Title : 『Manhattan』
Artist : 大林武司トリオ
今月のレビューはピアニスト大林武司の新作『Manhattan』。近年はJose JamesのバンドやNew Century Jazz Quintet、最近ではトランペッター黒田卓也の新作『ジグザガー』、そして「報道ステーション」のテーマ曲を手掛けた在NY日本人ジャズマンのスペシャルバンド「J-Squad」のメンバーでも活躍している。
アルバムは8曲を2つのトリオで均等に分けており、一方が大林の師でもあるベテランTerri Lyne Carrington(ds)とTamir Shmerling(b)によるトリオ、もう一方がJose JamesバンドのNate Smith(ds)とNew Century~で活動を共にする中村恭士(b)によるトリオだ。Tamir Shmerlingとの組み合わせは、この連載で6月に紹介した森智大『Grand Slam』でも聴くことが出来る。
シンプルなビートの上に様々な音色のレイヤーを重ねていく「WORLD PEACE」からアルバムは始まる。2曲目から続くエレクトリックな質感の曲をテリ・リンとタミアが、そして5曲目「In Walked Bim」から始まるオーソドックスなピアノ・トリオ・スタイルの曲をグルーヴの印象の強いネイト・スミスが担当しているのも興味深い。どんなスタイルでも当たり前にフィットしていくというのは、もはや現代のジャズ・ミュージシャンにとっては当たり前のことになっている。一方でグルーヴする最先端のビートであっても、スウィングする4ビートであっても大林のピアノのスタイルは一貫してとてもなめらかで、独特のタッチの中に彼より一世代上のロバート・グラスパーが、そしてそのさらに上の世代のマルグリュー・ミラーが見え隠れする。音色やリズムの質感が違っていても、核となるスタイルが彼の中で確立されているから、大林のピアノには説得力があるのだろう。
Jose Jamesや黒田卓也のバンドではシンセサイザーを豪快に操ってネオ・ソウルやヒップホップの空気を演出する一方で、New Century Jazz QuintetやJ-Squadでは流麗なストレート・アヘッドなジャズのピアノを聴かせたりと、大林の持つ2つの側面、その間にピッタリとハマるピースがこのアルバムだと感じた。
文:花木洸 HANAKI hikaru
●大林武司Facebook
【Takeshi Ohbayashi Trio "Manhattan" TRIAL (SOUNDCLOUD)】
https://soundcloud.com/somethincool/manhattan
この連載の筆者、花木洸が先日発売になりました『Jazz The New Chapter 3』で編集・選盤・レビュー記事などを担当。ブラック・ミュージックの最先端からUKジャズ、ネクスト・ジャズ・ファンク、ラージアンサンブル等ここにしかない記事・インタビューが盛り沢山となっています。
■タイトル:『Jazz The New Chapter 3』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2015年9月10日
■出版社: シンコーミュージック
今日においてはジャズこそが時代を牽引し、ディアンジェロやフライング・ロータスなど海外の最先端アーティストから、ceroなど日本のポップ・シーンにも大きな影響を与えている。この状況を予言し、新時代の到来を告げた「Jazz The New Chapter(ジャズ・ザ・ニュー・チャプター)」の第3弾がいよいよ登場。2014年の刊行時より刷数を重ね、SNS上でも未だ話題沸騰中の第1弾・第2弾に続き、2015年9月末に〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉が開催されるなど、かつてない活況を迎えているジャズの次なる未来は、ニューチャプターが切り拓く!
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Reviewer information |
花木 洸 HANAKI hikaru 東京都出身。音楽愛好家。 |