こんにちは、トランペッター、ピアニストの曽根麻央です。
今日はマルチ・インストゥルメンタリストでもあるコーリー・ヘンリーの本業とも言える超絶オルガン・プレイを聴けるライブアルバムを紹介します。
Title : 『The Revival』
Artist : Cory Henry
【クリスマスシーズンにもおすすめ、オルガン作品】
ゴスペル、ポップス、ジャズのクロスオーヴァーな作品でたくさんの人に楽しんでもらえる作品と思いますし、オルガンの音色はやはりクリスマスにとても映えますね!
『The Revival』というアルバムはブルックリンにあるGreater Temple of Praiseでライブレコーディングされたもので、ほぼほぼオルガン・ソロのアルバムといってよいでしょう。
トラックによってはジェームス・ウィリアムスというドラマーが参加しています。僕は彼の演奏をタイガー大越さんのバンドで一度だけ見ましたが、ドラムにカホンなどのパーカッションを組み合わせ、様々なジャンルの音楽を見事に表現する本当に素晴らしいドラマーです。またBishop Jeffrey Whiteというゴスペル・シンガーが一曲ゲスト参加しています。
Executive-Producer - Cory A. Henry
Drums, Percussion - James Williams
ヘンリーは終始オルガンの音色を柔軟に操り、曲に彩りを与えます。またダイナミックスもpp(ピアニッシモ)~fff(フォルテッシシモ)まで迫力のある表現を魅せてくれます。そして一度曲がリズムに入れば強力なグルーヴで聴いている我々が踊り出したい気分にさせてくれます。そんなとっても素晴らしい一枚です。
またヘンリーのお客さんを楽しませるエンターテイナーとしての魅力も感じられる一枚で、まるでライヴ会場で一緒に盛り上がっているような気持ちにさせてくれます。
ちなみに彼は終始B3というオルガンの名機を使用しています。この楽器の魅力も体感してみてください。
01. Lord's Prayer
一曲目は静かにハーモニーが移り変わりとても神秘的な表現を聴かせてくれるトラックになっています。オルガンの魅力は音量ペダルがあり、とてもダイナミックな演奏ができるところにあります。聴こえるか聴こえないかのレベルで始まり、そこから膨らみを増していきます。そして場面が変わると音色スイッチを素早く切り替えてさらにゴージャズな音色を即興的に作って行きます。キーボードのようにボタンのスイッチではなくレバーなので、音色を切り替えても音が途切れることなく次の音色に移行できるのがオルガンの魅力ですね。レバーはたくさんあり、 それぞれ役割が違いますので、楽器のことを本当に理解し、とてもたくさんの時間をかけて音色の研究をしていることがわかります。
僕はこの曲をApple Musicのランダム再生で発見して、ちょうど首都高を走っていて朝日が昇ってくるところでこの曲のクライマックスが出てきまして、あまりの感動に思わず声を上げてしまいました。
02. He Has Made Me Glad
ゴスペル音楽で有名な曲だと思います。僕もニューヨークに住んでいた時、日曜日の朝の教会でオルガンを弾くアルバイトをしていて、何度もこの曲を演奏した記憶があります。
ヘンリーはこの曲をとてもグルーヴィーに、ブルースのテイストを合わせながら、独自のハーモニーセンスを組み合わせて見事にプレイしています。おそらく聴いている限り即興的にリハモニゼーションしたり、転調したりしていると思うのですが、ベースの動きがとにかく綺麗です。またソロなのでテンポも自由自在に操っていて、かなり自由度の高い内容になっています。またヘンリーはクライマックスへ一曲かけて持っていく、この構成力も素晴らしいと思います。このアルバムで最も好きなトラックの一つですので是非聴いてください。
03. Precious Lord
アレサ・フランクリンやニーナ・シモンが歌ったゴスペルの名曲です。それを3連のゴスペル特有のグルーヴで演奏しています。ドラムにジェームス・ウィリアムスが入りグルーヴの芯がとても見えやすい演奏です。ウィリアムスは終始シンプルな4分音符を演奏していて、アフリカン・アメリカン音楽の4分音符の大事さを思い知らされます。
04. Old Rugged Cross
調べると1912年に書かれた古い賛美歌なようです。Bishop Jeffrey Whiteというゴスペル・シンガーがゲストに入っています。3拍子の3連音符の曲でとてもソウルフルな内容になっています。
05. Naanaanaa
アルバム一楽しい楽曲で、まるで会場に一緒にいるような感覚に陥ります。皆さんも是非一緒に歌ってみてください。
06. That Is Why I'm Happy
軽快なテンポのゴスペル調の曲。タンバリンとベースの響きがとても心地よくなっています。ドラムのスネアの音も歯切れがよくゴスペル特有の気持ち良いバックビートです。
07. If You're Happy
「幸せなら手をたたこう」を本気で演奏するとこんなにかっこよくなるのですね! 面白いので是非聴いてみてください。こういうシンプルでポピュラーな曲を表現する楽器としてオルガンはある意味最適かもしれないですね。自分でベースとハーモニーを組み替えてバンドサウンドのように出来てしまうのはピアニストからすると本当に羨ましいです。
08. Giant Steps
ジョン・コルトレーンのカヴァー曲です。中庸な速さのスウィングで演奏していて、ヘンリーのジャズ奏者としての一面を見ることが出来ます。オルガンでこういったウォークベースを弾く際、左手で4分音符を弾いて、各音を切る裏拍で足鍵盤でゴーストノート(弾いているけど実際には音程が認識できないほどの音)を弾くのですが、その独特なバウンス感がとても心地よいです。
09. All In Love Is Fair
スティーヴィー・ワンダーのカヴァー曲。原曲よりもゆったりとしたテンポで少しミステリアスな雰囲気を帯びているトラックです。
10. Yesterday
ビートルズのカヴァー曲。実はこの曲をヘンリーのインスタライヴで見て彼のファンになったのでこうしてライヴ音源も出してくれていて個人的に嬉しかったです。原曲よりもブルージーなYesterdayなのでとても面白い演奏になっていると思います。
11. I Want To Be Ready
古い賛美歌の曲です。カホンとシェイカーとリズミックに演奏しています。とてもライヴ感のあるこのアルバムを象徴するかのようなトラックになっています。即興的にメロディーやハーモニー、リズムを少しずつ変化させて巧みに音楽をクライマックスに導いています。
それではまた次回。
文:曽根麻央 Mao Soné
Recommend Disc |
![]() Title : 『The Revival』 【SONG LIST】 01.Lord's Prayer |
【曽根麻央LIVE INFO】
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』・2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』・2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』・2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』・2021.04『Something More / Buster Williams』・2021.05『Booker Little / Booker Little』・2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』・2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』・2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』・2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』・2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』・2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』・2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』・2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』・2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』・2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』・2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』・2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』・2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』・2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』・2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』・2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』・2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』
Reviewer information |
![]() 曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |