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JJazz.Net Blog Title

bar bossa vol.4

bar bossa


vol.4 - お客様:柳樂光隆さん


いらっしゃいませ。

bar bossaへようこそ。

月の2回目はゲストを迎えて「俺がコンピCDを作るんだったらこうするね」という選曲をしてもらいます。

今日はジャズ評論家の柳樂光隆(なぎら みつたか)さんです。


林(以下H)「いらっしゃいませ。」

柳樂(以下N)「こんばんは。」

H「ではとりあえずお飲物はどうしましょうか。」

N「いつも通り、白ワインをグラスで。あと、ピクルスも下さい。」

H「はい。かしこまりました。でしたら南仏のしっかりしたシャルドネにしますね。あ、そうだ。先日一緒にいらっしゃってた女性が来てましたよ。髪の毛が長い子じゃなくて、メガネのあの子でもなくて、あのボーイッシュな感じの子です。なんか柳樂さんと連絡が取れなくなったって泣いてましたよ。」

N「またそんな。公の場所でそういう冗談はやめて下さい。」

H「すいません(笑)。ところで柳樂さんはジャズ評論家がメインですが、レコード屋さんでも働いてますよね。でも確か東京学芸大学を出てて教員免許も持っているとか。どうしてそんな人生を踏み外してしまったんですか?」

N「レコード屋っていう場所がとにかく好きだったので、もし教師やるとしても、その前に好きな仕事でも一回やってみた方が経験にもなるかなと思って。結局、ずっとレコ屋で働いてます。向いてるかどうか判らないままですけど。」

H「うちのカウンターでサニーデイの方と会って『ファンです』って言ってたのが印象的なんですけど、でも基本はジャズなんですよね。」

N「ええ。ジャズを聴くきっかけは大学の学園祭でドラマーの広瀬潤次さんのライブを見て、ジャズってのは凄い音楽だと思って。で、すぐに当時の彼女(ジャズ研)が教えてくれた近所のジャズ喫茶に行って『ドラムが凄いジャズを聴かせてくれ』って店主に言ったら、山下洋輔と森山威男のアルバムを聴かされて、それで完全に虜に。」

H「ジャズ喫茶。柳樂さんってそうですよね。大御所の評論家とかとも親しいじゃないですか。あれ、不思議なんですけど。」

N「おじさん好きなんでしょうね。基本的に自分より詳しい人の話を聞きたいんで、この人に話を聞いてみたいって思ったら会いに行くんです。刺激もあるんですよね。世代間の認識のズレとかも面白いですしね。知識や経験は伊達じゃないですよ。同世代とつるんでいても得られないことは多いと思います。」

H「具体的にはどんな大御所と?」

N「ケペル木村さんはケペルさんのお店に会いに行って。今では国立のジャズバーNO TRUNKSでイベントも一緒にやっています。中山康樹さんは中山さんのイベントの時に話しかけました。その場で後藤雅洋さんや村井康司さんを紹介していただいて、お二人の音楽評論サイトに加入してしまっています。あとジャズ喫茶四谷いーぐるとか、荻窪ベルベットサンでもイベントをしています。瀬川昌久さんは、僕が雑誌に瀬川さんが監修のCDのレビューを書いたら、読んでくれてて、僕に連絡をくれたんです。バド・パウエルとかと同世代な方のリアルタイムの話とか聞けますからね。高橋健太郎さんはツイッターでなんかのきっかけで話しかけました。でも、未だに僕はただの健太郎ファンですよ。」

H「あの、これ読んでる方でわかんない人は全くわかんない名前ばかりだと思いますが、『俺、タモリとたけしとさんまと友達』って言ってるような感じです。」

N「どの人がタモリですか?(笑) あの、クラブカルチャー以前以後で、ジャズの聴き方とか、ジャズって言う音楽がどういうものであるかのイメージが大きく変わったと思うんです。大きな変化だったので、その分、前後には溝があります。僕は変わる前と変わった後と両方を繋ぎたいんですね。クラブカルチャーってジャズの新たな側面にも光を当てて新しい聴き手を生み出したとは思うんですけど、その一方でそれ以前からあったジャズを遠ざけてしまった。僕は両立出来ないかなと思ってるんです。そういう意味でも、今後も年上の方と一緒に色々やって行きたいなと思っていますし、そろそろ同世代とも何かやりたいよなとは思ってます。あとは、クラブ側の方とも。まぁ、その辺は追々。」

H「なるほど。では曲に行きましょうか。」

N「はい。テーマは『歌にねじ伏せられるために聴くジャズボーカル』です。今回はbar bossaでかからないような類いのうるさい歌モノのジャズ選んでみました。僕はジャズに関しては、凄い演奏にねじ伏せられたいみたいな気持ちがかなりあります。そういう基準でマイルス・デイビスやジョン・コルトレーンを聴くことが多いんですが、そんな基準で普段よく聴いてる歌モノを選びました。実際は20曲くらいすぐに浮かんだので、減らすのが大変でした。ちなみにボサノヴァよりも酒がすすむと思います。」


H「では1曲目は?」

1.Irene Datcher - Attica Blues (Archie Shepp / Attica Blue Big Band)



N「リーダーはArchie Sheppと言うサックス奏者です。ファンクっぽいバンドをバックにIrene Datcherが声を振り絞りながら歌います。ジャズと言うとノイズ交じりの熱い即興演奏の魅力もあるのですが、それと同じ熱気の歌が共存した例はありそうで意外と少ないんですね。これはその素晴らしい例の一つだと思います。ジャズってノイズが大事ですから。」

H「菊地成孔のDCPRGが好きって言っていたし、ファンキーなの好きなんですね。でも『ジャズってノイズが大事』、痺れるフレーズですねえ。では2曲目は?」

2.Dee Dee Bridgewater - Afro Blue (Red Earth)



N「僕が一番好きなボーカリストです。大好きな曲は沢山ありますが、アフリカ録音のこれを選びました。ディーディーは僕がジャズボーカルに求めるものを全て持っている気がします。こういうアフリカのリズムにもいとも簡単に、しかも超楽しそうにノッてしまうリズム感は別格ですね。そして、何を歌っても、スタイリッシュにまとめてしまうセンスも好きですね。ディーディーだけで10曲選べるくらいファンです。」

H「ディーディー・ブリッジウォーター、かっこいいですよね。こういうのかけると女の子にもてそうです。では3曲目は?」

3.Marlena Shaw - Woman Of The Ghetto (Live At Montreux)



N「ソウル寄りのジャズボーカリストではこの方ですね。これはモントルーのライブで、オープニングの観客を煽るパフォーマンスから最高ですね。ここではこれぞ黒人シンガーって感じですが、洗練されたメロウなアルバムとかも作ってて、何でも出来る人なんだと思います。歌で起伏をつけて、10分間全く飽きさせない構成力も素晴らしいです。」

H「あ、なるほど。すごく有名なアルバムを丁寧に聞き込んで『自分だけの1曲』を見つけてくる柳樂さんのスタイルがわかってきました。では4曲目は?」

4.Nina Simone - Vous Etes Seuls Mais Je Desire Etre Avec Vous (Fodder On My Wings)



N「これはニーナ・シモンの重くて深くて淀んだ声がひたすら同じフレーズを繰り返すだけの呪術的な曲で、初めて聴いた時から虜になってしまって、彼女の曲では一番好きな曲です。じわじわと高揚してくるんですよね。ヤバイ音楽を聴いてるなって言う感じがたまらないです。ジャズボーカルで『声』と言えばこの人かなという気がします。あるジャズ喫茶の店主が『ジャズ喫茶やるならニーナ・シモンの似合う店にしたかった』と言っててひどく共感したことがあります。」

H「ほんと黒いの好きなんですね。ニーナ・シモンもこんな黒い曲を... 柳樂さんのイメージが変わって来ました... では5曲目は?」

5.Gregory Porter - 1960 What? (Wisdom)



N「今、世界で最も注目されているジャズボーカリストの一人です。グラミーにも二年連続でノミネートされています。こういういかにも黒人って感じの声と歌唱を聴かせる人が今の時代に出て来たことは驚きでした。これも1970年代かと錯覚してしまうような曲です。『ヘイ!』ってひとこと言うだけで、ワクワクさせられるシンガーと言うのも、久しぶりではないでしょうか。」

H「一時期、ずっとツイートしてましたよね。ちなみに柳樂さんのアカウントは @Elis_ragiNa です。さて6曲目は?」

6.Dee Alexander - Funkier Than A Mosquito's Tweeter (Corey Wilkes「Drop It」)



N「こちらは今一番好きなボーカリストのディー・アレキサンダー。この人も時代錯誤系と言えるかもしれませんね。これはコーニー・ウィルクスと言うトランペッターによるニーナ・シモンの佳曲のカヴァーにゲストボーカルで参加した音源。ここではザラッとした質感の声とソリッドな表現が印象的ですが、おおらかで包容力のあるやさしい歌唱も絶品。一度、生で体感してみたいなとずっと思っています。」

H「あ、そうそう。柳樂さんって前曲といい、こんな感じの新しいアーティストの時代錯誤系(笑)が専門なんだって思ってました。イメージ通りになってきました。では7曲目いきましょうか。」

7.Betty Carter - Sounds (Movin' On) Pt.1 (The American with)



N「例えば、ハードバップやビバップでの演奏者の丁々発止のやり取りや、とめどなく音が溢れ出る即興演奏の魅力をそのまま歌でやってくれているような歌手がベティ・カーターです。『あー、俺、今ジャズ聴いてるわー』ってのを、最も強く感じさせてくれる歌の一つ。延々と即興でスキャットしっぱなし、延々とスウィングしっぱなし。ベティの歌にあわせてバックの演奏が刻々と変わっていくのを意識しながら聴いてみて欲しい一曲。」

