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曽根麻央 Monthly Disc Review2025.02_Kenny Drew : Undercurrent

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Title : 『Undercurrent』
Artist : Kenny Drew


みなさんこんにちは、曽根麻央です。
Undercurrentというと、ビル・エヴァンスとジム・ホールの1962年のアルバムを想像しますが、今日は1961年にBlue Note Labelから発売されたKenny Drewの「Undercurrent」を紹介しようと思います。ドリューの「Undercurrent」も名盤と言える素晴らしい内容なので、是非みなさんにも改めて注目して欲しいジャズアルバムです。


実はこのアルバム、高校生の時の私のお気に入りのアルバムで、フレディー・ハバードのソロはどれも耳コピして演奏できたな、というのを改めて聴いて思い出しました。特に一曲目のハバードのソロはまるで『ルパン三世のテーマ』のようなフレーズがソロに入っていて、当時からお気に入りでした。

美しいタッチと、軽やかな指運びで流れるようなラインを展開することで知られるレジェンド・ピアニスト、ケニー・ドリューはヨーロッパでの活動が有名で、特に欧州移住後にベーシスト、ニールス=ヘニング・ペデルセンとの演奏でよく知られていますが、本作品はそんなドリューのアメリカ在住時代最後の作品だそうです。

メンバーも当時のアメリカで最高のアーティストが揃っていて、

Kenny Drew - piano
Freddie Hubbard - trumpet
Hank Mobley - tenor saxophone
Sam Jones - bass
Louis Hayes - drums

というメンバーが見事な演奏をしています。

参加メンバーを見ると、硬派な伝統的なジャズの奏者たちのイメージですが、時代的にはちょうどマイルス・デイビスがモードジャズを始めたり、ジョン・コルトレーンが「コルトレーン・チェンジ」なる新たなコード進行を開発したりと、新しい音楽が発信され続けた転換期とあって、それに影響されたような楽曲も数多く種録されています。

タイトル曲でもある1曲目「Undercurrent」は早いエネルギッシュなスウィングでスタートし、早速ドリューの軽やかな指捌きで独特な8分音符の伴奏パターンが演奏され、その上でハバードとモブレーがメロディーを展開していきます。1曲目のインパクトとして最高の出だしとなっています。このような8分音符の羅列をピアノで伴奏として演奏してVampを展開する手法は当時かなり特殊だったのではと思います。現在でもなかなか耳にしないユニークなアイディアです。そのVampのモチーフはBセクションではホーンが受け継ぎ曲を発展させます。基本Gマイナーのモード的なAセクションに対し、BセクションでBbに転調して少しビバップ的なコード進行が加わる曲です。


「Undercurrent」もそうですが、3曲目の「Lion's Den」でもモードジャズ的なAセクションを聴くことができます。従来のBebop的なコード進行をもつBセクションと、モードジャズ的な展開が共存しているところがこの60年代初期ジャズの特徴な気がします。 


「Ballade」というドリューのオリジナル曲もメジャーのコードを単3度のベースラインで動かしたりと、コルトレーンの「ジャイアント・ステップス」等でみられるコード進行と似たような発想で展開される、ビバップでは存在しないコード進行を使用しつつも、伝統的なii-Vのコード進行と共存させている、時代の転換期を象徴する意欲的な楽曲になっています。


「Funk-Cosity」などは、ジャズの伝統的なミディアムなスウィングの曲で、ハードバップやアート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズの影響を色濃く受けた楽曲になっています。ハバードのソロがとても冴えている曲です。そう言った意味でも、新しいジャズと古いビバップ、ハードバップが混在している、バランスの取れたアルバムと言えるでしょう。



文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title :『Undercurrent 』
Artist : Kenny Drew
LABEL : Blue Note
発売年 : 1961年



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【SONG LIST】

01.Undercurrent
02.Funk-Cosity
03.Lion's Den
04.The Pot's On
05.Groovin' The Blues
06.Ballade




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』2023.1『Complete Communion / Don Cherry』2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』2023.6『Covers / James Blake』2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』2023.10『MAINS / J3PO』2023.11『Knower Forever / Knower』2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』2024.04『Voyager / Moonchild』2024.05『Evidence with Don Cherry / Steve Lacy』2024.06『Quietude / Eliane Elias』2024.07『Alone Together / Lee Konitz, Brad Mehldau, Charlie Haden』2024.08『The Rough Dancer And The Cyclical Night (Tango Apasionado) / Astor Piazzolla』2024.09『Potro De Rabia Y Miel / Camarón De La Isla』2024.10『Calle 54 / Various』2024.11『Trumpets Of Michel-ange / Ibrahim Maalouf』2024.12『Sings for Only the Lonely / Frank Sinatra』2025.01『Hero Worship / Hal Crook』



Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

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