Title : 『Three Suites』
Artist : Duke Ellington
【クリスマスに聴きたいジャズアルバム】
今日はクリスマスに聴きたいジャズのアルバムとしてデューク・エリントンの『Three Suites』というアルバムを紹介します。このアルバムはエリントンが誰でも聞いたことのあるチャイコフスキーの名作「くるみ割り人形」などのクラシックの組曲をエリントンサウンドに編曲したアルバムです。よく知っているこのメロディーを楽しんでいただくと共にエリントンの特徴を探って生きましょう。
本題に入る前に一つ宣伝があります。来年2021年の1月21日に私・曽根麻央が憧れの舞台、Blue Note Tokyoへ初出演します。 メンバーは大信頼、大活躍の仲間たち。彼らと共にどこまででも行ける気がします。
メンバーの井上銘くん、山本連くん、木村紘くんとはバークリー音楽大学時代の仲間で、全米桜祭りとBlues Alley(ワシントンDC)への出演を機に2014年に結成しました。当時はまだみんな学生で1日7時間リハーサルを毎日行ったり、またプライベートではルームメイトだったりもして同じ時間を過ごしたりもしました。リスペクトし合えるこのメンバーでブルーノートの舞台に挑むことができて嬉しいです! メンバー一同お待ちしております。
【公演名】
MAO SONÉ - Brightness of the Lives - at Blue Note Tokyo
【日時】
2021 1.21 thu.
[1st]Open5:30pm Start6:30pm [2nd]Open8:30pm Start9:15pm
※2ndショウのみインターネット配信(有料)実施予定
※アーカイブ配信視聴期間:1.24 sun. 11:59pmまで
※アーカイブ配信の内容はライヴ配信と異なる場合がございます。 予めご了承ください。
【メンバー】
曽根麻央(トランペット、ピアノ、キーボード)
井上銘(ギター)
山本連(ベース)
木村紘(ドラムス)
★公演内容に関するお問い合わせ
ブルーノート東京 TEL:03-5485-0088
★配信プラットフォーム各社のチケット購入/視聴方法、お問合せフォームなどはこちら
"ぴあ
https://t.pia.jp/pia/events/pialivestream
TEL:017-718-3572
"イープラス
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"ZAIKO" をご利用のお客様
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▼URL
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/mao-sone
話が逸れてしまいましたがここからはいつも通りアルバムを聴いていきましょう!
「Three Suites = 3組曲」というタイトルの通り、このアルバムには3つの組曲が収録されています。組曲とはいくつかの曲を組み合わせて大きな作品を構成する作曲法で、ビゼーの「カルメン組曲」やホルストの「惑星」を代表するように、ストーリや一貫した主題に沿って曲が配列(構成)されています。特にこのアルバムにも収録されているチャイコフスキーの「くるみ割り人形」はクリスマスのお話であるのでこれからの1週間、お家で楽しく聴いていただきたい名演奏、名アレンジとなっています。今回はこのくるみ割り人形のアレンジを聴きながら、エリントン・サウンドの特徴についてみていきましょう。
ちなみにこのアルバムのアレンジはエリントンとビリー・ストレイホーンの2人によってなされています。
Overture - 序曲
ベースとドラムのスウィングのリズムに乗って、我々がよく知っているあのメロディーがトロンボーンの音で聴こえてきます。ここにはすでにエリントンのアレンジの手法が見えます。
トロンボーン3本によって作られるハーモニー(今回はメロディーを奏でていますが、0:36の様にバック・グラウンドとしてヒットだけ演奏していることもある)はエリントン・サウンドの代表的な手法です。このサウンドが聴こえてきたらエリントンだと言って良いほどに。またそのカウンターライン(対位法)としてサックス・セクションがユニゾンで主旋律に応えています。これもエリントン・サウンドの特徴です。その後も見事にトランペットなどの管楽器が増え、メロディーも様々な楽器を行き交います。
Toot TooT Tootie Toot (Dance of the Reed-Pipes) - 葦笛の踊り
この曲ではまずサックス・セクションがアルト、テナー、バリトンの3本に加え、クラリネットが2本という、これもエリントン・ビッグバンドの独特のサウンドを出すインストゥルメンテーション(楽器の指定)になっています。
またトランペットやトロンボーン・セクションは「プランジャー」と呼ばれるミュートを使って、独特な、しゃべっているようなサウンドを出しています。プランジャーはもともとトイレのスッポンの持ち手の部分を取ったもので、そのゴムの部分で楽器のベルを閉じたり開けたりするため、こもった音色とオープンな音色、またはその2つを混ぜたり色々なカラーを出せます。もともとはソロで使われることが多かったこのミュートをセクションで使ったのもエリントン・サウンドです。
