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ARTIST : 近藤秀秋 (guitar, composer)
TITLE : 豊かな人々
JJazz.Net "Somebody" では毎回、色々な方に「大切な人」について語って頂きます。今回は、最新アルバム『Son's Scapegoat / 豊住芳三郎 & EXIAS-J 』をリリースされた近藤秀秋さんに伺いました。
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誰とは名指せないんですが、確実に存在している豊かな人々の事を。
昨年、豊住芳三郎さんらとフェスティバル出演に際してリトアニアの首都ヴィルニウスに行く機会に恵まれたのですが、街はどこを見ても美しいゴシックやらバロックやらの宗教的な彫刻で溢れているのです。
なんでも、街ごとユネスコの世界遺産に指定されているとの事。さぞかし豊かな国だと思ったのですが、実情を知って驚きました。自殺率の最も高い国で、また地勢的にも侵略を受け続けてきた場所らしいのです。
旧市街の中心にある大聖堂に入った折には、やせ細った若者の物乞いに金銭を要求されました。
路上には出店が立ち並び、そこでは子供も老人も労働に励み、その恰好は決して奇麗なものとは言い難い。もしかすると、生きること自体が厳しい社会である故に、宗教的な物に対する意識が高いのかも知れません。
この地では、非日常よりも日常の方がよほど重要なのではないかと思えました。
それは、私が追ってきた音楽、あるいは私の周辺にある音楽の多くとは指針を違えたものでした。
こういった考え方は、私は音楽からは学ぶ事が出来ませんでしたが、音楽を学ぶうちに通過せずにいることが出来なくなった哲学や芸術全般には多く指摘されている所です。この時、私がここの所感じていた空虚さは、常態でない何物かを更に突き詰めた先にあるのではなく、日常を支える根拠となりうる正義や美感の欠如にあるのではないかと思えました。これは私のみならず、音楽のありようそのものに関わる問題と思えました。
表現芸術に限らず、「芸術的」であると呼びたくなるものに共通したものとは何でしょうか。あるいは、芸術的であるものが対象としたものとは？ちょっと言葉遊びをしてみれば、ヴィルニウスに於ては、私の作った音楽よりも、露店で働く老婆の日常の方が、私にとっては「芸術的」でした。
トリスタン・ホンジンガーにこんな事を言われた事があります。「近藤、あなたもあなたの音楽も過激すぎる。もっと貧しくなれ」。
本質は、そういう事かも知れません。
また、そういう音楽にこそ従事していきたいと思います。
近藤秀秋
[[[ 近藤秀秋 (Hideaki Kondo) PROFILE ]]]
1971年、東京出身、独協大学経済学部卒業。
ギター奏者、作曲家。音楽は演奏／作曲ともにほぼ独学。
大学在学中にCM音楽、スタジオレコーディングの演奏家としてデビュー。
ジャズ、タンゴなどのスタイルから徐々に実験的なスタイルに奏法を変換。
99年に現在の"Experimental Improvisers' Association of Japan (EXIAS-J)" プロジェクトを参画、現在に至る。
近年の主な活動として、映画「薔薇の名前」（西周成監督）委嘱作の作曲と実演（'01）、台湾FORMOZ 音楽祭出演（'02、'03）、アメリカツアー（'03）、豊住芳三郎ユニットへの参加（'04）、リトアニア "Vilnius Jazz Festival" やロシア共和国 "Arkhangelsk Jazz Days"などへの出演（'04）、トリスタン・ホンジンガー日本ツアー参加（'05）、横浜インプロ音楽祭出演 ('05）など。
発表されたCD作品は、EXIAS-J 名義の作品（Bishop Records, PSF Records, Siwa Records 等よりリリース）の他、河崎純、金野吉晃の作品など多数。
主な共演に、Tristan Honsinger、Loren Mazzacane Connors、FrankGratkowski、Michel Doneda、Tim Barnes、豊住芳三郎、小山彰太、浦邊雅祥、巻上公一、菊地雅晃、千野秀一、石井満隆、堀川久子など。
ギター演奏／作曲以外の活動としては、音楽ディレクター、録音エンジニア（ 第８回日本プロ音楽録音賞受賞）など。
[[[ WORKS ]]]
『Son's Scapegoat / 豊住芳三郎 & EXIAS-J』
EXJP015
Bishop Records
