みなさんこんにちは、曽根麻央です。
いよいよ僕が主演し、音楽を担当した映画「トランペット」の日本での上映が間近に迫りました。米国アカデミー賞公認、ショート・ショート・フィルムフェスティバルはスクリーンで6/18、オンラインでは6/11-21までご覧いただけます。なんとオーディエンス賞にみなさんも投票出来るということで、是非応援よろしくお願いいたします。
無料オンライン視聴▶︎https://www.shortshortsonline.org/videos/int-6-01-trumpet-cm
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6/18(金) 15:40 - 17:30 二子玉川ライズiTSCOM STUDIO & HALL
▶︎https://shortshorts.org/2021/ja/int-6/
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Title : 『Charms Of The Night Sky』
Artist : Dave Douglas
【ジャズの多様性を知ることができる美しい作品】
ジャズは多様な音楽です。一言でジャズと言っても10人いれば10通りの思い描く「ジャズ」のサウンドがあります。なぜならジャズは異文化や自分にはない個性を受け入れ、さらに昇華させることができるからです。これはジャズという音楽の成り立ちがアフリカの音楽とヨーロッパの音楽が結びついたところから始まりました。
デューク・エリントンも「ジャズは様々な方向に沢山の枝を伸ばした木のようなもので、その枝の先は更に多くの細枝(しもと)に分かれています。それぞれの細枝は違う形の葉っぱや、色の違う花々を実らせます。枝は東西南北と様々な方向に向かい、各々の場所でその土地の影響を受けます。」と、この音楽の多様性を提言しています。
エリントンの言葉の締めくくりは「その木の幹に戻り、大地に根を這わした部分を見るとアフリカの土壌にあることがわかり、それはすべての基本でもあるビートです」となっています。このようにアフリカのビートを基盤とする音楽はすべてジャズの親戚とも言えるので、個々がこれこそジャズという枠に入れることは一生かかってもできないのです。
今回紹介するアルバムは、いわゆる通常のジャズカルテットの編成でもなければ、サウンドも個性的なものです。ただただ美しい音楽で独創的。Dave Douglasという音楽家の異色作。でも根っこの部分はジャズの歴史を継承しているので、これもまたジャズと言えるでしょう。
『Charms Of The Night Sky』はトランペット、ヴァイオリン、アコーディオン、ベースの4つの楽器のために作編曲された曲をアルバムとして集めたものです。この編成だけでもこのアルバムがかなり変わったものであることが伺えます。室内楽のような雰囲気があり、どこか現代クラシックの感じもしつつヨーロッパの民俗音楽的な香りもします。
ウェイン・ショーターも「ジャズはジャズらしいサウンドを要求されるべき音楽ではない」と言っていますが、まさにその言葉を彷彿とさせるアルバムの一つです。
何より注目したいのがDave Douglasの作編曲能力の高さです。これだけ風変わりな編成を見事に活用した内容になっていて、ヴァイオリンとトランペットのやり取りは美しいですし、アコーディオンの低音の響の美しさ、和音の面白さまで使いこなしています。是非注目して聴いていただきたいポイントです。
そしてトランペットの独特な音色にも注目してください。本来この編成だとトランペットの楽器の特性上、この楽器だけ突出しやすいのですが、見事にバランスを取っています。これはDaveの力量があるからとも言えますし、彼のそもそも持つ独特な音色がこの編成にフィットしているとも言えます。
メンバーを見てみましょう。
Dave Douglas: trumpet
Mark Feldman: violin
Guy Klucevsek: accordion
Greg Cohen: acoustic bass
01. Charms Of The Night Sky
ベースのオスティナート(連続して繰り返されるパターン)の上に、アコーディオンが和音を弾くことで楽曲のカラーが見えてきます。そして、その上にトランペットとヴァイオリンがユニゾンで奏でる主旋律が入ってきて同じオスティナートの上に明るくなったり暗くなったりとカラーが動き始めます。
トランペットとヴァイオリンのユニゾンの音って不思議な魅力があります。このアルバムを象徴するサウンドでとても美しいアンサンブルだと思います。次のセクションはベースの動きも加わりさらなる色合いが見えてきます。その後オスティナートに戻り聴こえて来る「スーッ」という雰囲気のあるサウンドはおそらくトランペットに息を吹き込んでいるのを思いっきりマイクに近づいて集音しているのかと思います。ヴァイオリンソロからベースソロと続きますが、トランペットとアコーディオンがハーモニーパートを伴奏の役割として担っているのがとっても綺麗ですね。それに続くDave Douglasのトランペットソロも見事です。
02. Bal Masque
アコーディオンとトランペットのデュオ。フランス語で「仮面舞踏会」という意味のワルツ。録音としては右側からアコーディオンの左手の伴奏が、左側から右手の鍵盤の演奏が聞こえて来る録りになっています。Daveの持つ独特の音色と歌い方がこの曲の雰囲気を高めています。
03. Sea Change
