ジョアン・ジルベルト直系サウンドと言われるボサノヴァ・デュオ、naomi & goro。
自身のプロジェクトの他に、文筆家、講師など多方面でも活躍するジャズメン、菊地成孔。
当然、接点はあるだろうと思っていたこの2組ですが、
意外にもファースト・コンタクトは、昨年の菊地成孔オーガナイズのイベントでの共演とのこと。
その時の演奏の化学反応が、本人たちはもちろんのこと周辺全てを魅了し、
2011年7月13日発売の今作『calendula』へと昇華しました。
ジャズとボサノヴァの共演というと『GETZ / GILBERTO』を思い浮かべますが、
それから半世紀以上経って咲いた『calendula』は如何に?
naomi & goro & 菊地成孔 インタビュー
■収録曲の選曲はどのように進んでいったのですか?
[菊地] アルバムのボリュームを考えると12~13曲ぐらいになるだろうから、コラボレーション・アルバムということで、どっちが主導になるということではなく、ゴローさんが何曲か選んで、オレも何曲か選んで、それでジョビンから何曲かをふたりで選んで、シメにオリジナル曲を入れるっていうのでイイんじゃないのと。で、その話し合いもあっという間に済んで。それで、3.11が来るとはちーとも思っていない社会で曲を持ち寄りまして、選曲会議で決まりました。
■スムースに決まったんですね。
[菊地]揉めてないですね。出したものをやったという感じです。
■選曲のポイントなどありますか?
[菊地]僕は、80年代のチャラいポップスをやればいいなという大枠は決まってましたね。僕が選んだのは、プリファブ・スプラウト「The king of Rock' n Roll」、マイケル・フランクス「Cinema」、ホール&オーツ「One on One」です。ジョビンものは、あんまりカバーを聴いたことがない「Two Kites」ですね。カバー・バージョンに関しては、「ボサノヴァがグラムロックをカバーしてビックリ!」みたいなのは今はもう食傷気味なので、逆に言うとなんでも良いというか。尚美さんが歌ってゴローさんがギター弾けばクオリティーは保証されているんで。
■ゴローさんはいかがですか?「Brigitte」は菊地さんが選んだっぽいんですけど、ゴローさんなんですね。
[ゴロー]そうですね。ま、そう思って選びました。(笑) もともとやりたいなと思っていた曲で。面白いじゃないですか、モード・フォークみたいで。(笑)
[菊地]サラヴァ・レーベル調のサイケデリックスね。
[ゴロー]そうそう、そんな感じで好きで、いつかやりたいなと思っていて。で、このタイミングは一番いいタイミングだなと思って。(笑)
[菊地](笑) この時やんなきゃいつやるんだという感じですね。
[ゴロー](笑) そうそう、一番いいタイミングかなと思って。あとは、ブラジルでシコ・バルキの「A Banda」とか。マルシャというマーチの曲なんですけど。やりたいなと思った曲を選んだだけですね。
■尚美さんはいかがでしたか?80年代ポップスは歌いやすかったですか?
[尚美]大丈夫でしたよ。知らない曲だったので、私にとっては新曲みたいなものだったんですけど、全部譜面に起こして、ボサノヴァ調にあてはめたり、ちょっとずらしたりして楽しかったです。
■今回の作品は『GETZ / GILBERTO』を思い起こさずにはいられない面があると思いますが、あの作品のように制作が難航したりはしなかったですか?
[菊地]そりゃあ大丈夫ですよ。(笑) あれは難航というより、お互いがセッション以来会っていないという絶縁ですからね。(笑)
[一同](爆笑)
[菊地]これは、震災を挟んで制作していたので、余震でレコーディングが中断された記録というか、刻印が入っているアルバムですね。なので、ミュージシャン同士はスムースでも、人間と地球がスムースではなかったというね。(苦笑)
■それによって何か変わりましたか?
[菊地]いやー、客観的には計測できない。実はこのアルバムの出来にはすごく満足しているんだけど、毎日毎日セッションの終わりには放射能の話になっていたというようなとてつもない危機感、緊張感の中で、ボサノヴァを(笑)レコーディングしていたので、ある種の世紀末のような感じがあって(一同笑)。それがアルバムにどう出ているのかすごく興味があって。どういう影響が出ているのかな?あるいは、全く感じられないとかね。それはそれで面白いし。アレだけの状況が全く伝わらないのかというのは、それはそれで面白いなと思います。
■ゴローさんはどうでしたか?
