Title : 『incomplete voices』
Artist : 橋爪亮督グループ
橋爪亮督グループの久しぶりの新作。2012年の『ACOUSTIC FLUID』から不動のメンバーは、橋爪亮督(ts, ss)、市野元彦(g)、佐藤浩一(pf)、織原良次(b)、橋本学(ds)。彼らの特徴はなんといっても橋爪の作曲と演奏の透明感、そして完璧にコントロールされた音量で作られるハーモニー感覚だ。
このグループにしては珍しく、リズムとリフ的なコードワークが目を引く一曲目「Still」からアルバムはスタート。そこから繋がる「One Time Dream」や「Synesthesia」はいかにもこのバンドらしいサウンド。橋爪のサックスと市野のギター、そして佐藤の右手は、お互いがお互いの影になるようにうっすらと重なりあう。織原のベースはベースラインというよりも、一つのメロディラインを奏でているよう。主旋律と伴奏という構造ではなく、全員のメロディラインがポリフォニー的に重なりあっていく構造はこのバンドの最大の持ち味だ。
この構造はアンサンブル全体の協調を際立たせるだけでなく、「Line」のように比較的フリーな楽曲では自由度の高い対話へと姿を変える。全員がぴったりとそろうよりも、むしろ微細なずれが混ざることでリズムが動物的にうねっていく。
アルバムの中で印象的だったのは、決して全力で叩くことはなく、常に最適な音量に抑制されていながらも、残響音が消えるまでその弱音を表情豊かに響かせる佐藤のピアノ。そしてお互いの小さなサインを見逃さずに、ぴったりとよりそっていく織原と橋本のリズム隊のコンビネーションだ。アルバムを重ねるごとに橋爪のコンポジションが精美になっているように感じていくのは、メンバーが固定されている事も大きいように思う。イントロでは極めてクールな肌触りなのに、絡まり合うことでじわじわと熱を生み出していけるのは、バンドの練度のたまものだろう。
グループは今年で結成17年目。十分に日本のジャズの一側面を担うベテラングループと言ってもいいだろう。もはや「ECM的」という冠言葉は不要なほど、一つのジャンルを確立した彼らの新たな代表作となるだろう。
文:花木洸 HANAKI hikaru
●橋爪亮督 Official Site
【橋爪亮督グループ『incomplete voices』試聴動画】
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Reviewer information |
花木 洸 HANAKI hikaru 東京都出身。音楽愛好家。 |