こちらはゆったりとした明るめのワルツ。こちらもアコーディオンとのデュオ曲。僕はアコーディオンにそこまで詳しくないので正確に何が行われているのか言及できないのですが、こちらの曲はアコーディオンの特性を最大限活かしたものとい思います。中盤より特に左手の低音の響きを最大限に活かしていて、それに加え右手で作り出すハーモニーもとても豊かです。音色もダブルリード(コーラス効果がかかったようにいくつかの楽器で演奏しているかのような響きになるエフェクト)なども駆使していてサウンドもゴージャス。これがデュオかと驚かされます。必聴曲です。
04. Facing West
6+5の11拍子の活発な曲。こちらもアコーディオンとのデュオ曲。Daveのトランペットが絶好調の曲です。このアコーディオン奏者のGuy Klucevsekという方の素晴らしさと凄さも十二分に伝わることでしょう。ニューヨーク出身の現代音楽や即興演奏を行える数少ないアコーディオン奏者として、最も尊敬されているアコーディオン奏者の一人です。リーダーアルバムも相当な枚数を出しているので今後チェックしていきたいなと思います。
05. Dance In Thy Soul (for Charlie Haden)
ヴァイオリンのソロから導入される特徴的な楽曲。このアルバムで最長の尺となっていますが、構成としてはシンプルな主旋律が永遠に繰り返されながら発展していきます。その後アコーディオンとトランペットで主旋律が入り、徐々にアルコ(弓)で奏でられるベースが聴こえてきます。その上で自由にソロをとるヴァイオリン。クラシックだけでなくミドルイースタンのフレーズからも影響を受けているようなラインが聴き取れます。
しばらくルバートが続きますが、先ほどのトランペットとアコーディオンの主旋律がテンポで演奏され始めると徐々にベースが自由に動き出し、さらにヴァイオリンも重なり、トランペットも徐々に自由をえていきます。しかし曲の雰囲気が壊れることはなく誰かがアクティブな時は他が伴奏にいき、また別の人がアクティブになれば伴奏に行ってアンサンブルのバランスが見事に取れた演奏になっています。ジョー・ロヴァーノの言葉を借りれば「Follow and Lead」です。
06. Little One (Hancock)
ハービー・ハンコックの名曲です。それを3拍子でこのアンサンブルの持ち曲のように編曲されています。途中のDave Douglasのソロも素晴らしいです。
MUG SHORTS
ここからの3曲(7-9)は組曲になっていてアコーディオン奏者のGuy Klucevsek作品です。どれも映画のワンシーンのような特徴ある曲ばかりです。
07. Wild Coffee
インパクトのある現代クラシック、もしくは映画音楽のような曲です。トランペットとアコーディオン、ベースの組み合わせです。
08. The Girl With The Rose Hips
ハーマン・ミュート・トランペットとアコーディンの組み合わせが美しい一曲。
09. Decafinata
カップミュートをトランペットで使っていて、古いヨーロッパ・ジャズのようなコミカルな雰囲気の曲。
10. Poveri Fiori
イタリアのオペラ作曲家、フランシスコ・チレアの楽曲。物悲しくもどこかに熱さあるメロディー。やはりこういった楽曲は安直ですがゴッドファーザー感がありますよね。
11. Odyssey
トランペットとアコーディオンのデュオ。このアルバムではアコーディオンってこんなに多彩な楽器なのかと驚かされます。これもそんな一曲。漂う様な雰囲気の曲でゆっくりと時が流れていきます。
12. Twisted
最初5/8+7/8変拍子かと思えば実は軽快なワルツの曲。ベースとアコーディオンで細かいリズムを刻んで音楽を推し進めます。途中ヨーロッパのダンス文化の雰囲気が漂うワルツに突入し、また冒頭の激しい変拍子の様なテーマに戻り曲が終わります。
13. Codetta
とても美しいトランペットソロから導入されます。美しくどこか怪しいメロディーが心に残ります。
それではまた次回。
文:曽根麻央 Mao Soné
6月27日(日)MAO SONÉ - Brightness of the Lives supported by ブルーノート東京
高崎芸術劇場スタジオシアター
出演・曽根麻央(トランペット、ピアノ、キーボード)井上銘(ギター)山本連(ベース)木村紘(ドラムス)
主催・ 高崎芸術劇場(公益財団法人 高崎財団) 協力・BLUE NOTE JAPAN
▶︎詳細
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・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil / タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』・2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』・2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』・2021.03『Relaxin' With The Miles Davis Quintet / The Miles Davis Quintet 』・2021.04『Something More / Buster Williams』・2021.05『Booker Little / Booker Little』
Reviewer information |
曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |