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アラン・ブロードベント INTERVIEW [インタビュアー:メイ・オキタ]

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チャーリー・ヘイデン率いるグループ、"クァルテット・ウエスト"のメンバーとしても活躍し、ナタリー・コールやダイアナ・クラール、ポール・マッカートニー等、数多くのシンガーの作曲や編曲でも知られる人気ジャズ・ピアニスト、アラン・ブロードベント。

そんな彼のことを敬愛するジャズ・シンガー/精神科医のメイ・オキタさんとのインタビュー。
アラン・ブロードベントさんのジャズに対する姿勢から学べることがたくさんあります。
ジャズを愛するすべてのひとへ。

[Interview:メイ・オキタ]


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【アラン・ブロードベント インタビュー】


May OKita(以下M):こんな風に直接あなたとお話できるなんて思ってもいませんでした。素晴らしい機会を有難うございます。来日をワクワクしながらお待ちしていました!久しぶりの日本ですが今どんなお気持ちですか?


Alan Broadbent(以下AB):そうだね、いつだって日本は大好きだよ。ホスピタリティー、人々の優しさ、そして音楽に対する関心、僕の音楽に興味を持ってくれていることもね。ここで耳の肥えたリスナーの皆さんのために演奏すると、とてもインスパイアされるよ。これまでにもたくさんのシチュエーションで来たことがあるんだ。カルテット・ウエストや、何年も前に、アイリーン・クラールとも一度来日しているね。


M:アランさんは私たちジャズミュージシャンにとってヒーローです。素晴らしいジャズピアニストとしてだけでなく、伴奏者、アレンジャー、指揮者としてもよく知られ、チャーリー・ヘイデン、チェット・ベイカー、アイリーン・クラール、シャーリー・ホーン、シーラ・ジョーダン、ナタリー・コール、ダイアナ・クラールなど多くの世界的な音楽家と活動を共にされて来ましたね。アランさんの過去の作品を通じてジャズミュージシャンとして育って来たと言っても過言ではないと思っています。本当にたくさんのことを学びました。


AB:それはとても嬉しいことだね。僕たちのようなミュージシャンはね、家にこもって、練習しているでしょう?だから自分の仕事は本当に皆さんに楽しんでもらえているのだろうかって、ふと思ってしまうことがあるんだ。だからあなたのように音楽を知っていて楽しんでくれている人を見つけると報われる。仕事に没頭しているとね、そういうことが時々わからなくなるんだよ。でもそういう認識でいてくれる人がいるというのは本当に嬉しい。


M:ウェブサイトを見たら、本当にたくさんの作品が掲載されていて。私のお気に入りもたくさんありました。


AB:そう?それは良かった!たくさんあるように見えるでしょう。でも僕のキャリアは約50年にもなるからね。実際のところは1年に1枚といったところだよ。いっぱいあるように見えてもね、ほとんど1年に1枚みたいな感じ。でも自分の取り組んで来たことが人生やジャズにおいてなんらかの意味を成しているとしたら喜ばしいことだし、いつだって自分たちの奏でる音楽は愛を伝えるために重要だと感じているよ。
この商業ベースの世の中では、全てが何かを売るためだったり、お金だったり、"ミリオンセール"を狙ったようなものばかり。でも、我々にとって音楽は、もっと心に近いものなんだ。


M:その想いはあなたの音楽から確かに伝わっていると思います。


AB:有難う。それが、僕が音楽をやっている理由だからね。


May OKita(以下M):そして私たちがあなたを大好きな理由でもあります。


AB:(笑) そうだね...


M:私はアランさんのトリオのようなインストゥルメンタルの音楽も大好きですし、最新作も大好きです。それからカルテット・ウェストはただただ素晴らしいですね。現代のジャズミュージシャンにとってはバイブルのような作品だと思います。


AB:『Sophisticated Ladies』というアルバムは持ってる? あれは素晴らしいアルバムだよ。


【If I'm Lucky / Charlie Haden Quartet West - 1 - Sophisticated Ladies / 2010】

【Charlie Haden Quartet West feat. Norah Jones - Ill Wind】



M:はい、私のお気に入りの1枚です!シンガーとしてはアイリーン・クラールとのことについてもっとお伺いしたいです。言うまでもなく『Where is Love?』 は大好きな作品ですが、あれはシンプルにスタジオに行き彼女とともに奏でたというタイプの録音なのですか?それとも事前にある程度内容を計画していましたか?


AB:あれはまさに、その通り。君の言う通りだよ。何の計画もしていなかったね。僕たちは約1年くらい一緒に仕事をしていたんだけどね。彼女の依頼していたピアニストがギグに来られなくなって、それで呼ばれたのが出会いだったんだ。僕のことは噂に聞いていたらしい。それ以来リハーサルをするようになって、翌年にはロサンゼルス近辺でライブをするようになって、その中で演奏した曲をいくつか録音することにしたんだ。だからスタジオに行って「アイリーン、何やりたい?」「うーん、わかんない、どれがいい?」というような感じだったね。そう、計画的なものではなかったんだ。自然発生的な感じだったね。ジャズってそういうものであってほしいと思うのだけど。


【Irene Kral - Where Is Love? (1974)】



M:すごい作品ですよね!ジャズシンガーはみんな『Where is Love?』 と『Gentle Rain』の2枚は聴いていますね。他にも『Kral Space』という作品がありますね?


【Irene Kral - Ev'rytime we say goodbye (1977)】



AB: うん、僕にとってはあれがベスト作だね。でも入手するのがとても難しくなってしまっている。


M:そうなんですよね。私はジャズの先生にこれらのアルバムを徹底的に聴き、あなた方の奏でたものを感じ、真似することでそこから学ぶということを教えていただきました。なので本当に繰り返しこのアルバムは聴いてきました。


AB:でもそうやって名人の演奏を聴くというのが、我々みんながジャズを学方法だと思うんだよね。コピーをするけれど、スタイルを真似るのではなくて、ミュージシャンシップを模倣するんだ。それがフレージングや、イントネーションを教えてくれる。本当に重要な学び方だと思うよ。アイリーンのようなミュージシャンが他のシンガー達のためにこういう遺産を残してくれているからね。


M:アランさんの音楽を聴いているといつも感じるのですが、コンピングをされるときに、ヴォーカリストやソロイストが一番輝くよう最善のハーモニーを奏でていらっしゃいますね。そしてご自身がソロを弾かれるときは、心の通った美しいストーリーがそこにある。どのようにしてそのような、ジャズに対する美しい哲学、フィロソフィーをご自身のものにしてこられたのですか?


AB: そうだね、説明するのが難しいな。僕はオーケストラも好きでね、オーケストラも書くんだよ。なのでそれは自分のピアノの演奏にも現れていると思うんだ。それに、オーケストラを考えるとき、例えばシンガーがその曲を歌う時のように、僕はピアノを弦楽器かなにかのように奏でているのかな、と。もちろん弾いているのはピアノなんだけど、オーケストラのように聴いているんだよ。
インプロヴィゼーションをするときは、ただ直感的に弾いていると言っていいかな。それと自分のハーモニーの知識、リズムの知識、チェット・ベイカーたちみたいに美しいフレーズを創るということも大事。でもその時、自分はピアノ奏者というよりは、管楽器奏者やシンガーであるかのように自分のことを思っているんだ。その結果、僕のラインは声を連想させるようなシンギング・クオリティーになっているというわけ。


M:アメリカのAll About Jazzというサイトに8ページにわたるインタビューがありましたね。その中にあなたが学生の頃、レニー・トリスターノのレッスンを受けるために飛行機でニューヨークに通ったというお話がありました。レニーさんがレスター・ヤングのフレーズを彼の前で歌うように言って、OKをもらえるまでピアノを弾かせてもらえなかったというお話です。とても興味深いストーリーで、あのインタビューを読んで多くのことを知りました。


AB:僕もそこからたくさんのことを学んだよ!最近のジャズピアノは、声と繋がりを感じられないことが多くてね。ピアノのテクニックを連想させられてしまうんだ。それは素晴らしいことだし、印象的だとも思う、でも自分は同じようにはできない。感動できないんだ。僕は、ピアノの音楽だけを求めているんじゃなくて、管楽器奏者のように自分に歌を歌ってくれているようなピアニストを聴きたいと思っている。ピアノの音楽を聴きたいなら、ショパンを聴けばいいでしょう。


M:おっしゃる通りですね。


AB: ショパンの音楽には素晴らしいテクニック歌心のコンビネーションがあるんだ。ショパンは彼の生徒にいつも"歌いなさい""歌わなくちゃ!"と言っていた。それがショパンだった。知っていたかい?


M:いいえ、そこまでとは。


AB: 素晴らしいピアニストっていうのは、シンギング・クオリティーを持っている。ただテクニックが優れているだけではなくてね。特に僕はシンガー達と共演するから、そういう視点で理解する必要があったんだ。


M:それぞれのシンガーごとに、このような美しいアレンジを思いつくための方法はあるのですか?


AB:そうだね、即興で浮かんでくることもあるんだよ。ジャズシンガーっていうのは、君もわかっていると思うけど、フレキシブルなんだ。毎回全く同じことをしたいというわけじゃない。もしそうなら、つまり何も変えずに演奏するのなら、それはクラシックやポップスってことになる。でもジャズでは、毎回変化が欲しいでしょ。その方が面白いし、チャレンジングだし、楽しいから!ルールは曲げたって構わないし、リスクをとって冒険をする。それがジャズってもんでしょ。リスクをとること、そして愛を持って演奏すること。


M:そうですね。アランさんが演奏でリスナーの心に何かを伝えようとするとき、どんなことがもっとも大切だと思いますか?先ほど仰ったように、愛、ですか?


AB:そうだね、当然だけど、愛だけ考えていればいいってものじゃないよね。正しいコードを弾くこと、リラックスすること、音で会話をすることなんかもしたいと思っている。本物のジャズミュージシャンだったら、ヴォーカリストでも管楽器奏者でもピアニストでも、本当に何が起きるかわからないでしょう?だから人生も、ちょっと危険だけどそういう風に生きていくわけ。例えば"今日はどの曲をやるかわかっている、何千回と演ってきた曲だ。でも次に弾く時は二度と今日と同じようにはならない"という感じにね。だって違うものなんだから。そのことを考えると時々怖くなるよ。"どうしよう、どうしていつも同じことを同じようにやるという風にはできないんだろう、そうしたら心配しなくていいのに!"ってね(笑)

でもジャズはそうじゃないんだから仕方ない。それが自分たちの選んだ生き方だしね。だから、僕にはコードを変えて弾く自由があるんだ。"ここでこのコードは弾いたことがないな"って。でもそれは曲の前後関係を壊さない範囲でだけどね。もしそれをポップスでやってしまったら、というよりも、ポップスではできないよね。もしポップスやラップの曲、その他の商業的な音楽でコードを変えたりしたら意味が変わってしまうから。


M:過去のインタビューではリズムについても語っておられましたね。ジャズのリズムについては、どのように身につけられたのですか?


AB:ええと、リズムは、とても若い頃に理解したんだ。感覚がわかったというか。そして、ジャズのフィーリングというのはとても奥が深く、とても特別だということも。それはモダン・ピアニストのバド・パウエルやナット・キング・コールらによって変化していったんだよ。ピアノで"歌う"という力だね。それまでのテディー・ウィルソンやアート・テイタムといった素晴らしいプレイヤーたちの時代、ピアノはもっときらびやかな、飾りのようなものだったんだ。素晴らしいプレイだったけれど、ソロイストとリズムセクションの間に張力があるような、左手と右手の間の緊張した関係というものがなかった。そういうわけで、タイムはまっすぐ真ん中というわけじゃないんだよ。ソロイストはタイムを曲げられるということだね。

そして、君たちはそれを感じることができる。バド・パウエルが教えてくれたのは、リズムというのは僕が創っているインプロヴィゼーションのラインだということ。それは、リック(譜面に書き起こされたジャズの常套フレーズ)にはないんだよ。"boom chik boom chik boom chik"っていうポップスのリズムにはないんだ。"Do ba da ba da ba du ba pa da da"って僕がやったら、そのリズムが何だかわかると思うよ。1つ1つ細かく説明しなくてもわかるはず。"pa pa da da ba do du da"ってね。でももし僕がストレートに演奏したら(8ビートのように)、スウィングしていないよね。どうやって"pa pa pa du ba da ba du da" とやるのか、学ばなくちゃならないんだ。ピアノ奏者にとって、それを自然にクォンタイズするのは難しいことなんだ。管楽器奏者は自然にできるけどね。でもピアニストは正しい運指でそれをする方法を学ばなくちゃならない。テクニックの話はあまりしたくないんだけど、でも、僕にとって、リズムは曲や自分の弾いているラインになくてはならないものなんだよ。


M:奏でるメロディーということですか?


AB: うん、そして、即興の時に弾くメロディーもね。


M:そうですよね。


AB: だから、全部同じ感じで"da-da-da-da"ってするんじゃなくて、"da-DA-da-DA" という風にアクセントがつく。そういうフレージングが弾けるようになるには、ピアニストは学ばないといけないんだ。


M: ヴォーカリストもです。


AB: そうだね、シンガーは自然にやっていると思うよ。自分の生徒を教えていた時に、ピアノでそれをやろうとすると固くなってしまってね。でも僕が"メトロノームを止めて、歌おう"って言ったら全てが変わったんだ。リズムがちゃんとそこにあった。僕らは自然にそういう風に歌っているんだね。それをどうやって楽器で弾くかは身につけなくちゃいけないんだ。だからシンガーは有利だと思うよ。素晴らしいシンガーはビリー・ホリデイのように、タイミングを押したり引いたりすることを知っているよね。アニタ・オデイも天才だね。彼女が日本のビッグバンドと共演しているビデオがYouTubeにあるよ。恐ろしいくらいすごい!観たことある?本当にすごいんだ!彼女がレイドバックするところも、流動的に歌っているところも。彼女はさほど気にしている様子もなく、トップで漂うように歌っていて、しかもスゥイングしている!!


【Anita O'Day. Love For Sale】



それがジャズの好きなところなんだ。あの感じ。それから僕の先生、レニー・トリスターノが言っていたことの1つにね、"ジャズはスタイルではない"という言葉がある。ジャズにはたくさんのスタイルがあるでしょう。でも、ジャズは"フィーリング"だって言うんだ。そしてまともなジャズミュージシャンになりたかったら、その"フィーリング"は欠かせない、と。そうでなければポップスやその他の音楽でもやるんだね、と。


M:そんな貴重なお話をシェアしてくださって有難うございます。私たちみんな、心に留めておくべき大切なお話ですね。


AB:そうだね。メトロノームのようにタイムがしっかりしている、ということは大事だよ。でも僕はメトロノームじゃないから。メトロノームは放っておいてもストレートに行くでしょ。でも僕はその周りを曲がりくねって進んで行く。僕のプレイを聴いた時に、その感覚を掴んでもらえると良いのだけど。そう、メトロノーム は大事だけど、ね。だって、あんまりにも遠くに僕が行ってしまったら、タイムを引きずってしまったり、走ってしまったりするからね。でもそんな中にも道は用意されていて、少し急いだり、後ろに寄りかかったり、という風にやるんだよ。ゴムのバンドのような感じで・・・常に変化するんだ!シンガーがどんな風に感じているかによってね。同じ曲でも、ビリー・ホリデイが明日歌うのは、以前歌った時とは違うはずだから。彼女は自分が感じた通りに、おそらく、違うフレージングをするでしょう。そして、それこそが僕たちが求めているものなんだ。


M:シンガーと演奏することのどんなところがお好きですか?


AB:オーケストレーションすること。ピアノでオーケストラのように奏でることかな。オーケストラが大好きだから、ね。アイリーンが長生きしてくれなかったことが残念だよ。やっと僕らしいオーケストラのアレンジの書き方をマスターできたのに、彼女のために書くことができないなんて。機会を逸してしまったよ。


M:そうでしたか・・・。オーケストラのように弾くことが大好きとのことですが、そのほかにもシンガーとの共演でお好きな部分はありますか?


AB:そうだね、そこに声がある、というのは全体でどうかという体験でもあるからね。僕にはお気に入りの作曲家がいるんだ。彼の音楽なしでは生きていられないくらいの。グスタフ・マーラーだよ。どうやって彼が声に伴奏をつけるか、それは・・・説明が難しいのだけれど。"ギブ&テイク"っていう表現があるけれど、歌い手が少し何かをくれて、僕がそれを受け取る。そして僕が少し手渡す。そうやって互いに影響し合いながら曲を進めていくんだ。それがベストな方法。


【The Best of Mahler】



M:まったくその通りですね。アランさんのピアニスト、アレンジャー、作曲家、指揮者としての今後の目標は?


AB: うーん、同じだね。僕の目標は常にトライし、良くなること。この歳になってもね!未だに僕はオーケストラを、グスタフ・マーラーを、チャーリー・パーカーを理解したくて、骨を折っているよ。目標は決して終わることはないね!なぜなら、一旦とある部分に達したら、まだその先があるから。だから、僕らは決して終わらない目標を求めて、生きているというわけ。君達も、ある程度達成して、さらにその先へ、と歩んで欲しいな。


M:ご自身をクリエイティブに保つ、その情熱の源は?


AB:間違いなく、グスタフ・マーラーへの愛だね。こう思っているのは世界中で僕だけじゃないと思うよ。たくさんの人がそう感じているはず。彼の音楽は僕たちに、少なくとも僕に、他の音楽とは違う方法で影響を与えているんだ。110年、120年も昔の音楽だよ?マーラーは時を超えて僕の心を動かし、こう言うんだ。" アラン、僕は君に聴かせたいものがあるんだ"と。
それからショパンも同じことを僕にしてくれる。8歳の頃にショパンを聴いてね。僕の中の何かが語りかけたんだ。友達には言えなかったよ。8歳の友達に"ショパンが僕に語りかける"だなんて言えるはずもないよ。言ったらクレイジーだって思うだろうからね!でも僕は、それを自分自身の中で留めておいた。そこには常に音楽の力があるということがわかっていたんだ。そうして僕はジャズと出会ったんだ。ジャズにはすぐに夢中になったよ。今、目の前に存在しているということ。全ての音にね。素晴らしい即興演奏ができるミュージシャンは、いつも、今目の前で起きていることを大切にしている。それは禅にも通じるものがあると思う。方向性はとてもクリアなんだ。
そう、グスタフ・マーラーや僕の好きなミュージシャンの力こそが、僕のクリエイティビティの源だよ。


M:最後の質問になりますが、ジャズのどんなところを愛していますか?日本のシンガーやその他のミュージシャン、ジャズを愛する方々へのメッセージは?


AB: 僕が近いと感じているミュージシャンはビル・エヴァンス、特に病んでしまう前の若い頃の録音。そしてバド・パウエルはとてもとても重要。もちろんチャーリー・パーカーも。チャーリー・パーカーを挙げないわけにはいかないね。それから僕らが大好きな他のミュージシャンみんなも。 でも僕にとって一番重要なミュージシャンはマーラー、ショパン、バド・パウエルとチャーリー・パーカーだね。一生学んでいくものだからね。ジャズプレイヤーになりたいと思っていて音楽を愛しているシンガーやピアニスト、その他どんな楽器奏者にも言えることは、自分が好きだと思うものを見つけたら、そこから学ぶこと。その全てについて学ぶことだよ。

ビリー・ホリデイのビブラートが好きだったら、その全てを。彼女が小節線を超えてフレーズを歌うことが好きだったら、それをできるだけ詳しく学ぶんだ。街を歩いている時にも思い出せるように。その演奏のどこをとっても頭の中で止めることができ、ビリー・ホリデイが頭の中にいるかのようになるまで。もしそれができていたら、自然とそれらが君に教えてくれるようになる。コピーするのではなくて、君らしくなると言うことを、どうやってそうなれるのかということを教えてくれるんだ。 それがジャズを学ぶ方法だと思うよ。クラシックを学ぶ方法はもっと決められているよね、スケールを身につけて、ショパンの曲やエチュードを知っていなくちゃならないし、考え始める前になんでも知っている必要がある。でもジャズは、もう少しゆるりとしている部分があって。バド・パウエルは決してユジャ・ワンのようには弾かないからね。

ところで、余談だけど、ユジャ・ワンを知っているかい?クラシックのピアニスト。僕の意見だけど、彼女はこの世で一番素晴らしいピアニストだと思っているんだ。ホロヴィッツやルービンシュタイン、ホフマン、ミケランジェリやそれ以外の素晴らしいピアニストたちも含めて、だよ。ラン・ランもいるけどね、でも、ユジャは楽曲をあたかも彼女が作曲したかのように弾く力を持っているんだ。昨夜観たインタビューでもそう話していたよ。演奏している時に、時々その曲を作曲しているかのように感じるんだって。そして、まったく違うジャンルを弾いているけれども、僕には彼女がジャズミュージシャンのようだということがわかるんだ。
彼女がラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を弾くビデオを観てごらん。聴きやすいと思うよ。彼女は他の誰とも違う弾き方をするんだ。クライマックスのシーンがすごいから。彼女は僕をがっかりさせないんだ。 彼女は僕に言われなくたって素晴らしいんだよ。いつかあなたは素晴らしいって、本人に言ってみたいけどね!(笑)


【Yuja Wang: Rachmaninov Piano Concerto No.2 - 3rd Movement】



さて、僕が言いたかったのは、僕らが好きなこの音楽は皆に何かを売り込むようなものじゃないということなんだ。ギフトとして僕らのところにやってきたんだ。それからユジャは天賦の才能を持っているね。彼女はアートを愛する人の人生を意味あるものにするんだ。日本の人々はアートへの意識が最も高いということを僕は理解しているよ。本当にそう思う。日本人の素晴らしいアーティストがたくさんいるよね。千年も前の伝統的な日本のアーティストは言うまでもないけれど。そういうわけで、アートへの高い感度というものが文化の中に備わっているんだよ。僕たちミュージシャンは日本のその点を最も高く評価していると思うよ。


M:貴重なお話ありがとうございました。


[Interview:メイ・オキタ]


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【Alan Broadbent - new solo piano album "To the Evening Star" - Sept 8, 2019】



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Alan Broadbent [アラン・ブロードベント] プロフィール
ピアニスト・作曲家・アレンジャー・指揮者 
http://www.alanbroadbent.com/

1966年ニュージーランド、オークランド生まれ。19歳にしてダウンビート・マガジンの奨学金を取得し、ボストンのバークリー音楽大学に進学。1969年にウディー・ハーマンのバンドに抜擢され、3年間ピアニスト、アレンジャーとして活動を共にした。1972年、ロサンゼルスに拠点を移し、伝説的なシンガーであるアイリーン・クラールとの活動を開始。スタジオミュージシャンとしてもネルソン・リドル、デイヴィット・ローズ、ジョニー・マンデルらに招かれ多くの録音に参加。90年代初期にナタリー・コールの名高い"Unforgettable" に参加し、ナタリー・コールのバンドのピアニストとして、その後には指揮者としてもツアーに参加した。ナタリーの父、ナット・キング・コールに捧げた"When I Fall In Love"のDVDに参加し、"best orchestral arrangement accompanying a vocal"でグラミーを受賞。
その後、チャーリー・ヘイデンのカルテット・ウエストのメンバーとなり、ヨーロッパ、イギリス、アメリカでのツアーに参加。シャーリー・ホーンのアルバムに収められた、レナード・バーンスタイン作曲の"Lonely Town"で2つ目のグラミーを受賞した直後であった。.
自身のバンドのソロイストとしても"best instrumental performance"としてハービー・ハンコックやソニー・ロリンズ、キース・ジャレットと並んで2度、グラミーノミネートされた。2007年にはニュージーランドで栄誉ある"the New Zealand Order of Merit"を受賞。
現在は、ダイアナ・クラールがオーケストラとのコンサートをする際に指揮者を務める。"Live in Paris"のDVDにも指揮者として参加。グレン・フライの "After Hours"で弦楽器のアレンジを担当。ポール・マッカートニーの"Kisses On The Bottom"では6曲、ロンドン交響楽団のためのアレンジを手がけ、ソロとしてはイギリス、ポーランド、フランスでのコンサートを成功させたばかりである。
生涯の目標をオーケストラのアレンジとジャズの即興を通じ、ポップスやスタンダードの楽曲により深いコミュニケーションと愛を見いだすこととしている。




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May Okita [メイ・オキタ] プロフィール
ジャズシンガー・精神科医
https://mayokita.net/

2019年シアトルのオリジンレコードと契約し1stアルバム「Art of Life」にてデビュー。全米を中心にフランス、イタリアなどヨーロッパを含む100以上のラジオ局で収録曲がオンエアされ、ダウンビート・マガジン(米)、ジャズ・ジャーナル(英)を含む国内外の音楽雑誌で「心洗われる歌声」「高い感受性による歌唱にいつわりのない心を見ることができる」と高評を得た。同年7月にはロサンゼルスの人気ジャズクラブFeinsteins' at Vitello'sに出演。4年間のLA留学中にSara Gazarek, Michele Weir, Cathy Segal Garcia, Cheryl Bentyne, Tierney Suttonらに師事。世界中のジャズミュージシャンとの交流を深め、Jazz Vocal Alliance Japan代表として情報交換や教育の場を創る活動を継続的に行う。
K-mix(FM静岡)毎週土曜5時「メイ・オキタのArt of Life」を担当。ジャズとマインドフルネスを紹介し、音楽とメンタルケア両方に通じる「枠にとらわれない自分らしい生き方」と「Being in the Moment」を実践する。優しく語りかけ心を癒すその歌声は、アルバム発売以来、徐々に支持を広げている。

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