Title : 『Tribe of D』
Artist : David Negrete
ヒップホップをはじめとして他ジャンルの語法を持ち込んだジャズというのは昨今のトレンドともいえる流れだけれど、実際にそれらを上手く取り込んだ「カッコいいジャズ」っていったいどのくらいあるんだろう。結局「カッコいいジャズ」で一番最初に浮かぶのはやっぱりサックスやトランペットがアツいソロをとるバンドだったりするものだ。今月紹介する日本で活動するサックス奏者、デイビット・ネグレテのデビューアルバムはそんな疑念を一発で吹き飛ばしてくれる一枚。
再生ボタンを押して、バンドインした瞬間からもうカッコいい。ユニゾンするサックスとトランペットが往年の名盤を思わせる一方で、後ろにはスペイシーなエレピが鳴り、ドラムとベースの刻むアクセントは明らかに現代のものだ。いわゆる90年代のコンテンポラリー・ジャズとも違う、もっとストレートなジャズをそのまま現代にアップデートしたようなこのバンドのサウンドに一気に惚れてしまった。スタンダードの「The Shadow of Your Smile」を除く全曲が彼の筆による楽曲だが、TAKAO(prelude)~TAKAO(climb & descent)のようなスケールの大きい曲もあれば、どストレートな4ビート曲もあったりとアレンジの幅には驚かされる。中でもトランペッターとして知られる市原ひかりがボーカルで参加したHealは絶品だ。楽曲によってエレクトリックにもアコースティックにもなるバック陣の、音色も含めて適所に適音を置いていくセンスが素晴らしい。この連載でも以前取り上げたピアノの宮川純は、ここでも生のピアノとエレクトリックなサウンドを巧みに使い分けバンドをリードしている。ストレート・アヘッドなジャズのサウンドに加えて、明らかにジャズだけではないエッセンスを取り込んで完璧に着こなすこの世代のバランス感覚にはやっぱり驚かされる。
アルバムを貫くサックスの気持よくストレートなサウンドと、豊富なアレンジの幅を支えるバック陣、加えてジャケットもPVも良い。こんなトータルなプロデュース力がデイビット・ネグレテの一番の力だと感じた。
文:花木洸 HANAKI hikaru
【David Negrete [Surveying]】
【David Negreteアルバム『 Tribe of D』試聴動画】
この連載の筆者、花木洸が先日発売になりました『Jazz The New Chapter 3』で編集・選盤・レビュー記事などを担当。ブラック・ミュージックの最先端からUKジャズ、ネクスト・ジャズ・ファンク、ラージアンサンブル等ここにしかない記事・インタビューが盛り沢山となっています。
■タイトル:『Jazz The New Chapter 3』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2015年9月10日
■出版社: シンコーミュージック
今日においてはジャズこそが時代を牽引し、ディアンジェロやフライング・ロータスなど海外の最先端アーティストから、ceroなど日本のポップ・シーンにも大きな影響を与えている。この状況を予言し、新時代の到来を告げた「Jazz The New Chapter(ジャズ・ザ・ニュー・チャプター)」の第3弾がいよいよ登場。2014年の刊行時より刷数を重ね、SNS上でも未だ話題沸騰中の第1弾・第2弾に続き、2015年9月末に〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉が開催されるなど、かつてない活況を迎えているジャズの次なる未来は、ニューチャプターが切り拓く!
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Reviewer information |
花木 洸 HANAKI hikaru 東京都出身。音楽愛好家。 |