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JJazz.Net Blog Title

曽根麻央 Monthly Disc Review2021.08_ Lee Morgan _The Sidewinder

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 みなさんこんにちは、トランペッター&ピアニストの曽根麻央です。いつもご愛読ありがとうございます。ジャズの名盤、そして私・曽根麻央がお勧めするアルバムをミュージシャン視点で解説するこのディスク・レビューのコーナーもおかげさまで17回目となりました。

 現在のジャズは多様化し複雑になっていて、それはそれでいて美しいのですが、シンプルにカッコいいものをアーティストやリスナーのプライドが邪魔をして評価できない、というもったいない場面に遭遇することは多々あります。「カッコいい」となれる動物的な直感は、作り手、聴き手双方が磨いていくべきセンスです。ミーハーと思われてしまうかも、などと他者の目を気にするあまりそのセンスを鈍らせたり、カッコいい作品から遠ざかったりするのは人生の大きな機会損失といえます。

 今日はそんな今だからこそ、ジャズファンならば誰もが目にしたことがあるジャケットで、尚且つ相当な回数を聴いたことがあり、過去にも散々雑誌や記事に書かれてきたこのアルバムを改めてここで紹介しようと思います。このような内容は、ジャズファン歴の浅い読者にとっては非常に新鮮であるはずですし、従来のジャズファンの読者にも改めて聴き直す機会になると思います。何より新たなジャズファンになり得るであろう方には是非この最高にカッコいいアルバム、リー・モーガンの『The Sidewinder』を聴いていただきたいのです。


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Title : 『The Sidewinder』
Artist : Lee Morgan



【ジャズ史を代表する最もカッコいい一枚】

 『The Sidewinder』はトランペット奏者、リー・モーガンが1964年にブルーノートからリリースしたアルバムで、大ヒットしました。タイトルトラックの「The Sidewinder」という曲は今でもテレビのBGMなどで耳にしたことのある方も多いでしょう。





 リー・モーガンは18歳の時に先輩トランペッターでもあるディジー・ガレスピーのビッグバンドに参加しプロデビュー。同じ年にブルーノートより初リーダーアルバムもリリースしています。自身のアルバムを作りつつ、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズというジャズ史上最も有名なバンドに参加し、さらに最も有名になったトラック「Moanin'」でフィーチャーされています。そんなキャリアを若くして積み上げている最中、ヘロイン中毒となり一時期ニューヨークを退きます。 その後63年のニューヨークのシーンへ復帰するタイミングでレコーディングされたのがこの『The Siderwinder』です。


 リーは過去の作品で、どこか荒削りだけどアツく心に響く歯切れの良い演奏を、ジャズのリズム「スウィング」の上でファンキーに魅せるスタイルで人気を博しましたが、この復帰作(彼のトランペットプレイはもちろんより一層磨きがかかったものになっているのだが)の 一曲目「The Sidewinder」ではロックンロールやR&Bのリズムを取り入れ、新たなブームをジャズシーンに起こしました。このころのビルボードのチャートを見ると、レイ・チャールズやエルヴィス・プレスリーといったR&Bやロックンロールの楽曲やアーティストがチャートインしているわけですから、ジャズがそれらのエッセンスとの融合を果たしたのは時代の流れと言えるでしょう。ジャズは多様性の音楽です。様々な人種や文化の音楽を取り込み発展させることで、言葉や文化の壁を超える独自のアイデンティティーを確立しました。このリー・モーガンのアルバムも歴史の大きな流れで言うと、その大事な役割を果たしたと言えるでしょう。

さてメンバーを見ましょう



Lee Morgan (tp)
Joe Henderson (sax)
Barry Harris (p)
Bob Cranshaw (b)
Billy Higgins (d)




 いわゆるジャズの名手揃いですね。個人的な好みはビリー・ヒギンズです。彼の入っているブルーノート時代のアルバムはほとんどハズレがないといっても良いでしょう。


01. The Sidewinder
 タイトルトラック。R&B風のリズムとベースライン、そして「タッッタ、タッッタ」というシンプルなピアノの伴奏が聞こえてきます。このピアノの伴奏パターンをモチーフにした有名なメロディーがトランペットとサックスによって演奏されます。
「タッッタ、タッッタ」に応答するファンキーなメロディー。ちなみにこのメロディーをトランペットで演奏するのはそもそもとても難しいのですが、このように歌心のある、聴き手の耳をかっさらうような吹き方はまさに名手です。曲の構成は24小節に拡大されたブルース。通常ブルースは12小節ですがこの曲では倍になっています。

