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曽根麻央 Monthly Disc Review2024.12_Frank Sinatra : Sings for Only the Lonely

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Title : 『Sings for Only the Lonely』
Artist : Frank Sinatra


みなさんこんにちは、ピアノとトランペットの曽根麻央です。
今日は寒い日にゆっくり家で過ごしたい時、少しばかりセンチになってみたい時にぴったりな名作を紹介します。


今日はフランク・シナトラの『Sings for Only the Lonely』を紹介します。
この作品は1958年に録音・発売されたアルバムです。


編曲は最高のアレンジャーであるネルソン・リドル。そして録音は1956年に誕生したばかりの当時最先端、なおかつ、今だに現役で有名なレコーディング・スタジオCapitol Studioでレコーディングされました。
Capitol Studioは当時シナトラの名盤を数多く収録したのはもちろんのこと、ナット・キング・コールやザ・ビーチ・ボーイズなど当時の一流のアーティストが使用したことでも有名です。
それだけでなくチェンバー・リバーブを自然に作り出すためだけの部屋が確保されていることでも知られていて、現在ではその部屋を模倣したデジタル・リバーブもプラグイン(パソコンで音を編集するときに使用するもの)として販売されていたりします。


この時代はモノラルとステレオの転換期でもあり、複数の録音機を用いてモノラルとステレオの両方で収録したそうです。
現在私たちが配信等で聴けるものはステレオの再販(おそらくリミックス&リマスター)されたものですのでモノラル・レコードのクオリティーがどの程度であったか私は知らないのですが、恐らく素晴らしいものだったことでしょう。
現状、私が持っているCDや配信版を聴いていても、当時の録音技術の高さを思い知らされます。


文献によると当時Capitol Recordではオーケストラに8つのマイクをあてて、3つのテープマシンを使って録音していたそうです。なので完璧なマイク配置によってでしか正しいオーケストラの音のバランスは得られません。
またそれはミュージシャン一人一人の演奏力の高さも物語っています。
この時代はシナトラの歌とオーケストラは同時録音ですから、差し替えが効きません。「ミスのない演奏」をしなければいけない緊張感もあり、しかしそれを個々の技術力と表現力で完璧な作品とするマンパワーすら感じます。


別のアルバムではありますが、YouTubeにいくつかシナトラのレコーディング映像も上がっていまして、ヘッドフォンすらつけず、譜面とひたすら睨めっこしながら歌詞と音に真剣に向かい合う姿に感動します。
輝かしいエンターテイメントの世界に生きていたイメージの強いシナトラですが、その根底はやはり完璧主義者のアーティストであります。
このアルバムの収録時シナトラは43歳ほどです。若々しくも低音の美声だったミュージカルやトミー・ドーシー・ビッグバンド時代の声ではなく、いわゆるみんなが想像する少し枯れたあのシナトラの歌声で、それがとても心に響くアルバムです。


アルバム全体はバラード曲集、しかも失恋の歌を中心にテーマを定めています。
それはシナトラの離婚や、アレンジャーのネルソン・リドルの母の死などが同時に重なり、このアルバムに結果として行き着いたとリドルも語っているそうです。

シナトラの歌唱はとても感傷的で、掠れるところが痛みにも感じられます。そして普段よりソフトに歌っている箇所もたくさんあり、ダイナミックスでの表現の幅が一段と広いアルバムではないかと思います。


そしてリドルのアレンジもやはり一流であり、シナトラやナット・キング・コールを支えたサウンドとアイディアはこのアルバムでも輝きを発しています。
ネルソン・リドルはクラシック的なストリングスや木管に、ジャズやポップスを中心としたオールマイティーに演奏できる金管奏者、そしてリズムセクションの、いわゆるスタジオや映画音楽のような編成のアレンジの名手で、歴代最高のアレンジャーの一人です。
また彼の書くイントロはまたそれぞれユニークで、各曲の個性を一層引き出す力があります。
またリドルのシナトラ用のアレンジでは良くあることなのですが、トロンボーンがフィーチャーされている曲が多く、これはトミー・ペダーソンという名手が吹いています。
彼のシナトラに寄り添うような演奏もこのアルバムの聞きどころの一つでもあります。




文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title :『Sings for Only the Lonely』
Artist : Frank Sinatra
LABEL : Capitol Records
発売年 : 1958年



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【SONG LIST】

01.Only The Lonely
02.Angel Eyes
03.What's New
04.It's A Lonesome Old Town
05.Willow Weep For Me
06.Good-Bye
07.Blues In The Night
08.Guess I'll Hang My Tears Out To Dry
09.Ebb Tide
10.Spring Is Here
11.Spring Is Here
12.One For My Baby




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』2023.1『Complete Communion / Don Cherry』2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』2023.6『Covers / James Blake』2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』2023.10『MAINS / J3PO』2023.11『Knower Forever / Knower』2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』2024.04『Voyager / Moonchild』2024.05『Evidence with Don Cherry / Steve Lacy』2024.06『Quietude / Eliane Elias』2024.07『Alone Together / Lee Konitz, Brad Mehldau, Charlie Haden』2024.08『The Rough Dancer And The Cyclical Night (Tango Apasionado) / Astor Piazzolla』2024.09『Potro De Rabia Y Miel / Camarón De La Isla』2024.10『Calle 54 / Various』2024.11『Trumpets Of Michel-ange / Ibrahim Maalouf』



Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

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