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曽根麻央 Monthly Disc Review2023.8_Kurt Rosenwinkel : Undercover Live at the Village Vanguard

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みなさんこんにちは、曽根麻央です。
今日は今年の6月にリリースされたばかり、ギター・ヒーロー、カート・ローゼンウィンケルの最新ライヴアルバムを紹介します。
しかもただのライヴ盤というだけでなく、ビル・エヴァンスやソニー・ロリンズのライヴ盤でもお馴染みのニューヨークのジャズの名店、ヴィレッジ・ヴァンガード収録されたということもあり、当時と今のライヴ録音技術の変化を感じられる一枚でもあります。

ヴィレッジ・ヴァンガードは当時から移転することなく続いているお店ですので、ビル・エヴァンス達と全く同じ箱で収録したライヴ盤になります。

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Title : 『Undercover Live at the Village Vanguard』
Artist : Kurt Rosenwinkel


【まるでスタジオ録音のようなライブアルバム】


エヴァンスの『Sunday at the Village Vanguard』は61年のレコーディングで、ピアノが右のスピーカー、ベースが左、ドラムが真ん中でパンが完全に分離されているにも関わらず一体感があるという今ではなかなか無いステレオ感のアルバムです。
客席の話し声やグラスの音がとてもアイコニックで、まるで自分がタイムスリップしてその場にいるような錯覚をいまだに感じさせてくれる生々しさと温かみのある名盤、名レコーディングです。
現代でも通じる高い集音技術がすでに確立されていたのでしょう。


一方、2023年のライヴ盤『Undercover Live at the Village Vanguard』はまるでスタジオ録音されたかのようなクリアな音質が特徴的です。
パンも完全に分離されておらず自然な感じでピアノが左方向、ベース&ギターが真ん中、ドラムが右方向となんとなく舞台のセッティングが自然にイメージできるパンになっています。
客席の音は非常に静かで音楽の邪魔にならない程度に歓声と拍手が聞こえます。


通常ドラムの音はピアノマイクやそのほかの楽器マイクにかぶっていくのですが、見事にクリアに分離しているように聞こえます。
録音エンジニアのマイキングとミュージシャンの音量コントロールの力量2つが合わさって見事に集音されていると思います。


演奏に関しては私はまず、ドラムのグレッグ・ハッチンソンの演奏スタイルの幅が以前に増して広がっていて素晴らしいと感じました。
グレッグの演奏スタイルはM2の「The Past Intact」のようなジェフ・テイン・ワッツの系譜でスウィングもののイメージが強かったのですが
M1「Cycle Five」や、M4「Our Secret World」、M6「Undercover」のようなイーヴン系、フージョン系のグルーヴの演奏も見事でした。
タムやスネアをミュートして作った音色もかっこよく、その音色がまたリアルに収録されています。


ピアノのアーロン・パークスは素晴らしいリズム感とアイディアでバンドの演奏に花を添えています。
『Nu Deco Ensemble+Aaron Parks: Live from Miami』というアルバムで以前アーロン・パークスは紹介しています
→曽根麻央 Monthly Disc Review2022.6
 
シンセサイザーの使い方も素晴らしく、M4「Our Secret World」では一見ローズに聴こえるような丸みのある、しかし瞬発力があり減衰速度が遅いパッド系の音色と、実際のフェンダーローズの音をうまく組み合わせることで独特なカラーを演奏に与えています。


M1「Cycle Five」M6「Undercover」ではリードシンセでソロを取りながら、ピアノorフェンダーローズでコンピングするプレイも聴くことができます。


ベースのエリック・リーヴスも名手として有名です。
今回はソロをM5「MUSIC」で披露しています。
ブランフォード・マルサリスのバンドに参加している馬力の強いベーシストというイメージが強いと思います。
力強さと、サステインの長さのある素晴らしいベーシストです。このアルバムでも完璧なサポートを披露しています。
特に、M5「MUSIC」では繊細なタッチも見せてくれていて、この人もまた表現の幅の広いアーティストです。


カート・ローゼンウィンケルは素晴らしいテクニックと、おそらく我々世代のギターリストが必ず影響を受けたことがあるだろう独特な音色作りで、独自の世界観をライヴでも完璧に再現しています。
以前よりも音色に広がりとシンセ感がより強くなったかなという印象がありました。
しかしそれでいて生楽器の証でもあるピックの音も綺麗に収録されていて、ギターヒーローの現在を見事に感じることのできる一枚です。


またアーロン・パークスとカート・ローゼンウィンケルの二人の相性も良く、コード楽器が二人いるのにも関わらず、両者の居場所がはっきりしていて、演奏上のチームワークも素晴らしいです。
バンドの完成度が高く、録音技術だけでなく、演奏技術としてもまるでスタジオ録音のような完璧な演奏作品を残してくれました。


全曲カートのオリジナル曲で、今やりたいことを正直に作ったアルバムなんだろうなと感じました。
メンバーも良い具合に力が抜けていて、僕ら世代のジャズ・アイドル達もどんどん進化しているようです。
私も頑張ろうと思わせてくれた作品でした!


ちなみにCDや配信だけでなく、なんとVinylでも発売されているようなので、興味がある方は是非検索してみてください!



文:曽根麻央 Mao Soné




Recommend Disc

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Title :『Undercover Live at the Village Vanguard』
Artist : Kurt Rosenwinkel
LABEL : MOCLOUD RECORDS
発売年 : 2023年



アマゾン詳細ページへ


【SONG LIST】

01.CYCLE FIVE
02.THE PAST INTACT
03.SOL?
04.OUR SECRET WORLD
05.MUSIC
06.UNDERCOVER



来月9/6(水)発売!曽根麻央『プレイズ・スタンダード』

新たに新譜を出します!ジャズスタンダードとピアノ中心の世界をお楽しみください!

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トランペット/ピアノの"ジャズ二刀流"として話題の曽根麻央がソロピアノで紡ぐスタンダードソング集が全国発売決定!
往年のジャズの名曲をフレッシュな感性で解釈。
抒情性と気品に彩られた曽根のジャズ・ミュージシャン、ピアニストとしてのアティテュードが表現されている作品に仕上がった。

曽根麻央『プレイズ・スタンダード』
9/6(水)発売
 
1.Reflections in D
2.Serenade
3.In Your Own Sweet Way
4.The Star-Crossed Lovers
5.Wave
6.Stella by Starlight
7.All The Things You Are
8.Luminous (Piano Solo Ver.)
9.I Loves You, Porgy
10.Lady Luck11.Danny Boy
12.Home (Piano Solo Ver.)
13.Some Other Time
14.Ask Me Now
15.The Days of Wine And Roses
16.What A Wonderful World

Mao Soné (piano, trumpet)


曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ

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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』2023.1『Complete Communion / Don Cherry』2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』2023.6『Covers / James Blake』2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』



Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

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