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Slawek Jaskulke インタビュー [インタビュアー黒沢綾]

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ポーランドの代表格ピアニスト、スワヴェク・ヤスクウケ。
2017年の「THE PIANO ERA 2017」以来6年ぶりとなる来日公演を、昨年5月に行いました。
めぐろパーシモンホール大ホール「POLISH PIANISM Concert」を皮切りに
金沢(白鷺美術)、奈良(listude)、神戸(100BANホール)、岡山(蔭凉寺)、米子(米子新生教会)と、各地で大きな反響を呼びました。


そのツアーの中から、5/18に岡山の蔭凉寺で行ったライヴがこのたびCD化。
エネルギーに満ちた空間を創り出す彼、導き出された音楽。
まばらに滴る小雨のなか、観客を集中・没頭させた特別な時間です。


来日時に応じていただいたインタビューでは
「ピアノと向き合っているのではなく自分と向き合っている」
という彼の言葉がとても印象的でした。


番組でオンエアしきれなかったインタビューと、彼に選んでもらった夜に合うアルバムをこの機会にまとめましたのでどうぞお楽しみください。


[Interview:黒沢綾]
[取材協力:ポーランド広報文化センター]
[通訳:杉浦 綾 (ポーランド広報文化センター)]


スワヴェク・ヤスクウケ インタビュー


■久しぶりの来日ですね。まずは率直な感想を聞かせてください。


[スワヴェク・ヤスクウケ]
ただ興奮してしています。パンデミックのせいでしばらく日本に来ることができなかったからね。
日本はどこか自分に合う雰囲気を感じているので恋しかったんだよ。


■今回は全国 6 ヶ所を回る⽇本ツアーです。
アップライトピアノやセミグランドピアノなど、会場によってピアノが違います。いつもはじめてピアノに向き合う時に⼤切にしていることは?


[スワヴェク・ヤスクウケ]
ポーランド国内で演奏をする時は、常に自分のピアノを持ち歩いているので問題はないのですが、国外や今回のように会場によってピアノが異なるときは、できるだけニュートラルにピアノと向き合うようにしています。
ピアノの状態や年数は様々だけど、できるだけその場にあるピアノに注文を付けないようにしているよ。そのピアノに自分が合わせるんだ。ピアノはあくまでも道具であって、伝えたいことは自分の中にあるものだから。どんなピアノであってもそれが伝えられると確信しているんだ。


■本当にその通りだと思います。
ではピアノのチューニングに関してお聞きしたいのですが、通常は440Hz~442Hzで調律されるものですが、『Senne(夢の中へ)』は432Hz、『Music on canvas』はさらに低い428Hz(!)に調律されたピアノですよね。


[スワヴェク・ヤスクウケ]
私が音楽を作るときのテーマのひとつが『音色を暗くすること』。
まず『Senne(夢の中へ)』の432Hzは、一説によるとマジックナンバーとも言われていたりもするそうだね。私は、調律を低くすることによってより親しみやすいトーンになる気がしたんだ。
『Music on canvas』はラファウ・ブイノフスキの絵画にインスパイアされたから、彼の作品にできるだけ近づけたかったしね。彼の絵画はトーンの低い色で描かれているので、音楽の温度も低くしたかった。本当は415Hzまで最大限低くしたかったんだけど、やってみたらピアノの響きがなくなってしまって、、、少しづつ戻しながらその妥協点を探ったよ。その結果428Hzに落ち着いた。
決してネガティブな意味ではなく、シックで深みのある音を追及して辿り着いたのが、428Hzだったんだ。


その時に演奏していたピアノは普通のピアノではなくて、弦がストレートなピアノで、、、日本だとなんていうのかな?
スウェーデンで作られた世界に3台しかない珍しいピアノ。そのうち、きちんと演奏できるものが1台、たまたまポーランドにあるんだ。専用というわけではないけれど『Music on canvas』を演奏する時には特別に使わせてもらってる。
そのピアノの特徴は、低音の響きが普通のピアノに比べて広がること。それが気に入ってところだよ。


■なるほど。そのようなピアノを使用しているからなのか、弦楽器のような響きを感じました。ピアノは鍵盤楽器でありながら弦楽器なのだと改めて思いました。まるでコントラバスみたいな響きだなと感じたんです。


[スワヴェク・ヤスクウケ]
そこまで感じてもらえて嬉しいよ。まさしくそういう楽器なんだ。構造上、普通のピアノより低音の弦が長くなっているから、コントラバスみたいな響きが聞こえたのだろうね。私自身もそういうサウンドを狙っていたから、そのように感じてもらえたことは嬉しいよ!


■弦がストレートなピアノを調べていただきました。マルムシュー社のピアノですね。マットな質感で、レトロな雰囲気を醸し出していますよね?


[スワヴェク・ヤスクウケ]
『Music on canvas』はブイノフスキの作品に近づけられるよう音色にこだわったよ。まず、そのマルムシューのピアノ、そして録音に関して言うとマイクはアナログで、テープに収録。スタジオも音をありのまま録れるところを選んだりね。


■ありのまま、ですね。鍵盤をタッチする音、息づかい、ホワイトノイズ、など様々な環境音を含めた音像が印象的な作品が多いですよね。


[スワヴェク・ヤスクウケ]
若いころは全く別の音楽をやっていたんだ。ロックとかね。でも人生のステージや生活が変わっていくにつれて、自身の音楽も変わっていったかな。
私にとって大切なことは、普段なら何気ない日常の音ひとつにクローズアップすること。たとえば子供の声、鳥の声。ノイズとしてキャンセルせず大切に拾い上げているよ。
今進めている新しいプロジェクトについて紹介することになるけど、次の作品も自然とともに録音しようかと。テーマは『雨と森と川』といったところかな。
長いこと構想を練っているんだけど、3部構成で考えていて、全体で2.5~3時間くらいの作品になるかもしれない。長い作品になるけれど、まるで雨の中に、まるで森の中にいるような、そんな作品にしたいと思っているよ。
CD収録の際には短くすることはあるかもしれないけど、Spotifyなどのプレイリストでは長編でリリースしようと考えているよ。


