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曽根麻央 Monthly Disc Review2024.03_Jacob Collier : Djesse Vol. 4

みなさんこんにちは。ジャズ二刀流ことマルチインストゥルメンタリストの曽根麻央です。
今日は、つい先月末にリリースされたばかりのジェイコブ・コリアーの超大作アルバム
『Djesse Vol. 4』をみなさんにご紹介できることが本当に嬉しいです。

私の肌感からして恐らく音楽史においても最高傑作の一つになってしまったのではないかと思っています。本当に興奮を抑えることができません。彼と同じ時代に生きれたこと、その世界観を見ることができたのに感謝しているぐらいです。
ジェイコブ自身もアーティストとして、一人の人間がコントロールできる範囲を大幅に超えて、現時点での最高地点に到達したと感じました。
また、ジャンルや国境を超えた作品としてもかつてない広大なアプローチを展開しています。


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Title : 『Djesse Vol. 4』
Artist : Jacob Collier


Djesseシリーズは今作で4作品目、そして最終作ということらしいですが、私は自身これまでジェイコブのアルバムはノーマークでしたので、この作品が出会いとなりました。もちろんYouTubeなどでこの素晴らしい存在がいることは十分承知していたのですが、「天才すぎる」音楽故に敬遠していた部分があったのかもしれません。
この作品においても素晴らしい15曲と1曲のカバーアレンジを生み出しただけでなく、ボーカリスト、マルチインストゥルメンタリスト、アレンジャー、録音エンジニア、プロデューサー、そしてミックスエンジニアとしての多彩な才能を見せてくれています。

作品の特徴としてはほぼ全ての楽曲にフィチャーリング・アーティストがいて、その一人一人(またはグループ)のキャラクターが最も引き立つ形で曲が書かれています。
その中でも最も特徴的だったのは「Over You」でした。
この曲では、フィーチャーリングアーティストであるChris Martinが歌う場所ではゴスペル、Aespaという人気K-Popユニットが登場する場面ではK-Popらしいサウンドとなっていて、その変化と多様な音楽への理解は常識を超えています。

またプロデューサー、トラックメーカーとしてのジェイコブの実力も見事で、全体を通して最高のMixを体感できると思います。
低音から高音まで全ての場面で整頓されていて、不必要な音が何一つない状態が常にキープされています。
また楽器の音だけでなくレンガが転がる音や、映画の予告編で使われるような音、ガラスの割れる音など、そういったインパクトを拾ってきてはミックスで上手に使っていて、聴き手を飽きさせることがありません。

シンプルに作曲家、ソングライターとしても素晴らしく、名曲となるであろう曲が何曲も量産されています。ジャズのインストで演奏しても良さそうです。



M1. 100,000 Voices
これはOverture的な存在でさまざまな音楽や環境音、そしてAudience Choirなどが混ざり合いここから始まる広大な世界を提示してくれます。



M2. She Put Sunshine
先ほどのM1から続けて登場するこの曲は少しボリュームはダウンするチルなポップソング。最後の1分で誰にも気づかれないように一度半音上に転調し、最後にまるでDJがレコードの回転速度を下げて遅くしたかのような転調をするのが見事なアレンジとなっています。



M3. Little Blue
美しいバラード曲。静けさの中に時折聞こえる低音のエフェクトが美しく、ジェイコブのこういった音色のチョイスのセンスが光る作品です。



M4. WELLLL
少し、QueenやBeatlesを彷彿とさせるハードロックでコーラスが美しい曲。



M5. Cinnamom Crush
特徴的な音色で始まり終始それがバックグラウンドのように曲の後ろで鳴り続ける面白いサウンドの曲。インタビューでは最初の効果音はレンガがぶつかる音をインターネットで見つけてミックスに入れたといっていました。 



M6. Wherever I Go
Wurlitzer という特徴的な電気ピアノの音でスタートするR&B調の曲。ホーンのアレンジが際立つ作品の一つ。 



M7. Summer Rain
見事なバラード曲です。本来であれば禁じ手とも言えるようなハーモニーを重ねていルバ面もあるのですが、それが緊張を高め、この曲から観客を飽きさせない、アテンションを逃さない素晴らしいスパイスになっています。