[ゴロー]成孔さんが言ったとおり余震の中でレコーディングしていたので、実際に弾いているときに中断したりしてましたね。船酔い状態ですね。
[菊地]まだ「地震酔い」っていう言葉がよく言われてたもんね。
■あと、当たり前ですが、このアルバムでは naomi & goroさんと菊地さんのコラボにすごく目が行くんですけど、実は他の参加ミュージシャンも充実していますよね。
[菊地]うん、ミュージシャンすごいよ。
[ゴロー]こっそりね。(笑)
■話題のアンドレ・メーマリも弾いてますしね。
[一同]そうなんですよ。
[菊地]日本【大儀見元(パーカッション)、秋田ゴールドマン(ベース)、徳澤青弦(チェロ)】、ブラジル【ラファエル・バルタ(ドラム)、ジョルジ・エルダー(ベース)、アンドレ・メーマリ(ピアノ)】の両勢が贅沢だよね。
[ゴロー]かなり贅沢なんですよ。ぜひアピールしてください。(笑)
[菊地]ここのアピールとチェンバロのアピールをしてください。(笑)
■そうなんですよ!チェンバロがすごく印象的なんですが。
[ゴロー]どっちかっていうと成孔さんはチェンバロですよね?
[一同](笑)
■チェンバロはもともと入れる予定だったんですか?
[菊地]ううん。(笑)おかしかったんですね、やっぱり地震でね。なんかが狂ってたと思う。(笑)あのね、リハ(リハーサル)の時にアコピ(アコースティックピアノ)を弾こうと思ってたんですけど、アコピがなくてシンセになって。シンセって、オルガンとかクラヴィ(クラヴィネット)とか色んな音色が入っているじゃないですか、それでゴローさんがギター弾いてて、チェンバロにしてやったら、ちょっと良かったんですよね。
■いいですよね。
[菊地]ボサノヴァにチェンバロって新鮮だなってちょっと思って。90年代の渋谷系のチェンバロものっていう雰囲気もあるし、同時に未来的というか、聴いたことないこんなのっていうね。
■ちょっとサイケデリックでエキゾチックなところもあって、60年代バート・バカラックのカバーみたいな味もありますね。
[菊地]そうですね。
■結構どの曲にも入っていますよね。
[一同](笑)
[菊地]実際は全曲には入ってなくて数曲にしか入ってないんだけど、出てくるとビックリするから全曲に入っている気がするんだよね。(笑)
■すごく特徴的なサウンドです。
[ゴロー]ここ(プロモーション資料)に書いてないのが不思議なくらいで。あんなに鳴ってるのに。
[一同](爆笑)
■参加ミュージシャンの話に戻りますが、人選はどうのようにして決まったんですか?
[ゴロー]ブラジルのリズム隊は、前のnaomi & goroのブラジルで2009年に録ったアルバム『Bossa Nova Songbook 2』と『passagem』のメンバーです。ピアノのアンドレ・メーマリは、実は2009年の2つのアルバムで弾いてほしいとファーストコールでお願いしたのですが、実現出来なくて、そしたらちょうど日本に来日していて、良いタイミングなのでやってもらったんですよね。
■日本人勢は、菊地さんのぺぺ(トルメント・アスカラール)周辺ですか?
[菊地]そうですね。
[ゴロー]よかったですよ、すごく。特に「Brigitte」のパーカッションはすごく素晴らしい。
■菊地さんのサックスですが、ボサノヴァの土台で演奏することは今までとは違ったものがありましたか?
[菊地]きっかけとなったイベント以降もライブをやったんですが、それらはゴローさんのギターと尚美さんのヴォーカルというミニマル編成だったんで、小さく吹くセッティングをしてミニマルに吹くように心がけていたんですけど、これも今から思うと震災で興奮していたということもあると思いますが、レコーディングでは、そんなに変えずに結構吹いてんの。まあ結果として良かったからいいんだけど、もうちょっとミニマルにしても良かったかなって今思ってるんですよね。
■それは、フレーズの長さとかそういうことですか?
[菊地]そうそうそう。音量と音数。とはいえ、それは何というか、スタン・ゲッツからウェイン・ショーターへというような意識の動きですよね。イメージとしては、ボサノヴァっていうよりショーターの『Native Dancer』とか、ああいうモードジャズ+ブラジリアンっていう感じにちょっと寄せてるつもりです。
■naomi & goroのアルバムはヴォーカルアルバムだと思いますが、ヴォーカルアルバムとして仕上げていく上で気にかけていることはありますか?
