Title : 『Reminiscent』
Artist : Dayna Stephens
唸るようにサックスが吹きまくり、4ビートに思わず体が動き出すようなおおよそ僕達が期待するジャズ。Robert GlasperやEric Harland、Avishai Cohen(tp)らと同じく1978年生まれのサックス奏者、Dayna Stephensの新譜はまさにそんな一枚。
まだまだ知名度が低いと思われるDayna Stephensだが、過去5作のリーダー作で共演したアーティストにはGrehchen Parlato、Becca Stevens、Gerald Clayton、Ambrose Akinmusire、Taylor Eigstiなどまさに現代を代表するジャズマンが名を連ねている。Brad Mehldau、Julian Lage、Larry Grenadierらを集めて昨年リリースしたスタンダード中心のバラード集『Peace』から一転、この盤では盟友Walter Smith IIIと絡まるようにテーマを歌い上げ、熱いサックス・バトルを繰り広げている。バックのメンバーはHarish Raghavan、Rodney Green、Aaron Parksの3人を中心に中盤ではギタリストMike Morenoが参加。リズム隊を前作よりもよりストレート・アヘッドなプレイを得意とするメンバーに差し替えつつも、現代的な響きを持つコード楽器陣をあててくるというリーダーのバランス感覚は見事だ。
アルバムはサックス奏者2人のオリジナル曲を中心にスタンダード等全10曲。
1曲目、ミディアムテンポの4ビート曲からDaynaの独特の浮遊感をもったスタイルとWalter Smith IIIのバリバリと吹きまくるスタイルという同じサックス奏者ながらコントラストのあるソロバトルが楽しめる。「なるほどこの2人はこういう違いがあるのだな」と思って聴いていると、2曲目。ハイテンポのいかにもハードバピッシュな曲では二人とも息つく暇が無いほど吹きまくりどちらがどちらの音だか分らなくなるようなまた違ったバトルが繰り広げられそのギャップにやられてしまった。Aaron Parksのしっとりとしたピアノをフィーチャーしたスタンダード"Blue In Green"や、サックス2人とピアノが絡みあうようなイントロから始まるいわゆる歌もの曲、ワルツなどを挟んでラストは大団円のブルースと合計一時間ほどのアルバムだが、まるでライブを見ているような感覚であっという間に終わってしまう。
スタイルだけでなく曲によってテナーサックスを中心に楽器を持ち替えまさに自由自在にソロを歌い上げるDaynaと、テナーサックス一本で真っ向勝負を挑むWalter Smithのバトルにばかりつい目がいってしまうが、バック陣も見逃せない。
Aaron Parksが絶妙な間に投げ込むコンピングや、自身のソロ以外でもあえて単音でバッキングをし、あたかももう一本のサックスのように振る舞うMike Morenoの感覚はまさに現代的。中でも昨年初リーダー作をSmallsから出した気鋭のドラマーRodney Greenは4ビートの曲の中でも実に多彩なアプローチをみせ、同年代のKendrick Scottらと並んで新しいストレート・アヘッド・スタイルのドラムを提案しているように思える。
総じて決して派手な新しさではないが、伝統と歴史を飲み込んだ確かに更新された2010年代のストレート・アヘッドの痛快な傑作です。
そしてDaynaは早くも次のリーダーアルバム『Gratitude』が夏頃に発売予定だそう。
文:花木洸 HANAKI hikaru
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■Help Dayna Stephens■
現在ダイナ・ステファンスの巣状糸球体硬化症 (FSGS)という腎臓病の治療の高額医療費を集めるため"Help Dayna Stephens"という名で募金活動が行われています。
ホームページにはTom Harrell、Gretchen Parlatoらがコメントを寄せ、ピアニストTaylor Eigstiが援助を求める動画をYou Tubeにアップしています。
Help Dayna Stephens
http://helpdaynastephens.org/
Help Dayna Stephens Find a Kidney!
https://www.youtube.com/watch?v=7Lg6IEAOvFY#t=55
【Dayna Stephens: Blues Up and Down】
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Reviewer information |
花木 洸 HANAKI hikaru 東京都出身。音楽愛好家。 |