ちなみにこのトラックにも3本のトロンボーンのバックグラウンドがいたるところで出てきますので良く聴いてみてください。
Peanut Brittle Brigade (March) - 行進曲
もともとチャイコフスキーは美しい3和音を基盤に書いたこの曲ですが、エリントンはトランペット&トロンボーン・セクションの4度のボイシングの重なりで独特なサウンドを最初から聴かせてくれます。
先ほどメロディーが色々な楽器を推移している話をしました。エリントンはオリジナルのメロディーやカウンターポイントなどの要素を適切な楽器に与えることで、長い旋律を一つのセクションや特定の楽器だけに止めることはせずに、書く旋律をジャズのリズムに違和感なく乗せることができています。
Sugar Rum Cherry (Dance Of The Sugar Plum Fairy) - 金平糖の精の踊り
アフロビートの上でサックスが少し怪しげにメロディーを奏でるこのアレンジ。テナーソロの後ろではやはりトランペットx2とトロンボーンx1の3本で和音を、しかもプランジャーを使用してバックグラウンドを奏でているのがとても効果的ですね。
Entr'acte
Overtureと同じフレーズやオーケストレーションが出てきます。Overtureのソロ部分だと思っていただいていいと思います。
The Volga Vouty (Russian Dance) -ロシアの踊り
トランペットとトロンボーンの印象的なハイノートのイントロに続き、サックスの高音でのクラスター和音(音と音が乖離しておらず、密なサウンドがする)が特徴的なアレンジ。サックスの高音クラスター和音もエリントン楽団独特のサウンドです。その後はトランペットx2とトロンボーンx1の3本で和音を、しかもプランジャーを使用してバックグラウンドを奏でているのも以前登場したテクニックですね。そしてそれに応えるサックスのユニゾンもあります。ここまでくると大分エリントンのビッグバンドの特徴が見えてきたのではないでしょうか?
Chinoserie (Chinese Dance) - 中国の踊り
他のアレンジに比べると小編成のアレンジです。基本的には少しボレロのようなドラムのリズムに、重音を使った独特のベースラインが繰り返し演奏されています。その上に、クラリネットの主旋律とそれに呼応するテナーの主旋律が またこれも長いこと繰り返します。トロンボーンがバックグラウンドを演奏している箇所もあります。1:35からのエリントンの四発のみの強力な和音も印象的です。
Danse of the Floreadores (Waltz of the Flowers) - 花のワルツ
原曲は華やかで軽やかなワルツを、スウィングのアレンジにしています。力強くフルオーケストラで奏でられるメロディーとその複雑なハーモニーはまさにエリントン・サウンドを象徴するものです。まるでブラス・シンセサイザーのように、ブラスの塊のサウンドはこのバンド唯一無二のトレンドではないでしょうか?
Arabesque Cookie (Arabian Dance) - アラビアの踊り
原曲はGのペダルの上で美しい旋律と、自然に移り変わる和音を聞くことができる。ペダルの技法はベースの音を同じ音でキープしているのに、上に乗っている和音が変化することを言います。
エリントンのアレンジもベースの一定のオスティナート(パターン)の上で徐々に変化するようになっています。バンブーフルートとベースクラリネットの組み合わせが独自の雰囲気を作り上げていてとても異色の面白いサウンドです。
このアルバムにはグリークの「ペールギュント」やエリントンとストレイホーンの「木曜日」といった組曲が収められています。
他にも『Far East Suite』や『The Ellington Suites』など自身で作曲した組曲を収録しているアルバムも大変オススメです。『Far East Suite』には名曲「Isfahan」も収録されています。『The Ellington Suites』はエリザベス女王に捧げられた組曲も入っていてその中の「Sunset And The Mocking Bird」という曲もいかにもエリントンらしい美しさのある曲で大好きです。是非聴いてみてください。
いかがでしたでしたか?
また次のDisc Reviewでお会いするのを楽しみにしております。
文:曽根麻央 Mao Soné
【曽根麻央ライブ情報】
12/25 (金) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/
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・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil / タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』
Reviewer information |
曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |