Title : 『Quiet Kenny』
Artist : Kenny Dorham
みなさんこんにちは、トランペットとピアノの曽根麻央です。さて今回はジャズトランペットの代表的存在、ケニー・ドーハムの『Quiet Kenny』についてお話しします。もうすでにたくさんの方がご存知のこのアルバムですが、改めてケニー・ドーハムのトランペッター、そして曲としての素晴らしさを再認識できたら良いなと考えております。
本題に入る前に曽根麻央の最新アルバム発売についてお知らせします。2/9に発売しました最新作『Brightness of the Lives』はアマゾン等で販売開始しております。是非お手にとって聴いていただけると嬉しいです。
私が学生時代より一緒に活動している、井上銘、山本連、木村紘といったメンバーと作り上げたバンドサウンドが凝縮されています。またゲストに世界的なパーカッショニスト二階堂貴文を迎えてサウンドに新たな風を呼び込みました。
Title : 『Brightness of the Lives』
Artist : 曽根麻央
LABEL : リボーンウッド
NUMBER : RBW-0022
RELEASE : 2022.2.9
【SONG LIST】
01. Prelude
02. Luminous
03. Drum Hero
04. Home
05. Quiet Cinema
06. Air
07. Lives
08. You Are Not Alone
09. Gathering At Park Drive
10. Always And Forever
【リリースツアー】
3/12(土) ブルーノート東京
5/18(水) ビルボードライブ大阪
5/19(木) Mr. Kenny's 名古屋
5/20(金) Life Time 静岡
【名盤『Quiet Kenny』再検証】
ケニー・ドーハムの『Quiet Kenny』はジャズトランペットのアルバムの代表格です。1曲目の「Lotus Blossom」はトランペッターなら必ずコピーして練習する曲の一つです。
ドーハムの特徴は、美しいソロのラインを訥々としたスクエアなアーティキュレーションで演奏することです。録り音はとても柔らかい印象ですが当時のバップトランペッターの中では最も音量が大きかったという噂を聴いたことがあります。が、今となって真偽は確かめられませんね。また少しフレーズの最初の音をしゃくりあげるようなベンディングで雰囲気を作るのも特徴です。スクエアなアーティキュレーションなのでドラムのスネアのようなリズミックな演奏が可能です。ダイナミックスと音域はそこまで広くないですが、それを必要としないメロディーセンスが素晴らしいです。それではメンバーを見てみましょう。
Kenny Dorham - trumpet
Tommy Flanagan - piano
Paul Chambers - bass
Art Taylor - drums
言わずとしれたジャズの名手ぞろいです。
録音に関してはトランペットがかなりマイクに近い印象で、ドラムのスネアに独特のリバーブが効いていてそれがどこか心地よいサウンド作りになっています。
01. Lotus Blossom
「蓮の花」と日本語のタイトルも付いている曲。ドーハムの代表曲でフレディー・ハバードやその他のジャズレジェンドにも多くカバーされている名曲。ドーハムの作曲家としての素晴らしい一面を捉えた楽曲でしょう。
イントロではインパクトのあるライドシンバルで始まり、次の瞬間にはベースが細かいラインを奏で、どこかアジアを連想させるような完全4度と5度で作られたハーモニーがピアノで奏でられます。
そのモチーフから作られたメロディーがドーハムによって演奏され曲が聞こえてきます。曲自体はAABAフォームというジャズの一般的な形式ですが、拍子が複雑に入り組んでいてこの曲を唯一無二の存在としています。AABAフォームとは8小節の基本となるメロディー(Aセクション)が二回繰り返されたのち、それに続くように違うメロディーが8小節演奏され、最後に最初と同じAのメロディーに戻る形式です。真ん中の一回しか出てこないメロディーがAと最後のAを架け橋のようにつなぐことから「ブリッジ(B)」と呼ばれます。
Lotus BlossomではAセクション最初の4小節は3/4(もしくは6/8)で書かれています。そしてその3のまとまり感をキープしつつ、後半の4小節では4拍子になり、3のまとまりがアクセントやシンコペーションとして機能する素晴らしい作りになっています。シンコペーションとはリズム的に面白さを出すために予想外の拍に強拍を置くことです。
このように展開が細かいとグルーヴは停滞しているように聞こえるのですが、そこでBセクションは思いっきりスウィングして曲を前へ進める対の役割を担っています。
ソロセクションは普通に4拍子でとても綺麗なソロをドーハムがとっています。スクエアなタンギングとニュアンスがとても特徴的なドーハムなのソロ。しかし作られるメロディーが綺麗なので、カクカクしている感じには聞こえず歯切れ良いといった感じに聞こえると思います。
このスクエアなニュアンスは是非ジャズを勉強する人はみにつけてみてください。跳ねない、スキップしないスウィング。とても大事です。
02. My Ideal
チェット・ベーカーの歌でもおなじみのスタンダード曲。トミー・フラナガンの美しいイントロに続いて現れるドーハムの音色は、バケット・ミュートというバケツのような形をした裏に綿を詰めトランペットのベルに被せるように使うミュートを使っているので、音がすごく柔らかくなっています。最初の音を少しベンディングさせて雰囲気を作るのはドーハムのバラードを吹く時の特徴かもしれません。バラードでもソロではほぼ全部の8分音符にタンギングをつけてかなり訥々としてスクエアな演奏ではありますが、それが美しいメロディーラインを際立たせています。
03. Blue Friday
ドーハム作曲のマイナー・ブルース曲。シンプルなメロディーで覚えやすい曲です。この曲を聞くと思うのですが、当時のミュージシャンは必ずと言っていいほどブルースの曲を1曲は収録しています。そしてそんな歴代の演奏にポール・チェンバースは一体どれだけ参加したのでしょう?おそらく数えきれないブルースに参加していることと思います。このテイクでも完璧なベースラインを見せてくれています。ポール・チェンバースのすごさに関しては『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』の回でも解説しているので読んでみてください。
→2020.7.15『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』
04. Alone Together
様々なミュージシャンがカバーしているジャズスタンダード。通常楽器ではDマイナーで 早めのテンポで演奏することが多いです。しかし、ドーハムはFマイナーでバラードとして演奏しているのでなんだか違う曲を聴いているような不思議な気分になりました。こちらのバラードでもフレーズの最初の音を少ししゃくりあげてベンディングすることでニュアンスを作る場面が多いので、やはりドーハムのバラードの歌い方の特徴が聞き取れます。