ビリー・ヒギンズのシンバルはまるでスウィングを演奏しているかのようなライドパターンを演奏、でもそれでいて左手で演奏されているスネアは普段よりスクエアーで強めにアクセントが入っていてそれがR&B感を強めます。
 バリー・ハリスは自身のソロ以外では、終始シンプルなモチーフをピアノで演奏し続け、ボブ・クランシューもシンプルだが躍動感のあるベースラインをキープし続けています。


02. Totem Pole
 軽快なラテン調の曲。AABA構成の曲で真ん中のBセクションはスウィングで演奏されています。

 こちらのリーのソロも絶好調で、ものすごいエネルルギーと圧を感じることができます。独特のハーフバルブ(トランペットのピストンを途中まで下ろして、ニュアンスをあえてあやふやにする奏法)なども駆使してまるで喋っているかのような、メッセージが聞こえてくるようなソロになっています。特にピアノソロが終わってリーがソロに戻ってくるタイミングなど必聴です!





03. Gary's Notebook
 軽快なスウィングワルツの曲。緊張感のあるイントロに続く、こちらも「The Sidewinder」と同じく24小節に拡大されたブルースフォームの曲。ドラマー、ビリー・ヒギンズのお得意とするテンポ感ではないでしょうか? 彼の美しいライドシンバルにバンド全体が牽引されて素晴らしい演奏を全員が披露しています。


04. Boy, What A Night
 さらに軽快なスウィングワルツの曲。こちらも「The Sidewinder」と前曲「Gary's Notebook」と同じく24小節に拡大されたブルースフォームの曲。メロディーの最初の3フレーズはリズムが複合的になっていて拍子がとらえにくい独特のメロディーになっています。

ちなみに、このように3拍子の中に、さらに大きな枠組みの3拍子を感じさせ、複合的なリズムを作り出す作曲テクニックを「ヘミオラ」と言ったりします。メロディーはトランペットの音域ほぼ全て使うように書かれていて、トランペットの良さが出る楽曲ではないかなと思います。こちらのトランペットソロもいわゆるリー・モーガン節が満載で、彼の特徴ある演奏の良い部分を収録してあると思います。


05. Hocus-Pocus
ミディアム・スウィングのAABA構成でポスト・ビバップ調の曲。こちらもヒギンズのスウィング演奏がさすがとしか言いようがないほど、淀みがなく、全員を完璧にリードしています。
 そして、これぐらいのテンポ感でリー・モーガンは本領を発揮すると思っています。決して長いソロではないのですが、フレーズもとても説得力があり、テクニックも完璧です。これだけエネルギッシュにこの演奏を完走できる人も他にいないでしょう。このアルバムの隠れた名演と言えます。

皆さんも是非、聴いてみてください。

それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné






【曽根麻央LIVE INFO】

8/24 (火) @ 柏 Nardis
 open 19:00 | start 20:30
 MAO SONÉ Trio w/ 伊藤勇司(b) 木村紘(ds)

8/29 (日) @ 下北沢No Room For Squares
 open 17:30 | start 18:00
 曽根麻央 (Fender Rhodes & tp), 高橋佳輝 (b), 木村紘 (ds)

9/1 (水) @ 表参道 Body And Soul
 Open 18:30 | Start 19:30
 曽根麻央 (tp) & David Bryant (p)

9/12 (日) @ 厚木Cabin
 Open 15:00 | Start 16:00
 曽根麻央ソロ - piano & trumpet

9/15 (水) @ 柏 Nardis
 open 19:00 | start 20:30
 MAO SONÉ Trio w/ 伊藤勇司(b) 木村紘(ds)

9/23 (木・祝) @ 丸の内 Cotton Club
 [1st.show] open 16:00 | start 17:00 
 [2nd.show] open 18:45 | start 19:45
 MAO SONÉ Trio with Strings
 w/ 伊藤勇司(b) 木村紘(ds) SAYAKA (vln) 山田那央 (vla) 香月圭佑 (vc)

その他情報はウェブサイトへ



Recommend Disc

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Title : 『The Sidewinder』
Artist : Lee Morgan
LABEL : Blue Note
発売年 : 1964年



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【SONG LIST】

01. The Sidewinder
02. Totem Pole
03. Gary's Notebook
04. Boy, What A Night
05. Hocus-Pocus




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央

2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil / タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The Miles Davis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』




Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

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