Title : 『Melancholy of a Journey』
Artist : 佐藤浩一
今月のディスクは佐藤浩一『Melancholy of a Journey』。rabbitooや橋爪亮督Group、土井徳浩Quartet、本田珠也トリオなどライブシーンではかなり頻繁に名前を目にするピアニストではあったけれど、本人名義の作品はこれで2枚目。前作から5年ぶりと久しぶりの作品だけれど、このアルバムの隅々までこだわり抜かれた 濃厚な音の説得力の源はそこにあると思う。
メンバーは土井徳浩(Clarinet, Bass Clarinet)、市野元彦(Guitar)、伊藤ハルトシ(Cello)、千葉広樹(Double Bass)、則武諒(Drums)とそれぞれが様々なフィールドで活動するミュージシャン達。ピアノ、ドラム、ベースにクラリネット、チェロ、ギターを加えたこの変則のセクステットを前提に書かれた12曲は、バラバラに聴いてしまうとそれぞれ驚くほど違った面を見せる。6人が徐々に折り重なってメロディを紡いでいく「Bird of Passage」 やクラリネットとピアノのデュオによる「Transience」にはクラシックや室内楽的なアンサンブルの美しさも感じられるし、ベースとピアノが作るミニマルな構造の上でクラリネットが踊る「tick-tack」や「morceau」、疾走する4ビートの上でフリーキーな会話をみせる「Reverse Run」には、即興の可能性を探るような現代的なジャズの要素を感じる。アルバムに4度登場する「The Railway Station」もそのパートによって違った表情を見せる。全ての曲が違う風景を描いているようにも、同じ風景の違う時間帯を描いているようにも感じられる不思議な統一感が、このアルバムの一番の魅力だと感じた。フリージャズ、現代音楽、室内楽まで様々な要素を一つのパッケージにまとめあげる佐藤の作曲とそれを具現化したメンバーの力には、日本のジャズシーンの最先端が、世界のシーンの最先端と確かに呼応している事を感じた。
その統一感に一役買っているのが、レコーディングとミックスにPete Rende、マスタリングにNate Woodという最近のジャズの中で一つの定番になりつつあるコンビによる制作だ。正直、このアルバムの音には驚いた。アコースティックの楽器にこだわって作られているけれど、曲ごとにマテリアルの細かな色彩は変化していくし、それでいて生の楽器の質感は丁寧に残されている。とても音楽的なミックスだと感じた。
どうしても僕たちは日々新しいアルバムを、次のアルバムをと待ち望んでしまうけれど、聴く度に表情の変わるこのアルバムは僕のプレイリストにずっと残ることになりそうだ。
文:花木洸 HANAKI hikaru
●佐藤浩一 HP
【Koichi Sato - Melancholy of a Journey trailer】
この連載の筆者、花木洸が先日発売になりました『Jazz The New Chapter 3』で編集・選盤・レビュー記事などを担当。ブラック・ミュージックの最先端からUKジャズ、ネクスト・ジャズ・ファンク、ラージアンサンブル等ここにしかない記事・インタビューが盛り沢山となっています。
■タイトル:『Jazz The New Chapter 3』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2015年9月10日
■出版社: シンコーミュージック
今日においてはジャズこそが時代を牽引し、ディアンジェロやフライング・ロータスなど海外の最先端アーティストから、ceroなど日本のポップ・シーンにも大きな影響を与えている。この状況を予言し、新時代の到来を告げた「Jazz The New Chapter(ジャズ・ザ・ニュー・チャプター)」の第3弾がいよいよ登場。2014年の刊行時より刷数を重ね、SNS上でも未だ話題沸騰中の第1弾・第2弾に続き、2015年9月末に〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉が開催されるなど、かつてない活況を迎えているジャズの次なる未来は、ニューチャプターが切り拓く!
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Reviewer information |
花木 洸 HANAKI hikaru 東京都出身。音楽愛好家。 |