノだけで演奏されていますが、その後ホーンセクションが入ってきて徐々に盛り上げていきます。
メロディーは色々な楽器を受け継がれていきます。例えばトランペットがメロディーを一瞬吹いたかと思えば、次のフレーズではハーモニーパートに転じ、テナーがメロディーを取っています。リード(メインのライン)の受け継ぎがうまいのはアンサンブル能力の高さです。メロディーを殺すことなくちょうど良いバランスで自分のパートを吹き分けるのは流石の技術です。
そして、今まで触れてこなかったのですが、これはライブ盤ですので、完全一発録りという意味でも、技量の高さを感じることができます。その後、リニー・ロスネスのソロになり、一旦彼女のソロで曲はクライマックスを迎えます。一旦曲が終わったかと思えば違う雰囲気で、よりリズミックなモチーフで曲が再構築されていきます。その後、作曲者のジョシュア・レッドマンがソロを吹きます。このソロも本当に素晴らしいので是非聴いてほしいです。その後コーダにむけてホーンが入り、本当のクライマックスを迎えます。ニコラス・ペイトンの全体のリード力も、音色が輝いていて聞き応えがあります。
5. 2 And 2
ミゲル・セノン作曲。不思議な感じのするヴァイブラフォンとピアノのイントロから、エリック・ハーランドによってグルーブが提示されます。オリジナルの譜面がどう書いてあるのかわからないのですが、おそらく6/4+9/8拍子の繰り返しです。ミゲル・セノンのソロもこの拍子の上で成り立っています。ミゲル・セノンは僕が最も好きなアーティストの1人なのです。この人は楽器のテクニックやサックスの音色はもちろんですが、リズムに関するアイディアは他の追随を許さない才能の持ち主です。
話が逸れますが、ミゲル・セノン・ビッグバンドの2014年の作品『Identities Are Changeable』では、リズムのアイディアをさらに発展させて、ポリリズムを使って、非常に複雑な関係性のある違う拍子やテンポを行ったり来たりすることで、独自の世界を突き進んでいます。
続くジョシュアのソロは(変拍子は何通りも書き方や捉え方があるため、実際の記譜はわかりませんが)4/4+3/4+4/4 ×3回 4/4+6/4 の拍子で進行していきます。その後のエリックのドラムソロは元の6/4+9/8。
6. Crescent
ジョン・コルトレーン作曲、ギル・ゴールドスタイン編曲。ニコラス・ペイトンがフィーチャーされていて、これでも恐ろしいほどに完璧なソロを取っています。トランペッター、トランペットファンは必聴です。
7. Africa
ジョン・コルトレーン作曲、ギル・ゴールドスタイン編曲。こちらはジョシュア・レッドマンのフィーチャー曲。ボビー・ハッチャーソンのいかにもアフリカらしいマリンバの演奏から入ります。マリンバの演奏が最高潮に達して「Africa」のグルーブが聴こえてきます。ジョシュアのソロも聴いていてワクワクします 。いわゆるモード曲ですが、その中でジョシュアがフレーズを発展させている様がとても素晴らしいです。
それに続くエリック・ハーランドのドラムソロも、エリックの独特の歯切れ良い心地の良い音色が体に入ってきてとても気持ち良いです。エンディングはまたボビー・ハッチャーソンがイントロと似た雰囲気を作って終わります。ボビーのアフリカのようなマリンバから始まって終わるこのスタイルは、実は「SFJAZZ Collective」の1枚目の「Lingala」という曲でも聴けます。全然違う雰囲気になっているので、面白いので聴き比べてみてください。
8. Development
エリック・ハーランド作曲。このアルバムで僕が個人的に一番好きなのはこの曲かもしれないです。リリカルなメロディーで歌いやすく、とてもポップです。Aセクションは4拍子なのですが、Bセクションは7拍子となっています。Bセクションはあくまで個人的な感想ですが、Geri Allenの「Drummer's Song」に似た雰囲気がありますね。
最初のミゲル・セノンのソロはフォーム通りになっています。ミゲル・セノンらしい美しいアルトのサウンドとリズム感のあるラインが聞けるソロになっています。
次のニコラスのソロは全く違うフォームで11小節のコード進行になっています。一小節ごとにBb7sus, A7sus, Ab7sus...半音ずつ降りる...Db7sus, C7susというコード進行の上でニコラス・ペイトンが縦横無尽に駆け回ります。まさに縦横無尽という言葉通りだと思うので、どういうことだと思った方は是非聴いてみてください!
通常のアルバムだったら1アルバム、1リーダーだと思うのですが、このバンドではみんなが曲を持ち寄っているため、ミュージシャンたちの普段とは違うとても楽しげで活き活きとした様子が伝わってきますね。全員がソロを回しているだけのセッションとは違い、あくまでバンドとしてまとまりのある中規模編成のバンドとしては超一流です。是非アルバムを聴いてみてください。
いかがでしたでしたか?
また次のDisc Reviewでお会いするのを楽しみにしております。
文:曽根麻央 Mao Soné
【曽根麻央ライブ情報】
10/21 (水) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/
10/30 (金) @ 柏Nardis
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
http://knardis.com/knardis.com/Welcome.html
11/17 (火) @ 六本木サテンドール
Brightness Of The Lives [曽根麻央 (tp&keys)、井上銘(gt)、山本連(eb)、木村紘(ds)]
https://www.satin-doll.jp/
11/20 (金) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/
12/13 (日) @ 六本木サテンドール
曽根麻央 (tp) & David Bryant (p)
https://www.satin-doll.jp/
12/25 (金) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/
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・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil / タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』
Reviewer information |
曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |