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曽根麻央 Monthly Disc Review2024.02_Lara Downes : Rhapsody in Blue Reimagined

みなさんこんにちは、ジャズ二刀流ことマルチインストゥルメンタリストの曽根麻央です。

今日はみなさんに、ガーシュウィンの初演100年を記念して今年発表された『Rhapsody in Blue Reimagined』というデジタルリリースのアルバムを紹介します。
ジョージ・ガーシュウィンが当時のアメリカ社会を映し出す作品として完成させた「Rhapsody in Blue」。
1924年にポール・ホワイトマン・オーケストラと自身のピアノのためのジャズ協奏曲としてガーシュウィン自身が初演して以来、世界各国で愛されてきた名曲を、100年を記念して、2024年を生きるアーティストたちがどのようにReimagined=再解釈したのか見ていきたいと思います。
聴くだけでまるで世界旅行をしたかのような作品作りに驚くでしょう。

その前に宣伝です。
4月は福岡にソロで二ヶ所伺います!
ソロアルバム『プレイズ・スタンダード』のリリースライブです。
お近くの方はぜひきてください!詳しくはウェブサイトで!


4/12 (Fri) border -live music & drinks- <福岡>
Mao Sone "Plays Standards" CDリリースライブ in 福岡
Artist: Mao Sone (piano & trumpet)
open 18:30 / start 19:30
【料金】
全席自由 4,000円(税込)※当日は+500円(ご飲食代別※要2オーダー制)
【border 電話予約】
TEL: 092-406-8448 <16:00~22:00(月曜定休日)>


4/13 (Sat) 音楽館Twilight<北九州>
Mao Sone "Plays Standards" CDリリースライブ in 北九州
Artist: Mao Sone (piano & trumpet)
18:30 開場|19:00 開演
【チケット】
前売 ¥3,000 | 当日 ¥3,500
【お問い合わせ】
Office ミスマル 080-6467-1115 または 080-5256-6971
【会場】
〒803-0841 福岡県北九州市小倉北区清水2-10-15 2F
TEL: 093-562-2311 (マックスオーディオ小倉店2F)

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Title : 『Rhapsody in Blue Reimagined』
Artist : Lara Downes


ジョージ・ガーシュウィンは言わずと知れたアメリカを代表する偉大な作曲家で、ジャズスタンダードとなった数多くのミュージカル・ソングだけでなく、アメリカ・クラシックの代表的な作品をいくつも残した人です。すでにブロードウェイの人気のミュージカル作家であったガーシュウィンが、世界的な一流作曲家の仲間入りを果たすきっかけとなった作品がこの「Rhapsody in Blue」です。
ガーシュウィン自身が「巨大なるつぼ = アメリカを写す万華鏡のような音楽」と評したこの作品。
1924年に当時オーケストラを率いていて有名なバンドリーダーであったポール・ホワイトマンのジャズ・コンチェルトを書いて欲しいという依頼から始まりました。期限は5週間。ガーシュウィンはそれまでそのような音楽を書いたことがなく最初は困惑しましたが、ラッキーなことにインスピレーションがすぐ降りてきて、ガーシュウィンは2台ピアノのアレンジでこの作品を書きました。そしてファーディ・グローフェというホワイトマンの専属アレンジャーによってあの有名な、みんなが耳にするオーケストラバージョンに仕立て上げられました。


さて今回の『Rhapsody in Blue Reimagined』は、当時の人種や文化のるつぼ=アメリカを投影した「Rhapsody in Blue 」を、初演100年を記念し、改めて2024年を生きるピアニスト Lara Downesと、サックス奏者でありアレンジャーのEdmar Colonが再解釈をしたプロジェクトです。


Lara Downesはアメリカのアフリカ系女性クラシック・ピアニストとして活躍しているだけでなく、社会活動化として女性やアフリカ系の作品に焦点を当てる活動もしています。
今回の作品では流暢なクラシカルなテクニックや表現だけでなく、アフリカ的なリズム、ラテン的な情熱、またアジア的な表現も必要な作品ですので、彼女のさまざまな文化への理解の深さが表れています。インタビューを聞く限りではジャマイカ系の家族の出身だそうです。


Edmar Colonはプエルトリコ出身のジャズ・サックス奏者として世界的に活躍するだけでなく、エスペランザ・スパルディングのグラミー賞受賞作品『12 Little Spells』やテリ・リン・キャリントンのアルバム『Waiting Game』でもオーケストラのアレンジを務めたり、ボストン・ポップスや、DCのナショナル・オーケストラに委嘱作品を提供するなど、作曲家としても幅広く活躍しています。
私、曽根麻央とは実は、16歳の時からの親友で、いまだに月に30-40分は電話をする仲です。お互いの実家に何度も行ったことがあります。数多くのステージも一緒に演奏してきました。


現在私たちは、100年前とは形は違うけれども、さまざまな社会問題の中に生きています。『Rhapsody in Blue Reimagined』ではそんな現在の社会を投影するかのように再構築されました。


