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尾川雄介(universounds)×塙耕記(diskunion) インタビュー ~スリー・ブラインド・マイス復刻

スリー・ブラインド・マイス 復刻

沸騰していた1970年代の日本のジャズ。その頃スタートしたthree blind mice(スリー・ブラインド・マイス)という日本のジャズ専門インディー・レーベルの存在は、今も語り継がれ、そのリリース・タイトルは長く楽しまれています。峰厚介や福村博、土岐英史といった、当時はまだあまり知られていなかった新進気鋭の若手ミュージシャンを積極的に取り上げて、デビュー作、リーダー作を発表させるそのスタイルは、前例がないものでした。1983年に幕を下ろすまでの間にリリースしたタイトル数は約150。前述したとおり、若手・新人の他に、ベテランや地方のミュージシャン、シンガーの作品、そしてなんと、予算のかかるビッグバンド作品までリリースしているという怪物レーベルです。

長い間、廃盤状態が続いていたので、CDでthree blind miceの作品を聴くのは難しい状況でしたが、この度、6月から12月にかけて毎月6、7タイトルずつTHINK! RECORDSより再発されることになりました。番組「PICK UP」で毎月ご紹介しているのでご存じの方も多いでしょう。毎月ご紹介するほど大切で、ぜひ一度はそのタイトルの幾つかを聴いていただきたいレーベルなのです。モダンジャズの必聴盤としてはもちろん、ジャズDJのプレイリストでも頻繁に目にするタイトルがいっぱいあります。

今回の再発企画の中心人物、ディスクユニオン / THINK!レコードの塙耕記さんと、高円寺にあるレコード店「universounds」の主宰者でDJでもある尾川雄介さんに、three blind miceについてあれやこれやとお話を伺いました。彼らは、発表以来話題となったジャズ本『和ジャズディスクガイド 1950s - 1980s』の著者でもあります。

ジャズ愛、音楽愛がひしひしと伝わる彼らの話しぶりは、とても熱い!


尾川雄介(universounds)×塙耕記(disk union / THINK!) インタビュー
~スリー・ブラインド・マイス復刻に寄せて~

■今回のスリー・ブラインド・マイスCD再発に至った経緯を教えて下さい。

[塙耕記] 2009年8月に『和ジャズディスクガイド 1950s - 1980s』という本を尾川さんと一緒に出しているんですけども、その前、2005年くらいから、日本のジャズをCD化するという作業をずっと続けていまして、かなりのライブラリーになっています。その中でもTBM(スリー・ブラインド・マイス)というのは手をつけていなかったレーベルなんですね。2006年にソニーさんが一度、20タイトルぐらい紙ジャケで再発していますし、TBMってオリ ジナル盤に拘らなければ意外とレコードは手に入りやすくて結構音は聴ける環境にあったんですよ。なので、私達が関わって再発することはないかなと思っていました。ところが、廃盤になっているそのソニーさんの再発CDも中古市場で高い値段が付いている状況でして、それだけ需要があるのであればお役に立てるかなということで、今回の再発を練ってみました。


『和ジャズディスクガイド 1950s - 1980s』
和ジャズディスクガイド 1950s - 1980s


■どういう方が買われているのでしょうか?

[塙耕記] 尾川さんにもご協力いただいて48タイトルをピックアップしたのですが、今回の再発シリーズを聴いていただきたいなと想定したメイン世代は30-40代なんですね。というのは、団塊世代の方は当時聴いていたり持っていたりして既にご存知の方が多いだろうと考えたのと、レコードではなくCDを買うのは30-40代の方が多いので、基本となるタイトルはもちろん入れつつも、そこにターゲットを絞ったセレクトを実際にしています。ですが蓋を開けてみると、団塊世代のお客様、ディスクユニオンに普段からいらっしゃるお客様のニーズにもど真ん中だったようで、正直言って予想を超えた反響でした。6月と7月に再発したタイトルで言うと『鈴木勲 / ブルー・シティ』『ヤマ&ジローズ・ウェイヴ / ガール・トーク』というド定番が特によく売れています。『鈴木勲 / ブルー・シティ』は2006年のソニーさんの時に再発されているので、今回は外していいかなと考えていたんですが予想を超えて需要があるようです。ある方から言われて初めて認識したのですが、『和ジャズディスクガイド 1950s - 1980s』が出て以降、そのあたりの需要がだいぶ変化しているようですね。2006年のソニーさんの再発の時にはこの本がまだ出ていなかったので、それ以降の状況は変わっているようです。


『鈴木勲 / ブルー・シティ』
鈴木勲 / ブルー・シティ


『ヤマ&ジローズ・ウェイヴ / ガール・トーク』
ヤマ&ジローズ・ウェイヴ / ガール・トーク


■タイトルを選ぶにあたって、塙さんと尾川さんの好みが違うところもあると思いますが、その辺はいかがですか?

[尾川雄介] 塙さんはモダンジャズからのアプローチとしての日本人ジャズ。僕はレアグルーヴ、DJ文化からのアプローチとしての日本人ジャズ。その両サイドからみた日本人ジャズに「和ジャズ」があった、という感じです。


■JJazz.Netにもその両サイドからの方が集まっています。

[尾川雄介] 『和ジャズディスクガイド 1950s - 1980s』が出てから、モダンジャズ視点から和ジャズに興味を持った方がそこにレアグルーブ的価値があることがわかって興味を持ち始め、逆にレアグルーブ視点で和ジャズに興味を持った方がモダンジャズ的価値に興味を持ち始めたという面白い現象が起こっています。


■素晴らしいことですね。別の視点から評価されているものに興味を持って受け入れていく。

[尾川雄介] 「和ジャズ」という土台が固まってきたという印象はありますね。


■そういう状況のもとでのTBM再発なんですね。

[塙耕記&尾川雄介] ありがたいことに、そういうことです。


■TBMというレーベルを知らない人たちに向けてお知らせすると、どういう説明になりますか?

[尾川雄介] 設立が1970年です。絶対的なことは、ジャズ専門レーベルだということですね。日本でジャズ専門レーベルって大手レーベルの傘下にはあるのですが、独立系レーベルでここまで多くのタイトル(約150タイトル)を発表しているのはスリー・ブラインド・マイスだけですね。もう圧倒的です。

[塙耕記] 音楽的なポリシーで一番近いのは、ビクターの「日本のジャズシリーズ」ですね。1968から1969年にスタートしているんですけども、オリジナリティのある若手を起用した、そしてアーティスト主導でオリジナル曲をたくさん収録したというのが似ている点ですね。

[尾川雄介] 若手にアルバムを作る機会を与えるというのは、当時ではすごく珍しかったでしょうね。さっき言いましたように、基本的にレーベルは大手なのであまり冒険はしないですよね。

[塙耕記] だいたいレーベルの始まりが、新人のデビュー・アルバムですからね!


■皆さんご存知、テナーサックスの峰厚介さんのデビュー・アルバム『峰厚介 / ミネ』がTBMの1番です。

[塙耕記] ありえないじゃないですか!?

[尾川雄介] ありえないですね。

[塙耕記] 3番は『植松孝夫 / デビュー』ですからね。

[尾川雄介] その名の通り、植松さんのデビューですからね。

[塙耕記] ありえないですよ!他で実績を出している若手を起用するとかなら分かるんですけど、デビュー作品ですからね。これでもう、TBMの凄さがわかると思うんですよ。

[尾川雄介] スリー・ブラインド・マイスって、ここでデビューしたミュージシャンが多くて、峰さん、植松さんもそうだし、水橋孝さんとか土岐英史さん、トロンボーンの福村博さんもスリー・ブラインド・マイスでファーストアルバムですからね。


『峰厚介 / ミネ』
峰厚介 / ミネ


『植松孝夫 / デビュー』
植松孝夫 / デビュー


■当時のTBM作品の反響ってどうだったんでしょうね。何かその辺りについて聞いたことはありますか?

[塙耕記] すごく売れたっていう話は聞いていませんが、音質に拘った作品というのは最初から打ち出していたので、一定の評価をするオーディオファン、根強いファンはいたらしいです。『山本剛 / ミスティー』は大ヒットですね。


『山本剛 / ミスティー』(10月再発予定)
山本剛 / ミスティー


■今回の48タイトル再発のセレクション・ポイントを教えて下さい。

[塙耕記] レーベルとして発売する立場として一番取り入れたかったのは、30-40代の人をターゲットにしたいというのがありました。なので、まずは尾川さんにDJ視点でセレクトして頂きました。それでモダンジャズで外せないものだとか、どうしてもリリースしなくてはいけないものだとかを織り交ぜました。あと、シリーズになるとリリースする順番は適当っていうわけには行かないのでかなり考えましたね。


■例えば、8月に発売の7タイトルは全て高柳昌行さんの作品でまとめられていますね。

[塙耕記] 当時の発売の順番通りですとバラバラですもんね。ボーカルものだったりモダンジャズ視点のもの、DJ視点のものをバランスよく並べました。

[尾川雄介] あとは、ちょっとイヤらしい話ではあるんですけど、僕と塙さんは中古レコード販売にも携わっているので、「今、中古で出るとすぐに売れるタイトル」だとか「中古で最近見かけないタイトル」だとか「実は内容がいいけど中古であまり見かけないタイトル」っていうのをさり気なく滑りこませてあります。


■8月発売の第3期のタイトルは、高柳さん関連のタイトルでまとめられていてシリーズの中でも目を引きますね。TBMでの高柳さん作品にはどういう印象をお持ちですか?

[塙耕記] 高柳さんというとフリージャズのイメージが強くて、フリージャズを聴かない人は敬遠しちゃうんですけど、実はTBMでの高柳さんの作品の中でどフリーなのは『高柳昌行とニューディレクション・ユニット / メルス・ニュー・ジャズ・フェスティバル '80』だけなんですよ。まあ、アルバムの中に1曲だけ入っていたりもするんですけど、あとの他の作品は、これが高柳さんなの??っていう音なんですよ。『高柳昌行セカンド・コンセプト / クール・ジョジョ+4』なんてコニッツ、トリスターノの世界でクール・ジャズですよ。僕はね、このアルバムはレコード屋さんで自分が思っているより安い値段で出ていると毎回買うんですよ。

[一同] 笑

[塙耕記] 6枚持っていますよ!

[一同] 笑


『高柳昌行とニューディレクション・ユニット / メルス・ニュー・ジャズ・フェスティバル '80』
高柳昌行とニューディレクション・ユニット / メルス・ニュー・ジャズ・フェスティバル '80


『高柳昌行セカンド・コンセプト / クール・ジョジョ+4』
高柳昌行セカンド・コンセプト / クール・ジョジョ+4


■そういうのありますよね!救出ですよね。すごくわかります。

[尾川雄介] ほっとけないという。笑

[塙耕記] 本当に好きなんですよ。


■僕もこのアルバムは超好きです。

[塙耕記] 尾川さんのDJ視点からは語り草がいっぱい出てきますよね。

[尾川雄介] 僕もね、塙さんと同じですね。一般的にはフリージャズにカテゴライズされる高柳さんが、DJ視点で言うところのいわゆるスピリチュアルジャズに分類できそうなことをやっていたというね。例えば『高柳昌行とニュー・ディレクション・フォー・ジ・アーツ / フリー・フォーム組曲』とか、ティー&カンパニーの全作品とか。この魅力っていうのは高柳さんしか出せなかったと思うんです。それがスリー・ブラインド・マイスにこれだけの数が残されているというのは驚きですね。


『高柳昌行とニュー・ディレクション・フォー・ジ・アーツ / フリー・フォーム組曲』
高柳昌行とニュー・ディレクション・フォー・ジ・アーツ / フリー・フォーム組曲


■その他、意外なところではボーカル作品が多いですね。歌はもちろんですが、バックの演奏も素晴らしいです。7月発売の第2期のシリーズに入っていて、JJazz.Net番組「PICK UP」の7月分で皆さんにご紹介した『森山浩二、山本剛 / スマイル』が大好きです。

[一同] いいですよね~

[塙耕記] これと『森山浩二、山本剛 / ナイト・アンド・デイ』も第5期として10月に発売します。音もほんとに良いのでオススメです。軽妙洒脱な歌い方が好きになっちゃって、森山浩二は他にもビクターとかに録音があるんですが、全部CD化したいっていう気持ちになって、まあ、これで達成できるんですけど。笑

[一同] 笑


『森山浩二、山本剛 / スマイル』
森山浩二、山本剛 / スマイル


『森山浩二、山本剛 / ナイト・アンド・デイ』(10月再発予定)
森山浩二、山本剛 / ナイト・アンド・デイ


■思ったことをやっていますね。笑

[塙耕記] そうそうそう。笑 あとボーカル作品で注目は、TBMに1作品だけ残した笠井紀美子さん。『笠井紀美子、峰厚介 / イエロー・カーカス・イン・ザ・ブルー』。

[尾川雄介] これがね~、素晴らしい!

[塙耕記] 峰厚介さんと一緒にね。すごくいいんですよ。


『笠井紀美子、峰厚介 / イエロー・カーカス・イン・ザ・ブルー』
笠井紀美子、峰厚介 / イエロー・カーカス・イン・ザ・ブルー


■DJにとって笠井紀美子さんで有名な作品は『Butterfly』ですよね。
[尾川雄介] そうなんですけれども、ぜんぜん違う感じで素晴らしいですね~。


■尾川さん、唸っていますね。笑

[尾川雄介] 笑 この作品は個人的なTBM体験で一番強烈なものなんです。90年代半ばに、夜中にテレビを見ていたら古いドキュメンタリータッチのドラマがやっていてですね、そこに役者として笠井紀美子さんが出演していたんですよ。で、椅子に座ってタバコを吸いながら歌うんですよ、アカペラで。それがもう衝撃的にかっこよくて。その時には歌っていたその曲がなんという曲だかはわからなかったんですけど、後年、スリー・ブラインド・マイスで峰さんと共演しているこのアルバム『イエロー・カーカス・イン・ザ・ブルー』を買ったらその曲が入っていたんです(しみじみ)。後にそのドラマのことも調べたら、1971年に作られた「さすらい」というロードムービーでした。



■えーっ、たまたま見ていて、衝撃的な曲に出会ったんですね!

[尾川雄介] 本当にたまたまで!

[塙耕記] そのドラマのDVDとかないの?

[尾川雄介] ないんですが、NHKのオンデマンドで見れるんですよ。(現在は視聴できないようです)笠井紀美子さんが出演しているドラマだから、映画「ヘアピン・サーカス」かと思ってDVDを買って見てもその曲は入っていないし、一体何なんだろうと思っていたら、NHKで昔に放送したドラマだったんですよ。


■すごくドラマチックな出会いで忘れられないですね。

[尾川雄介] ほんと、忘れられないです。

[塙耕記] しかもこの曲は、プーさん(菊地雅章)の曲ですけど、笠井紀美子さんが歌詞を乗せているんですよね。

[尾川雄介] そうそうそう、笠井さんが英語の歌詞をつけて歌っているんです。

[塙耕記] こちら(笠井紀美子さんのボーカルバージョン)よりもプーさんの演奏を知っていたので、この曲を初めて聴いたときはなんでボーカルなの?とびっくりしましたね。なので、この曲に関しては、僕にとっても引っかかるものがあったんですよね。

[尾川雄介] もう絶唱ですね。素晴らしい。演奏も歌も。ちょっと普通じゃ聴けないようなものですね。


■そんなに熱く言われると楽しみだな~!このアルバムはいつ発売を予定しているんですか?

[塙耕記] 9月発売の第4期のシリーズです。


■もうすぐだ!楽しみだよ~

[尾川雄介&塙耕記] 笑


■塙さんの個人的なTBM体験を教えて下さい。オススメは?

[塙耕記] これ、オススメがありすぎるな~ 笑

[尾川雄介] うまいな~ 笑


■笑 じゃあ2枚でも3枚でもOKですよ。

[塙耕記] さっき言いましたけど、『高柳昌行セカンド・コンセプト / クール・ジョジョ+4』なんて、レコード6枚も買うほど好きなんですね。


■笑 それはなんでそこまで好きなんですか?

[塙耕記] 僕ね、リー・コニッツとかレニー・トリスターノとかあの辺のクールなタイム感がものすごく好きで、、、

[尾川雄介] なんだけど、高柳さんがやると、、、、

[塙耕記] そう、微妙なテンポのズレ方があって。

[尾川雄介] わかる!

