Title : 『Fast Future』
Artist : Donny McCaslin
今月の一枚は、マリア・シュナイダー・オーケストラやアントニオ・サンチェスのグループで活躍中のサックス奏者、ダニー・マッキャスリンのリーダー作『Fast Future』。
一曲目からセンターに定位したバスドラムとそれよりも音域的に下に位置するベースラインが現代の録音作品としてのジャズを思わせる。左右に乱反射しながらアンサンブルに溶け込んでいくJason Lindnerのシンセサウンドがとても心地よく、空間を満たす。それらを塗りつぶすようなバリバリのアドリブによってアンサンブルを引っ張っているのがMcMaslinのサックスだ。硬質なMark Guilianaのドラムは、リーダー作『Beat Music: The Los Angeles Improvisations』でみせたような過激なエフェクトは無いにせよフレーズと同時にそのサウンドでバンドに新鮮味をもたらしている事は疑いようがない。
前作ではBoards Of Canadaの「Alpha and Omega」を見事にジャズに昇華させたMcCaslinだが、今作ではAphex Twin「54 Cymru Beats」、Baths「No Eyes」の上で見事なインプロビゼーションを聴かせる。ジャンルの融合とも言うべくこれらのチャレンジはSkrillexやAphexからの影響を語るMcCaslinと共に、これらの音楽に造詣の深いバンドメンバーの力もあって成し得た技だ。そしてこのバンドはそれらの感覚・言語でもって従来のアドリブソロというジャズルールも見事に乗りこなしている。どこまでがその場のケミストリーによって生まれたアドリブでどこまでが作曲によるものなのかがわからなくなるほど見事な緊張感に包まれたアンサンブルだ。
この作品だけに言えることではないが、近年のジャズの大きな潮流として「作曲」と「即興」の意義が最も変化しているように思う。作曲はスコア上のものだけでなく録音物のテクスチャーに及び、時に即興も作曲の一部分へと姿を変える。アドリブ・ソロをもはやスキルやセンスの戦いの場としてだけでは無く、トータルサウンドの背景の一部として配置される事も多々ある。テクスチャーだけでなくチル・アウトしていくリフレイン・フレーズの心地よさ、ビートがブレイクした瞬間の爽快感はエレクトリック・マイルス以前から長年ジャズが内包しつつもその外側からの「再発見」によって再び評価と注目を集めている魅力であるように思う。
前回の記事はこのような文から書き出した。今やこのような語法では現代のジャズの全てを語ることは出来ない。だがしかしそれらは今も同一の地平にある音楽だ。
ー追記ー
Donny McCaslinの過去の活動については北澤氏がまとめた以下が国内外含め最も詳しいと思うので参照されたし。
第4回:ダニー・マッキャスリン ニュー・アルバム『Fast Future』カウントダウン特集 | ジャズとソーシャル・ミュージック - Mikiki
http://mikiki.tokyo.jp/articles/-/5973
文:花木洸 HANAKI hikaru
【Donny McCaslin's 'Fast Future' live at the 55 Bar】
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Reviewer information |
花木 洸 HANAKI hikaru 東京都出身。音楽愛好家。 |