Title : 『Ella And Louis』
Artist : Ella Fitzgerald And Louis Armstrong
【ジャズ界のキングとクイーンによるコラボ作品】
エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングという偉大な2人が自然体でミディアム〜バラードのテンポで演奏しています。さらにその伴奏をオスカー・ピーターソンを中心としたリズムセクションが務めるという豪華なアルバム。私自身もこのアルバムを小学生の頃から聴いていて、このアームストロングのソロに合わせて楽器を練習した記憶があります。歌心が最高で、抑揚のつけ方、ビブラート、音と音の間のとりかた、どれも最高です。
ジャズはある種の自然発生した音楽なので創始者を特定するのは難しいですが、ルイ・アームストロングは間違いなく最初にジャズを芸術の域まで到達させた人物であると言われています。
1901年に生まれたアームストロングは1971年に亡くなるまで、アメリカを代表するアーティストとして様々な名演奏を残しました。トランペッターでもありシンガーでもあるアームストロングはその両方において大変大きな影響を後世に与えました。
アームストロング以前のジャズトランペットは主にメロディーを吹くのが精一杯でしたが、そこにアームストロングはクラリネットのテクニックを持ってきました。当時のクラリネットはトランペットの主旋律に寄り添うように、和音をアルペジオで演奏して合いの手を入れる役割が主でした。管楽器は単音楽器なのでピアノのように和音を一度に鳴らすことができません。そこで和音を分散させて演奏するアルペジオを使った即興的な伴奏パートをクラリネットは担当していました。アルペジオは音が跳躍するためトランペットで演奏することは非常に困難ですが、アームストロングはこれをトランペットに取り入れ、主旋律としても使用することで、ジャズの即興演奏のレベルを大きく飛躍させました。
またアームストロングの持つ独特の声が、アメリカのポピュラー音楽の歌唱を変えました。語りかけるような独特な間の取り方、フレーズの終わりに向けてかかるビブラート、シャウトする表現などあります。特にジャズのボーカルとしてはスキャットを初めてレコーディングで取り上げ、ボーカルでの即興演奏の可能性を最初に見出しました。
エラ・フィッツジェラルドもスキャットを得意とするボーカリストで、メロディーも自由自在に楽器のように操り、ボーカルの新しい表現を見出した人です。1917年生まれということでアームストロングよりもディジー・ガレスピーやセロニアス・モンクなどのモダンジャズを生み出した新しい世代のミュージシャンになります。当然フィッツジェラルドの若い頃には、アームストロングは多くのレコーディングをこなしヒットも出していますので、音楽的な影響はかなりあったでしょう。ただフィッツジェラルドはbebop世代で、チャーリー・パーカーやガレスピーより早く、正確な演奏を聴く機会も多かったので、それを歌でも表現可能なことを見事に証明した人の一人です。
Ella Fitzgerald (Vocals)
Louis Armstrong (Trumpet, Vocals)
Oscar Peterson (Piano)
Herb Ellis (Guitar)
Buddy Rich (Drums)
Ray Brown (Bass)
さてこのアルバムは有名なジャズのプロデューサー、ノーマン・グランツが11曲を選曲し、1956年に録音した作品です。アームストロングは持ち味の歌心と独特の間で聴く人を捉えますし、フィッツジェラルドも最高の声と圧倒的な歌唱で感動させます。圧倒的な歌唱と書いてしまうとまるで熱唱しているように捉えられてしまいますが、圧倒的すぎて力が抜けているので、こちらもリラックスして聴ける最高の歌が聴けます。リズムセクションにはオスカー・ピーターソン、ハーブ・エリス、レイ・ブラウン、バディー・リッチというジャズを代表するミュージシャンが参加しており、とても一体感のある豪華なトラックになっています。
どの曲も最高の出来になっていてゆっくりと聴いていただきたいのですが、特に「Cheek To Cheek」は二人のキャラクターが聴こえてきて、この最強のリズムセクションも一体感が特にあります。「Tenderly」はアームストロングのトランペットが心から歌っていて、エンディングでトランペットに絡んでくるフィッツジェラルドも最高です。ぜひ聴いてみてください!
それではまた次回。
文:曽根麻央 Mao Soné
【曽根麻央LIVE INFO】
5/29 (Sun)
Open 15:00 | Start 16:00
MAO SONÉ Solo @ Cabin 本厚木
<出演>
曽根麻央 - piano & trumpet
曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』・2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』・2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』・2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』・2021.04『Something More / Buster Williams』・2021.05『Booker Little / Booker Little』・2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』・2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』・2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』・2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』・2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』・2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』・2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』・2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』・2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』・2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』
Reviewer information |
![]() 曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |