Title : 『Moving Color』
Artist : 吉本章紘カルテット
今月のレコメンドは、日本人サックス奏者吉本章紘の最新作『Moving Color』。
前作『Blending Tone』から3年ぶりとなるリーダー作。ベースを須川崇志に替えた以外は前作と同じメンバーで、このバンド以外でもメンバーはそれぞれのグループに参加しあうなどかなり気心のしれたメンバーと言えるだろう。
全8曲が吉本のオリジナル曲で、アルバムタイトル通りの色とりどり鮮やかな曲が続く。作曲者の吉本が思い描いたサウンドの彩りを担っているのは、ビート・メイカーでもあるパプアニューギニア出身のピアニストアーロン・チューライ(pf)、辛島文雄トリオや日野皓正カルテットで活躍した須川崇志(b)、今や名実ともに若手ナンバーワンドラマーとも言える90年代生まれのドラマー石若駿(ds)というバンドメンバーだ。
1曲目の「Deep-Sea Fish Waltz」から全体を通してアーロン・チューライと石若はかなり自由度が高く、アンサンブルの中に色を散りばめ、須川のベースがそこに1本軸を通すように鳴ることもあれば、よりアグレッシブにフロントと反応しあう場面もありという全員が提案しつつ、反応しつつ繰り広げられるメンバー間のインタープレイはかなり聴きもので、聴きながら思わず感嘆をもらすような場面がどの曲にもある。コンテンポラリーな楽曲が続く中で、「The Mystery Of Onion Rings」では4ビートのブルースという伝統的な枠を使いながらも、それぞれの解釈で現代的にアップグレードされた新しい音を使って良い意味で遠慮のない会話がなされる。
このバンドの一番の魅力は何と言ってもこの遠慮の無い「会話」であるように感じた。「Nostalgic Farm」での美しいサックスにからむ端正なサウンドから次曲、「Sabaku No Akari」でバンドサウンド全体が大きな生き物のように唸って魅せる爆発力。このコントラストに代表されるように、バンドメンバー全員の楽曲への理解、イメージの共有のレベルが尋常ではない。この一時間近いアルバムのレコーディングを1日で終えたことがそれを物語っている。一分の隙も油断もなく次々に展開されるこのバンドサウンドは、今も日々ライブで磨きがかかっていっていることは間違いない。是非ライブに行ってその目で確かめて欲しい。
正直、まだ6月だが今年のベスト候補のジャズアルバムが出てきてしまったと思っている。これはジャズに限った話ではないが、「日本人のジャズ」を海外のジャズと区別して考えている人が多いのではないか?と思うことが多々ある。
そんな現状を軽々と飛び越えるようなこのアルバムは、ジャズを志す日本の若者にとって、何より日本でジャズを聴く僕にとっての希望である。
文:花木洸 HANAKI hikaru
【Akihiro Yoshimoto Quartet 『Moving Color』視聴】
この連載の筆者、花木洸が編集協力として参加した、金子厚武 監修『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)が発売になりました。シカゴ音響派などジャズとも互いに影響しあって拡がった音楽ジャンルについて、広い視点から俯瞰するような内容になっています。
■タイトル:『ポストロック・ディスク・ガイド』
■監修:金子 厚武
■発売日:2015年5月30日
■出版社: シンコーミュージック
■金額:¥2,160 単行本(ソフトカバー)
20年に及ぶポストロック史を、600枚を超えるディスクレビューで総括!貴重な最新インタヴューや、概観を捉えるためのテキストも充実した画期的な一冊。90年代に産声をあげた真にクリエイティヴな音楽が、今ここに第二章を迎える。
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Reviewer information |
花木 洸 HANAKI hikaru 東京都出身。音楽愛好家。 |