Title : 『Speaking In Tongues』
Artist : Luciana Souza
ワールド・ミュージックとジャズ、というのは随分前から近くて遠いような不思議な距離関係にあったように思う。アフロ・キューバンからラテン、ブラジリアン・フュージョン...並べるときりがないのだけれど、僕には近年その距離がぐっと近づいて来た感触がある。今回紹介するアルバムは正にワールド・ミュージックとジャズの見事に絡み合ったような、そんなアルバム。
ルシアナ・ソウザはボサ・ノヴァの名曲を作り出したヴァルテル・サントスとテレーザ・ソウザの2人の間に生まれたブラジル/ジャズのフィールドで活躍するサンパウロ出身の女性ボーカリスト。ダニーロ・ペレス、ギジェルモ・クレインといったラテン・ルーツのジャズマンだけでなくジョン・パティトゥッチやフレッド・ハーシュ、さらにはハービー・ハンコックやマリア・シュナイダーにも起用される才女だ。
その彼女の最新作は、西アフリカのベナン出身リオーネル・ルエケ(Gt)、スイス出身でパット・メセニー・グループにも参加したグレゴア・マレ(Harmonica)、スウェーデン出身でリオーネルのトリオ"GILFEMA"でも活躍するマッシモ・ビオルカティ(b)、そして自身のバンドやサイドマンで今もっとも注目されるジャズ・ドラマーと言えるであろうケンドリック・スコット(ds)というメンバーの多国籍さが目を引く。
ルシアナ・ソウザは2曲を除いて歌詞を歌うボーカルとしてではなく、歌詞の無いボイスのパフォーマンスを見せ、そこに絡むリオーネルの自由奔放で極めて独創的なスタイルのボイスとギター、グレゴア・マレのハーモニカが音色も含めてこのアルバムの多国籍さを担っているとしたら、そこに一本筋を通すようにベースとドラムが構築するリズムがこのアルバムをジャズたらしめているという事になるだろう。誰一人伝統的なジャズの手法をとってはいないのだけれど、ジャズに聴こえるから不思議だ。フロントの三人は一糸乱れぬユニゾンを見せたかと思えばそれぞれでソロを取り始めるこの絡み合いが絶妙でクセになる。
このアルバムの2015年の音楽としての新鮮さについて考えると、クリアで手の込んだミックスは触れないわけにはいかない。曲によって質感を大きく変えるドラムサウンドや曲によってエフェクトが加えられたハーモニカに顕著なように、オーガニックな素材に対する新しいアプローチは、ジャンルは違えど今年話題になったアラバマ・シェイクスとも近いものが感じられる。
ジャズ・ファンにもワールド・ミュージック・ファンにも聴いて欲しい一枚。これはジャズという枠を取っ払っても今年のベスト候補のアルバムになるかもしれない。
文:花木洸 HANAKI hikaru
【Luciana Souza EPK of new album "Speaking in Tongues" 】
この連載の筆者、花木洸が先日発売になりました『Jazz The New Chapter 3』で編集・選盤・レビュー記事などを担当。ブラック・ミュージックの最先端からUKジャズ、ネクスト・ジャズ・ファンク、ラージアンサンブル等ここにしかない記事・インタビューが盛り沢山となっています。
■タイトル:『Jazz The New Chapter 3』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2015年9月10日
■出版社: シンコーミュージック
今日においてはジャズこそが時代を牽引し、ディアンジェロやフライング・ロータスなど海外の最先端アーティストから、ceroなど日本のポップ・シーンにも大きな影響を与えている。この状況を予言し、新時代の到来を告げた「Jazz The New Chapter(ジャズ・ザ・ニュー・チャプター)」の第3弾がいよいよ登場。2014年の刊行時より刷数を重ね、SNS上でも未だ話題沸騰中の第1弾・第2弾に続き、2015年9月末に〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉が開催されるなど、かつてない活況を迎えているジャズの次なる未来は、ニューチャプターが切り拓く!
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Reviewer information |
花木 洸 HANAKI hikaru 東京都出身。音楽愛好家。 |