Title : 『世界はここにしかないって上手に言って』
Artist : ものんくる
「ものんくる」といえば、管楽器やストリングスによる生楽器のアンサンブルと日本語の歌詞。そんなイメージを一新する3rdアルバム『世界はここにしかないって上手に言って』。
普段着のジャケット写真、切り貼りされたサンプリング音、幾重にも重ねられたボーカルトラックとシンセサイザーの電子音。これまでの「ものんくる」とは明らかに違う装いをまとったこの作品は、2人の頭の中をそのまま描き出したような作品だ。
メンバーはボーカルの吉田沙良と、ベーシストでありコンポーザーの角田隆太の2人。そこにゲストミュージシャンとして、黒田卓也や井上銘、石若駿、桑原あい、宮川純、渡辺ショータ、安藤康平など若手ジャズの気鋭から、大儀見元、FUYU、斎藤ネコ率いるストリングスなどベテラン勢まで、これまでのメンバーとは違った演奏家がならぶ。生楽器のアンサンブルに替わって楽曲を構築するのは、幾重にも重ねられたボーカルトラックやサンプリング音、シンセサイザーの電子音など。宅録をメインに作られたという事もあって、それらの素材を切り貼りしながら組み上げられていく楽曲達に「角田隆太の頭のなかにはこんな音が鳴っていたのか!」とまず驚く。そして緻密に構築されていながらも、随所に即興的なソロのコミュニケーションが散りばめられているバランス感覚にさらに驚く。ゲスト・ミュージシャンに演奏してもらうというよりも、頭の中の音を一番うまく鳴らせるミュージシャンを配置したといったほうが近いのかもしれない。なによりも歌をとりまくパーツが多くなった分、むしろメロディの透明感や歌詞のセンスがいっそう際立って聴こえたのが印象的だ。
作品を聴きながら、そういえば昨年ベーシストのエスペランサ・スポルディングがロックなサウンドへと大きく舵を切った『Emily's D+Evolution』の来日公演で、オールスタンディングのZepp DiverCity Tokyoの最前列にいた角田隆太に会ったことを思い出した。エスペランサ・スポルディングの作品や、ベッカ・スティーブンス『レジーナ』が、自分を何かに投影したりあるいは何かを自分に投影したある種の「仮装」的な作品であったのに対して、この作品は歌詞も含めてどこまでも普段着のカジュアルな装いに思えるところに、ものんくるの末恐ろしさを感じる。
昨年CRCK/LCKSにインタビューした時、角田隆太は「僕達が今やってる音楽にも後々何か名前が付いたらいいよね」と言っていたけれど、僕もまだこの音楽につける名前は見当たらないです。
文:花木洸 HANAKI hikaru
【ものんくる / ここにしかないって言って】
●ものんくるOfficial
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Reviewer information |
花木 洸 HANAKI hikaru 東京都出身。音楽愛好家。 |