カエターノ・ヴェローゾのDNAを受け継ぐブラジル音楽界のサラブレッドであり、
コンポーザー/プロデューサーとしても活躍しているブラジル・ネオ新世代のキーマン、モレーノ・ヴェローゾが来日。
東北から沖縄まで、全国9都市10公演に及ぶ日本ツアーは各地とも大盛況のうちに終了しました。
今回の番組「AIRPORT」(放送期間:2011.11/16-12/21)では、
そのモレーノ・ヴェローゾ、そしてツアーで共演も果たしたSaigenjiとの対談の模様をお届けしています。
ジャパンツアーの感想から影響を受けた音楽、そして現在家族と共に暮らすバイーアまで。
東京にいながらにしてバイーアの風を感じられる、ほのぼのとした二人の会話をお楽しみください。
■Moreno Veloso × Saigenji 対談■ INTERVIEW 2011.10/26@JJazz.Net
Saigenji(以下:S)
「今回のJAPAN TOURはどうだった?」
Moreno Veloso(以下:M)
「オハヨウゴザイマス(二人笑)
とても良かったよ。今回は今までで一番長い滞在なんだ」
S「本当?一ヵ月ぐらい?」
M「21日間かな。日本が好きなんだ」
S「日本でのソロLIVEはいつから始めたの?」
M「3年前。人生で最初のLIVE公演がここ日本だったんだ。
実はソロライブは日本でだけなんだ。他ではやった事がなかった(笑)」
S「ソロパフォーマンスは好き?」
M「そうだね。楽しんでるよ。面白い」
S「あなたの"Praça 11 (プラッサオンゼ)" でのライブアルバム(※来日記念盤「Moreno Veloso Solo in Tokyo」)を聴きましたけど、とても良い作品ですね」
M「ありがとう。あれは、少しまだ荒削りだったけどね。あの時はまだソロLIVEというものがどういうものか分かっていなかったんだ。作品自体は良いんじゃないかな?」
S「とても良いと思うよ」
M「けど、本当は一人で演奏するのは寂しいんだ。一人で旅行するのは好きじゃないし、友達と一緒なのが良いよね。でも今回は中原仁さんやひろみ、ブラジルからサウンド・エンジニアのイゴール、沢山の友人がいるからいいよ。
それに昨日はあなたがステージに立ってくれた。独りじゃないよ。とっても良かった!ありがとうサイゲンジ!」
S「ハハハ(笑)ありがとう」

M「とても楽しかったよ」
S「僕もすごく楽しかった。人生で初めてステージでエレキ・ギターを弾いたしね(笑)」
M「そうね、そしてソロを弾いてもらっちゃったよね。とっても良いソロ演奏だったよ」
S「ありがとう。楽しい時間だったね」
M「僕一人だけの時よりもすごく良いものが生まれたと思うよ」
S「本当?」
M「そう。友人と一緒にステージに立ち、新しいチャレンジを共有できるしね。今まで「赤とんぼ」は歌ったことがなかったんだ。初めてだったけど、ありがとう。本当に美しいハーモニーだよね」
S「そうだね。僕この曲好きなんだ」
M「僕も好きだよ。少し切ない雰囲気だけど、美しい曲」
S「そうだよね。この曲のメロディーはミナス音楽に似てる。だから、ブラジル音楽と上手く調和するよね。この曲好きだな」
M「僕もそう。「Ponta de Areia(ポンタ・ヂ・ アレイア)」のようだよね」
(※Ponta de Areia:ミルトン・ナシメントで知られるミナス音楽を代表する楽曲)
「Ponta De Areia - Milton Nascimento」
S(「Ponta de Areia(ポンタ・ヂ・ アレイア)」と「夕焼け」を歌い比べる)
(笑)
「ペンタトニック・ミュージック(五音音階の音楽)ね」
M「そう、ペンタトニック!そういえば(昨日のLIVEでは)フルートも演奏してくれたよね。あれとても良かった」
S「そうなんだよ。僕はケーナを9歳の頃から吹いているんだ。最初に演奏し始めたのは「El Cóndor Pasa(コンドルは飛んでいく)」のようなアンデスの曲。ペルーとかボリビアのね」
M「BEAUTIFUL!!とても素晴らしい演奏だったよ!どうりでねー」
S「あのバージョンはあなたのお父さんのを聴いて知ったんだよ」
M「そうだね。彼が作った。同じく美しかった。いすれにせよ、昨日はとても素敵な歌声を聴かせてもらったよ」
S「本当に?どうもありがとう」
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-This Is BAHIA!!-
S「そうだ!リオからバイーアに引っ越ししたんだってね?」
M「そう2年前。妻と子供、家族揃ってバイーアに越したんだ。なぜなら妻がそこで仕事しないといけなかったから。
僕は再び自分が生まれたバイーアの街に戻ってこれることを喜んだし、そこでの生活を楽しんでいるよ。祖父母も近くに住んでいるし、いとこや親戚、そして素晴らしいミュージシャンが沢山住んでる。
そんなこともあって、音楽も少し影響を受けているんじゃないかな。
今、ペドロ・サーと共同プロデュースで新しい作品を録っていて、既にほぼ終えてるんだけどね。
その新作の中身を父に聴かせたんだ、「どう思う?ってね」。すると彼は「うーん、これはバイーアの音だね。バイーアに住んでレコーディングした音もかなり影響をうけているんだね」って、僕はそうとは思わなかったんだけど、父に言われてうなずけたんだ。今はバイーアのミュージシャンや人々との生活を楽しんでいるよ」
S「僕はモレーノのギター演奏からも、すごくバイーアを感じたよ」
M「そう?ありがとう(笑)」
S「そして(モレーノが演奏した)パンデイロの音も、リオ・デ・ジャネイロじゃないよね」
M「そう。リオじゃないよね」
S「とてもバイーアを感じた。"空気"や"海"・・・」
M「そうそう。"空気"や"海"・・・」
S「そして"テンポ"・・・」
M「そう"テンポ"!This Is BAHIA!(まさしくバイーア)」
S「ハハハ(笑)This Is BAHIA!確かに!いい場所だよね」
M「だね」
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-Music Is A Universal Language-
S「モレーノの友達でもある、高野(寛)、嶺川貴子、コーネリアス・・・
とても良質な音楽を発信する沢山の日本人ミュージシャンと仲が良いけど、
モレーノの音楽やその周りのミュージシャンの音楽は、共通する感覚を持ち合わせていると思うんだけど」
M「そうだね」
S「とてもいい事だよね。ブラジルでは、モレーノやモレーノの仲の良いミュージシャンのような存在は独特なものなの?」
M「そう、とても特別な音楽。すごく人気があるわけではないけど、沢山の人が興味を持ってくれている。
ブラジルの僕の仲の良いミュージシャンや同世代のミュージシャンは素晴らしい良質の音楽を奏でる人達なので、彼等の一員でいられる事を僕はとても嬉しく思っているよ。
それは他の場所でも同じで、例えば日本でも、この音楽は素敵な人たちと同じ想いを共有できる。
高野さんや貴子、コーネリアスやみんな・・・そして、サイゲンジともね!」
S「ありがとう(笑)初めてあなたの1stアルバム『モレーノ+2』を聴いたのは、僕が22か23か24歳の時、
とてもセンセーショナルだったんだよ。僕や友達の間でね」
M「どうもありがとう」
S「僕たちはブラジル音楽を演奏していて「このCDはチェックしないと!」という感じ。
もう、「うぉー」みたいなね(笑)とっても新しさを感じたんだよね。
そんなにエキセントリックというわけではないけれど、美しい歌や曲が含まれていて、
けど、音は新しいし作曲法も新しいし、とても衝撃的だったんだよ。僕や僕らの世代でね」
M「ありがとう。それは良かった」
S「(ジョークとして)僕もいい事を言おうと思えば出来るんだよ。(笑)」
M,S(笑)
M「音楽はとてもユニバーサルなものだと思うんだよね。音楽を通して容易に世界中の人と繋がることができる。それをブラジルで感じるんだよね。ポルトガル語はブラジル以外ではそんなに話されていないけれど、音楽はとてもユニバーサルな言語。世界中のとても遠い所にも届く。たまに予想もしていなかった事がおきる、クリッシー・ハインドのように。彼女はイギリスに住んでいるシンガーだけれど、元々はアメリカのオハイオ出身で、彼女が僕のアルバム『Máquina de Escrever Musica(タイプライター・ミュージック)』を聴いて、こんな内容の手紙が来たんだ。
「アルバムとても良かったです。私と一緒にツアーをしましょう」って。
それで、僕とカシンとドメニコ、そしてクリッシー・ハインド(笑)でツアーをしたんだよ」
(※クリッシー・ハインド:イギリスのバンド、プリテンダーズのボーカル)
S「それスゴイね!(爆笑)」
M「僕らは6ヶ所か7ヶ所、一緒にLIVEを行ったんだよ」
S「アメリカで?」
M「そう、あと、ブラジルとアルゼンチン。彼女とのライブはとても素晴らしかった、もちろん友達にもなれたし」
S「すごいね」
M「予想もしていなかったことだったけどね。けどすごく良かった」
S「よかったですね」
Photo by Ryo Mitamura
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-That Was A Revolution!!-
S「では最後の質問。
あなたのボーカルスタイルは、ジョアン・ジルベルトを彷彿させるんだけど」
M「もちろん。僕らはとても影響をうけているよ。もちろん父親を通してね。特に彼はとても直接的に。
それだけではなく、チェット・ベイカーやビリー・ホリデーの歌い方もジルベルトは既にそれらを聴いていて好きだったと思う。
それは異なる種類の歌い方で、チェット・ベイカーの前は、人々は皆、大きな声で、マイクなしで、地声のみで唄っていた。オペラとかのようにね。
(ささやくような声で)けど、何人かはマイクの近くで、優しく美しく歌い」
S(ささやくような声で)「それでそれで」
M「チェット・ベイカーのようにね。それは僕にとって革命だったんだ」
S「なるほど」
M「だけど、ジルベルトは、時々オルランド・シルヴァの真似も出来た。
オルランドはブラジルの古いシンガーだけど。ジルベルトは彼の真似が本当にうまかったけど、でもオルランド・シルヴァはさっき話した、大きな声でコンサートホールをいっぱいに出来る様な声をしていた」
S「その事を本で読んだよ。「HISTORY OF BOSSA NOVA」ルイ・カストロのね」
M「ジルベルトはマネできたけど、本当はマイクの近くで、やさしく的確に歌う事が好きだったんだと思う。それは美しく、そして革命的だったよ。
そして僕もそのスタイルだと思う。(笑)」
S「僕はそのスタイルとても好きだよ」
M「ありがとう」
-お二人の人柄がよく分かる素敵な対談でした~。
そんな対談風景を撮影。
サイゲンジさんの顔を見たモレーノさんも変顔!!
-最後に、ブラジルで一番好きなスポットをお伺いしました
Moreno Veloso
「むずかしいけど、僕が生まれて今住んでいるサルバドールが一番好きな場所かな。
そこの空気、エネルギー、テンポ、町の人々の笑い声、それら全てを気に入っている。
それ以外でも美しい場所はいっぱいあるけどね。リオデジャネイロみたいにね。
音楽の視点から言うと、リオ グランデ ド スル州のポルトアレグレ。
素晴らしい町だね。たくさんの素晴らしいミュージシャンがそこでは素晴らしい演奏をしているよ。
南にある美しい島、フロリアノポリスもいいよね。
ブラジルはとっても大きな国だからね。
一番北にある、パラー州のベレンでは一番美味しい食べ物と、一番美しいポルトガル語が聞けるよ。
ベレンの人々は、何故だか心にしみるようなポルトガル語を話す。とても洗練されている人々だよ。
リオとサンパウロでは違ったポルトガル語を使っているけれど、彼等のポルトガル語はパーフェクトだ。
食べ物も人も空気もその周りを流れる川も、風も全てが素晴らしい。
毎日雨が降って、町は清められ、気温も温かいし、本当に好きだよ」
INTERVIEW 2011.10/26@JJazz.Net
→ブログ「中原仁のCOTIDIANO」モレーノ・ヴェローゾ ツアー日記)
■Moreno Veloso(モレーノ・ヴェローゾ)■
1972年11月22日、ブラジル・バイーア州サルヴァドール生まれ、カエターノ・ヴェローゾの長男。9歳のとき、カエターノのアルバム『コーリス、ノー ミス』に参加、親子で共作した「Um Canto de Afoxé para o Bloco do Ilê」(バイーアのブロコ・アフロ、イレ・アイェ讃歌)を歌ったのがレコーディング・デビュー。大学で物理学を専攻し、幼なじみのペドロ・サー(ギター),カシン(ベース),ドメニコ(ドラムス)ら同世代の友人たちとリオのライヴ・シーンで活動を始 め、伝説のエキスペリメンタル・ポップ・バンド、グッドナイト・ヴァルソーヴィアを結成。1996年、アート・リンゼイのバンド・メンバーとして初来日した。近年はアドリアーナ・カルカニョットとの共作、共演をはじめ、コンポーザーとしてガル・コスタ、ホベルタ・サー、ニーナ・ベッカーらの女性歌手に曲を提 供。父カエターノのアルバム『セー』(2006年)『セー・ライヴ』(2007年)『ジー・イ・ジー』(2009年)『MTVアオ・ヴィーヴォ:ジー・ イ・ジー』(2011年)のプロデューサーも担当。
日本の音楽家との交流も深く、高野寛、小山田圭吾(コーネリアス)、嶺川貴子、Saigenji、Akiko、安田寿之らとライヴやレコーディングで共演。2007年の来日の際は、Akikoとモレーノ=ドメニコ=カシンのユニットで「Fuji Rock」にも出演した。
ギター、チェロ、パンデイロなどのパーカッションを演奏するマルチ・インストゥルメンタル・プレイヤー、繊細な歌声のヴォーカリスト、そしてコンポー ザー、プロデューサーとして活躍しているが、その音楽性と脱力のたたずまいは、あくまで自然体。故郷バイーアの風土に根ざしたサンバの歌/演奏/ダンスも 見もの、聴きものである。
『Moreno Veloso Solo in Tokyo / Moreno Veloso』
リリース:2011年10月5日
ARTENIA / HAPPINESS RECORDS
製品番号:HRCD-042
■Saigenji(サイゲンジ)■
1975年広島生まれ。沖縄~香港~沖縄~東京育ち。
9才の時に「コンドルは飛んでいく」に感銘を受けケーナを始める。南米の民族音楽フォルクロ-レやブラジル音楽を中心にsoulやjazzなどありとあらゆる音楽を飲み込み、肉体的に吐き出すギタリスト&ボイスパフォーマー、インプロヴァイザ-、ソングライタ-。その圧倒的なエネルギ-に満ち溢れたパフォーマンス、卓越した技術とセンスに裏付けられた存在感は観た者全てを虜にする。独自の観点から生み出される作詞作曲も多方面で高い評価を受けている。
『Another Window / Saigenji』
リリース:2010年9月9日
HAPPINESS RECORDS
製品番号:HRCD037