みなさんこんにちは、ジャズ二刀流ことマルチインストゥルメンタリストの曽根麻央です。
今日、私はBlue Note Beijingへのソロ出演のため北京へ来ています。こちらは氷点下続きでとても寒いです。
こんなに寒いですが、心温まるホリデーシーズンにぴったりなジャズアルバムがあります。今日はそのアルバムを皆さんにご紹介しようと思います。
Title : 『Ella Wishes You A Swinging Christmas』
Artist : Ella Fitzgerald
『Ella Wishes You a Swinging Christmas』は、ジャズの歴史に永遠にその名を刻むエラ・フィッツジェラルドと名プロデューサー、ノーマン・グランツとのコンビが生んだ名作です。
アレンジはFrank De Volという作曲家・アレンジャー(俳優という肩書きもある方)が書いていています。
彼はナット・キング・コールやトニー・ベネットと行ったアメリカを代表するシンガーたちのアレンジを担当していたことで有名です。「Nature Boy」のアレンジが彼の代表的なアレンジです。
このアルバムでメロディーの歌い回しとアレンジが密接に関わっていますのでアレンジャーとエラで念密な打ち合わせと練習があったことが予想されます。
最初の2曲「Jingle Bell」や『Santa Claus Is Coming To Town」は子供から大人まで誰でも知っているクリスマスソングなので、自分の知っているメロディーと、ジャズシンガーであるエラが歌う歌い回しの違いに注目しても面白いかもしれません。
そしてその変更されたメロディーが伴奏のアレンジにも大きく関わっていて、使い回されたホリデーソングを新鮮なものにしてくれます。
エラの歯切れよいリズムと、ライトにシャウトするかの様な高音が心地よく本当に楽しい気分にさせてくれます。そしてビブラートが本当に美しい。
おそらくこの時代ですとバンドと一緒に一発録音でしょうし、シンガーとして技量がとにかく必要だった時代です。
「The Christmas Song」などはそもそも跳躍が激しので歌唱が難しい曲ですが、そう言った難しさは一切聴衆に感じさせずただただ美しく完璧、そしてその中に彼女の人生があり抑揚がしっかりとあります。
エラのピッチ感は全体的にややフラット(やや低め)なのですが、それが本当に気持ち良いのです。人間味があるというか、暖かさがあるというか、ナチュラルというか。全てを完璧にしてしまう現代のレコーディングではなかなか聴くことができない持ち味ですね。
特に「Sleigh Ride」ではエラの絶妙に低いピッチ感が心地よく味わえるトラックだと思います。
アレンジの幅は広く、ベイシー風とホリデーを思わせるコーラスがかけ合わさった様なアレンジから、「Good Morning Blues」ではブルース風のアレンジもあったりします。
「Have Yourself A Merry Little Christmas」はクリスマスの名バラード曲ですがここでは心地よいゆったりとしたスウィングで演奏されています。ジョージ・シアリング風のアレンジがとても良いです。
「What Are You Doing New Year's Eve?」はピアノからのデュオで始まるバラード曲です。
現代のレコーディングと比べるとピアノが小さいのかなと思うのですが、小さい音量でもはきり聴こえてくるので絶妙なバランス感覚だなと驚きました。
長時間聴いても耳が疲れない的音量とバランスになっているアルバムです。
録音としては全体的にとてもよいバランスで収められていると思いました。
特にエラがきちんとフロントでフィーチャーされるのに十分な音量でいるためにオケやコーラスやドラムが若干小さめにミックスされていますが、それであっても物足らなさはなく、それどころかエレガントに聴こえます。車や部屋で流して聴いていて最高に心地よいミックスです。
執筆するために本気で集中リスニングをするのにオーディオスピーカーで聴くと、ベースとドラムのパンが右側に極端によっており、この時代のステレオ・ミックスにありがちではありますが、私はモノラル・ボタンをこちらのプレイヤーで押してモノラル再生で聴く方が好みでした。
ただ先程も言った通り、もっと広い空間や部屋で流して聴くのには最高の音でしたので、音楽の用途とミックスはとても親密な関係にあって興味深いなと改めて思いました。
『Ella Wishes You a Swinging Christmas』この冬是非皆さんに聴いていただきたい一枚です。
SpotifyやApple Musicにもありますので、慌ただしい年の瀬ではありますが、アルバムを聴く50分、ひとときの息抜きをこの時期に暖かい部屋の中で得られるのはとても幸せなことではないかなと思います。
それでは今年も沢山CD Reviewを読んでいただきありがとうございました。また来年もよろしくお願いいたします。
良いお年をお迎えください。
文:曽根麻央 Mao Soné
曽根麻央『プレイズ・スタンダード』
トランペット/ピアノの"ジャズ二刀流"として話題の曽根麻央がソロピアノで紡ぐスタンダードソング集が全国発売決定!
往年のジャズの名曲をフレッシュな感性で解釈。
抒情性と気品に彩られた曽根のジャズ・ミュージシャン、ピアニストとしてのアティテュードが表現されている作品に仕上がった。
曽根麻央『プレイズ・スタンダード』
1.Reflections in D
2.Serenade
3.In Your Own Sweet Way
4.The Star-Crossed Lovers
5.Wave
6.Stella by Starlight
7.All The Things You Are
8.Luminous (Piano Solo Ver.)
9.I Loves You, Porgy
10.Lady Luck11.Danny Boy
12.Home (Piano Solo Ver.)
13.Some Other Time
14.Ask Me Now
15.The Days of Wine And Roses
16.What A Wonderful World
Mao Soné (piano, trumpet)
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』・2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』・2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』・2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』・2021.04『Something More / Buster Williams』・2021.05『Booker Little / Booker Little』・2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』・2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』・2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』・2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』・2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』・2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』・2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』・2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』・2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』・2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』・2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』・2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』・2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』・2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』・2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』・2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』・2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』 ・2022.12『The Revival / Cory Henry』・2023.1『Complete Communion / Don Cherry』・2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』・2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』・2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』・2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』・2023.6『Covers / James Blake』・2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』・2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』・2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』・2023.10『MAINS / J3PO』・2023.11『Knower Forever / Knower』
Reviewer information |
曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |