Title : 『Warp』
Artist : Jon Balke
多くの人が抱くECMのパブリックイメージがあるとしたら
おそらくそれを代表するうちのひとつであろう一枚。
まずは入口となるアルバムカヴァー。
奥へ奥へとどこまでも続いていそうな白樺の森。
北欧にしては珍しく薄日が差し、
白樺の葉の緑が心地よい。
しかしその森の奥へ実際足を踏み入れようとすると
何かがその往く手を拒んでいる。
少しの好奇心と少しの恐怖心が鬩ぎ合う。
そんな妄想を掻き立てる写真だ。
ここでは紹介出来ないが、バックカヴァーの写真も秀逸で、
コンテンポラリーなアート作品だ。
ちなみに写真もJon Balke自らが手がける。
収録されているのは、Jon Balkeによるpianoとsound images とある。
この時点ですでに、単なるソロピアノ作品ではないことに気付く。
ピアノ演奏の背後に、様々な景色を描きだす音像が重ねあわされる。
それは、時にはリズムを後押しする電子的な音であったり、
または日常の景色から切り取られたフィールドレコーディングであったり、
幻想的なヴォイスであったりと、
さり気なく加味されている程度の音像ではあるのだけれど、
その効果は絶大で表情豊かな作品へと昇華させている。
そのSoundscapesは、さまにECM的と多くの人が感じる仕上がり。
所謂エレクトロニカに生のピアノといった凡庸な風情に陥らないのは
ECMの重鎮たちのアイデアと技術の深みからくる差なのだろう。
スタッフクレジットによると、
ピアノの録音は、お馴染みOsloのRainbow StudioでJan Erik Kongshougが担い、
Sound imagesとField Recordingを含む最終MIXは、
LuganoでStefano Amerioが担当するといった、
現在のECMに欠かせない二大エンジニアの贅沢使い。
Jon Balkeに対してのEicherの計らいか。
北欧的なアートワークとミニマルなSoundscapesは、
入口としては入りやすいと感じるかもしれないけれども、
決して、開放的に外へ外へと僕らを誘うことはない。
やわらかな陽が差し、澄んだ緑の風が吹いている白樺の森は
自己の内に抱えた広大な世界への入口であるのだ。
一度は、その森へ足を踏み入れることをお勧めする。
文:平井康二
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
・2015.4.1 ・2015.5.1 ・2015.6.1 ・2015.7.1 ・2015.8.1 ・2015.9.1 ・2015.10.1 ・2015.11.1 ・2015.12.1 ・2016.1.1 ・2016.2.1
Reviewer information |
![]() 平井康二(cafeイカニカ) 1967年生まれ。レコード会社、音楽プロダクション、 |
cafeイカニカ
●住所/東京都世田谷区等々力6-40-7 |