M8. A Rock Somewhere
こちらはシタールをフィーチャーした珍しい曲。M7から流れが繋がっていて構成も美しいです。



M9. Mi Corazón
ラテンポップ調の曲。コーラスの間をシンセベースが縫ってベースライン構築してるのですが、こういったディテールも聞いていきたい名曲です。



M10. Witness Me
ゴスペルのような雰囲気を纏った曲。ラップのフィーチャリングもあります。



M11. Never Gonna Be Alone
ジョン・メイヤーをギターソロに迎えた作品。



M12. Bridge Water Troubled Water
唯一のカヴァー曲。至上のコーラスアレンジと、低音から高音まで駆使するジェイコブのコーラス隊に乗っかって、にJohn LedgenとTori Kellyという最高の歌声をフィーチャーしています。



M13. Over You
K-popやR&Bといった世界の音楽のニュアンスを取り入れた、新しい形のワールドミュージックです。



M14-15 Box of Stars Pt. 1 & 2
こちらもワールドミュージックのコラージュのような楽曲になっています。M1で使われた音なども登場するのでストーリー性を感じることもできます。ゴスペル、サンバ、モロッコ、キューバ、ロック、ミドルイースト、インド、レゲトン、EDM、クラシカル、ラップなどの音楽がコラージュされています。




M16. World O World
一曲を通してコーラスのみで構成されていて、古典の讃美歌のようで、しかしハーモニーのセンスは常識を覆すもので、それがスパイスとして人間の耳の栄養となることをあらためて証明してくれる曲です。クラシカル的な讃美歌っぽい曲なのかなと思いきや、ゴスペル風の歌い方も登場し、ジェイコブの独特の歌の世界へと聴衆を引き入れます。



それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title :『Djesse Vol. 4』
Artist : Jacob Collier
LABEL : DECCA
発売年 : 2024年





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【SONG LIST】

01.100,000 Voices
02.She Put Sunshine
03.Little Blue (feat. Brandi Carlile)
04.WELLLL
05.Cinnamon Crush (feat. Lindsey Lomis)
06.Wherever I Go (feat. Lawrence & Michael McDonald)
07.Summer Rain (feat. Maddison Cunningham & Chris Thile)
08.A Rock Somewhere (feat. Anoushka Shankar & Varijashree Venugopal)
09.Mi Corazón (feat. Camilo)
10.Witness Me (feat. Shawn Mendes, Stormzy & Kirk Franklin)
11.Never Gonna Be Alone (feat. Lizzy McAlpine & John Mayer)
12.Bridge Over Troubled Water (feat. John Legend & Tori Kelly)
13.Over You (feat. aespa & Chris Marin)
14.Box Of Stars Pt. 1 (feat. Kirk Franklin, CHIKA, D Smoke, Sho Madjozi, Yelle & Kanyi Mavi)
15.Box Of Stars Pt. 2 (feat. Metropole Orkest, Suzie Collier, Steve Vai & VOCES8)
16.World O World



曽根麻央『プレイズ・スタンダード』

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トランペット/ピアノの"ジャズ二刀流"として話題の曽根麻央がソロピアノで紡ぐスタンダードソング集が全国発売決定!
往年のジャズの名曲をフレッシュな感性で解釈。
抒情性と気品に彩られた曽根のジャズ・ミュージシャン、ピアニストとしてのアティテュードが表現されている作品に仕上がった。


曽根麻央『プレイズ・スタンダード』


1.Reflections in D
2.Serenade
3.In Your Own Sweet Way
4.The Star-Crossed Lovers
5.Wave
6.Stella by Starlight
7.All The Things You Are
8.Luminous (Piano Solo Ver.)
9.I Loves You, Porgy
10.Lady Luck11.Danny Boy
12.Home (Piano Solo Ver.)
13.Some Other Time
14.Ask Me Now
15.The Days of Wine And Roses
16.What A Wonderful World

Mao Soné (piano, trumpet)


曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ

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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』2023.1『Complete Communion / Don Cherry』2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』2023.6『Covers / James Blake』2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』2023.10『MAINS / J3PO』2023.11『Knower Forever / Knower』2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』

Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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