こんにちは、ピアニスト/トランペッターの曽根麻央です。
いよいよ夏本番。皆さん、いかがお過ごしでしょうか? お出かけや音楽イベントを楽しみにされている方も多いかと思います。私自身も、いくつかのコンサートのディレクションとアレンジを担当しており、連日楽譜と向き合う日々です。素晴らしいアーティストたちと共に準備を進めていますので、いくつかご紹介させてください。
コンサートのお知らせ
7/21 <東京>浅野祥 三味線 "鼓動"
銀座・王子ホール
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2557618
8/1 <大阪> 曽根麻央 meets 三浦一馬 "Latin Tango"
あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール
https://t.pia.jp/en/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2456312
8/10 <東京>ドリアン・ロロブリジーダ×ビルマン聡平×曽根麻央
Hakuju Hall
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2516897
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さて今日は2人の偉大なアーティスト、Nat King ColeとGeorge Shearingの共演アルバム
『Nat King Cole Sings/George Shearing Plays』(1962)をご紹介します。
Title : 『Nat King Cole Sings George Shearing Plays』
Artist : Nat King Cole / George Shearing
Nat King Coleといえば、ジャズの歴史に残る弾き語りの名手で、一般的には彼の独特な歌のスタイルで知られていますね。しかしジャズピアノの歴史においても、ジャズピアノの祖のような存在・Earl Hines直径のスタイルをColeは独自に発展させ、後世に多大な影響を与えた人物でもあります。
リズミカルで親しみやすいピアノのプレイ・スタイルの持ち主で、まさに名手です。
そんなKing ColeがGeorge Shearingという同い年のピアニストに伴奏とアレンジをまかせ、自身は歌に専念した作品が今回紹介するアルバムになっています。
Shearingも特徴のあるスタイルで知られています。彼のまるでビッグバンドのサックス・セクションのハーモニーを聴いているかのような、メロディーに対してハーモニーをピタッと合わせてくるスタイルと共に、ヴィブラフォンがピアノのメロディーと同じ音域で、ギターがオクターブ下で奏でる、バンドの一体感が非常に強く、その一体感のあるサウンドで作風が統一されているのが、いわゆるShearingシグネチャー・サウンドです。このアルバムでは、そもそもとてもゴージャスな響きのShearingサウンドにオーケストラが入り、より色彩感を高めています。
King Coleの歌はその濃厚な伴奏の上でさらに存在感を示しています。彼はの魅力はどちらかというと低音ヴォイスにあるのですが、それでもバンドの音を飛び越えてしっかりと我々の耳に届いてきます。アタックの強い音の切り出し方、しかしそれに続くハスキーでメローな声質がたまらなく、今だに世界中から愛されるキャラクターですね。
「September Song」のイントロ出だしからShearingサウンドが前回で、それに呼応するようにストリングスが絡んできます。そしてKing Coleが低音から歌い出すとスピーカーが震えるのがわかります。Shearingのサウンドとストリングスの伴奏のバランスもとてもよく、名演と言えるトラックです。
それに続く「Pick Yourself Up」はJerome Kernがフレッド・アステアのミュージカル映画『Swing Time』に書いた曲です。この映画では他に「The Way You Look Tonight」など他多数の名曲が披露されています。各セクション転調に転調を重ねるコミカルな曲で聴いていて楽しくなります。
続く「I Got It Bad (And That Ain't Good)」「Let There Be Love」はKing Coleの最も有名なヒットソングと言っていいでしょう。「Let There Be Love」でスウィンギーなピアノソロも楽しめる一曲になっています。
ここまで聴いて、おそらくこのアルバムのアレンジの素晴らしさに気付いた方は多いのではないでしょうか?クレジットを見るとShearingがアレンジャーとして書いてありますので、おそらくほとんどの曲は彼が大まかの方針とリズムセクションのアレンジを決めていて、もう一人のアレンジャーで指揮者のRalph Carmichaelがその上でオーケストラのアレンジを担ったのではないかと推測されます。
メンションし忘れましたが、Shearingは全盲のピアニストとして知られています。彼の聞こえているアイディアをメンバーやチームと共有して一つの作品を作る工程は、僕らの想像の範囲を超える努力があったのではないかと思います。そしてShearingのとんでもない記憶力にも圧倒されます。
「Azure-Te」は独特な不協和音が特徴的な曲で、これもShearingサウンドの良さを最大限引き出した曲になっています。
「Fly Me To The Moon」はみんながよく知るメロディーの前にあるverseという前奏部分がとても美しいのですが、このアルバムでもKing Coleが素晴らしい歌唱でverseから歌い上げてくれています。verseはDb、メロディーはBbという不思議なアレンジになっていますが、シームレスに転調して曲の雰囲気を変えていくアレンジ・テクニックも素晴らしいです。
ジャズ・ヴォーカル、そしてアンサンブル・アレンジの完成形とも言える名盤。ぜひこの夏、ゆったりとした時間の中でじっくりと味わってみてください。
文:曽根麻央 Mao Soné
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・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』・2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』・2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』・2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』・2021.04『Something More / Buster Williams』・2021.05『Booker Little / Booker Little』・2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』・2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』・2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』・2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』・2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』・2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』・2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』・2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』・2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』・2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』・2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』・2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』・2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』・2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』・2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』・2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』・2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』 ・2022.12『The Revival / Cory Henry』・2023.1『Complete Communion / Don Cherry』・2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』・2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』・2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』・2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』・2023.6『Covers / James Blake』・2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』・2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』・2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』・2023.10『MAINS / J3PO』・2023.11『Knower Forever / Knower』・2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』・2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』・2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』・2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』・2024.04『Voyager / Moonchild』2024.05『Evidence with Don Cherry / Steve Lacy』・2024.06『Quietude / Eliane Elias』2024.07『Alone Together / Lee Konitz, Brad Mehldau, Charlie Haden』2024.08『The Rough Dancer And The Cyclical Night (Tango Apasionado) / Astor Piazzolla』2024.09『Potro De Rabia Y Miel / Camarón De La Isla』2024.10『Calle 54 / Various』・2024.11『Trumpets Of Michel-ange / Ibrahim Maalouf』・2024.12『Sings for Only the Lonely / Frank Sinatra』・2025.01『Hero Worship / Hal Crook』・2025.02『Undercurrent / Kenny Drew』・2025.03『Live In Toronto 1952 / Lennie Tristano Quintet』・2025.04『Antidote / Chick Corea & The Spanish Heart Band』・2025.05『Hot Five & Hot Seven / Louis Armstrong』・2025.06『Panamonk / Danilo Pérez』
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![]() 曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |