ミュージシャンやレーベル関係者をはじめ、音楽好きが集うバーとして知られている、bar bossa(バールボッサ)。
番組「sense of "Quiet"」でのインタビューを収録させていただいた際にご紹介した先日の記事が好評で、その記事を読んで実際にお店を訪れて下さった方もいるようです。
マスターの林伸次さんがボサノヴァのファンであり詳しい知識の持ち主で、お店ではしっかりとセレクトされたボサノヴァがいつも静かに流れています。
ワインも美味しいものが揃っていて、聴覚と味覚の両方から素敵な時間を用意してくれる貴重な存在です。
JJazz.Netリスナーの皆さんにそんな素敵な時間のおすそ分けをしたい、ということで、マスターにJJazz.Netブログでの連載をお願いしました!
内容は、美味しいワインや食事と音楽、そしてバールボッサとそこに集う人々について。
音楽と食事と楽しい会話がマッチすると最高ですよね。
オススメのボサノヴァはもちろんのこと、魅力的で面白いお客さん達のことも、四季折々紹介して下さる予定です。
毎月、第2・第4水曜日にアップしていきますのでお楽しみに!
では、まずは第1回目をお届けします。
[Text:樋口亨]
vol.1 - ブリュ・サルトワーズとモニカ・サウマーゾ
いらっしゃいませ。
bar bossaにようこそ。
第一回目ということでお祝いのシャンパーニュでも開けようと思ったのですが、それではあまりにも芸がないので、今日は赤のスパークリングワインをお勧めしようと思います。
ブリュ・サルトワーズ。
フランス、ロワール地方のピノ・ドニスという品種のオーガニック・ワインです。
ピノ・ドニスは、別名「Pompe a terroir(テロワールを吸い上げるポンプ)」と呼ばれていて、品種の特有の味わいよりもむしろ、植えられた土地(テロワール)によって全く味わいや個性が異なるという面白いブドウです。
ところで、「オーガニック」という言葉、最近はもう飽き飽きしている方もいらっしゃるかもしれませんね。
bar bossaでは「オーガニックだから」という理由では選んでおりません。「美味しいから」という理由で選んでおります。
そしてこのブリュ・サルトワーズというワインはオーガニック特有のブドウを絞ったそのままのような味わいなのでお勧めいたします。
特別な日ではなくても、今日、良い音楽を聴きながらワインが飲める喜びを祝うような気持ちでお召し上がり下さい。
それでは音楽の話に移ります。
僕はbar bossaを16年間続けてきて、毎日10時間近くボサノヴァを聴いています。
想像できますか?
正直な話、すごくボサノヴァに飽きてしまいます。
それでもお客様はアストラッド・ジルベルトやセルジオ・メンデスをかけることを要求します。
「ゲッツ/ジルベルト」なんて本当に毎日かけてるので、5,000回近くは聴いています。
それで感じることは、やっぱり雰囲気だけのぺらぺらの音楽は10回以上は聴けない。
何百回も聴けるのは「心をふるわせる演奏」だけだと感じました。
「心をふるわせる」ってなんだか安直な言葉ですよね。
でも、本当にそんな風に感じさせる歌手がいるんです。
モニカ・サウマーゾです。
彼女は1971年サンパウロで生まれ、今まで7枚のアルバムを発表しています。
彼女の経歴はサンパウロという大都市の音楽シーンと深く関係しています。
ブラジルはとても大きい国でアマゾンのようなジャングルもあれば、農園や牧場、リゾート地と色々な顔があります。もちろん住んでいる人種も多種多様です。
そして様々な都市があり、そこから生まれてくる音楽はどれもが違う表情があり個性的です。
モニカ・サウマーゾが生まれたサンパウロとあわせて、ブラジルの主要な音楽都市を簡単に説明いたします。
まずみなさんご存知のリオ・デ・ジャネイロ。
©paramita smetana
ここは京都みたいな場所です。古都であり、昔から演劇や文学、もちろん音楽などのサロン文化があるところです。
サンバやボサノヴァはここで生まれました。
北の暑いところ(ブラジルは南半球です)でバイーアという沖縄のような場所もあります。
©Secom Bahia
そこは昔は奴隷貿易の拠点だったためアフリカ系ブラジル人が多いところで音楽もよりアフリカ色が濃い地域です。
カエターノ・ヴェローゾやジョアン・ジルベルトはここの出身です。
そして、モニカ・サウマーゾが生まれたサンパウロ。
©Francisco Anzola
ここは南アメリカ最大の都市で日本からの特派員や多くの企業が集まる東京のようなところです。
実はここは音楽的に不毛な場所と思われています。
しかし、すごく面白い音楽シーンがあるんです。
エドゥアルド・グジンという一人の天才がいます。
1950年サンパウロ生まれの彼は1966年にエリス・レジーナに見出されてデビューしました。
彼は大都市サンパウロで育ちながら、リオ・デ・ジャネイロの古いサンバやショーロを愛し、一方で大都市らしいジャズやクラシック、現代音楽なんかの要素を取り入れ、「サンパウロならではの音楽」を作り出しました。
彼は音楽雑誌なんかでは(エルメート+ジョビン)÷2と評されていますが、こんな音楽をやっています。
そして、その彼をとりまくミュージシャン達もとても面白いんです。
まずギタリストでパウロ・ベリナッチがいます。
1950年サンパウロ生まれの彼は、クラシックギター奏者として世界的に有名です。
たくさんのギター奏法の教本やヴィデオを出していますし、実際に教師としても活躍しているようです。
観ていただく動画では、リオのボサノヴァ誕生前夜に活躍したギタリストの曲「ガロート」を演奏しています。
こういった、ブラジルの昔の偉大な作曲家の作品を掘り起こす演奏家としても定評があります。
ネルソン・アイリスというピアニストもいます。
サンパウロが世界に誇るジャズ・グループ「パウ・ブラジル」の中心人物です。
アメリカジャズ界でも活躍しました。
アコーディオン奏者トニーニョ・フェハグッチも良いですよ。
彼はトリオ202というギターとピアノとアコーディオンという面白い組み合わせのグループで日本でも人気があります。
2001年にはラテン・グラミーでノミネートされたようです。
ホドルフォ・ストロエテールというベーシストもいます。
彼はベーシストとしても有名ですが、アレンジャー、プロデューサーとしても定評があります。
ジョイスの最近の作品はほとんど彼が手がけています。
ジョイスの旦那様でもあるドラマーのトゥッチー・モレーノとの絡みのグルーヴ感は、現在世界最高峰です。
そんな彼らをバックに従えて、今、サンパウロで一番輝いているのが、僕の「心をふるわせる」歌手、モニカ・サウマーゾです。
とにかく聴いてみて下さい。
どうでしたか?
こんな風に美味しいお酒と良い音楽を、まるでbar bossaでゆっくり楽しんでいただいているように、あなたのところに届けられれば良いなと思っています。
そろそろ年末ですね。
あわただしい季節ですが、ふっと息をつきたくなったらお気軽にお立ち寄り下さい。
それではまた次回、こちらのお店でお待ちしております。
bar bossa 林 伸次
bar bossa information |
林 伸次 1969年徳島生まれ。 レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、 フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。 2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。 著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。 選曲CD、CDライナー執筆多数。 連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。 bar bossa ●東京都渋谷区宇田川町 41-23 第2大久保ビル1F ●TEL/03-5458-4185 ●営業時間/月~土 12:00~15:00 lunch time 18:00~24:00 bar time ●定休日/日、祝 ●お店の情報はこちら |