H「この曲、かっこいいですね。さすがレコード屋出身ですね。有名なアーティストだしこのジャケ見たことあるけど、こんな曲は知らないなあってのが多いですねえ。8曲目は?」

8.Alberta Hunter - I've Got a Mind to Ramble (Amtrak Blues)



N「82歳にしてジャズボーカリストとして復帰したシンガー、アルバータ・ハンター。1920年代に活躍していた筋金入りのオールドスタイルの婆さんの歌は味わいなんて言葉では到底言い表せない魅力があります。僕はジャズ喫茶で出会って、すぐに虜になりました。何人かの友人にCDをプレゼントしたこともあるくらい好きです。その生涯は本にもなっているので、ご興味のある方はどうぞ。」

H「なるほど。こういう感じがお好きなんですね。やっぱりこの企画良いですねえ。柳樂さん温かい人なんですね。もしかして良い人なんですか?では9曲目を。」

9.Milton Nascimento - San Vicente (Miltons)



N「ミルトン・ナシメントはジャズの人ではないんですが、このアルバムは僕にとっては最高のジャズアルバムです。この曲はミルトンとハービー・ハンコックのピアノとのデュオなんですが、ハンコックが凄すぎて、ジャズの耳でしか聴けません。ここでのハンコックのピアノにはジャズミュージシャンの凄さが凝縮されていると思います。後半のピアノソロに圧倒されてください。そしてこのパフォーマンスを引き出すのはミルトンの声にしか出来なかったことかなと。」

H「これはハンコックですよね。確かにあの当時アメリカジャズサイドとしてはミルトンの音楽に驚いて触発されてこの素晴らしい演奏が出てきたんでしょうね。では最後の曲は?」

10.Ella Fitzgerald - One note Samba



N「ボサノバを一曲。僕の大好きなエラ・フィッツジェラルドの超絶スキャットを。もう笑っちゃうしかないです。力技でねじ伏せられる。でも、エラって何やってもかわいらしいんですよね、声がそもそもかわいらしいし、そしてお茶目。めちゃくちゃ凄いことをやっているんだけど、全てジョイ(joy)に持っていっちゃうっていうか、全てエンターテイメントにしちゃう最高のパフォーマーですね。」

H「エラのボサノバってブラジルサイドには評判悪いんですけど、良いですよね。でもこんなの知りませんでした・・・ では今日はありがとうござ・・・ あれ、まだあるんですか?」

11.Sarah Vaughan - Copacabana (Copacabana)



N「もう一発ボサノヴァを。ジャズ史上最高のボーカリストの一人、サラのブラジル音楽集から。僕はサラのドラ声で歌われるスロウナンバーが好きなんですが、何を歌ってもジャンル関係なくサラ・ボーンの音楽になっちゃうところが魅力ですかね。ここでもサウダージは吹っ飛んで、ジャズとブルースが聴こえちゃう。ジャズを歌うって究極はこういうことなのかもって思ったりします。」

H「サラ・ボサも良いですよね。結構ブラジルサウンドにしているのに何故かこうなっちゃうんですよね。あれ、また何か出してきてますね。」

ボーナストラック
12.Dinah Washington - All Of Me (真夏の夜のジャズ)



N「ダイナ・ワシントンは素晴らしいブルースを歌うジャズシンガーです。彼女の歌も素晴らしいのですが、ここでは映画『真夏の夜のジャズ』の中の映像を見てもらいたいです。特に観客。オシャレな観客が、ダイナの歌にあわせて、身体を揺らしたり、踊ったり、恋人が顔を寄せ合ったり、あまりに素敵な光景にうらやましいやら、喜ばしいやら。ジャズで踊る。その最も美しい瞬間の記録なのかなと。」

H「あらら、2回目からこんなボーナストラックなんて例外を・・・確かにオシャレなんですよねえ。柳樂さんも是非、こんな瞬間を日本で作ってみてください。」




柳樂さん、お忙しい時期にどうもありがとうございました。

ちなみに柳樂さん、ジャズの原稿依頼はお気軽に、だそうです。Elis.ragiNa@gmail.com
こちらの音楽サイトcom-postに参加されています。 http://com-post.jp/

もう今年も終わりですね。
みなさんはどんな年でしたか?
しばらくは日本は大変な時期が続きそうですが、そんな時に楽しめる音楽があると良いですね。
そういう音楽をこちらで紹介したいと思っております。

それでは、また来年こちらのお店でお会いしましょう。
良いお年をお迎え下さい。


bar bossa 林伸次

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林 伸次
1969年徳島生まれ。
レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、
フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。
2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。
著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。
選曲CD、CDライナー執筆多数。
連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。

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