Title : 『FLOW』
Artist : 藤本一馬
今月紹介するのはギタリスト藤本一馬の新作『FLOW』。
藤本一馬がポップユニットorange pekoeのギタリスト・作曲者としてシーンに現れたのは2002年。その頃から彼のミルトン・ナシメントをはじめとするブラジル音楽やアルゼンチン音楽やボサノヴァからの影響は聴き取ることが出来る。2011年から始まるソロ名義での作品達は、次第にチェンバーミュージックへと近づいていった。この春から活動拠点を一時ニューヨークへと移す彼が日本へ残したこの作品は、間違いなく彼の最高傑作だ。
ギターのアルペジオが響き、そこにクラリネット、ピアノ、ベースが加わっていく一曲目からアルバムの最後までを貫く、オーガニックな手法とで凛とした空気は彼独特のもの。どの曲もルバートに近いゆったりとしたテンポで、楽曲が持つ世界観に全員が奉仕していく。藤本のギターはもちろんのこと、前作をこの連載で紹介したピアニスト林正樹の左手とベーシスト西島徹の奇跡とも言えるコンビネーションには何度もハッとさせられる場面があった。
このアルバムもストレートなジャズのサウンドには分類されないかもしれないが、互いの音が反応し合いながらゆるやかに重なり、形を変えながら流れていく様は、アンサンブルを基調とする近年のジャズの動向に確かに重なるものがある。目立った楽器のソロがあったとしても、関係性はソリストと伴奏者とはならず、むしろアンサンブルの為のソロといったサウンド。この関係性こそがこの作品を現代のチェンバー・ミュージックたらしめる要素だと思う。それくらい作曲されたパーツとインプロヴァイズされたパーツが複雑に絡み合っているのに、とてもシンプルな耳ざわりに仕上がっているのは彼の底知れない作曲能力によるものだ。
今回の作品をリリースしているが「日本のECM」という声もちらほら聴こえてくる"Spiral Records"。音楽に沿ってパッケージングまで一貫されたデザインと、弦の擦れる音やプレイヤーの息遣いまで余すこと無く閉じ込めた録音が素晴らしいです。
文:花木洸 HANAKI hikaru
【藤本一馬 «FLOW» 】
この連載の筆者、花木洸が先日発売になりました『Jazz The New Chapter 3』で編集・選盤・レビュー記事などを担当。ブラック・ミュージックの最先端からUKジャズ、ネクスト・ジャズ・ファンク、ラージアンサンブル等ここにしかない記事・インタビューが盛り沢山となっています。
■タイトル:『Jazz The New Chapter 3』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2015年9月10日
■出版社: シンコーミュージック
今日においてはジャズこそが時代を牽引し、ディアンジェロやフライング・ロータスなど海外の最先端アーティストから、ceroなど日本のポップ・シーンにも大きな影響を与えている。この状況を予言し、新時代の到来を告げた「Jazz The New Chapter(ジャズ・ザ・ニュー・チャプター)」の第3弾がいよいよ登場。2014年の刊行時より刷数を重ね、SNS上でも未だ話題沸騰中の第1弾・第2弾に続き、2015年9月末に〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉が開催されるなど、かつてない活況を迎えているジャズの次なる未来は、ニューチャプターが切り拓く!
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・2015.04 ・2015.05 ・2015.06 ・2015.07 ・2015.08 ・2015.09 ・2015.10 ・2015.11 ・2015.12 ・2016.01 ・2016.02 ・2016.03
Reviewer information |
花木 洸 HANAKI hikaru 東京都出身。音楽愛好家。 |