[塙耕記] 独特なんですよ。癖になるというか。例えば、セロニアス・モンクが好きになっちゃうようなもんですよ。あれも独特で、好きな人はすごく好きじゃないですか。その要素もあって大好きですね。


■なるほど。

[塙耕記] あとは、この再発をやって好きになったのが『三木敏悟、高橋達也と東京ユニオン / 北欧組曲』。

[尾川雄介] あ゛ーー

[塙耕記] 実を言うと、本当に申し訳ないんですけど、この作品を聴いたのは結構遅くて。。。中古レコード屋でこのアルバムが100円とか300円とかでいつもあるんで全然聴く気がしなくて(苦笑)。それだけ当時売れているということなんですけどね。


『三木敏悟、高橋達也と東京ユニオン / 北欧組曲』
三木敏悟、高橋達也と東京ユニオン / 北欧組曲


■売れていたのでいっぱい発売されたということですよね。

[尾川雄介] その通りです。

[塙耕記] そういうこともあって、この作品を聞いたのは結構遅いんです。『和ジャズディスクガイド 1950s - 1980s』を書くちょっと前ぐらいかな。

[尾川雄介] わかる。中古市場でよく目にするものってついつい後回しにしちゃうんですよね。


■いつでも聴けるや、みたいな感覚ですよね。

[塙耕記] こちらのね、悪い癖なんですよ。それで聴いてみたらもう、絶品なんですよね(しみじみ)。

[尾川雄介] いいですよね~(しみじみ)。

[塙耕記] エネルギッシュな部分があって。そしてミッキー吉野さんがキーボードで参加していて、彼と三木敏悟さんがバークリー帰りでね。TBMのすごいところは、ここでも当時有名でない人を起用しているんですよね。

[尾川雄介] 三木敏悟さんが作曲で、高橋達也と東京ユニオンが演奏、そこにキーボードでミッキー吉野さんが入るって、普通に考えたら訳分かんない組み合わせですよ。

[塙耕記] まだまだ知られていなくて、これを機会に聴いていただけると人気が出るんじゃないでしょうか。本当に再評価だと思いますよ、この作品は。あとは当たり前に知られている作品もきちんと出します。レアグルーブとして和ジャズとして超有名な『中村照夫 / ユニコーン』とか『鈴木勲 / オランウータン』とか。

[尾川雄介] スリー・ブラインド・マイス云々以前にね。

[塙耕記] あとは、『日野元彦カルテット+1 / 流氷』。好きだな。


『中村照夫 / ユニコーン』
中村照夫	/ ユニコーン


『鈴木勲 / オランウータン』
鈴木勲 / オランウータン


『日野元彦カルテット+1 / 流氷』(12月再発予定)
日野元彦カルテット+1 / 流氷


■どういったところが好きですか?

[塙耕記] それは、尾川さんが『和ジャズディスクガイド 1950s - 1980s』で熱く語ってくれています。あとは初CD化の作品も多いですね。『ジミー・ヨーコ&シン / 清少納言』とか。

[尾川雄介] これは聴いたらびっくりしますよ。めちゃくちゃかっこいいですよ(小声)。


『ジミー・ヨーコ&シン / 清少納言』(12月再発予定)
ジミー・ヨーコ&シン / 清少納言


■なんで小声なんですか。笑

[塙耕記] 尾川さん、この作品については?

[尾川雄介] え、これは僕がセレクトしたんでしたっけ?

[塙耕記] いや、僕が入れたんだけどね(笑)。

[尾川雄介] 第1回日本ジャズ・グランプリで最優秀グループになった3人組で、ジャズと民謡とロックを混ぜたような音楽ですね。


■日本の民謡ですか?

[尾川雄介] そうです。ソーラン節とか。これがね、今聴くと刺激的なんですよ。


■DJとかが反応しそうなサウンドですか?

[尾川雄介] DDJ XXXLのミックス・シリーズ『Nippon Breaks & Beats』に収録されていて、「あれは誰の曲だ?」って話題になったんですが、皆んな分からなくて。で、スリー・ブラインド・マイスの『清少納言』に入っているとわかった時は驚きでしたね。それ以来、ちょっとまた人気が出た感じの作品です。


■それが初CD化なんですね。

[塙耕記] 初CD化です!あとは、ジャズの作品として『峰厚介 / ミネ』はものすごく完成度が高いと思います。


■いやー、すごいですよね。演奏が素晴らしい!番組「PICK UP」の6月分で皆さんにご紹介しました。

[塙耕記] ね!あと、音色がいい。もうなんかね、しびれるんですよ。

[尾川雄介] ほんと、素晴らしい。

[塙耕記] あと、『水橋孝カルテット+2 / 男が女を愛する時』も完成度が高くて、これからもっと人気が出ると思います。

[尾川雄介] この作品は、ここ最近、中古市場で売りに出されるとこっそりとすぐに無くなるタイプの品ですね。

[塙耕記] 今回の再発で知られると、中古市場での動きも変わると思います。

[尾川雄介] 変わりそうですね。もんのすごく内容がいいんですよ。

[塙耕記] 僕は哀愁系が好きなんです。さっきの『三木敏悟、高橋達也と東京ユニオン / 北欧組曲』もそういう曲が入っているんですけど、『水橋孝カルテット+2 / 男が女を愛する時』の1曲目もすっごい素晴らしい。あと2曲目の「So What」。15分間やってるんですけど。

[尾川雄介] このベースが、すごい!


『水橋孝カルテット+2 / 男が女を愛する時』
水橋孝カルテット+2 / 男が女を愛する時


■また唸ってますね~。

[塙耕記] だからアルバム全体としてオススメしたいのは、『高柳昌行セカンド・コンセプト / クール・ジョジョ+4』、『峰厚介 / ミネ』、『水橋孝カルテット+2 / 男が女を愛する時』の3枚だな。とにかく『高柳昌行セカンド・コンセプト / クール・ジョジョ+4』大好き!

[一同] 爆笑


■6枚持ってるんですもんね!

[塙耕記] 売りませんよ!笑


■よくわかりました。笑 あとは、ビッグバンドのことについて。原信夫さんがTBMに作品を残しているというのは意外ですよね。

[塙耕記] そう。TBMに作品があることを知らない人は多いですね。今回再発する『原信夫とシャープス&フラッツ / 活火山』って何?って皆んなに言われますね。

[尾川雄介] 素晴らしいアルバムですね~。シャープス&フラッツがアグレッシブなことをやってやがてフュージョン期に入っていくんですけど、そのちょっと後に完全に成熟したタイミングがあるんですね。いわゆるビッグバンドのダイナミズムも楽しめるし、モダンジャズとしてもジャズロックとしても非常に優れた魅力を備えていて、ものすごく聴きごたえのある音楽を演奏していた時期。その頃の作品です。

[塙耕記] 普通は、マイナーレーベルでビッグバンドの録音なんてないんですよ。予算がすごくかかるので。ところがTBMには原信夫やジョージ川口だったりビッグバンドの録音が結構あるというのが大きなポイントですね。あとは、この作品の編曲家に注目ですね。当時の新進気鋭のアレンジャー「しかたたかし」が担当しているのですが、それが素晴らしいんですよ。


『原信夫とシャープス&フラッツ / 活火山』
原信夫とシャープス&フラッツ / 活火山


■ここでも、新進気鋭ですか。ビッグバンドはアレンジャーの仕事に注目してみるという楽しみ方もありますね。

[塙耕記] あとは、鈴木勲さんと山本剛さんの作品ですね。このお二人の作品は当時全部ヒットしていますから。鈴木さんの作品は、今回の再発シリーズでは8月の高柳昌行特集以外全てに入れています。

[尾川雄介] レアグルーブの方で鈴木勲さんというと、サンプリングネタにもなっている『BLOW UP』というイメージがありますけど、今回再発する『鈴木勲 / あこの夢』に収録されている「Feel Like Makin' Love」が素晴らしいんですよ。すーごくハートフルな、ベースがほんっとに良く歌っているバージョンです。今、人気がすごくありますね。


『鈴木勲 / あこの夢』(10月再発予定)
鈴木勲 / あこの夢


■話は尽きないですね!