■雨と森と川ですか。日本はいま、気候や自然を楽しむにはもってこいの季節です。ヒントがあると良いですね。


[スワヴェク・ヤスクウケ]
そうだね。レコーダーを持参したから、日本の自然の音も録音しようと思っているよ。気に入った音があれば次のアルバムに入るかもしれないね。


■それは楽しみです!それでは最後に、あなたが思う『夜に合うアルバム』を教えていただけますか?


[スワヴェク・ヤスクウケ]
Piotr Orzechowski(ピョートル・オジェホフスキ) というポーランドのピアニストがいます。彼は才能あふれる若手アーティスト。
必ずしも夜に合う作品ばかりではないですが、彼の作品群はとてもおすすめです。
 
Piotr Orzechowski - PIANO HOOLIGAN


 
他には、同じくポーランドのピアニスト、ハニャ・ラニ。
私の場合は即興演奏がメインですが、彼女はほとんど即興はやっていない。クラシカルな彼女の作曲作品は夜にぴったりかもしれませんね。




そして、日本ではあまり知られてないかもしれませんが、Kamil Piotrowicz(カミル・ピオトロヴィチ)というピアニスト。
彼の作品はとても味わい深いので是非ご紹介したいです。




■貴重なお話を、どうもありがとうございました!Dziękuję bardzo!


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ALBUM情報

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タイトル:『蔭凉寺ライヴ』
アーティスト:Sławek Jaskułke
発売日:2024年1月24日
レーベル: CORE PORT
製品番号:RPOZ-10091



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【SONG LIST】
01.Kintsugi 
02.Music on canvas II
03.Flying Flowers
04.Music on canvas I
05.Sea 
06.夕暮れ
07.East & Easy




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スワヴェク・ヤスクウケ(Sławek Jaskułke)プロフィール

ポーランドを代表するピアニスト/作曲家。1979 年、バルト海沿岸でポーランド最北部の街プツク生まれ。ジャズのスタイルとポスト・クラシカル、モダン・コンポジション・シーンにまたがる才能溢れるアーティストとして評価され、ポーランドの文化・国家遺産省から「ポーランド文化功労者」の名誉勲章も授与されている。グランドピアノ、アップライトピアノをその表現方法によって効果的に選びソロ演奏する。ピアノの機能を知り尽くしたその演奏スタイルはモジュレイターのセット、フェルトの使用、調律の調整他で自在に独特のアンビエントな音響世界を作り上げる。ジャズではハービー・ハンコック、マッコイ・タイナー、クラシックではバルトーク、ヒンデミット、ラフマニノフ他に影響を受けているがヒップホップやエレクトロニカ、ポストロック等からも影響を受け、ポーランドの若者に大人気だったパンク・ジャズ・ユニット「ピンク・フロイト」にも活動の初期は参加していた。また、映画音楽での活動やモダン・クラシカルの仕事にも関わっている。2002年の初リーダー作以来、共演を含め既に13枚のアルバムをリリースしている。自身が住んでいるバルト海沿岸ソポトの海をテーマにした『Sea』、眠る時の音楽を聴きたいという娘からのリクエストに応えた『夢の中へ (SENNE)』、ポーランド・ジャズ史上最高の作曲家/映画音楽家クシシュトフ・コメダの作品を再構築した『コメダ RECOMPOSED』、ソポト・ミュージアムの野外庭園で鳥の鳴き声などと共に演奏した『パーク・ライヴ (Park Live)』、ポーランド現代美術シーンの先端を走るラファウ・ブイノフスキのペインティング画とコラボレイトした『ミュージック・オン・キャンバス (Music on canvas)』他名作を数多くリリースしている。新作はワルシャワ名門ライヴ・ハウスでのソロ・ライヴ『ライヴ・アット・ジャスミン (live at Jassmne)』。
https://jaskulke.com/


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黒沢綾 (Singer,Pianist) プロフィール

幼少よりクラシックピアノ、作曲、クラシック声楽を学ぶ。尚美学園大学JAZZ&POPSコースに入学後、自然な流れでジャズに傾倒。在学中よりプロとして活動をスタート。同コースを首席で卒業。以降、都内近郊でジャズシンガーとして着実にキャリアを重ねながらオリジナル曲を制作。2009年アルバム『うららか』、2013年『Twill』をリリース。ソングライターとして確かな実績を持つ。また上田力率いる【Jobim my Love】プロジェクトに10年以上ヴォイスアーティストとして参加。南米音楽への造詣を深める。ジャズの形式を用いた自由な音楽性、歓びに満ちたサウンドスケープをモットーとする。透明感あるクリスタルヴォイス、また楽器としての声による即興的なアプローチを得意とすることからヴォイス・プレイヤーとしてジャズ・コンテンポラリー作品に参加。参加作品は、栗林すみれ『Pieces of Color』、千葉史絵『Beautiful Days』、岸淑香『feat.手』等。またparis matchのコーラスを2011年から務め、Billboard Live TOKYOをはじめコンサートやツアーに参加。相撲と着物とジャズをこよなく愛す和洋折衷シンガー。
現在、インターネットラジオ・ステーションJJazz.Netの番組ナビゲーターをつとめる。
https://ayakurosawa.me/

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