みなさんこんにちは、マルチインストゥルメンタリストの曽根麻央です。
今日は日本を代表するジャズ・シンガー、中本マリさんのアルバムをご紹介しようと思います。
今、世界的に空前のブームとなっているシティー・ポップ。その流れを組みつつも全曲英語のオリジナルで勝負したマリさんの81年の意欲作『Lady In Love』をご紹介しようと思います。
時代を超えて、ジャンルを超えて支持される名盤だと思います。
Title : 『LADY IN LOVE』
Artist : 中本マリ
実は私は個人的にマリさんとご縁があり、マリさんのピアノ奏者、アレンジャーとして去年から仕事をご一緒にするようになりました。その中でマリさんが今までオリジナルの曲をもう何十年と歌っていないし譜面も消失してないのだけれど、僕ともう一度再構築してライブで歌ってみたいと言っていただきました。
そして改めて譜面を書き起こすために音源を探していてこのアルバムに出会いました。全ての楽曲の完成度の高さ、アレンジの良さ、そして音の良さに驚愕し、こんな素晴らしいアルバムが日本発であったのかと驚愕しました。
ソングライターにはRoberta Flackの音楽監督を勤めたことでも有名なBarry Milesを主に迎え、リズムセクションにもAbraham Laborielなど強力なミュージシャンを集めたアルバムになっています。
またBarry Milesのシンセサイザーがストリングスと上手に絡まり、まるでオーケストラの一因のようなアンサンブルの役割を果たす箇所も多くあり斬新です。楽器の構成も様々な楽器がミックスされていて奥深い作品です。
オーケストラやバンドの厚みを超えてこちらに飛んでくるマリさんの歌唱も素晴らしいレベルで収録されており、聴く人を圧巻させます。ミックスなどの音作りも最高な一枚です。
Vocal - Mari Nakamoto
Drums - Alex Acuña
Electric Bass - Abraham Laboriel
Electric Guitar - Michael Sembello
Percussion - Steve Forman
Piano, Synthesizer [Mini Moog] - Barry Miles
Guitar - Tim May
Tenor Saxophone - Gary Herbig
Flute - Arthur Hoberman, Gary Herbig, Susan Stockhammer
French Horn - Henry Sigismonti
Harp - Gayle Levant
Percussion - Steve Forman
01. Sing Our Song Together
マツダのCMにもなった曲なのでお耳馴染みの方も多いでしょう。
Barry Milesの書いた美しいバラード曲でアルバムの幕が開けます。マリさんの抜ける歌声で聴く人を魅了します。マリさんの歌はリズムが正確で心地よいのが特徴で、曲のアプローチに対する努力や研究が伺えます。本人がお話しされた時にこれらの曲は全て初演になるのでデモがあったわけでもなく、ただただ譜面と向き合って曲を覚えて歌い方を工夫していったそうです。また録音も当時は一発録りが主流ですのでこのアルバムも例に漏れず「イッセーの」で録っているわけです。ですからマリさんや参加しているスタジオ・ミュージシャンの集中力は想像を絶するものと思います。
Barry Milesのシンセソロも抑揚と歌心があり聞き応えが満点です。
02. The Lady's In Love
アルバムのタイトルソングです。ラテン/フュージョンの曲でいろんなテイストが入っています。マリさんの代表曲の一つでライブでもいまだに人気が高い曲です。
Aセクションはシンプルな雰囲気のあるメロディーですが、Bセクションは細かく転調し、その構成はとても見事です。
途中マリさんとBarry Milesのスキャットとシンセユニゾンが曲にユニークなカラーを与えています。
03. You Gave To Me
Barry Milesの書いたバラード曲。他の曲よりもオーケストレーションが豪華に聞こえる作品です。
04. Loved You So Long
斬新でモダンなコード進行が特徴の一曲。斬新だけれどコード進行が非常に美しいのもBarry Milesの作品の特徴ですね。今聴いても古さを感じさせないセンスが素晴らしいと思います。
05. Benjamin
こちらは作家が変わりDon Grusinの曲になっています。繊細なニュアンスとピッチ感が求められるバラード曲だと思います。マリさんの幅広いレンジとハスキーな歌声を堪能できる一曲になっています。
06. Oops!
こちらもDon Grusinの書いたポップでファンキーな曲。技巧的なイントロにはっとさせられます。珍しい構成の曲で1回目のAが8小節、2回目のAが9小節、Bが9小節、Cが5+7小節で展開されています。独特の構成美で聴く人を魅了します。
07. We're Gonna Make Love Tonight
ここから再びBarry Milesの作品に戻ります。繰り返し演奏されるリフとメロディーが聴く人を自然と踊らせる曲です。
08. Don't Be Afraid Of Love
美しいバラード曲。AABAのシンプルな構成です。特にBからAに戻る瞬間のマリさんの歌声には感動してしまいます。マリさんの歌唱力を思い知らされる一曲になっています。
09. Is This The End?
美しいワルツの曲。繰り返される転調でカラーがコロコロと変わりますが美しく解決する見事なコード進行と流れる美しいメロディーが特徴の曲です。オーケストレーションもクラシカルで映画音楽のようです。
マリさんはもう10年近く新譜を出されていませんが、今も現役で人々に感動を与えています。今後のライブ活動やアルバム制作にも期待が寄せられているアーティストです。是非聴いてみてください。
それではまた次回。
文:曽根麻央 Mao Soné
Recommend Disc |
Title : 『LADY IN LOVE』 【SONG LIST】 01.Sing Our Song Together |
【曽根麻央LIVE INFO】
4/20 (thu.) Peter Center Stage supported by Blue Note Tokyo
The Peninsula Tokyo (日比谷)
Member: 曽根麻央 (pf)
・19:00-, 19:50-, 20:40- (各20分)
・東京都千代田区有楽町1-8-1
・ご予約はこちら/Reservations
5/3 (wed.) 高槻城公園芸術文化劇場 南館 太陽ファルマテックホール
Member: 曽根麻央(pf)
・高槻市野見町6番8号
・時間: 7pm~
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・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』・2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』・2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』・2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』・2021.04『Something More / Buster Williams』・2021.05『Booker Little / Booker Little』・2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』・2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』・2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』・2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』・2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』・2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』・2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』・2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』・2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』・2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』・2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』・2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』・2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』・2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』・2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』・2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』・2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』 ・2022.12『The Revival / Cory Henry』・2023.1『Complete Communion / Don Cherry』 ・2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』・2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』
Reviewer information |
曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |