皆さんこんにちは。曽根麻央です。
今日はLee KonitzとBrad Mehldau、Charlie Hadenの3人の名手が1996年にライブレコーディングした作品を紹介したいと思います。
リリースは1997年にブルーノートから出ていますので、この作品は知っている音楽ファンの方も多いのではと思います。
その前に2つ宣伝させてください。
昨年リリースしたソロアルバム『PLAYS STANDARDS』
そのリリースライブからライヴレコーディングしたものが月末に配信開始になります。
3曲のメドレーとしての配信です。
・Reflections in D / Serenade / Wave (LIVE at Keyaki No Hall)
https://ultravybe.lnk.to/liveatkeyakinohall
7/30の20時にYouTubenで先行配信、そして7/31にはApple Music、8/6にはU-NEXTとと続々と配信します。お楽しみに!
そして、昨年プロデュースして好評いただいた作品『CITY POP RENDEZ-VOUS』の続編作品として、7インチアナログ盤『中央フリーウェイ/MUSIC BOOK』が8/3に発売されます。
・中央フリーウェイ/MUSIC BOOK
https://ultravybe.lnk.to/OTS-356
前作に引き続きAiriをヴォーカルに、私がピアノとトランペットはもちろん全ての楽器とアレンジ、ミックスを担当しました。
是非、アナログのサウンドで聴いてみてください。
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Title : 『Alone Together』
Artist : Lee Konitz, Brad Mehldau, Charlie Haden
さて今日お話しする『ALONE TOGETHER』というアルバムは3人の偉大なミュージシャンによってライヴ・レコーディングされました。
各トラックが長い作品になりますが、ジャズのスタンダードというプロ、アマチュア、ジャズファンと幅広い層に伝わる共通のテーマを、3人の名手が自由に解釈を広げていくこの作品は必聴盤と言えるでしょう。
コニッツが27年生まれ、ヘイデンが37年、メルドーが70年生まれと、ある意味3-4世代にわたる名手のコラボレーションで、それぞれが各々の特徴的なスタイルやサウンドを音楽史に刻んだ(メルドーに関しては今もなお刻み続けている)存在というのも覚えておきたい。
それぞれのスタイルがあまりにユニークで、そして主張がある。
しかしそれでいて共存できるジャズという音楽の多様性にも改めて注目したい。
また3人とも各々の楽器において最も美しい音を出せる奏者でもあります。
コニッツの優しく浮遊感があり、まるで話しているかのようなニュアンスのサックス、メルドーのタッチ、そしてヘイデンのぎっしりとコアが詰まったベース音、その3つがこの作品では音楽で会話をしています。
全体を通して音楽の要になっているのがヘイデンのベースラインです。
スウィングの曲でもほぼ4部音符を奏でることなく、ハーモニーで重要な音程を、ダウンビートなどリズムで重要な拍をしっかりと弾いています。
通常ジャズのベーシストはウォーキング・ベースといって1小節に4部音符を埋めることでビートとハーモニーを奏でるものです。
しかし、ヘイデンはこれをほとんどこのアルバムでしていません。おそらく、4部音符でこのアンサンブルに参加してしまうと、ビートをしっかりとロックしてしまい、尚且つハーモニーの方向性も明確に示すことになるので、メルドーやコニッツの自由を奪ってしまうのでしょう。
ヘイデンは、全音符や2部音符、付点4部音符などの通常より長めの音価を演奏することにより、他の二人に自由を与えながら、リズムの大枠の要になるダウンビートをしっかり抑え、アンサンブルが崩壊しないように支えていると思います。
なので3曲目のCherokeeのメルドーのソロの後ろで1コーラスだけウォーキング・ベースが登場した時には、その効果は絶大で、スウィングの持つ牽引力を音楽に与えて、通常だったら音楽が進行する上でずっと聞かされるサウンドであるはずのこのウォーキング・ベースを、まるでアクセントのように聴き手に錯覚させるほどです。
そのヘイデンのベースの上で、コニッツがストーリーを語っています。
コニッツは20年代生まれなので、それこそチャーリー・パーカー世代になります。音色としては「Take Five」を録音したポール・デスモンドやアート・ペッパーに近いと言えるかもしれません。
コニッツはビバップやクールジャズ、アヴァンギャルドと時代と共に幅広い音楽性を展開していています。そしてその独特の表現はピアニストのレニー・トリスターノとの作品でも多く聞くことができます。
トリスターノとコニッツは当時では(今でも)かなりユニークなリズムのアクセントやグルーピングを使ってメロディーやアドリブを展開していていました。
アルバムに参加しているメルドーもその影響は受けているはずです。
コニッツのサウンドを先ほど「浮遊館のある」と表現しましたが、しかしそれは圧倒的なリズム感があるからこそ成り立っています。
メルドーもそうです。コニッツに触発されたように、またヘイデンの強力なサポートもあり、ここではリズムをきちんとわかりやすく出すという一般的なジャズピアノの仕事からは解放されていて、伴奏ではコニッツに寄り添って一緒に世界を作るように演奏しています。
ソロではより一層、クラシカルな表現で左手と右手がバラバラのメロディーを演奏する対位法のようなものも用いつつ、和音の解釈も全然違うものに変えながら独自の世界を表現しています。
これはヘイデンが圧倒的にサポートに徹しているからこそできるのです。
すぐ他人のアイディアについてくるベーシストだと、ソリストはアイディアを自由に展開できなくなるのでジャズのアンサンブルにおいてそのバランスは非常に重要です。
ソリストもサポートする側も「Lead&Follow」の関係にいつもあってそのバランスの良い人がアンサンブルできる人といえます。
このアルバムはドラムがいない=音の情報量の少ない特殊な組み合わせで展開されるので、リズムやハーモニーの展開がより明確に聴こえ、ジャズ奏者のコミュニケーションを聴衆が体験しやすいアルバムになっていると思います。ぜひ聴いてみてください。
文:曽根麻央 Mao Soné
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・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』・2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』・2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』・2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』・2021.04『Something More / Buster Williams』・2021.05『Booker Little / Booker Little』・2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』・2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』・2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』・2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』・2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』・2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』・2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』・2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』・2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』・2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』・2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』・2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』・2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』・2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』・2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』・2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』・2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』 ・2022.12『The Revival / Cory Henry』・2023.1『Complete Communion / Don Cherry』・2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』・2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』・2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』・2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』・2023.6『Covers / James Blake』・2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』・2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』・2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』・2023.10『MAINS / J3PO』・2023.11『Knower Forever / Knower』・2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』・2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』・2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』・2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』・2024.04『Voyager / Moonchild』2024.05『Evidence with Don Cherry / Steve Lacy』・2024.06『Quietude / Eliane Elias』
Reviewer information |
曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |