こんにちは、曽根麻央です。みなさんお元気でしょうか?
僕はちょうどレジェンドシンガー、中本マリさんのツアーで山形県鶴岡に入ったところです。
Title : 『Without a Net』
Artist : Wayne Shorter
今月衝撃的なニュースがもたらされました。長年に渡り世界の音楽をリードしてきたウェイン・ショーターがお亡くなりになったということでした。
今日は彼の最高傑作の一つである2013年のアルバム『Without A Net』を改めて皆さんと一緒に聴いていきたいと思います。
実はこの『Without A Net』のリリースされた年にWayne Shorterにお会いする機会を得た私はサインをもらいました。彼のグループのピアニストであるダニーロ・ペレスが私も含めた当時の彼の生徒たちにWayneのホームパーティーで演奏する機会を作ってくれ、なんとWayneの前で演奏するという一大事でした。演奏後、嬉しそうに「このジャケットは僕が書いたんだ。裸の女性が落ちていて、そこには助かるためのネットもないが、そこに恐怖もない。」と語ってくれました。
【臨場感溢れるウェイン・ショーター最後のクインテット作品】
このアルバムはウェイン・ショーターの最後のクインテットをフィーチャーしています。ピアノにダニーロ・ペレス、ベースにジョン・パティトゥッチ、ドラムにブライアン・ブレイドという黄金チームです。
この4人は演奏前に必ずハグをしてグループの調子を整えます。音楽だけでなく人間としても尊敬し合えるそんなバンドに僕はとても憧れていました。
「Pegasus」にはInam Windsという木管楽団がサポートで入リ、曲/演奏ともに大曲となっています。
ミックスもセンターにウェインとベース、左側にピアノ、右にドラムス、とライブのステレオ感をイメージできるミックスになっていて、まるでその場にいるような臨場感があります。ミュージシャンやお客さんの熱気も伝わってくる名盤です。
Bass - John Patitucci
Drums - Brian Blade
Piano - Danilo Perez
Soprano Saxophone - Wayne Shorter
Tenor Saxophone - Wayne Shorter
01. Orbits
マイルス・デイヴィス時代のウェイン・ショーターの名作です。原作は『Miles Smile(1967)』に入っている軽快なスウィングで演奏される曲。本来はもっと長いテーマですが、『Without A Net』ではもっとも特徴的なオリジナルのメロディーだけを切りとって繰り返し繰り返し演奏しています。またオリジナルではHerbie Hancockは一切和音を弾いていないので、今まで誰もこの曲のコードを認知することできませんでしたが、今回この曲の新しい解釈が約40年ぶりに生まれました。
序盤、ピアノとベースよって低音でメロディーが演奏され、その合間を縫うようにショーターがソプラノサックスで縦横無尽に行き交います。その後ウェイン自身によってメロディーが演奏され、再解釈されたハーモニーやグルーヴが聞こえてきてきます。基本この4小節のメロディーとハーモニーの上で即興演奏が行われます。ピアニスト、ダニーロ・ペレスやジョン・パティトゥッチの言うところのComprovise(Comping=伴奏とImprovisation=即興)が終始行われ、曲が最高潮に達した3:52ほどでマイルス・ヴァージョンの最初のメロディーに到達して曲が終わります。
02. Starry Night
ダニーロ・ペレスの美しいイントロに誘われて、徐々に曲の基本となる4つのコード(B7alt, Ab2/C, D7alt, B2/Eb)が出現して、そこからはコードは繰り返されるにもかかわらずエンディングまでずっと音楽が上昇していきます。4つだけで登りきったところでコードが8種類に変化し(B7alt, Ab2/C, D7alt, B2/Eb, F7alt F#-b13, Ab7alt, A-b13)音楽の緊張感を高めクライマックスに突入します。
別ライブテイクも最高なので見てみてください。ウェインの表情、手の動き、目線などを見るとどのように音楽を受け取って楽しんでいるかみることができて感動します。僕が本当に憧れた音楽です。
03. S.S. Golden Mean
こちらもウェインのオリジナル曲。今までの楽曲とは変わって、ポップで少しWeather Report時代の雰囲気も感じられる曲になってると思います。ダニーロの素晴らしいcomproviseを聴くことができます。
04. Plaza Real
こちらもショーターのオリジナル曲で明るめのバラード曲です。とてもポップで美しいメロディーとビート感がとても聴きやすいです。あまり即興演奏に慣れ親しんだ人でない方にもお勧めしてウェインを好きになってもらえる一曲だと思います。
05. Myrrh
シンプルなモチーフをバンドが展開し、その上でウェインのソプラノが火を吹き続ける短くとも素晴らしいテイクです。
06. Pegasus
このアルバム一番の大曲で、僕自身もっとも愛する名曲です。イントロの付いた2部構成の曲で、ジャズ、クラシック、ロック、フュージョンの枠を超えた曲です。またcomprovise とアンサンブルの絶妙なバランスが過去にない作品になっています。
ダニーロのイントロから始まり、ジョンもそれに応えます。すると木管楽器の美しいサウンドが聞こえてきて、ああ、これは前の5曲とは違う世界観だと気づかせてくれます。
0:00-3:55までが前奏としてのパート、そしてそこから1部が始まります。いきなり基本となるリズムが提示され、パッションとともにで1部の幕が開けます。4:47からメインテーマが演奏されます。基本となるリズムにのって徐々にメインテーマも変化していきます。5:57からグルーヴが変化し、3連音符を主とするグルーヴに突如移行します。そしてウェインのソロに突入します。そこから徐々にエネルギーを加え続け、特に圧巻なのが7:10にはマイルスとショーターが演奏した「Walkin'」が一瞬顔を見せます。これにはブラインも「Oh my god」と叫んでしまいます。そこから一旦落ち着きを取り戻し、徐々にアンサンブルの時間に戻っていきます。8:22~は元々スコアに書かれているものと即興のバランスが素晴らしいです。Wayneもチャーリーパーカーの「NowThe Time」をこの上で吹き出したりジャズファンにはたまらないセクションです。9:30にウェインが次のセクションのテーマを吹き合図を出します。10:04にグルーヴが8-16部音符系に戻り、本格的にアンサンブルが主導権をにぎります。10:21からのモチーフはダニーロがよく過去の作品でも即興中提示してきたアイディアで何回か聞いたことがありました。それを今回具体的にウェインがアンサンブルで形にしました。このようにメンバーのフレーズや特徴をも自身の作品に取り入れてしまうウェインの能力は素晴らしいですね。