[尾川雄介] こうやってレコードを持ってきていたら、いつまででも話せますね。笑 実際に聴いてみたりして。


■よくわかりました。笑 今回の再発ならでは、というような企画はあるんでしょうか?

[塙耕記] 6~7タイトルずつ、毎月7回にわたって合計48タイトルを発売するという風に、現在のところは予定しています。反響がすごく良かったら、追加があるかもしれません。それで、毎月の再発からいずれかのタイトルを購入すると、毎回デザインの違うステッカーが付きます。これはどのお店で購入しても付きます。(なくなり次第終了) それと、ディスクユニオンで購入するとですね、その月に再発されたCDすべてがピッタリと収まるCDボックスがもらえます。


特典ステッカー(サンプル)
第3期特典ステッカー 第4期特典ステッカー


特典ボックス(サンプル)
特典ボックス 特典ボックス


■そのボックスはどれか一枚を購入するともらえるんですか?

[塙耕記] いいえ。その月に再発されたCDをまとめて購入するともらえます。例えば、8月でいうと、高柳昌行さんの7タイトルをディスクユニオンでまとめて購入するともらえるというわけです。


■このボックスが、くすぐってきますね。笑

[塙耕記] 実はこれも毎回デザインを変えます。


■こだわりますね~

[塙耕記] あと、ジャケットも紙ジャケットで、紙質なども可能な限りオリジナル盤を再現しています。


■ライナーノーツも当時の再現ですか?

[塙耕記] オリジナル盤の仕様を再現しています。ジャケットとライナーノーツのサイズ比は少し違うんですが、CDのジャケットに挿入できてなおかつ読みやすい大きさにして再現しています。中に入るギリギリの大きさというものにミリ単位でこだわっています!


■おお、すごーい!冊子みたいになっているんですよね。

[塙耕記] さらにこのライナーノーツの紙質から印刷の雰囲気まで、ぜーんぶ、再現しています。


■こりゃ、すごいこだわりですね!

[塙耕記] それで音質はBlu-spec CDですから満足していただけると思いますよ!しかもBlu-spec CDのロゴを帯に載せなければいけないんですけど、普通はそのロゴは青いものなんですけど、今回はソニーさんに無理を聞いていただいて、スリー・ブラインド・マイスのデザインにマッチするようにモノクロにしてあります。


■そういうことって大切ですよね。そこが青かったら画竜点睛を欠くというか。

[尾川雄介] 僕はTHINK!レコードの人間ではないのですが、出来れば今回の再発はまとめて買っていただきたいですね。さっき言いましたように、和ジャズを軸にしてモダンジャズファンとレアグルーブファンが互いの評価している音楽に興味を持ち始めて、新たな発見を楽しんでいます。そういうことってちょっと踏み込んでみないと起こらないと思うんですよね。そんな中で、今回の再発は両方の側面をうまく混ぜ込んでまとめてありますので、できれば6枚7枚をまとめて買ってみていっぺんに聴くと新たな発見があると思います。

[塙耕記] スリー・ブラインド・マイスのタイトルをこれだけ大掛かりに再発することは初めてのことなんですよ。最初で最後のCD化じゃないかと思うタイトルが混ざっています。当時の日本人のジャズ史、約10年ほどを捉える機会だと思います。

[尾川雄介] モダンジャズがあって、フリージャズがあって、ジャズロック的なものがあってビッグバンドもあって歌ものもあって。本当にある意味、70年代の日本のジャズの縮図と言っても過言ではないですね。

[塙耕記] 自分も全部欲しいです。日本のジャズがつかめるようになっていますから、そういうライブラリに適してると思います。


[Interview:樋口亨]




尾川雄介(universounds)×塙耕記(diskunion) インタビュー

尾川雄介(写真右)
「中古レコード店universoundsの主宰者。再発シリーズ「Deep Jazz Reality」の監修をはじめ、DJ、ライターなど幅広く活動している」
http://www.universounds.net/


塙耕記(写真左)
(株)ディスクユニオン勤務。ジャズ統括責任者およびTHINK! RECORDSディレクター。廃盤売買で暗躍(笑)する傍ら、BLUE NOTEのアナログ盤や和ジャズの復刻シリーズなどを監修する。著書に"和ジャズ・ディスク・ガイド"がある。

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