[菊地]尚美さんはもう完璧というか、悪い意味ではなくある意味、機械的というか楽譜に書いてそれを読んでいくだけというメカニカルなところもあって、「こんな歌いまわしは出来ません」とか気難しいところがなく、包容力があって何でもバーっと歌ってくださるので、プリファブ・スプラウトとかも絶対いい調子で歌うに決まってるっていう信頼があったので何も一切考えていないです。実際そうでした。
[ゴロー]今言われて気がついたんですけど、そうなんですよ、尚美ちゃんはなんでも歌ってくれるというか(笑)、非常にありがたい事で。
[尚美](笑)私、子供の頃からコーリューブンゲンをやらされていて。あれって譜面をパッと出されてパッと歌わなきゃいけないじゃないですか。それが子供の頃からあったんで染みついているんですよね。
[ゴロー]譜面というよりも曲の楽想を選ばないっていうか。(笑)自分が気まぐれで選んだ曲をポップスでも歌謡曲でも何でも歌ってもらえるんで。本当に、今、成孔さんに言われてみてありがたいなとヒシヒシと感じているんですけど。(笑)ヴォーカリストはもっとわがままで、「こんな歌詞の歌は歌えない」とか、そういう話はよく聞くので。そういう悩みは今までないので、曲を選ぶときも、尚美ちゃんが歌えばこんな感じになるなと想像すれば、大体思ったとおりになるので。そういう意味では苦労はなんにもないです。
■では最後に、このアルバムを気に入った人たちにオススメできる作品を教えてください。
[菊地]2008年のグラミー最優秀アルバム賞を受賞したハービー・ハンコックの、ウェイン・ショーターも参加している『River』。すっごい、いいアルバム。ありゃ受賞するなっていう。あれはね、『GETZ / GILBERTO』以来43年ぶりにジャズメンがとった年間最優秀アルバムなんですよ。端っこの賞じゃなくて、センターの賞ね。すごい静かでヴォーカルものでいいんですよ。なので、あれをオススメします。
[ゴロー]いいアルバムをオススメでいいんですか?(笑)
[一同](笑)
[菊地]タッチが似てんの。歌とサックスと最低限の楽器で出来てるの。
[ゴロー]今パッと浮かんだのが、ボズ・スキャッグスがギル・ゴールドスタインといっしょにやった『Speak Low』。ブラジルでレコーディングしている時もずっと聴いてて。そのまま忘れてきちゃったんですけど。(笑)今回のアルバムをレコーディングする最初の時もなんかそういうイメージがあって。あれは、バスクラとか図太い管が鳴ってるんですよ。成孔さんとやる時になんとなく、そういう管の響きをイメージしてたなと、今思い起こせば。
[尚美]セルソ・フォンセカ&ロナルド・バストスの『Slow Motion Bossa Nova』。
[菊地]あれ、いいアルバム。
[ゴロー]いいっすね、この3枚いいっすね。
[一同](笑)
[ゴロー]完璧じゃないですか。(笑)
[菊地]完璧な3枚だよね。(笑)そっち先聴けよ、みたいな。(笑)
[一同](爆笑)
[ゴロー]間違いない。
[菊地]間違いない。
[一同](笑)
[尚美]『Slow Motion Bossa Nova』、トランペットとサックスとトロンボーンのホーンセクションが入っていて。ボサノヴァのアルバムで管がたくさんあるのはそんなにないんですけど、ものすごくうまく出来ているんですよ。
[Interview:樋口亨]
■タイトル:『calendula(カレンデュラ)』
■アーティスト:naomi & goro & 菊地成孔
■発売日:2011年7月13日
■レーベル:commmons
■カタログ番号:RZCM-46790
■価格:2,800円(税込)
【naomi & goro (なおみあんどごろー) プロフィール】
布施尚美 |vocal,guitar
伊藤ゴロー|guitar,vocal
透き通るように美しい、天使の歌声をもつ布施尚美と、暖かく繊細な音色とハーモニーで語りかけるギターの名手伊藤ゴローによるボサノヴァ・デュオ。世界的に見ても、今最もジョアン・ジルベルト直系のサウンドと言われ、ジョアン・ジルベルト・マナーをふまえた、ギターの弾き語りというシンプルなスタイルで、コードの響き、言葉の響きを大切に、カバー曲からオリジナル曲まで演奏。2009 年にブラジルはリオデジャネイロで録音したアルバム「Bossa Nova Songbook 2(ボサノヴァカバー集)」「passagem(オリジナルアルバム)」をcommmons よりリリース。ピアノに坂本龍一、チェロにジャキス・モレレンバウムも参加。また、韓国、台湾でもアルバムをリリースし、2010 年4月に韓国ソウルで行なわれたワンマンホールライブはソールドアウトの大成功をおさめる。また、伊藤ゴローはソロユニットMOOSE HILLとして、作編曲家、プロデューサーとしても活動。映画音楽やドラマ、CMの音楽も手がけ、原田郁子他に楽曲提供も行なう。原田知世の直近2作「music&me」「eyja」もプロデュース作品。昨年は4年ぶりのソロアルバム「Cloud Happiness」をリリース、クリスマス企画盤「Christmas Songs(細野晴臣、高橋幸宏、坂本龍一他参加)」もプロデュースする。2011年2月には青森県立美術館で自身で製作した映像と音によるサウンドインスタレーションも行なう。
【菊地成孔 (きくち なるよし) プロフィール】
音楽家/文筆家/音楽講師
ジャズメンとして活動/思想の軸足をジャズミュージックに置きながらも、ジャンル横断的な音楽/著述活動を旺盛に展開し、ラジオ/テレビ番組でのナヴィゲーター、選曲家、批評家、ファッションブランドとのコラボレーター、映画/テレビの音楽監督、プロデューサー、パーティーオーガナイザー等々としても評価が高い。
「一個人にその全仕事をフォローするのは不可能」と言われる程の驚異的な多作家でありながら、総ての仕事に一貫する高い実験性と大衆性、独特のエロティシズムと異形のインテリジェンスによって性別、年齢、国籍を越えた高い支持を集めつづけている、現代の東京を代表するディレッタント。昨年、世界で初めて10年間分の全仕事をUSB メモリに収録した、音楽家としての全集「闘争のエチカ」を発表。主著はエッセイ集「スペインの宇宙食」(小学館)マイルス・デイヴィスの研究書「M/D ~マイルス・デューイ・デイヴィス3世研究(河出新書/大谷能生と共著)」等。
naomi & goro & 菊地成孔『calendula』リリース記念インストアライブ決定!
『calendula』リリース記念イベント@タワーレコード渋谷店
日時:2011年7月23日(土) 15:30~
会場:タワーレコード渋谷店 5F
■イベント内容
トーク&ミニライヴ&サイン会
■CD購入特典
タワーレコード渋谷店にて対象商品となる2011年7月13日リリースの
「calendula(RZCM-46790)」を1枚ご購入につき先着で「サイン会参加券」を1枚お渡し致します。
「サイン会参加券」をお持ちのお客様は参加券1枚につき1度、イベント当日ミニライヴ終了後に行われるサイン会にご参加頂けます。
■注意事項
※「サイン会参加券」はいかなる場合(紛失・盗難等含む)においても再発行は致しませんのでご了承ください。
※「サイン会参加券」はイベント当日のみの有効となります。
※当日は必ずお買い上げのCDをお持ちください。サインはCDジャケットに行います。
※アーティスト出演中の撮影・録音・録画等の行為は一切禁止とさせて頂きます。
※当日の販売商品、「サイン会参加券」の数には限りがございます。なくなり次第終了となりますので、予めご了承ください。
※対象商品をご購入頂いた際、払い戻しは一切行いませんので予めご了承下さい。不良品は良品交換とさせて頂きます。
※当日の交通費・宿泊費等はお客様負担となります。
※諸事情により、イベント不可能と判断された場合は、イベントを中止致します。
※イベント内容は当日の天候、その他諸事情により変更になる可能性がございます。予めご了承ください。
■お問い合わせ先
タワーレコード渋谷店(03-3496-3661)
『calendula』リリース記念イベント@タワーレコード新宿店
日時:2011年8月5日(金) 21:00~
会場:タワーレコード新宿店 7F
■イベント内容
トーク&ミニライヴ&サイン会
■CD購入特典
タワーレコード渋谷店にて対象商品となる2011年7月13日リリースの
「calendula(RZCM-46790)」を1枚ご購入につき先着で「サイン会参加券」を1枚お渡し致します。
「サイン会参加券」をお持ちのお客様は参加券1枚につき1度、イベント当日ミニライヴ終了後に行われるサイン会にご参加頂けます。
■注意事項
※「サイン会参加券」はいかなる場合(紛失・盗難等含む)においても再発行は致しませんのでご了承ください。
※「サイン会参加券」はイベント当日のみの有効となります。
※当日は必ずお買い上げのCDをお持ちください。サインはCDジャケットに行います。
※アーティスト出演中の撮影・録音・録画等の行為は一切禁止とさせて頂きます。
※当日の販売商品、「サイン会参加券」の数には限りがございます。なくなり次第終了となりますので、予めご了承ください。
※対象商品をご購入頂いた際、払い戻しは一切行いませんので予めご了承下さい。不良品は良品交換とさせて頂きます。
※当日の交通費・宿泊費等はお客様負担となります。
※諸事情により、イベント不可能と判断された場合は、イベントを中止致します。
※イベント内容は当日の天候、その他諸事情により変更になる可能性がございます。予めご了承ください。
■お問い合わせ先
(問) タワーレコード新宿店:03-5360-7811
naomi & goro & 菊地成孔 ビルボードライブ東京でのライブが決定!
予約開始はClubBBL/ 法人会員の方が7/13から、ゲストメンバーは7/20からとなります。
詳細はこちら
<おまけ>
Herbie Hancock and Corinne Bailey Rae - River Live on Abbey Road
Boz Scaggs - Speak Low
Celso Fonseca - Slow motion bossa nova