05. Blue Spring Shuffle
こちらもマイナー・ブルースの曲。本当にこの時代のジャズメンはマイナー・ブルースが好きですね!なかなか今の時代にミディアムのブルース2曲を1アルバムに入れる構成はしないですが、遊びのある時代のジャズを象徴しているとも言えます。
06. I Had The Craziest Dream
ストレートに演奏されていますが、ドーハムの良さが詰まった演奏です。先ほどから繰り返している淡々と訥々とした演奏、そしてしゃくり上げるような独特なニュアンスはもちろん、それに加え素晴らしいタイム感、絶妙なフレーズの始まりと終わり方など、素晴らしいソロを聞くことができます。決して広い音域を使っている訳でも、ダイナミックスが豊かな訳でもないですが、音楽的で美しいラインを歌い上げています。
07. Old Folks
ゆったりとしたスウィングで演奏されるスタンダード曲。こちらは3連音符を基調にしたソロの作り方になっていて統一感のある内容になっています。
08. Mack The Knife
アート・テイラーとトランペットの呼応がとても気持ちよくサウンドしているトラック。ドーハムのリズムのモチーフに反応してテイラーがそれに続いているのが、音楽的にこのオーソドックスなスタイルの演奏の中でも面白さを提供しています。
それではまた次回。
文:曽根麻央 Mao Soné
【曽根麻央LIVE INFO】
2/17 (Thu)
20:00 ~ 21:00
映画「トランペット」上映, トーク & トランペット演奏
@ キネマ旬報シアター (柏高島屋ステーションモール S館隣り)
劇場公式サイト
<「ブライトネス・オブ・ザ・ライヴス」発売記念 曽根麻央トーク&演奏付き短編映画上映>
場所 : スクリーン③
料金 : 一般 1500円 / シニア 1100円 / 大学 1000円 / 高校生以下 500円
20 : 00 ~ 20 : 17 頃 映画『トランペット』上映
20 : 17 ~ 21 : 00 頃 曽根麻央の舞台挨拶・トランペット演奏
終了後、CD 購入者にサイン会予定
2/18 (Fri)
20:00 ~ 21:00
映画「トランペット」上映, トーク & トランペット演奏
@ キネマ旬報シアター (柏高島屋ステーションモール S館隣り)
劇場公式サイト
<「ブライトネス・オブ・ザ・ライヴス」発売記念 曽根麻央トーク&演奏付き短編映画上映>
場所 : スクリーン③
料金 : 一般 1500円 / シニア 1100円 / 大学 1000円 / 高校生以下 500円
20 : 00 ~ 20 : 17 頃 映画『トランペット』上映
20 : 17 ~ 21 : 00 頃 曽根麻央の舞台挨拶・トランペット演奏
終了後、CD 購入者にサイン会予定
2/19 (SAT)
Open 16:00 | Start 16:30
MAO SONÉ Trio @ Velera 赤坂
<出演>
曽根麻央 - trumpet & piano
伊藤勇司 - bass
木村紘 - drums
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 03-6277-8772
2/24 (Thu)
Open 18:00 | Start 19:00
MAO SONÉ Solo @ Cabin 本厚木
<出演>
曽根麻央 - trumpet & piano
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 046-221-0785
2/25 (FRI)
Open 19:00 | Start 20:30
MAO SONÉ Trio @ Nardis 柏
<出演>
曽根麻央 - trumpet & piano
伊藤勇司 - bass
木村紘 - drums
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 04-7164-9469 email : knardis@mac.com
3/12 (SAT)
[1st]Open3:30pm | Start4:15pm
[2nd]Open6:30pm | Start7:30pm
MAO SONÉ "Brightness of the Lives"
Release Live @ Blue Note Tokyo
<出演>
曽根麻央(トランペット、ピアノ、キーボード)
井上銘(ギター)
山本連(ベース)
木村紘(ドラムス)
Guest:
二階堂貴文(パーカッション)
曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ
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・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil / タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』・2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』・2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』・2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』・2021.04『Something More / Buster Williams』・2021.05『Booker Little / Booker Little』・2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』・2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』・2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』・2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』・2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』・2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』・2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』・2021.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』
Reviewer information |
曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |