Title : 『Treehouse』
Artist : Tom Hewson Trio
以前、こんな文章を残したことがある。
「大好きなミュージシャンがこの世を去ってしまい、新作が聴けなくなってしまうことと、
自分の方が先にこの世を去り、聴くことのできない作品がこの世に存在すること、
どちらの場合がより悲しいか。」
この時、僕はとても才能のある自分よりもかなり若いミュージシャンに出会っていて、
彼女の生み出す作品をすべて聴き続けたいと思っていた。
しかし、ふと思ったのだ、彼女と自分の年齢差を考えると
ほぼ確実に自分の方が先にこの世を去るのだと。
それは、自分がこの世を去った後に生み出される作品がおそらく存在すること、
そして自分はそれを聴くことが出来ないということを意味していた。
それくらい、その若いミュージシャンに心酔していたのだ。
Tom Hewsonの存在を知り、その作品を耳にした時、
自分が以前に書いた"自分が逝った後に生み出される作品"という文章を思い出させた。
それは、Tomがまだ若いピアニストだということ(恐らく現在30歳くらい)のみならず、
多くのジャズミュージシャンの場合、老いて枯れてもなお、
素晴らしい作品が発表されることが頭をよぎったからだ。
(先月のレビューのCHARLIE HADENのように)
晩年のTom Hewsonの作品を聴いている自分は全く想像がつかない。
と言っても仕方のない現実なので、とりあえずはTomの作品をしばらく追ってみようかと思う。
今作は、レギュラートリオとして活動している"treehouse"の作品。
このトリオ、piano,vibraphon,bassという編成。
ピアニストTomのリーダーアルバムではあるけれども、この編成の場合、
やはりvibeの存在感はかなり大きい。
vibeが響き出すと、景色が一変する。
ひんやりとした舌触りのスイーツを口にしたような、
海辺を渡る夕暮れの潮風に身をゆだねているような、
夏に聴くVibeの音色は快楽である。
調べてみるとTomは、John Taylorをメンターとする、とあり、
確かにソングライティングにその影を感じることが出来る。
師の域に達するまでには、まだまだ時間が必要なのは当然のこととして、
まずは、今のこの若い才能と演奏を楽しむことを優先したい。
"自分が逝った後に生み出される作品"には触れることが出来ないのだから。
この原稿を書き終えた数日後に、John Taylorの訃報を聞く。
やはりこの喪失感は、なんとも云えず、ただ残念でならない。
こうなってしまうと、師を失ったTom Hewsonの今後の作品に、
今作以上にJohn Taylorの姿を追い求めてしまいそうだ。
一人のリスナーとしては、Tomの作品に潜むJohn Taylorの影を
勝手に想像して楽しむことにしたい。
Johnの冥福をお祈りします。
文:平井康二
http://tomhewson.com/
http://tomhewson.com/treehouse/
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Reviewer information |
平井康二(cafeイカニカ オーナー) 1967年生まれ。レコード会社、音楽プロダクション、 |
cafeイカニカ
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