1. Rhapsody in Blue





有名なクラリネットのトリルが聴こえるかと思えば、ここではグリッサンドで駆け上がらずに、全く新しいイントロがこのReimaginedの世界に連れて行ってくれます。長3和音が短3度で降りてくる、ジョン・ウィリアムズのような、ウェイン・ショーターのような世界観で幕を開けます。
ガーシュウィンは「Rhapsody in Blue」ではドミナント7コードと短3度で動かすことで独特のブルージーな雰囲気を作り出していますが、7度の音がなくなるだけでとても斬新な響きになります。
>もう一度トリルがあらゆる楽器から聴こえてくると、ようやくみんなが知るイントロが、しかしオープニングの世界観を残すオリジナルのイントロが展開されます。

ピアノが登場してからしばらくは原曲の再現を行いますが、すぐに中東の雰囲気を予感させるモチーフも登場し始めます。
有名なピアノのフレーズでは同時にボンゴが登場し、ラテンアメリカの音楽が少しずつ顔を見せます。その後ゆったりとしたソンのリズムが現れ、ダニーロ・ペレスやダヴィ・サンチェスのような現代のラテンジャズのセクションが登場します。その上でウェイン・ショーターのオーケストラ作品のような細やかなフレーズが登場し始めます。と思うとリズムは急にさっていき、徐々に次の世界へと向かいます。

ピアノの原曲パートをインタルードとしてを挟み、そのあとは中東の世界観へ一気に観客を連れていきます。

そのあともう一度舞台はラテンジャズに戻ります。繰り返されるベースラインとグルーヴが特徴的です。マイケル・ブレッカーの『Wild Angle』を思わせる曲想が聴こえてきます。

その後、アレンジャーであるEdmar Colonのソプラノ・サックスソロに移ります。
彼のソロはウェイン・ショーター的でありながら、音色やフレーズは私とColonの共通の師である、デイヴ・リーブマンを思わせてくれます。彼のソロで一旦曲は第一クライマックスを迎えます。
と同時にキューバのリズムLulabancheが演奏されます。その上で西洋的なマーチのようなリズムが重なり原曲のモチーフが演奏されます。そのモチーフはさらに複雑なハーモニーへ誘導します。原曲の減5度のピアノフレーズも聞こえてきます。原曲のピアノ譜をもとに展開させた見事なアレンジです。さらに原曲にもある短3度の音形も入れつつ音楽を展開します。

そしてまた一つの区切りがくると原曲のピアノソロに入ります。
このト調のピアノソロの部分は、原曲の中でもピアノの聴かせどころなので、そのままというのは原曲ファンとしてもとても嬉しいですね。そのパートもところどころ中東の鼓笛隊が顔を出します。

そしてピアノパートを終えると通常であれば有名なホ調のバラードのテーマですが、なんと中国の1弦ヴァイオリンと琴によって奏でられる大胆なアレンジになっています。
そのあとに続く原曲オーケストラによる、ホ調のメロディーの提示部にも中国のサウンドがプラスされることで、この曲の新たな魅力と世界観を追加してくれています。

その後の原曲中最も難関と言われるピアノのリズミカルなパートは、Edmarの故郷であるプエルトリコ南部のリズムPlenaになっています。そのままPlenaのリズムの上でPlenaのリズムを奏でながら登場するEdmarのソプラノサックスソロがあります。そのモチーフをフルートが引き継ぎ音楽を原曲に引き戻します。そして音楽は一気に最終局面に向かいます。
原曲に忠実にありつつ独自のハーモニーとPlenaやプエルトリコのもう一つのリズム、Bombaのリズムが加わります。
そして、フィナーレでは原曲と、このバージョンのイントロをの再現を見事に合体させ、クライマックスを迎えます。


2. Study in Blue

これはショパンの夜想曲とガーシュウィンのラプソディーを掛け合わせてアレンジしなおしたものでLara DownesとEdmar Colonのデュオとなっています。
ショパンとガーシュウィンが混じり合う繋ぎのぶぶんはまるでモリコーネの映画音楽のようでとても美しいのでぜひ聴いてみてください。


それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title :『Rhapsody in Blue Reimagined』
Artist : Lara Downes
LABEL : Pentatone
発売年 : 2024年



【SONG LIST】

01.Rhapsody in Blue (arr. Edmar Colón)
02.Study in Blue (arr. Edmar Colón)
03.Commentary Track



曽根麻央『プレイズ・スタンダード』

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トランペット/ピアノの"ジャズ二刀流"として話題の曽根麻央がソロピアノで紡ぐスタンダードソング集が全国発売決定!
往年のジャズの名曲をフレッシュな感性で解釈。
抒情性と気品に彩られた曽根のジャズ・ミュージシャン、ピアニストとしてのアティテュードが表現されている作品に仕上がった。


曽根麻央『プレイズ・スタンダード』


1.Reflections in D
2.Serenade
3.In Your Own Sweet Way
4.The Star-Crossed Lovers
5.Wave
6.Stella by Starlight
7.All The Things You Are
8.Luminous (Piano Solo Ver.)
9.I Loves You, Porgy
10.Lady Luck11.Danny Boy
12.Home (Piano Solo Ver.)
13.Some Other Time
14.Ask Me Now
15.The Days of Wine And Roses
16.What A Wonderful World

Mao Soné (piano, trumpet)


曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ

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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』2023.1『Complete Communion / Don Cherry』2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』2023.6『Covers / James Blake』2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』2023.10『MAINS / J3PO』2023.11『Knower Forever / Knower』2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』

Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

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