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JJazz.Net Blog Title

曽根麻央 Monthly Disc Review2021.04_ Buster Williams_Something More

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Title : 『Something More』
Artist : Buster Williams

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【「I Didn't Know What Time It Was」はジャズ・アンサンブルの最高到達地点】

 皆さんこんにちは、トランペットとピアノの曽根麻央です。3月の末からかなり過ごしやすい気候が続いていて、なんだかとっても穏やかですね。そんな春に先駆けて来週4/23(金)には僕のライブが夢の舞台・ブルーノート東京であります。是非、お誘い合わせの上聴きにきてください!皆さんの応援が励みです!

 そんなブルーノート出演メンバーとシングルを出しました!Apple Music、Spotify、Amazon Music, YouTube Musicなど各配信サイトで聴くことができます。是非ダンロードして聴いてください!

Title : Gathering at Park Drive
Artist : 曽根麻央
Rabel : Reborn Wood
Release : 2021.4.13
リンク▶︎ https://ultravybe.lnk.to/gatheringatparkdrive



 またまた、同じメンバーの1月のライブをJJazz.Net内の番組「Jazz Today」で約1ヶ月間聴くことができます!この機会をお聴き逃しなく!

「JazzToday - MAO SONÉ Brightness Of The Lives LIVE」
(放送期間2021年4月14日~2021年5月12日(17:00まで))
リンク▶︎ https://www.jjazz.net/programs/jazztoday


今週は1989年録音の、Buster Williamsの『Something More』というアルバムを取り上げていきます。この『Something More』で特に「I Didn't Know What Time It Was」はまさに歴史的な名演であると思います。14分30秒ほどに渡る長めの演奏ですが、メンバーの各々が完璧なソロ、タイム、グルーヴを僕らに聴かせてくれます。その上そのプレイには自由が感じられます。

まずはいつも通りメンバーを見ていきましょう



Buster Williams (b)
Herbie Hancock (p,key)
Wayne Shorter (ts,ss)
Shunzo Ohno (tp)
Al Foster (ds)




 このようなカルテットの面々。ただいまからお話しする「I Didn't Know What Time It Was」には トランペッター・大野俊三さんは参加しておらず、Buster Williams (b) Herbie Hancock (p,key) Wayne Shorter (ts,ss) Al Foster (ds)による演奏になっています。





 まずベースのvampがイントロとして聴こえてきます。Vampとはクラシック音楽ではostinatoとイタリア語で呼ばれ、音楽的なパターンを何度も繰り返すことを指します。Vampの場合はベースパターンの繰り返しが多いです。このアレンジではイントロやインタルード(間奏)としてvampが付いているので、オリジナルの曲のフォーム+vampという構成が特徴的です。

 Vampが使われるジャズの演奏については トム・ハレルの『Passages』を以前紹介しましたが、この時代のジャズでは曲のフォームでソロを回すだけでなくvampのセクションが付けてアレンジするのがやはり流行ったのかと思います。

 Busterの最高の音色で奏でられるベースのイントロに寄り添うように、Al Fosterが徐々に加わりドラムを演奏します。しばらくするとHerbieのユニークなハーモニーが加わり曲のカラーが見えてきます。少し遠くから聞こえるWayneのソプラノの音がゆっくりと力強くなり「I Didn't Know What Time It Was」のメロディーが聴こえてきます。Vampで使われていたベースラインはメロディーの後ろで徐々に変化し、聴く人の興味を引きつけます。

 この楽曲のメロディーはAABAフォームと言って、最初のメロディー(A)が二回、その後に続く違うメロディー(B、またはブリッジといわれる部分)が一回だけ演奏され、その後Aに戻るというジャズを代表する曲の形式です。「A列車で行こう」や「Nearness Of You」などの多くのスタンダード曲がAABAフォームで書かれています。

 ただこの最初のメロディー(A)は通常の倍の長さに拡張されて、16小節あります。オリジナルは8小節です。その後のBセクションは8小節のオリジナルのままです。BセクションではベースはOstinatoではなく、スウィングの弾き方になり一気に曲を推進させます。スピード感が出てきたかと思えば、その後のAセクションはまた倍の長さのメロディーとベースラインが出現し、ゆったりとした雰囲気が再び現れます。その後Aセクションが終わるとイントロで聴いたベースラインが再び現れソロへと突入していきます。

 最初のWayneのソロはまるで歌うような、一つ一つの音に何か魂を込めるような、一種の叫びを感じるソロです。女性の声に聴こえますね。3:48-4:09は、まだソロの途中なのにも関わらず16小節全く吹かないというのは本当にびっくりしますが、空白すらも音楽なのはWayneだからできることかと思います。その後はBusterのウォーキングベースとAl Fosterのライドシンバルが恐ろしいグルーヴを演奏し始めます。ウォーキングベースとは一小節に4つ音を鳴らすジャズの最も基本のベースの奏法です。Busterはそのウォーキングベースのマスターであることは間違い無いです。

 その後Herbieのソロに入ります。Herbieも素晴らしいソロをとりますが、彼のソロとAl Fosterのスネアのやりとりがユニークです。5:28や6:31、6:35の一瞬ランダムに聴こえるスネアの演奏はAl Fosterの独特な表現の一つで、覚えておくと聴いた時にジャズが楽しくなります。ランダムなのにソリストのHerbieに寄り添っているのがすごいですね。

ジャズのスウィングにおいてドラムの基本はライドシンバルで、ライドシンバルでグルーヴを出します。スネアはピアノの左手などと会話をするように合いの手を入れるので、音のバランスとしてライドの下にスネアがあるイメージだと理想的です。ロックではスネアのビートを強力に鳴らすので、そこがジャズとは演奏法が違いますね。ロックドラムの人がジャズにトライするときは気をつけるとよいと思います。Busterのウォーキンベースの合間に6:30のような、ベースを「ウーンッ」と言わせるような遊び心があるので聴いて楽しいです。

 続くBusterのソロもまるで喋っているかのようなソロを取っています。Busterのベースの特徴の一つとして、一音の長さがあると思います。アンプの誕生によってベースがリズム表現する楽器から、音程や細かいニュアンスを表現できる楽器に進化したと思います。例えばジャズの歴代初代天才ベーシストとも言えるJimmy Blantonなどの演奏を聴いても、アンプがないので音を伸ばすことに関しては楽器的に限界があると思います。音の減衰速度がはやいですよね。





Busterの時代にはベースアンプやピックアップがあるので音の減衰速度を落とすことができるようになりました。Busterは新しいベースの音と、伝統的なベースの役割のバランス感が素晴らしく、リズムの切れと一音一音の長さを共存させたベース奏者です。

 その後Al Fosterのソロがあり、エンディングテーマへと向かいます。メンバー全員が、この長尺アレンジされた「I Didn't Know It Was」を2コーラスずつ演奏しています。メロディーを演奏しに戻ったWayneは一層パワーアップしていて、曲をクライマックスへと導きます。是非、人生のどこかで14分時間をとって聴いてみてください。歴史的名演です。

 さてここからは一曲ずつ、短めに見ていきましょう。このアルバムは水が流れるように常に音楽が動いていて、一曲一曲はかなり長いのですが一瞬のようにも感じます。巨匠たちの全く力まない、自然体で臨むスタジオ・ワークを楽しんでください。


01. Air Dancing
 弓のベースの音からシンセの音、ミュート・トランペットとソプラノサックスが心地よくブレンドして導入されます。90年代に近づくにつれ、シンセサイザーが自然にアコースティック楽器にブレンドする音源が多くなりますね。Busterのソロはオーバーダブ(重ね録音)なのか、2人のBusterが心地よく絡まり合う感じに仕上がっています。このHerbieのソロの上でもAl Fosterのランダムなスネアの動きを多く聴くことができます。


02. Christina
 Busterのオリジナル曲で最も有名で美しい曲の一つです。メロディーの時のWayneの音色とHerbieのハーモニーが本当に美しいので聴いてみてください。


03. Fortune Dance
 ファンキーな曲一曲。大野俊三さん とWayneのテナーの2管が印象的です。Wayneの1コードの上でのソロが聴けますが、この人は本当に音を操る達人です。


04. Something More
 タイトルソングで落ち着いた雰囲気のワルツ。これもやはりWayneのサウンドに圧倒されるトラック。Wayneは本当に音域が上から下まで幅広く、しかも最高の音色で演奏するので、全ての音に意味があるように聴こえてきます。4:17からのエンディングでのAl Fosterのシンバルの使い方、びっくりします!


05. Decepticon
 早いスウィングの曲でベース、トランペット、サックスなどでユニゾンしながら曲を展開します。Busterのアーティキュレーションがよく、ベース奏者として最高のテクニックをも持ち合わせているのがわかります。こちらのソロもWayneの異常さを体感できます。リズムのキレの良さ、楽器コントロール、アイディア、全てにおいて完璧です。


06. Sophisticated Lady
 Herbieの美しいイントロに続き、Busterがメロディーを弾きます。一曲目のソロの時のように、一人のBusterは伴奏に徹し、もう一人がメロディーを弾くように重ね録音されています。Busterのように音程の良いベーシストでなければ困難な技でしょう。Herbieのシンセの音色のチョイスも挑戦的で興味深いです。


それではまた次回。

文:曽根麻央 Mao Soné







【LIVE INFO】
曽根麻央演奏スケジュール


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【公演名】
MAO SONÉ - Brightness of the Lives - at Blue Note Tokyo

【日時】
2021 4.23 fri.
[1st]Open5:30pm Start6:30pm [2nd]Open8:30pm Start9:15pm
※2ndショウのみインターネット配信(有料)実施予定
※アーカイブ配信視聴期間:4.26 mon. 11:59pmまで
※アーカイブ配信の内容はライヴ配信と異なる場合がございます。
予めご了承ください。
※当初の開催日程(2021 1.21 thu.)から変更となっております。

【メンバー】
曽根麻央(トランペット、ピアノ、キーボード)
井上銘(ギター)
山本連(ベース)
木村紘(ドラムス)

★公演内容に関するお問い合わせ
ブルーノート東京 TEL:03-5485-0088

▼URL
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/mao-sone



Recommend Disc

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Title : 『Something More』
Artist : Buster Williams
LABEL : In+Out Records
NO : 7004-2
発売年 : 1989年



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【SONG LIST】

01. Air Dancing
02. Christina
03. Fortune Dance
04. Something More
05. Decepticon
06. Sophisticated Lady
07. I Didn't Know What Time It Was




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Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

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