10:49からは一旦トリオによる、(おそらく)即興演奏の時間が続きます。徐々にその即興演奏が二部の基本リズムに近づいてきてウェインも入ってきて、そしてアンサンブルが入ってきます。音楽は徐々に緊張感を高め、18:06からは1部の最初のメロディーの再現に戻っていきます。再現と言っても全然違うのですけれど(笑)。再現が終わると19:37からは元のグルーヴを基盤にした新しいvampセクションに突入し、バンドとアンサンブルが入り乱れて音楽を高みに持って行きます。同じフレーズを繰り返し繰り返し演奏していく中で人は慣れていきますが、20:57に今までなかった音を1音だけ入れることで音楽がいっそうフレッシュな状態でクライマックスに突入します。そしてもう一度テーマの再現をして音楽は徐々にエンディングに向かいます。
07. Flying Down to Rio
こちらは1933年のミュージカルよりカバー。と言ってもほとんどオリジナルのメロディーは分からないほど再解釈されています。「Orbits」と同じく元々あるメロディーを伸ばしたり切り取ったりして一曲を表現しています。また同じフレーズを繰り返してグループで即興的に発展させられそうな箇所を彼らは「Window」と呼んでいました。オリジナルを聴いてみてそんな「Window」を発見するのもWayne Shorter Quintetの楽しい聴き方です。
08. Zero Gravity to the 10th Power
クレジット上はクインテット4人の作曲になっていましたが恐らく即興演奏でしょう。「ZeroGravity」=無重力はこのグループが表現している音楽のキーワードです。彼ら自身がこのグループの音楽や行なっていることを象徴している言葉であり、ウェインが生涯をかけてたどりついた音楽のコンセプトと言えるでしょう。
09. (The Notes) Unidentified Flying Objects
UFOとタイトルのついたこのトラックもおそらく即興演奏を切り取ったものでしょう。ウェインに、このアルバムについて聞いた時によく考えなさいと言われた言葉があります。「You gotta be identified to be unidentified, you gotta be unidentified to be identified. Think about that!(未確認になるためには確認されないといけない、認知されるには未確認でいないといけない。よく考えなさい。)」
最後のこの2曲は音楽には始まりもなく終わりもない。人生は続くというウェインのコンセプトがよく聞こえてきます。
それではまた次回。
文:曽根麻央 Mao Soné
Recommend Disc |
![]() Title : 『Without a Net』 【SONG LIST】 01.Orbits |
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・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』・2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』・2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』・2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』・2021.04『Something More / Buster Williams』・2021.05『Booker Little / Booker Little』・2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』・2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』・2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』・2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』・2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』・2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』・2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』・2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』・2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』・2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』・2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』・2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』・2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』・2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』・2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』・2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』・2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』 ・2022.12『The Revival / Cory Henry』・2023.1『Complete Communion / Don Cherry』・2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』
Reviewer information |
![]() 曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |