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JJazz.Net Blog Title

曽根麻央 Monthly Disc Review2021.11_ Erroll Garner_Concert By The Sea

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Title : 『Concert By The Sea』
Artist : Erroll Garner



【圧倒的なカリスマ性を発揮するライブアルバム】


皆さんこんにちは、トランペットとピアノの曽根麻央です。
世の中には数え切れないほど素晴らしいライブ盤がありますが、1人のピアニストが圧倒的なカリスマ性を発揮し、一枚を通して聴き手を魅力し続ける音源は希少です。

エロール・ガーナーが1958年にライブ録音した音源『コンサート・バイ・ザ・シー』はそんな貴重な一枚で、決して優れた音質で記録されたわけではないが、彼のエンターテイナー的なキャラクターが目に浮かぶリズミカルでユーモラス、そしてリリカルなピアノを40分もの間、集中して楽しむことができます。

このライブ会場、現在のSunset Center(当時はSunset School)には私も訪れたことがありますが、カリフォルニア・モントレージャズフェスティバルの会場から車で30分ほど、少し南下すれば国立自然公園という美しい場所でした。


さてメンバーを見ましょう



Erroll Garner - piano
Eddie Calhoun - bass
Denzil Best - drums




正直、リーダーのガーナー以外のメンバーは、私も勉強不足で聞いたことがないのですが、調べてみると、ベーシストのエディ・カーホウンはアーマッド・ジャマルやビリー・ホリデイと演奏していて、その後キャリアの大半をガーナーのベーシストとしてツアーなど世界中旅をしていたようです。

ドラマーのダンジル・ベストも50-60年代のビバップシーンを支えたドラマーで、サイドマンとして多くの共演歴がありました。またこのDISC REVIEWでも取り上げたマイルス・デイビスの『バース・オブ・クール』の「Move」という曲の作曲者の1人として名前を連ねています。

ガーナーのピアノスタイルで最も特徴的なのは、左手を四分音符で常に和音とリズムを刻んでいることでしょう。これにより独特の躍動感とグルーヴを音楽に与えて、踊りたくなるような楽しさを聴き手に与えます。また四分音符の羅列の間に挟むシンコペーションのアクセントがまた効果的です。

また右手はメロディーのフレーズとフレーズの間に、まるでビッグバンドのトランペット隊のような激しい和音で合いの手を入れます。また右手のオクターブ奏法も得意で、早い曲でも八分音符をオクターブで弾き、ピアノを響かせ独特のリズム感を与えてくれます。実際には右手の親指と小指でオクターブを奏で、余った指で和音も抑えているので、これを高速の曲でも行うので、こちらもビッグバンドを聴いているかのような聞き応えがあります。

アルバム全体を通してガーナー以外のソロパートなどは無く、メンバーはサイドメンとしての役割に徹底して留まっています。この様な状態で40分間聴き手を魅了するのは圧倒的なカリスマ性がなければ成り立ちません。





01. I'll Remember April
力強いソロピアノのイントロから始まり、自然にテーマに入っていきます。これもガーナーの特徴で、ライブでは恐らく即興演奏のイントロから自然にテーマ部分へと導入されていきます。

このテーマもオクターブで弾かれていて、ものすごいエネルギッシュな演奏となっています。この間も左手は四分音符を奏でているのでリズムが大きくはっきりと前へ進んでいく感じを出しています。アドリブの部分に入りようやく右手が単音の八分音符を奏でますが、これも揺るぎない正確で力強いものとなっています。


02. Teach Me Tonight
ソリッドで揺るぎない八分音符を右手で奏でるガーナーの早いスウィング曲と対照的に、バラードではスクエアな感じには全くならず、割り切れないぐらい大きくリズムをとり、まるで歌っているかのようにリリカルな演奏を聴かせてくれます。しかしその間も左手は正確に四分音符で拍を刻んでいるので、変に間延びしたり詰まったりする感じでは全くないのが素晴らしいところです。


03. Mambo Carmel
エロールの左手は四分音符でなく、この様なリズムの曲では付点四分音符を多めに使ったリズムを刻み、エロール風のラテンの感覚を表現しています。変則的なリズムを左手で刻んでいても、右手は自由にソリッドに演奏していて、両手の独立がしっかりとなされています。彼が左利きだったのも、このスタイルを確立する上で大きかったのかもしれませんね。


04. Autumn Leaves
ルバートの曲。先程の「Teach Me Tonight」では左手の正確なリズムに上を自由に歌い上げるスタイルでしたが、ルバートでは両手を自在に操り、見事なラインを形成しながらクラシカルな演奏に仕上げています。インテンポになってからは左手は四分音符に戻り、右手は自由自在というガーナーが特有のスタイルに戻ります。このアルバム随一の名演です。




05. It's All Right With Me
早いスウィングの曲。いわゆるガーナーの演奏スタイルを全面に押し出した演奏になっています。

ヴァイナルではここまでA面。


06. Red Top
ビブラフォン奏者、ライオネル・ハンプトンのユーモラスなブルースの作品。このぐらいのテンポだとガーナーのスタイル(左手の四分音符、右手のビッグバンド的要素)が聴き取りやすいかもしれません。またガーナーの人間味あふれる様子がこのトラックでは伝わってきますので是非聴いていただきたいです。


07. April In Paris
ルバートの演奏の曲。前半の「Autumn Leaves」の様にクラシカルな響きを奏でています。


08. They Can't Take That Away From Me
ガーシュウィンの有名な曲です。まるでビッグバンドのセクションで演奏されてるかのようなテーマが聴こえてきます。そして、倍のテンポのフィーリングで演奏されるソロも圧巻です。


09. How Could You Do The Thing Like ThatTo Me?
こちらのテーマも合いの手で入れてくるアクセントと和音がいかにもガーナーのスタイルですね。先程「Red Top」でもそうでしたが、ガーナーのスタイルはこれぐらいのテンポが一番聴いて分かりやすいかもしれませんね。


10.Where Or When
ガーナーの早いスウィングのスタイルと「Mambo Carmel」のスタイルが合わさったようなアレンジになっています。左手は付点四分音符で進んでいるときも右手がその自由を制限されない独立力は圧倒的です。


11.Eroll's Theme
ガーナーのエンディング・テーマの様なもの。

それにしてもガーナーのレパートリーの多さにはいつも驚かされます。演奏するキーも通常楽器では演奏しないものが多く、キーの選択もこの独特な演奏スタイルに影響しているのかとも思います。是非聴いてみてください。


それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné






【曽根麻央LIVE INFO】

11/18 (Thu)
Open 18:30 | Start 19:00
MAO SONÉ Trio @ Velera 赤坂
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
伊藤勇司 - bass
木村紘 - drums
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 03-6277-8772


11/27 (Sat)
Start 19:30
MAO SONÉ SOLO x 水墨画 (笠原 正嗣) @ Attic 銀座
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
笠原 正嗣 - 水墨画​​


11/28 (Sun)
Open 18:30 | Start 19:30
MAO SONÉ & DAVID BRYANT @ Body & Soul 渋谷
<出演>
​曽根麻央 - trumpet
David Bryant - piano
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 03-6455-0088


11/30 (Tue)
Open 19:30 | Start 20:30
MAO SONÉ Trio @ Nardis 柏
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
伊藤勇司 - bass
木村紘 - drums
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 04-7164-9469


12/10 (Fri)
Open 18:00 | Start 19:00
MAO SONÉ & 丈青 @ Cabin 本厚木
<出演>
​曽根麻央 - trumpet
丈青(from SOIL&"PIMP"SESSIONS) - piano
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 046-221-0785


曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ



Recommend Disc

concertbythesea200.jpg


Title : 『Concert By The Sea』
Artist : Erroll Garner
LABEL : Columbia
発売年 : 1955年



アマゾン詳細ページへ


【SONG LIST】

01. I'll Remember April
02. Teach Me Tonight
03. Mambo Carmel-by-the-sea
04. Autumn Leaves
05. It's All Right With Me
06. Red Top
07. April In Paris
08. They Can't Take That Away From Me
09.How Could You Do A Thing Like That To Me
10. Where Or When
11. Erroll's Theme




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央

2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil / タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The Miles Davis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』




Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

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