みなさんこんにちは、トランペッター&ピアニストの曽根麻央です。
11月15日は僕の最新シングルのリリース日だったので沢山聴いていただけると嬉しいです。
これは7月から毎月2曲ずつシングルをリリースするシリーズ『Mao Sone Plays Standards』の一環で、デューク・エリントンの「The Star-crossed Lovers」を配信しました。この曲は2014年のセロニアス・モンク国際コンペティションのセミファイナルでも演奏した私の思い出の曲です。人生で一番緊張した時です(笑)。そんな曲を落ち着いて改めてスタジオ・レコーディングして皆さんにお聞かせ出来て嬉しく思っています!
その他の配信情報
https://maosone.com/discography.jp
Title : 『Speak No Evil』
Artist : Wayne Shorter
【オリジナル曲、演奏、録音、全てにジャズの魅力が詰まったアルバム】
さて今日はウェイン・ショーターの名盤『Speak No Evil』をご紹介します。このアルバムは1966年にブルーノートからリリース(1964年のレコーディング)された名盤中の名盤ですが、改めてみなさんと一緒に聴いていこうと思います。オリジナル曲、演奏、録音、全てにジャズの魅力が詰まったアルバムです。
Bass - Ron Carter
Drums - Elvin Jones
Lacquer Cut By - VAN GELDER
Liner Notes - Don Heckman
Piano - Herbie Hancock
Tenor Saxophone, Written-By - Wayne Shorter
Trumpet - Freddie Hubbard
1964年といえばショーターがアート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズから脱退し、マイルス・デイヴィスのクインテットに参加し始めた年でもあり、このアルバムにもハービー・ハンコックとロン・カーターの2人がレコーディングしています。トランペットにはメッセンジャーズからフレディー・ハバードが参加し、息のあった呼吸で迫力のある2ホーンサウンドを残してくれています。ドラムにはデトロイト出身のエルヴィン・ジョーンズが参加していて、彼の繰り出すアフリカの影響が強く現れるリズムが、ハービーやロンの演奏を普段とは少し違ったものにしています。ハービーのフレーズはより3連音符中心のリズミカルなプレイに、ロンはエルヴィンのレガートに寄り添うように演奏していると思います。マイルス・バンドのスタジオレコーディングでのトニーウィリアムズとの関わり方と、このアルバムのリズムセクションを聴き比べるのもとても面白い聴き方だと思います。
レコーディングはルディ・ヴァンゲルダー・スタジオのもので、当時のブルーノート・サウンドを代表するものです。
01. Witch Hunt
「魔女狩り」という斬新なタイトルの曲です。最初に魔法のような超高速のフレーズで2ホーンが展開するイントロがあり、エルヴィンが心地よくスウィングさせて本編へ突入します。
本編のメロディーは最初から最後まで完全4度の積み重ねだけでメロディーが書かれていて統一感があります。このように一つのアイディアやフレーズ、決め事を展開させて曲を完成させるのはクラシックでは必ず用いられる手法ですね。代表的なのはベートーベンの「運命」。あの有名な4音のリズムがずっと展開されていますね。ジャズでは特に「セマティック・ディベロップメント(Thematic Development)」と言って、コンテンポラリー・ジャズの作曲では必ず用いられます。ショーターはクラシック的な発想をジャズに分かりやすく取り入れた最初の人物の一人でもあると言えるでしょう。
この今日はショーターのソロももちろん冴え渡っていますが、フレディーの音色がたまりません!アイディアももちろんですが音色が曇りなく透き通っていて聴き手お心をとらえるでしょう。そしてハービーのソロはエルヴィンのリズムに影響を受け、3連音符を駆使した少しロジカルなソロになっていて面白いです。
ちなみに私は1:40~42にかけてのエルヴィンのドラムフィルがこの世の中で一番好きなドラムフィルです。是非聴いてみてください。
02. Fee-Fi-Fo-Fun
ジャックと豆の木で巨人がジャックを探すときに(人間の匂いを嗅ぐおきに)言ったセリフがタイトルになっています。今ではジャズスタンダードとしてジャムセッションで演奏されることもある曲です。ABAフォームの短めの曲ですがブルースの土くささも感じるし、都会的な洗練されたハーモニーセンスも感じられる不思議な曲です。
前曲に引き続きエルヴィンとロンの相性もよく、とってもスウィングしてグルーヴィーな演奏になっています。フレディーのソロは素晴らしいサウンドとフレーズのセンスでとても聴きやすいです。ショーターのソロは独特の浮遊感をともなっていますが、セマティック・ディベロップメントのテクニックをアドリブでも応用していて、このプレイはウェザー・リポートや現代のショーター・カルテットでも聴くことのできるウェイン節になっています。
03. Dace of Cadaverous
「死人の踊り」というまたインパクトの強いタイトルがついています。ジャズワルツの美しいメロディーの曲になっています。8小節のイントロのついたAABCAABDという独特なフォームで展開される楽曲です。minor-major7というかなり特徴あるコードサウンドが主軸になっているため独特な浮遊感をまとっています。またminor-major7から派生したmaj7(#5)というコンテンポラリーなサウンドを使用した、当時ではかなり異端な作品ではなかったのではと予想できます。
04. Speak No Evil
「see no evil, hear no evil, speak no evil」で「見ざる、言わざる、聞かざる」ということわざがありますが、恐らくその最後の一文からのタイトルでしょうか。
ロングトーンとそこから生まれた短いフレーズが対比をなして構成されている曲です。アルバムのタイトルソングでもあります。少し軽快なスウィング調の曲です。
05. Infant Eyes
9小節のABAフォームのバラードです。これもごく稀にジャムセッションでも演奏されるジャズスタンダードとなっている名曲です。他の楽曲と違いワンホーンで録音されています。この曲も一つのフレーズのパターンを何度も展開させて発展させるセマティック・ディベロップメントを使って曲を構成させています。
06. Wild Flower
ショーターの代表曲の一つで美しい3拍子の曲です。この曲もジャズスタンダードの一つになっています。このアルバムは本当に名曲を多く生み出していて、後世のミュージシャンにいかに影響を与えたか、楽曲だけを聴いてもわかります。2ホーンのアレンジも素晴らしく、フレディーとの2管編成の相性の良さも納得していただけるでしょう。
それではまた次回。
文:曽根麻央 Mao Soné
Recommend Disc |
Title : 『Speak No Evil』 【SONG LIST】 01.Witch Hunt |
【曽根麻央LIVE INFO】
11/17 (Thu) @ 104.5 (御茶ノ水)
Good Jam Session with Candy Dulfer and Her Band
Yoshiki Takahashi & Kazuhiro Odagiri
11/20 (Sun) @ Body & Soul (渋谷)
Mao Sone, Taka Nawashiro, Shin Sakaino, Kazu Odagiri
11/27 (Sun) @ No Room For Squares (下北沢)
Mao Sone, Yuji Ito, Hironori Suzuki
12/4 (Sun) @ Nardis (柏)
Mao Sone, Yoshiki Takahashi & Hiro Kimura
12/9 (Fri) @ The Moment (成城学園前)
Mao Sone, Yoshiki Takahashi, Hayato Yamazaki
12/12 (Mon) @ TBA
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・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』・2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』・2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』・2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』・2021.04『Something More / Buster Williams』・2021.05『Booker Little / Booker Little』・2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』・2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』・2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』・2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』・2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』・2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』・2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』・2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』・2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』・2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』・2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』・2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』・2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』・2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』・2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』・2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』
Reviewer information |
曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |