みなさんこんにちは、曽根麻央です。
実は今月、人生で初めてタンゴというジャンルを、これまた初めて共演する楽器のバンドネオン奏者・三浦一馬さんのグループで演奏する機会がありました。
本当に勉強になりましたし、メロディーは途中で感情溢れて泣きそうになるほど美しく情熱あふれる旋律で、、、大変素晴らしい経験になりました。
この仕事をいただいた時に、そういえば昔ヘビロテしていたタンゴのCDがあったなと思い出し、今回のチャレンジの勉強のために、演目とは全く違うのですが、改めて聴いてみた素晴らしいアルバムがあります。
今日はそのアルバムをご紹介したいなと思います。
その前に一つ宣伝です。
昨年リリースしたアルバム『PLAYS STANDARDS』のリリースコンサートから3曲、ライブ版を映像でリリースしました。
是非見てみてください!
Reflections in D / Serenade / Wave (LIVE at Keyaki No Hall) - Mao Sone
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Title : 『The Rough Dancer And The Cyclical Night (Tango Apasionado)』
Artist : Astor Piazzolla
さて今回紹介するのは、『The Rough Dancer and the Cyclical Night (Tango Apasionado) 』という、タンゴにジャズやクラシックの要素をふんだんに取り入れた Nuevo Tango=新しいタンゴ の生みの親でもあるアストラ・ピアソラのアルバムを紹介します。
バンドネオン奏者、作曲家のアストラ・ピアソラはアルゼンチン生まれですが、4歳から15歳まではアメリカのニューヨークで過ごしたそうで、ジャズもたくさん聴いていたようです。
この頃のジャズ、1925-35ぐらいですかね、といえば、ルイ・アームストロングの26年の「Heebie Jeebies」、28年の「West End Blues」などのヒット・ソングがあります。
デューク・エリントンも「Mood Indigo」(1930)、「Don't Mean A Thing」(1932)、「Sophisticated Lady」(1933)、「Solitude"」(1934)、「In a Sentimental Mood」(1935)などのジャズの名曲を次々と生み出した時期でもあります。
その後アルゼンチンに移住し、ピアソラはタンゴに興味を持ちました。そしてパリに留学するなどしてクラシック音楽の理論なども勉強した様です。
現在ではピアソラの音楽はクラシックの音楽家に取り扱われることが多いので、根本的にラテンやジャズの音楽というよりは、クラシックのように決め事の多い音楽といえます。
ピアソラは自身の有名な五重奏を結成すると、バンドネオン、ヴァイオリン、ピアノ、コントラバス、エレキギターという変わった編成で演奏活動の軸を定めることになります。
エレキギターってこの音楽にいること自体が意外だと思うんです。エレキギターのサウンドがあることが、今聞いてもピアソラの音楽を斬新なものにしている気がします。
参加メンバー
Astor Piazzolla - Bandoneon
Pablo Zinger - Piano
Fernando Suarez Paz - Violin
Andy Gonzales - Bass
Rodolfo Alchourron - Electric Guitar
Paquito D'Rivera - Alto Sax, Clarinet
今回紹介するアルバムはこの五重奏の編成にパキート・デリヴェラというラテンジャズの巨匠が数曲サックスとクラリネットで入っています。
またアンディー・ゴンザレスというラテンジャズのベーシストが参加していて、全体的にベースの音色や音楽のコアがはっきりしていて、とても聞きやすいです。
先ほどエレキギターがピアソラの音楽をユニークなものにしていると言いましたが、ヴァイオリンもクラシックにはない独特でミステリアスなニュアンスで、この音楽をスペシャルなものにしています。
そしてピアソラのバンドネオンの音色はもちろん唯一無二で、メロディーの歌い方は情熱的で完璧です。
時にリズムに正確に、バラードではリズムの線を超えて感情的にと、メリハリが素晴らしいのです。
この音楽は、きちんと作曲されているという点がとても魅力的です。
きちんと、と言うと語弊がありますが、おそらく書き譜の割合がかなり多い気がします。
個人のソロパートは少なく、アンサンブルで勝負しているアルバムな気がします。
もちろんM3の「Street Tango」ではピアソラやピアニストの素晴らしいソロパートがきける場面もあります。
そしてタンゴ独特の不協和音のハーモニーにも注目していただけたらと思います。
M5の「Knife Fight」の出だしなど、まさにそれです。
このアルバムにはラテンジャズの名手、パキートが参加していますが、登場するとある意味ドキっとします。
彼の特徴的な少ししゃくるようなニュアンスはラテンジャズでは聞き覚えがありますが、こういったメロディーや雰囲気の曲をその専門家のバンドで吹くと"異文化交流感" があり、僕なんかはハッとさせられます。
今月は久しぶりにタンゴを聴いて、初めて演奏する機会があり、改めてピアソラの美しい音楽に触れられてとても嬉しかったです。
ぜひみなさんにも共有したく、今回はピアソラのアルバムを紹介しました。
また次回の投稿をお楽しみに!
文:曽根麻央 Mao Soné
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・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』・2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』・2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』・2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』・2021.04『Something More / Buster Williams』・2021.05『Booker Little / Booker Little』・2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』・2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』・2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』・2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』・2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』・2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』・2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』・2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』・2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』・2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』・2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』・2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』・2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』・2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』・2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』・2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』・2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』 ・2022.12『The Revival / Cory Henry』・2023.1『Complete Communion / Don Cherry』・2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』・2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』・2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』・2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』・2023.6『Covers / James Blake』・2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』・2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』・2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』・2023.10『MAINS / J3PO』・2023.11『Knower Forever / Knower』・2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』・2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』・2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』・2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』・2024.04『Voyager / Moonchild』2024.05『Evidence with Don Cherry / Steve Lacy』・2024.06『Quietude / Eliane Elias』2024.07『Alone Together / Lee Konitz, Brad Mehldau, Charlie Haden』
Reviewer information |
曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |